投稿日 2023/10/30

カルビーポテトチップス。たゆまぬ変化で、お客さんの期待を超え続けるロングセラーへの道

#マーケティング #変化 #提供価値

ビジネスを真に成功させるには、「お客さんの期待を超える価値提供」 が大事です。

生活者環境や市場は日々変わり、お客さんの価値観や心理、行動、習慣も変化します。自ずと企業も変わる必要があります。変化の道を進み、提供する商品から価値をもたらし続けた先に、商品は人々から長く愛され続ける存在になれます。

今回はカルビーのポテトチップスを事例に、ロングセラーの秘訣を紐解いていきます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

カルビーポテトチップス うすしお味


カルビーのポテトチップスが誕生したのは1975年です。

たゆまぬ変化


ポテトチップスのうすしお味は発売以来、少なくとも15回も味やパッケージなどを変えています。

たとえば次のような変更です。

  • 表記を 「うすしお味」 に [1989年]
  • 賞味期限をパッケージ表面に記載 [1996年]
  • 伯方の塩を使用 [1997年]
  • 化学調味料を不使用に [2007年]
  • 塩分量を 5% 削減 [2019年]

カルビーのポテトチップスの中では、うすしお味はシンプルであるがゆえに自ずと変更できることは限られます。しかし、そうした状況でカルビーはおいしいポテトチップスにするために、変化を続けてきました。

味へのこだわり


たとえば味の要になる塩。1997年に伯方の塩を使い始め、その後も沖縄の石垣島産、瀬戸内海産など時代ごと使う塩を変えてきました。

2019年6月のリニューアルでは健康志向の流れに沿うかたちで、うすしお味の塩分量を 5% 削減することに成功しました。開発担当者は、ポテトチップスうすしお味は、使用している原材料が少なく、改良にとても苦労したと語っています (カルビーのリリース) 。

消費者から支持されているおいしさをそのままにしつつ、アレルゲン不使用や食品添加物はなるべく使わないという制約がある中で、食塩使用量を削減するというのはハードルの高いチャレンジでした。ポテトチップスの特徴であるパリッとした食感に合う塩味に仕上げるために、200回もの試作を繰り返し、ようやく満足のいく商品にすることができたとのことです。

うすしお味の塩分量を 5% の削減は、消費者にとっては言われなければ味に変化を感じないレベルです。

また、パッケージの変化も変更前後のものを写真で並べて見比べればわかりますが、新しいものだけが置いてある店頭で選ぶ時には気づかないでしょう。

メーカーでの商品開発は、普段の消費者がお店で選んだり食べている時には知り得ない裏側で、試作品が200パターンという試行錯誤を続けているのです。

では、なぜ変えるのでしょうか?


ロングセラーへの道


結論から先に言うと、継続的な変化こそが、長く生き残る道だからです。

変わることの重要性


外部環境は常に変化しています。ポテトチップスの例では、消費者の味への志向は、消費者本人が気づかないレベルも含めて常に変わり続けています。

この変化に適応しないと、淘汰されてしまいます。生き残るためには、つまり商品として支持され続けられるためには、環境変化に自らも変化していく必要があります。

大局的に見れば、「環境が変化する → お客様が変わる → 企業も自ら変わる」 の繰り返しです。表面的には消費者からは変わったようには見えなくても、商品の背後では試行錯誤から常に変えていき、価値を高め続けることがロングセラーの秘訣です。

では、ロングセラーを実現する変化と価値提供のために、どんな取り組めばいいのでしょうか?

お客さんが気づかない価値提供


これも結論から言うと、お客さんより深いレベルで他にはない独自価値を提供することです。

お客さんからは言われなければ気づかれないであろう領域、しかし商品やサービスにとっては重要なところで価値をつくっていくのです。

カルビーに当てはめて詳しく見てみましょう。

 「食感」 の追求


カルビーのマーケティング責任者の方が 「小さなイノベーションの積み重ねがロングセラーの道である」 と言っていました (参考記事) 。

カルビーではじゃがいもや塩などの原料の品質にもこだわっていますが、加えて大切にしているのが 「食感」 とのことです。

カルビーは時代の変化に合わせて、「かっぱえびせん」 から 「ポテトチップス」 「じゃがりこ」 「Jagabee (じゃがビー) 」 などの商品を発売してきました。俯瞰すると、自分たちは何を作ってきたかを振り返ってみると、食感を作ってきたと捉えたわけです。

食べることは本能的に気持ちのいい行為であり、「もっと食べたい」 という欲求を考えると、食べ応えや食べたときの食べ心地も重要な要素です。カルビーのコーポレートメッセージは 「掘りだそう、自然の力。」 ですが、自然の素材をどんな食感に変えていくのかという点は、事業の根幹であるというのがカルビーの考え方です。

食感を作り出すという根幹の部分、コアコンピタンス (競合他社に真似できない核となる部分) に立ち返っての色々な食感を作り出していくことが、カルビーの DNA なのです。

生活者の価値認識


自分たちの存在意義として、お客さんへの価値提供をカルビーは 「食感」 と定義しているのが興味深いです。

味や風味、形、固さ (噛みごたえ) 、表面のざらつき (舌触り) などは、全て食感につながるパーツです。これらは、食感というユーザー体験を実現するためのものです。

一般的に生活者は、食感がポテトチップスの価値だとは認識していないでしょう。

それよりも自覚できているポテチの価値は、おいしい、小腹を満たせる、気分転換になる、お酒のおつまみ、小さい子どもに与えておくと静かにしてくれるといったものです。

これらが欲しいから消費者はお金を払ってポテチを食べるのです。決して 「カルビーならではの食感が欲しい」 と意識して買っているわけではありません。

提供者側のカルビーは 「食感」 、一方の生活者は 「おいしい」 や 「小腹が満たせる」 と、価値認識に不一致が起こっています。

このギャップに、お客さんからの期待を超えるヒントが隠れています。


こだわりを価値として実現する


自らが提供価値を定義する


カルビーの事例から学べるのは、たとえ買い手がニーズを明確に意識したり言語化できていなくても、自らが定義した価値提供の実現を主体的に進める重要性です。

提供価値とは、売り手にとっては自分たちの存在意義にあたります。

自らの価値をどこに見出すのか、どう実現するのかを部分最適ではなく全体最適で考え、一貫した思考と行動を取ることが大事です。1つ1つの積み重ねが、カルビーで言えばポテトチップスなどのカルビーの 「らしさ」 につながります。

カルビーらしさが積み重なっていった結果、消費者にはカルビーでしか味わえない、体験できない価値がもたらされます。必ずしも消費者に意識されなくても、カルビーならではの食感を楽しむ体験からカルビーというブランドができていくのです。

マーケットインとプロダクトアウトの両立


カルビーの 「食感という価値提供」 は示唆的です。

お客さんから言われたり直接求められる範囲にとどまらず、相手が気づいていないレベルで価値を定義することが、お客さんの期待を超えるカギを握ります。

マーケティングには、マーケットインとプロダクトアウトという考え方があります。

  • マーケットイン: インタビューなどの市場調査から顧客ニーズを把握し、お客さんが求めるものを起点に開発する
  • プロダクトアウト: 自社の技術や仕組みから発想し、サービスや製品を開発する

相手が気づいていないレベルでの提供価値とは、後者のプロダクトアウトをとるアプローチです。

お客さんの顕在化ニーズに応える価値提供では、相手の期待を大きく超える体験をもたらすことはできないでしょう。作り手が主体的に自らより深く掘り下げ、その深さはお客さんの認識レベルでは行き着いていないところまでの存在意義や提供価値を定義できるかです。

お客さんへの本質的な提供価値をマーケットインとプロダクトアウトの両方から行い、それも1回のラッキーな出来事ではなく、自分たちの大切なことを見失わず、泥臭くてもいいので常に変わり、たゆまぬ努力で価値をつくり続ける。ここにロングセラーへの秘訣があります。


まとめ


今回はカルビーのポテトチップスを取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 「環境が変化する → お客さんが変わる → 企業も自ら変わる」 を繰り返し、お客さんへの提供価値を高め続けることがロングセラー商品になる

  • 提供価値は、お客さんが自覚していないレベルの実現を目指す

  • お客さんのニーズやお客さんの嗜好・価値観を理解するマーケットイン、提供者が主体的にお客さんが気づいていない深いレベルでの価値を定義するプロダクトアウトを融合することで、お客さんからの期待を超える価値が生まれる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。