投稿日 2023/10/07

防音マンション。顧客設定と独自の価値が生んだ、入居待ちが絶えない人気ぶり

#マーケティング #顧客設定 #提供価値

今回は、ユニークなマンションを取り上げ、マーケティングに学べることを掘り下げます。

相場よりも高くても入居待ちが絶えない 「防音マンション」 の裏側に迫りながら、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

防音マンション


出典: PR TIMES

相場より高くても空室待ち


大きな音を室内で出しても近所迷惑にならない 「防音マンション」 が人気とのことです。

 「くそおおおおおお!!!!!!!」 。会社員の男性 (32) は人々が寝静まる深夜に自宅マンションで叫ぶ。ほぼ毎日ゲーム実況をユーチューブで配信している。プレイするのは主にシューティングゲームで 「敵にやられると深夜だろうが大声が出てしまいます」 。

男性が住むのは防音性能を売りにした 「ミュージション」 の一室。その名の通り音楽家向けのマンションだ。リブラン (東京・板橋) が2000年に提供を始め、現在は首都圏に30棟、計727戸を構える。半数近い14棟が20年以降の竣工と、コロナ禍で急速に増えた。相場より3割高い家賃ながら空室待ちの入居希望者が2800人もいるという人気ぶりだ。

防音マンションである 「ミュージション」 に住んでいる方は、他には自宅でレッスンや動画配信をしているボイストレーナー、サックスなどの音楽教室も開催しているミュージシャンなどです。

防音マンションの特徴



防音マンションの特徴は、高い防音機能に加え、室内の大音量で生活が不便になってしまわないような工夫も見られます。

防音性能は 「D 値」 という数値で表され、大きくなるほど性能が高い。日本建築学会はマンションなら 50 を推奨し、55 あれば 「特に優れている」 とする。ミュージションはほぼ全戸が 70 以上で、85 という部屋もある。

気になるのは他の音をかき消してしまうこと。例えばインターホン。ネットで注文した荷物が頻繁に届くこの時代、こんなに爆音で生活していて受け取れるのだろうか。

リブランの戸口木綿子さんに疑問をぶつけると、「ライトが光ります」 。一部の物件では、インターホンが鳴ると室内のライトが光って来客を知らせてくれる。聴覚は自分に全集中し、その分を視覚で補うということか。

学べること


では防音マンション 「ミュージション」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

この事例からのマーケティングへの学びは2つです。

1つ目はお客さんを明確にすることの重要性、2つ目は定義したお客さんへの価値には 「他にはない独自性」 があることで競争優位をつくれることです。

順番に見ていきましょう。

お客さんの明確化


ビジネスでまずやるべきなのは 「自分たちのお客さんは誰か」 を定義することです。自分たちを必要としてくれるお客さん、大切にしたいと思うお客さん像を明確にします。

そのためには設定したお客さんのことを深く理解することが大事です。

理解する広さや深さは、お客さんの置かれた環境や変化、言動に表れているニーズだけではなく、ニーズの背後にある本当に求めていること、奥にある本音や価値観までです。

防音マンションの場合は、お客さんは 「室内でいつでも自由に音を出したい」 という思っている人々で、彼ら・彼女らが求めているのは 「自分の好きな音を出す活動が、まわりを気にせず思う存分にできる居住環境」 です。

お客さんへの独自の価値提供


2つ目の学びのテーマである 「お客さんへの価値提供」 についても掘り下げてみましょう。

防音マンションの特徴は、防音性能を示す 「D 値」 の数値の高さです。日本建築学会はマンションでは D 値が 55 であれば特に優れているとしていますが、ミュージションでは、ほぼ全ての部屋で 70 以上の値を示し、中には 85 という部屋も存在します。

また、一部の物件ではインターホンが鳴ると室内のライトが光り、演奏や歌声、ゲーム音が大音量で鳴っていても、来客に気づきやすいようになっています。

防音マンション 「ミュージション」 には、他の普通のマンションでは提供されていない独自性と希少性があります。周囲への騒音や迷惑を気にすることなく、自由に音を出せるというお客さんにとって価値につながっています。

以上のような価値を評価する人にとっては、たとえ市場価格よりも3割高い家賃でも住みたいと思えます。高価な商品でもニーズがあれば受け入れられ、2800人が入居待ちの状況になっているのです。

マーケティングの役割


防音マンションの事例からの学びをまとめると、「Who (ターゲット顧客) 」 と 「What (提供価値) 」 を明確にすることの重要性です。Who は自分たちが大切にしたいと思うお客さん、What はお客さんが本当に求めているものと、それに応える独自性のある提供価値を指します。

ビジネスでは、提供する価値とお客さんが支払うお金 (対価) に対して、「価値 > 対価」 が成立すれば買ってもらえます。

お客さんを明確にし他にはない価値をつくり、その業界や市場において、より高い価格でも選ばれる状況をつくる。ここにマーケティングの役割があります。


まとめ


今回は防音マンションの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • マーケティングでは 「自分たちのお客さんは誰か」 を明確にし、お客さんを深く理解することが大事。理解は表面的なニーズだけでなく、その背後にある本音や価値観までを含む

  • お客さんに提供する価値には、他にはない独自性があることが重要

  • 「Who (ターゲット顧客) 」 と 「What (提供価値) 」 を明確にし、お客さんが支払う対価よりも提供価値が高い状況をつくり出そう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。