投稿日 2024/07/31

ワーキングマザー向けに特化したビジネスバッグ。百貨店の生きる道への示唆

#マーケティング #顧客の不 #提供価値

お客さんの本当のニーズをどれだけ理解できているでしょうか?

表面的な顧客ニーズや顕在化ニーズだけではなく、ビジネスで成功のカギを握るのは、より深いところにあるお客さん自身も意識していない望み、困りごとに気づくことにあります。

今回は、ターゲット顧客を明確に定義し、顧客理解の解像度を上げることの重要性を事例を通して解説します。

ワーキングマザー向けのビジネスバッグ



青山商事がバッグブランド 「エース」 と共同で、仕事と育児を両立するワーキングマザー (ワーママ) に向けたビジネスバッグを開発しました。

バッグの開発をするにあたり、社内のワーママを対象にアンケートを実施したとのことです。

そこで出た意見には、「たくさん入る容量が欲しい」 「なるべく両手を空けたい」 「整理整頓のしやすさ」 「スムーズに出し入れできるポケットがほしい」 などがありました。こうした声に対し、ワーママ用のリュックとトートバッグの2種類のバッグが生まれました。

顧客解像度を上げる


この事例から学びとしたいのは、誰がお客さんなのかを明確にし、お客さんの理解への解像度を高めることの重要性です。

お客さんは誰か

ビジネスにおいて、「誰をお客さんにするのか」 を定義することは、商品開発やマーケティングの起点になります。

今回のバッグの例では、家庭も仕事も充実させたいというワーキングマザーをターゲット顧客に設定し、通勤時や保育園・幼稚園の送迎時におけるワーママの具体的な困りごとやニーズに焦点を当てることができました。

お客さんの声からの顧客理解

このアプローチの中心には 「想定するお客さんの声を訊く」 という顧客理解があります。アンケートや対話を通じて、ワーキングマザーの普段の生活や仕事に対する日常の行動、さらには心理面も理解しました。

顧客理解には表面的なニーズを超えて、潜在的な望みや不満まで探ることが含まれます。今回のケースで言えば、ワーキングマザーがビジネスバッグに求めるのは単に物の出し入れがしやすく、持ち運こびがしやすい機能だけではなく、仕事と育児の両立という日常生活のストレスを少しでも軽減する手段と捉えてのバッグ開発でした。

ご紹介したワーママ用バッグ開発の事例は、お客さんを解像度高く理解し、見出したニーズに応える商品を開発することが、ビジネスでの成功のカギを握っていることを教えてくれます。

では、ターゲット顧客の明確化、深い顧客理解の重要性について、もう少し続けて考えていきます。

百貨店の生きる道


お客さんの声に真摯に耳を傾け、顕在化したニーズだけではなく潜在的な望みも叶えることは、どの業界においても重要です。

このアプローチを、たとえば百貨店に当てはめてみるとどうなるでしょうか?

価値提供の源泉

前提として押さえておきたいのは、これまでの百貨店の価値提供の源泉は何だったかです。

これまで百貨店は、目利き力のあるバイヤーによって選ばれた商品や、お客さん1人ひとりを深く理解する販売員による個別の対応で、来店客の多様な顧客ニーズに応えていました。

このような百貨店の取り組みにより、百貨店が長年にわたって築き上げた信用や、商品選びにおける専門性、パーソナライズされたサービスとして消費者に価値をもたらしていました。

百貨店の挑戦

現代の消費者は、利便性や早さだけでなく、購入体験そのものにも価値を求めています。

百貨店は、その伝統的な強みを生かし、オンラインショッピングの世界でも独自の顧客価値を提供できるかが、今後は問われます。

たとえば、オンラインでも実店舗でやっていたようなお客さん1人ひとりに寄り添うようなショッピング体験を提供したり、バイヤーによる厳選された商品を特集することで、他の小売業態にはない 「お客さんから選ばれる理由」 をつくり出せるかです。

そのためには、誰が自分たちのお客さんなのかを明確にし、お客さんの理解への解像度を高めることが大事です。

顧客設定と顧客理解

百貨店が顧客起点であることを続け、顧客中心のアプローチをとることで、インターネットの普及により消費者の買い物や情報接触の方法が変化した市場環境の中でも、お客さんにとって価値ある存在であり続けることができるはずです。

お客さんからの期待を超える商品 (モノ) や買い物体験 (コト) を提供することで、長期的な顧客関係を築き、これからも持続可能な成長を実現できるでしょう。

マーケティングにおける重要な学びは、お客さんの本当の望み、隠れていたり解決をあきらめているよう奥にある不満、本人も気づいていない課題感、何に価値を見出すかの価値観までを理解することです。

それに応え続ける姿勢と取り組みをすることのみが、市場での成功をもたらします。お客さんの期待を満たし、時にはそれを超えることで、企業や商品は他にはない選ばれる存在になれるのです。

まとめ


今回は、ワーママ向けのビジネスバッグと、百貨店の話も交えて、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ターゲット顧客を明確に定義し、顧客理解の解像度を上げることが大事

  • お客さんの声を直接聴くことは、顧客理解を深める上で不可欠

  • アンケート調査やインタビュー、観察調査などを通じて、想定する顧客層の普段の言動、心理面まで探り、商品やサービスをそのニーズに合わせにいく

  • 顧客理解は表面的なニーズだけではなく、潜在的な望みや不満にも目を向ける。深い顧客理解から、お客さんが自覚していない問題点や隠れた欲求を見つけ出す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。