投稿日 2023/10/06

ボラソフトプロテクトバーム。「入り口の商品」 からのステップバイステップでのマーケティング

#マーケティング #顧客理解 #行動変容

お客さんの 「心」 を深く理解できていると、自信を持って言えるでしょうか?

今回は、痔の薬 「ボラギノール」 の天藤 (あまと) 製薬の事例から、お客さんの心理までを理解し、相手に配慮して慮るような商品設計をつくる方法を紐解きます。

ぜひ一緒に学んでいきましょう。

自分の痔を認めたくない心理



 「痔には、ボラギノール」 のテレビ CM でおなじみの薬 「ボラギノール」 を、製造・販売するのは、1921年創業の天藤製薬です。

100周年を迎えた2021年にロート製薬グループに入り、EC サイト開設や新製品投入など積極的な施策を行っています。

新製品の例として 「ボラソフトプロテクトバーム」 について見ていきましょう。

小口 (引用者注: ライター, コラムニストの小口覺氏) 逆に言うと、ボラギノール一筋で約30年間やってこれた。ボラソフトプロテクトバームとボラギノールの違いは?

仲田 (引用者注: 天藤製薬 マーケティング部の仲田博貴氏) ボラソフトは、肛門周りの皮膚に塗るバーム (軟膏) で、使い方はほぼ同じです。日本医療薬学会の学会誌によりますと、痔と自覚している人で、何らかの対処をする人は全体の4分の1程度しかおらず、残り4分の3の人は自覚していながら何もしていないというデータがあります。病院に行ったり薬を購入したりするのが恥ずかしい、どの商品を選べばよいか分からない、といった様々な理由が考えられるのですが、その中には 「自分が痔であると認めたくない」 という心理もあります。

小口 私も20代からの痔持ちなので、よく分かります。「たまたま切れただけ、たまたま腫れただけだろう」 と放置してしまう。

仲田 これまで私たちは、「それは痔かもしれません」 「痔であれば早期に対処しましょう」 といった啓発活動を行ってきました。「こんな症状があれば痔の可能性があります」 「痔にも症状によって "○○ 痔" と色々あって、それぞれのタイプに応じた製品があります」 と。しかしながら、最後のアウトプットが医薬品のボラギノールでは、自分が痔だと認めたくない人は行動を起こしてくれないんです。そこで、肛門周りの皮膚に塗る化粧品というポジションの商品として作ったのがボラソフトプロテクトバームです。

小口 医薬品ではないので、肌荒れのクリームのように気軽に使える。

仲田 はい。また以前より、ボラギノールを使用して症状が改善してきたお客様から、「症状が改善したあとはどうしたらいいのか」 というお問い合わせを受けていました。ボラギノール (ボラギノール A シリーズ) はステロイドが含まれていますが、新製品のボラソフトプロテクトバームにはステロイドは含まれていないので、症状が治まってからも時々気になるといった方は、定期的にケアとしてご使用いただいても問題ありません。

学べること


では天藤製薬のボラソフトプロテクトバームの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

顧客心理までの理解


マーケティングでは、お客さんを理解することが大事です。

お客さんの行動や選択に影響を与えるのは、意識的な判断だけでなく、潜在的な心理もあります。よって、理解する範囲や深さは、お客さんが直接的に行う目に見える言動だけではなく、行動の内側、つまり 「心」 を深く掘り下げて理解することが求められます。

天藤製薬の事例に当てはめて見てみましょう。

天藤製薬は、自分の痔を自覚しているにもかかわらず、処置をするための行動を起こさない人が多いというデータに着目しました。ここに 「自分が痔であると認めたくない」 というお客さんの心理的な障壁を見出しました。

この心理的ハードルが、痔の対策を講じる行動、たとえばボラギノールという自社商品を手にとって買うことへの妨げになっていると理解したのです。

入り口の商品


そこで天藤製薬は、こうした心理的な障壁を乗り越えるために新製品 「ボラソフトプロテクトバーム」 を開発しました。医薬品ではなく、肛門周りの皮膚に塗る化粧品という位置づけの商品です。

これは 「入り口の商品」 という位置づけであり、消費者が初めて痔を治すときに手に取るハードルを下げる役割を果たします。

肌荒れのクリームのように使いはじめやすいので、自分自身が痔であるという状況を直視することなく、気軽に対策を始めることができます。

スムーズな階段の設計


今回の事例からの学びを一般化すると、お客さんが商品やサービスを利用するときの 「階段の高さ」 を設計することの重要性です。

最初からいきなり大きなステップを踏むのではなく、お客さんが 「入り口の商品」 をまずは気軽に使ってもらい、その後で利用を深めるという階段を、より細かく、より乗り越えやすいものにしてみるのです。

小さなステップを複数回にわたって刻むことで、お客さんは抱えている問題を解決する行動に移しやすくなります。

どの程度のステップにするかは、向き合うお客さんの 「心」 次第です。お客さんの心理を深く理解し、どれくらい慮るかによって変わります。


まとめ


今回は天藤製薬のボラソフトプロテクトバームを取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • マーケティングでは、お客さんを理解することが大事。理解する範囲や深さは、お客さんの直接的な言動だけではなく、行動に影響する 「心」 までを深く掘り下げる

  • お客さんに 「入り口の商品」 をまずは気軽に使ってもらい、その後で利用を深めるという階段の設計が重要

  • 商品設計のもとになるのはお客さんの理解。お客さんの心までを深く理解し、階段をより細かく、より乗り越えやすいものにし、小さなステップを刻むことでお客さんが行動しやすい設計しよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。