マーケティングに魔法をかけ、お客さんの心をつかむ秘訣を知りたくありませんか?
今回は、衣類ケア家電 「LG スタイラー」 がポジショニングの転換によって、ヒット商品へと変貌を遂げた成功事例をご紹介します。
事例を通じて、ターゲット顧客の明確化や顧客インサイトの発掘、ポジショニングなど、効果的なマーケティングの手法を紐解いていきます。ぜひ一緒に学び、ビジネスの成功につなげていきましょう。
LG スタイラー
出典: 価格.com マガジン
ご紹介したいのは、LG エレクトロニクスのユニークな家電です。名前は 「LG スタイラー」 といいます。
新しいカテゴリーの衣類ケア家電
LG スタイラーは、LG エレクトロニクス・ジャパンが2017年に発売した衣類ケア家電です。
ジャケットやシャツをかけておくだけでシワや臭いをとり、花粉やウイルス、ハウスダストまで低減してくれるという全く新しいカテゴリーの衣類ケア家電だ。家電というイメージからは逸脱している。見た目は、ちょっと細身のクローゼットといった感じで、使用中の音もほとんどない。コンセントにつないでいることすら忘れそうな、インテリア然とした形状をしている。
STP の変更
マーケティングの観点で興味深かったのは、LG スタイラーは当初に想定した STP を大胆に変更したことでヒット商品につながったという点です。
LG スタイラーを 「ファッション好きの必須アイテム」 に位置づけを変えました。
日本で発売した2017年からしばらくは、市場を、年齢や収入などのいわゆる 「デモグラフィック要因」 でセグメンテーションし、経済的に購買に至りそうなセグメントにターゲットを定めていた。「かけておくだけで衣類のシワ取りや消臭ができる」 という USP (その商品にしかない売り込みポイント) を打ち出し、機能によるポジショニングを行っていた。非常にオーソドックスな STP と言えるが、イノベーティブな商品に対しカテゴリーニーズを喚起するのは容易ではなかった。
そこで21年末に、思い切って STP をがらっと変更した。「ファッションを愛する人にとっては必須アイテム」 という非常にシンプルなメッセージに切り替えて、ファッションに関与の高い人たちに対して、体験イベントを開いたり集中的に雑誌や WEB で広告を投下したりした。すると、今まで見たことがないようなポジティブな反響があった。
22年は大々的に、モデルの冨永愛さんや俳優の桜田通 (さくらだ どおり) さんなどにブランドアンバサダーを担ってもらい、使い心地や使う意義を発信してもらうキャンペーンを行った。併せて、社内でこの商品がお客様に提供できる価値とは何だろうということを改めて考え直した。それは、シワや臭いを取るという機能だけではない。表現の一部ともいえるファッションをまるで新品のようによみがえらせてくれて、いつもフレッシュな気分で最高のコンディションの自分にさせてくれる。
それが、LG スタイラーが提供できる価値だということを再確認し、製品の機能でのポジショニングではなく、顧客から見た価値によるポジショニングに転換した。このメッセージは、アンバサダーのリアルな声に載せて瞬く間に拡散され、ファッションにこだわりのある層から、ファッションに興味のある人へ、そして一般へ購買層が拡大する起爆剤となった。
前半のまとめ
では一度ここまでの内容をまとめますね。
- LG スタイラーは、衣類のシワや臭いをとり、花粉やウイルス、ハウスダストまで低減する今までになかった衣類ケア家電
- STP 戦略の変更により、LG スタイラーは 「かけておくだけで衣類のシワ取りや消臭ができる機能的な家電」 から 「ファッション好きの必須アイテム」 に位置づけに変えた
- お客さん目線での価値に基づくポジショニング転換が成功し、ファッションに興味のある層だけではなく一般まで購買層が拡大した
マーケティングに学べること
では LG スタイラーの事例から学べることを解説していきます。
LG スタイラーはポジショニングを的確に変更し成功につなげた事例です。
ターゲット顧客の明確化とポジショニングの変更
LG スタイラーは、発売当初は購買力のある人への機能訴求をしていましたが、ファッション好きの人に新しいライフスタイルを提案する方向へとポジショニングを変えました。
ビジネスにおいて重要なことは、まず自分たちのお客さんが誰かを明確にすることです。顧客は誰かというのが、最初に答えるべき問いなのです。
ターゲットとなるお客さんが決まったら、次に取り組むべきことは、お客さんを理解し、その理解に基づいて提供する価値を見つけ出すことです。自分たちのお客さんは誰かをブレることなく定め、お客さんに響く価値提案がビジネス成功の鍵となります。
顧客インサイトからの価値提案
LG はファッション好きの人たちの顧客インサイトを捉えました。
顧客インサイトは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。別の表現をすると 「心のホットボタン」 や 「心のツボ」 のことです。普段は本人も意識していませんが、そのボタンを押されると人は態度を変え、思わず行動を起こす奥にある心理です。行動とは決める・選ぶ、買う、使う、行く、他には好きになることです。
顧客インサイトを把握することで、マーケティング戦略やプロモーション活動、商品開発などにおいて、お客さんの本当の望みに沿った取り組みができるようになります。
ファッション好きの人の顧客インサイトは 「新品同様で最高の状態の服で自信のある着こなしをしたい」 という願望でした。LG スタイラーは、このインサイトに基づいて 「服を入れておくだけで最高の状態にできる」 という価値提案を行ったのです。
LG スタイラーからの訴求によって、お客さんであるファッション好きの人は自分が理想とする最高の服の状態になっていないことに気づき、あらためて課題感を感じるようになりました。LG スタイラーがその課題を解決してくれるという期待感から、欲しいと思うようになったわけです。
成功するマーケティングの秘訣
LG スタイラーの事例から学べることを一般化すると、成功するマーケティングへの示唆があります。
✓ 成功するマーケティングの流れ
- ターゲット顧客を明確にする
- お客さんの置かれた状況を把握し、未発見の問題 (顧客自身も気づいていない問題) を見つける
- 顧客の本当の望みである 「顧客インサイト」 まで理解する
- インサイトを満たす商品をつくり、お客さんへの価値を見出す
- お客さんの文脈に沿って価値を提案する
成功するマーケティングは、ターゲット顧客、インサイト、価値提案の3つを連動させることがポイントです。これらの要素を適切に組み合わせることで、効果的なマーケティングになりビジネスの成功につながります。
まとめ
今回は衣類ケア家電 「LG スタイラー」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ 成功するマーケティングの流れ
- 顧客設定: 向き合うお客さんを決めて明確にする
- 機会発見: お客さんの置かれた状況を把握し、未発見の問題 (顧客自身も気づいていない問題) を見つける
- インサイト発掘: お客さんの本当の望みである 「顧客インサイト」 まで理解する
- 価値への転換: 顧客インサイトを満たす商品をつくり、お客さんへの価値を見出す
- 価値提案: お客さんの文脈に沿って価値を提案する
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