自社の商品やサービスがお客さんの心を捉えるには、何が必要なのでしょうか?
人を動かす隠れた気持ち、すなわち 「顧客インサイト」 を探求し “オモロイ” と思えるインサイトを見出すことで、ビジネスチャンスがもたらされます。
今回は、オモロイを追求するサントリーのマーケティングを紐解き、ビジネスの成功につなげるマーケティングを解説します。
サントリーのインサイトの捉え方
サントリーの 「インサイト」 の捉え方がおもしろかったです。
オモロイがあること
インサイトには 「オモロイ」 があることが重要という考え方です。
サントリー HD 水口洋二氏 (以下 水口) サントリーには、"オモロイ" を大事にする企業文化があります。ここで言う "オモロイ = 面白い" とは、楽しいとか愉快という意味でなく、より抽象的に捉えたものです。そして、この "オモロイ" という考え方は、戦略や組織、商品設計、デザインなどの企業活動と深く関わっています。
日本語の "面白い" には、「目の前がぱっと開けて晴れやかな状態」 という意味があります。暗いところから明るいところに開ける、もう少し抽象化すると 「緊張と緩和」 によって構成される概念というわけです。
これは手で顔を隠したり、開いたりして遊ぶ 「いないいないばあ (英語では、ピーカーブー) 」 のような子どもの遊びにも見られます。"面白い" というのは、国や年齢問わず共通理解のある概念ということです。
"オモロイ" は、お笑いの 「フリとオチ」 に見ることもできます。フリで緊張をためて、オチで笑いを誘う。ついついオチばかり注目しがちですが、フリも重要な要素であって、どちらが欠けてもまずいわけですね。
ビジネスにおける 「フリとオチ」 は、「合理と非合理」 と言い換えることができます。
事業活動では、説明力の高い論理思考や合理性が重視されますが、そうやって生まれた商品やサービスは、驚きがなくありきたりなものが多い。合理だけというのは、フリとオチの関係で言えばオチのない状態。そうではなく合理と非合理がバランス良く交じり合う "オモロイ" を目指すことが重要であり、それによってイノベーションも起きるわけです。
商品開発やインサイト開発の考え方も一緒です。お客様が抱えている困りごと (緊張) を、どう商品で解決するか (緩和) 。鮮やかな解決策を提案できれば、「オモロイ」 と心を動かすことができます。
ウイスキーへのインサイト
インサイトについて、具体的なビジネスの事例から見ていきましょう。
具体的な事例を基に説明しましょう。1つ目は、100年ほど前に誕生したジャパニーズウイスキーの例です。
ちょうどその頃は、日本に西洋文化が押し寄せてきた時期。当時の生活者の困りごと = インサイトは何だったと思いますか。「西洋文化を気軽に楽しめないこと」 というのは浅い見方だと思います。
西洋文化への憧れと日本文化に対する愛着。生活者はこの憧れと愛着の間で葛藤している、と考えるのがサントリー流のインサイトです。そして、このインサイトからジャパニーズウイスキーが誕生したのです。
サントリーは、和魂洋才の考え方に基づき、日本古来の精神と西洋文化の融合を目指して、ジャパニーズウイスキーを開発しました。例えば、「サントリーウイスキー角瓶」 には吉祥文様のあしらいが、また、日本食に合うウイスキーをコンセプトにつくられた 「サントリーオールド」 には、日本の漆器から着想を得た意匠が採用されています。ただ単に西洋文化を取り入れるということはしなかったのです。
ほかにも 「サントリー響」 は、ラベルが和紙で、ボトルには二十四節気 (にじゅうしせっき) にちなんだ24面カットが施されたり、「サントリーウイスキーローヤル」 の栓には鳥居がかたどられたりしています。サントリーのウイスキーの歴史は、まさに西洋文化への憧れと日本文化への愛着をどう両立するかの挑戦でした。
顧客インサイトへの学び
ではサントリーの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングの重要な概念である 「顧客インサイト」 への示唆があります。
顧客インサイトとは
これは私の一言での定義になりますが、顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。
心のスイッチボタンとか心のツボのようなものです。顧客インサイトは、普段はお客さん本人は意識していないものの、心のホットボタンを押されると態度が変わり、行動を起こす奥にある心理のことです。
インサイトを見出すためにお客さんが奥に持っている本音まで掘り下げるわけですが、本音は必ずしも言語化されていたり、お客さんから直接説明されるわけではありません。
顧客インサイトはお客さんに教えてもらうというより、マーケターが自ら発見するものなのです。
売り手にとってのオモロイ
サントリーはインサイトへの捉え方として 「オモロイ」 があるかを重視していました。
売り手にとって新たな気づきや着想の起点になるだけではなく、買い手にとっても発見になることでインサイトは 「オモロイ」 となります。
売り手と買い手のそれぞれで順番に見ていきましょう。
まずは売り手には、インサイトはそれまでのお客さんへの理解を良い意味で覆してくれるものです。まだ知らなかった側面に光が当たり、顧客インサイトとして発掘できたことによって、新しい発見が売り手にはオモロイと思えるわけです。
買い手へのオモロイ
次に、買い手の立場ではインサイトはどのように捉えられるのでしょうか。
お客さんが潜在的に持っている心のホットボタンや心のスイッチをグサリと刺すようなコンセプトやメッセージ、商品が提示され、価値訴求がされることによって、お客さんはまだ言葉にならなかった深層の欲求が刺激されます。
ときには偶然の出会いのように予期せぬタイミングで表面に出てくることで、「そうそう、こんな商品がほしかった!」 という気持ちになります。
ここでもお客さんにとっての新しい発見をする体験が起こり、買い手にとってもオモロイという心理状態になる瞬間です。
良いインサイトとは
オモロイという視点から、ビジネスでのマーケティングの文脈における良い顧客インサイトとはどういうものなのかが見えてきます。
整理をすると、次の5つです。
- 直感的にわかりやすい
- 売り手にとって想定とは違った新しい発見がある
- 見出した顧客インサイトが実行可能なビジネスアイデアの着想になる
- インサイトにもとづいた価値提案によって、お客さんの心のスイッチボタンが刺激される。「なんで私のほしいものがわかるの!?」 や 「そうそう、こんな商品がほしかった!」 という気持ちに
- 商品を買ってくれたり、信頼性の向上、ファンになってもらえるなど、自分たちのビジネスが良い方向に向かうお客さんの行動につながる
まとめ
今回は 「顧客インサイト」 をキーワードに、サントリーの事例を通じて学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 。普段は本人は意識していないものの、心のホットボタンやツボを押されると態度が変わり、行動を起こす奥にある心理
- インサイトには "オモロイ" がある。売り手には想定とは違った新しい発見となり、見出した顧客インサイトが実行可能なビジネスアイデアの着想につながる
- お客さんにとっては、心のスイッチボタンが刺激される価値提案から、「そうそう、こんな商品がほしかった!」 という気持ちになる
- 売り手と買い手の双方にオモロイが生まれ、インサイトを起点に商品を買ってくれたり、信頼性や愛着の向上など、ビジネスが良い方向に向かうお客さんの行動につながる
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