投稿日 2023/10/27

カンロの飴 「透明なハートで生きたい」 。お客さんの心に響く商品名をつける秘訣

#マーケティング #商品名 #顧客インサイト

今回は、カンロの飴 「透明なハートで生きたい」 を取り上げ、ネーミングに焦点を当ててマーケティングへの学びを掘り下げます。

ユニークな商品名の狙いを紐解くことで、ネーミングの秘訣をぜひ一緒に探っていきましょう。

カンロの飴 「透明なハートで生きたい」 


出典: PR TIMES

カンロが、透明感のあるハートの形をした飴を発売しました。名前は 「透明なハートで生きたい」 といいます。歌詞の一節がそのまま使われているような商品名です。

名称の意図は、飴に興味がない若い人たちにも振り向いてもらえるように、あえて飴らしさをなくしてセリフのようなフレーズにしたとのことです。飴をなめることで心が透き通り、気持ちが前向きになってほしいという想いが込められています。


マーケティング発想からのネーミング


カンロの 「透明なハートで生きたい」 から、商品名の役割、名前をどう付けるといいかに学びがあります。

商品名の役割


商品の名前は、その商品を識別するためだけにあるのではありません。商品がブランドとして持つストーリー、独自性や価値を伝え、お客さんとの関係を深める役割を担います。

日本語では 「名は体を表す」 と言いますが、ここで言う 「体」 には商品がもたらす体験価値も含みます。商品名は、商品開発者の想いや熱意、込めた哲学、品質への自信、そして何よりも商品がもたらす価値を具現化するものです。

では、どうすればこのような商品名を付けられるのでしょうか?

カギは 「顧客インサイト」 にあります。

顧客インサイトと商品名


顧客インサイトは、「お客さんを動かす隠れた気持ち」 です。心のホットボタンや心のツボと言ったりもします。

普段はお客さん自身も意識していないものの、心のボタンを押され、そうだと気づかされれば態度が変わり、行動を起こす奥にある心理です。

顧客インサイトにもとづいた商品名であれば、その商品はお客さんの心の琴線に触れ、強い興味や欲しいという購入意欲を引き起こします。普段、お客さん自身が意識していない無自覚な欲求や感情が、商品名によって呼び起こされるのです。

若者にとっての飴へのイメージ


ここでカンロに話をつなげます。

カンロは、後に新商品となる 「透明なハートで生きたい」 の開発にあたって、徹底した調査や若者との対話を重ね、あらためて若年層のことを深く理解しました。

まずわかったのは、若者にとって飴は 「人からもらうもの」 という存在だったことです。

若い世代にヒアリングを行った。

 「ヒアリングの結果、若い世代にとって、あめは自分で "買う" ものではなく、人から “もらう” ものでした。つまり、これから自分のお金で好きなものを買えるようになったときに、あめが選択肢に入ってこないのです」 (ピュレグミ・カンデミーナブランド部の河野亜紀氏) 。市場縮小の危機感を反映するような結果だった。

同時に、飴にはポジティブなイメージがあるというのはカンロにとって収穫でした。

一方で、若い人たちの声によく耳を傾けると、前向きな "兆し" も見つけた。親や祖父母にあめをもらって食べた幼いころのあたたかい記憶、色や形がかわいい、透明感があってきれい ―― といった前向きなイメージが強いことだ。

 「あめはコミュニケーションツールであり、安心感もある。そして、お菓子の象徴としての根源的なかわいさがあります。若い世代もそういった良いイメージを持っているので、もう一度振り向いてもらう兆しがあるのではないかと考えました」 (河野氏) 

こうした顧客理解から、カンロは目指す方向性を明確にしました。飴をぱっと見て 「かわいい」 「映える」 だけではなく、飴の価値である 「コミュニケーションツール」 「安心感」 「根源的なかわいさ」 を心から感じてもらうというものです。

見出した顧客インサイトからのネーミング


カンロは若者への飴の認識だけではなく、もっと広く深く若者のことを理解しようとしました。

若者との対話からわかったのは、SNS や日常での人間関係での負の部分に、10代の中高生は日々ストレスにさらされていることです。

プロジェクトでは、あめの "原体験" をつくることを目的に、現役の高校生3人に参加してもらって商品開発を行っている。2022年8月から本格的に始動し、月1回、企画会議を実施。2023年5月の発売に向けて、開発は最終段階に入っている。

 (中略) 

プロジェクトに参加したのは、モデルやタレントとしても活動する高校生。しかし、じっくりと話を聞くうちに、華々しさだけではない "感情" も見えてきた。

 「今の若い人たちはスマホネイティブで、SNS を楽しんでいるというイメージがあります。しかし、彼女たちの話を聞いていると、実際は気持ちの浮き沈みが大きく、不安や孤独と葛藤する "心のもろさ" があることを感じました」 (河野氏) 

 「SNS でメッセージの返事を送ってこない相手が、ストーリーを更新している」 「自分の知らないうちに SNS のグループができている」 「自分がひとりぼっちだと感じることがある」 など、SNS で他人とつながりやすくなったからこそ、若者たちが抱える "モヤモヤ" は複雑で際限のないものになっている。

この状況における顧客インサイトを言語化するなら、SNS でのやりとりを楽しんでいるように見えて、実はそこには 「人間関係に不安や孤独感を抱いている日常から、少しの瞬間でもいいので自由になりたい」 という奥にある望みです。

カンロの 「透明なハートで生きたい」 という商品名は、顧客インサイトに寄り添ったネーミングになっています。

名前に込められたお客さんへのメッセージには、若者が抱いている 「自分らしく、ありのままの素の自分になりたい時もある」 という気持ちに響く力があります。


まとめ


今回はカンロの飴 「透明なハートで生きたい」 から、商品名にフォーカスを当て学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 顧客インサイトは 「お客さんを動かす隠れた気持ち」 。普段はお客さん自身も意識していないものの、心のホットボタンを押されると態度が変わり、行動を起こす奥にある心理

  • 商品名が顧客インサイトにもとづいたものであれば、その商品はお客さんの心の琴線に触れ、強い興味や購入意欲を引き起こす

  • 商品名は、その商品を識別するためだけではなく、商品がブランドとして持つストーリー、独自性や価値を伝え、お客さんとの関係を深める役割を担う


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。