営業とマーケティングの間で感じる微妙なズレ、すれ違いが続くことでの対立は、ビジネスの成長を阻んでしまいます。営業とマーケティングで起こる衝突は、大きな機会損失につながります。
今回は、BtoB 企業での営業とマーケティングの理想的な連携について考察し、どのように実現するかを解説します。
営業とマ-ケティングの衝突
BtoB 企業 (法人向け事業を展開する企業) は、日本では一般的にマーケティング部門は後付けでつくられたことからも、営業部門が強いという会社が多いです。
営業とマーケティングは企業の成功に不可欠な2つの部門ですが、両部門が連携していないと、企業はせっかくのビジネス機会を逸する可能性があります。これは 「営業とマーケティングの断絶」 という問題です。
うまく連携していない場合のお互いの言い分
2つの部門の連携がうまくいっていなく、なにかと対立している状況では、次のようなお互いへの言い分が見られます。
✓ 営業から見たマーケティング
- 営業の担当企業相手の名刺を集めてマーケティングは何するつもりなの?
- 自分の担当顧客に勝手にメールを出さないでほしい
- こっちの仕事を増やさないでほしい
- 顧客情報の管理がマーケティングはできてない
- なんであんな展示会に出展してるの?
- 営業が稼いだお金をマーケティングは無駄に使い過ぎ
- 机上の論理や屁理屈ばかりで営業の現場を何もわかっていない
- マーケの人たちって毎日何してるの?
✓ マーケティングから見た営業
- お客さんの名刺を自分の所有物だと勘違いして営業はコピーを取らせてくれない
- 担当企業を自分の縄張りのように思い、協力してくれない
- こっちはせっかく展示会などで顧客リストを集めたのに、営業はフォローの連絡をするなど活用してくれない
- メールやテレアポするのに、なんで事前に営業にいちいち確認しなくちゃいけないの?
- アポをとったのに営業は訪問結果を共有してくれない
- 導入事例などのコンテンツ作りやセミナー集客に営業は協力してくれない
- 既存製品の知識しかなく、新製品を売ろうとしない
- 顧客企業の中の決まった人としか営業は会わないので、競合に喰い込まれている
企業の中で、営業とマーケティングがうまく連携できているケースは少ないように思います。
営業とマーケの断絶によって起こる弊害
では、営業とマーケティングの断絶によって、どんな影響が起こるのでしょうか。
売上損失
- 最も直接的な影響は売上
- 営業が効果的なリードを得られなかったりすると、それは売上への打撃となる
顧客満足度の低下
- 両者が連携していない場合、顧客はマーケティングから得た情報と営業から得た情報が一致していないと感じてしまう
- 顧客満足度の低下を招く
生産性の低下
- 営業とマーケティングが連携されていないと、マーケターは営業が必要とするリードを作るために時間とリソースを浪費する
- また、営業はマーケターから得た情報にもとづいてお客さんにアプローチすることができないため、効率が悪くなる
ではなぜ、営業部門とマーケティング部門で断絶が生まれてしまうのでしょうか?
断絶が生まれる構造的な要因
両部門の共通認識がないと、営業部門から見れば、マーケティング部門が提案する施策は無駄な時間を取られるように見えます。
営業部門は得意客 (ロイヤルティ顧客) をそれぞれの営業部員が担当し、また、自分で新規のお客さんを取っている場合もあります。トップ営業であればあるほど 「自分1人で営業したい」 と思っていることでしょう。
ここにいきなりマーケティング部門から、「お客さんの名刺情報を顧客管理ツールに入力してください」 、「この MA (マーケティングオートメーション) ツールを使ってください」 、「インサイドセールスで新規の商談を取ったのですぐに営業に行ってください」 などと言われても、営業部門としては、自分でできているがゆえにマーケティングが余計な仕事を増やす存在にしか見えないわけです。
他にも営業とマーケティングで衝突が起こる要因はあります。営業部門とマーケティング部門の KPI (重要業績評価指標) が異なることです。
マーケティングから見ると、マーケティング部門の KPI は売上や契約につながる前の中間指標を置くことが通常です。たとえば新規見込み獲得数や商談数です。マーケティング部門はこれらの KPI を追いかけるので、獲得した見込み客や商談リストをなるべく多く作ることを目指します。
一方、営業部門の KPI は売上です。
マーケティング部門から渡される見込み客リストは、特にマーケティング部門が新設されて間もないと、現実的には筋の良さそうなリストばかりではありません。単に企業数だけの多いリストを送られると、売上につながらない企業にまで営業をすることになり、自分たちの KPI 達成を邪魔されているようにすら感じるのです。
営業とマーケティングの部門間の断絶や衝突が生まれる要因は、突き詰めると価値観や立場の違いです。お互いに相手の置かれた状況、価値観やモチベーションを理解できないと、良い連携はできないわけです。
* * *
それでは、営業チームとマーケティングチームが良い関係性を築くためには、どうすればいいのでしょうか?
目指したい営業とマーケティングの関係
それぞれの役割とその本質を理解することが、連携を円滑にする第一歩になります。
営業の役割から順番に見ていきましょう。
営業の役割
営業の役割は製品やサービスを直接顧客に販売し、売上を得ることです。お客さんとの一対一の対話を通じて、お客さんのニーズを理解し、適切な製品やサービスを提供することが求められます。
営業の主なタスクには、お客さん (主に小売や卸などの流通) との直接的なコミュニケーション、製品やサービスのデモンストレーション、契約の締結などがあります。これらの活動を通じて、営業はビジネスに直接的な収益をもたらします。
マーケティングの役割
一方のマーケティングの役割は、市場のニーズを理解し、製品やサービスの価値を広く伝えることです。
マーケティングは、マーケティングリサーチで顧客や競合、市場トレンドを理解し、広告や PR を通じて製品やサービスの認知度を高め、新しいお客さんを獲得し、既存のお客さんも維持することを目指します。
マーケティングは、市場調査、広告キャンペーンの企画と実施、ブランドイメージの構築などを行います。これらの活動によりマーケティングは長期的なビジネスの成長を支え、新しいお客さんを引き寄せる役割も果たします。
サッカーでたとえると
営業とマーケティングの役割をサッカーにたとえれば、営業は最前線でゴールを狙う FW 、マーケティングは FW にアシストし、時には自らゴールも狙う MF としてゲームをコントロールする役割です。
マーケティングの要素の1つである広告や SNS という空中戦にしか目が向いておらず、成果に一喜一憂している状況というのは、サッカーの中盤で MF のプレイヤーだけが自分たちの華麗なパス回しに酔いしれているようなものです。FW は蚊帳の外で、これでは観戦しているサポーターは興ざめしてしまうでしょう。
大事なのは、全員でのサッカーからゴールを入れて点を取ることです。MF から FW へボールをつなげてこそ、つまり認知や購入意向を上げるマーケティング施策は、製品やサービスを直接的にクライアント企業に買ってもらう営業活動に活きるのです。
営業とマーケティングがそれぞれ別々に活動するのではありません。重要なのは、両者が連携し、お互いにパスをつなぎ合わせてビジネス全体のゴールを目指すことです。お互いの役割を理解し、尊重し合いながら共同で動くことで、部分最適ではなく全体最適が実現しビジネスに成功をもたらします。
部分最適ではなく全体最適の実現へ
それでは、ここまでの考察を踏まえ、営業とマーケティングの部門がうまく連携でき、部門ごとの部分最適ではなく全体最適を追求するためにはどうすればいいのでしょうか?
営業とマーケティングの理想の関係は、ビジネスを成功させるために協力し合っていることです。
営業とマーケティングの部門がうまく連携し、全体最適を追求するためには、両部門の役割と価値の相互理解、共通の目標の下での密なコミュニケーションが不可欠です。実現のためにはいくつかのステップを踏む必要があり、その過程で遭遇する困難を克服する方法も考えるべきです。
では順番に見ていきましょう。
共通の目的設定
営業とマーケティングが一体となり、共通の目的に向かっていくことが重要です。
まず、営業とマーケティングの間で共通のビジョンと目標を設定することがスタートラインになります。
この過程では、両部門が定期的に会議を持ち、会社が達成しようとしている具体的な目標を明確にし、それぞれの部門がどのように貢献できるかを話し合います。ここで、お互いの部門の成功が他方にとっても利益であるという認識を深めることができれば、部門間の協力の土台が築かれます。
役割と責任の明確化
次に、役割と責任の明確化を行います。
営業とマーケティングの部門それぞれが企業内や事業の下でどんな役割を担い、どのような責任を持っているのかを明確にすることで、対立や不要な重複を避けることができます。お互いの役割が明確になることで、相互理解につながり、また部門間でのサポートの仕方もより具体的になります。
トップのコミットとサポート
営業とマーケティングの現場でメンバー同士が歩み寄ってのボトムアップに加え、トップからのコミットとサポートも不可欠です。
経営層が両部門の連携の重要性を認識し、全社的な一枚岩になるための協力する文化の醸成をリードするといいでしょう。たとえば、部門間の利害調整が現場では難航する場合は、両部門の責任者や社長が間に入りトップでの合意を得るなどが時には必要です。
コミュニケーションの強化
営業とマーケティングの連携を円滑にするためには、コミュニケーションの強化も欠かせません。
両者での定期的なミーティングはもちろんのこと、顧客管理ツールなどの社内ツールを共用することで、進行中の案件や施策についての透明性を高め、随時フィードバックを交換できる環境を整えることが大切です。
お互いの部門で起こっている状況を共有し合い、何か問題が生じたのであればすぐに営業とマーケティングが集まり解決するミーティングを開催するなど、コミュニケーションの強化がお互いにとってメリットがある体制をつくります。
成功体験の共有
営業とマーケティング部門の連携の成功事例を共有し、協力体制が良い方向に向かっている機運を高めるといいでしょう。特に初期の段階では、クイックウィンという小さな成功体験を早く重ねていくと効果的です。
そして、成功体験やうまくいかなかった失敗事例からも改善を続けることが大事です。実際に連携がうま手くいった案件の振り返りを行い、何が成功の要因だったのか、どのような点が改善されるべきかを定期的に検証することで、連携の質を高めることができます。
営業とマーケティングの連携を深めることは、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。お互いの継続的な取り組みと忍耐も求められますが、うまくいけば、企業全体や事業への恩恵は計り知れないでしょう。
まとめ
今回は、BtoB 企業での営業とマーケティングの組織連携について考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 営業とマーケティングの衝突: 連携不足により売上の機会損失・顧客満足度低下・生産性低下を引き起こす。両者で異なる目標設定 (KPI) や価値観の相違、お互いへの理解不足が原因で両者の断絶が発生する
- 目指したい営業とマーケティングの関係: お互いの役割を理解し、サッカーの FW と MF のように協力し共通のゴールを狙う関係性が理想
- 部分最適ではなく全体最適の実現へ: 共通の目的や目標設定、お互い役割の明確化、トップのコミットとサポート、コミュニケーション強化、成功体験の共有がカギ。連携強化で企業全体のパフォーマンスが向上する
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