投稿日 2024/07/20

マーケティング 「つながる」 思考術。全体戦略から個別施策まで

#マーケティング #本

自社のビジネスでのマーケティング施策は、本当に効果を発揮しているでしょうか?

マーケティング活動からは、商品やサービスをお客さんに買ってもらうことが最終目的であることは明らかですが、そのプロセスには多くの前提と検討が必要です。

今回は、マーケティング 「つながる」 思考術 (池田紀行) というマーケティングの本を取り上げます。


マーケティング活動の前提として押さえておくべきポイント、SNS マーケティングやファンマーケティングの各施策がもたらす具体的な成果と、それを支える KGI と KPI の設計方法について具体的な学びを掘り下げます。

マーケティング施策の成功には、ただ闇雲に進めるのではなく戦略的な思考と行動が不可欠です。ぜひ一緒に紐解いていきましょう。

本書の概要



マーケティングでの特定の施策や手法、たとえば SNS マーケティングやデジタルマーケティングを詳しく解説する本はたくさんあります。

それに対してこちらの本は、日々の業務でどのようにマーケティングを使うかを俯瞰してトータルで捉えられる1冊です。

点と点から線につながり、さらには面をつくっていくという大きな発想ができるようになります。すなわち、「施策 = 点」 とし、「売上までのルート = 線」 を進み、各線を実現するための 「マーケティング戦略 = 面」 を形成します。

マーケティングへ次元が増え、その分だけ得た知識を実務に活かす方法が見えてくるはずです。そうなるとマーケティングが何よりもおもしろいと思えるようになることでしょう。

本書では、マーケティングにおける主要な 20 の施策を徹底解剖し、押さえておきたい 「マーケティング戦略の 9 つの原理原則」 が解説されています。併せて、「マーケティング課題 = 症状」 と 「施策 = 処方箋」 のミスマッチによる 「よくある医療ミス 10 選」 も提示され、面としてのマーケティングへの理解が深まります。

マーケティング施策の前提


マーケティングを行っていくにあたって、押さえておくべき前提があります。

マーケティングへの期待値

マーケティングの目的は、お客さんに買ってもらうことです。

そのために存在するマーケティングコミュニケーションの役割は、お客さんに買ってもらうために 「意識や態度を変えること」 です。

マーケティングコミュニケーションにおいて、どこまでできて、何ができないのかを明確にしておくことが大事です。広告や SNS などを使ったコミュニケーションから、成果として何を期待するかを定めることで、マーケティング課題に沿った施策になるかどうかが判断できます。

 「今すぐ客」 と 「そのうち客」 

お客さんには大きく2つの種類があります。「今すぐ客 (顕在層) 」 と 「そのうち客 (潜在層) 」 です。

それぞれに対して打ち手や起こす効果は異なるので、今はどちらのことを想定しているのかを意識することが大切です。

ニーズがすでに顕在化している 「今すぐ客」 には、リスティング広告 (検索連動型広告) などから、いわゆる 「刈り取り施策 (顕在顧客を獲得する施策) 」 を展開します。今すぐ客に対してマーケティングコミュニケーション施策から狙うのは、資料請求、会員登録、購買などの 「行動変容」 です。

それに対して 「そのうち客」 はニーズはまだ潜在的です。時が来ればニーズが顕在化するであろう人たちという意味での 「そのうち」 です。

そのうち客への対応は、場合によっては需要をつくり出すところから長期的な視点で施策を行うといいでしょう。長い目で見て投資回収をするというスタンスをとります。

先ほどの 「今すぐ客」 には行動変容を狙いましたが、一方の 「そのうち客」 に対して起こしたいのは、新たに知ってもらったり興味を持ってもらう、ニーズが顕在化したり買いたいと思ったタイミングの顧客文脈で思い出してもらう (想起集合に入れてもらえる) などの 「態度変容」 です。

各マーケティング施策に期待できる成果


ではここからは、いくつかのマーケティング施策を見ていきましょう。

SNS マーケティング

SNS マーケティングやコンテンツマーケティングへの期待が高すぎると、実際に SNS を使ってのマーケティングができること・得られる成果は幻想に終わります。

SNS マーケティングのポイントを整理すると、次のようになります。

  • マーケティングの目的を設定し、対処する課題を明確にすることが大事
  • その上で課題に合う場合のみ SNS やコンテンツの施策を詰めていく。逆に言えば診断 (課題) なき処方箋 (施策) は効果がない
  • 認知の費用対効率は SNS やコンテンツマーケティングより広告のほうが高い
  • SNS が有効なのは 「そのうち客 (潜在ニーズ層) 」 。ニーズが顕在化していない 「オフ」 の状態の人と顧客接点を持てるところに SNS の役割がある。ニーズがオンになり (そのうち客 → 今すぐ客) 、顕在化した文脈で自社を想起してもらえるように SNS でつながっておく


インフルエンサーマーケティング

インフルエンサーマーケティングも過剰な期待になりがちな手法です。

というのは、一口にインフルエンサーと言ってもいろいろで、本当に自社商品・サービスのマーケティングに合うのかの見極めが必要になります。

また、インフルエンサーだけではなく、フォロワーがそのインフルエンサーに何を求めているのか、なぜフォローしているのかによって、インフルエンサーマーケティングの効果や成果が変わります。

自社のマーケティングの目的や課題に合致した上でインフルエンサーマーケティングを活用すれば、すでに知っている人の興味喚起、好意度向上、信頼性の獲得にもつながるでしょう。新しく認知してもらえることも期待できます。

ファンマーケティング

ファンマーケティングやコミュニティマーケティングは、目的や課題によってやってもいいものの、成果を上げるまでには相当な覚悟と長期的な姿勢が求められます。売上や商品開発に活用するなどのビジネスへの結果が出るまでには3年は必要でしょう。

始めるのは簡単かもしれませんが、コミュニティをつくったり、人が常にいて話題に事欠かなく活性化している、ファンが居続けてくれる環境を続ける難易度が高いのがファンマーケティングです。

ファンマーケティングで注意が必要なのは、ファンマーケティングは既存顧客の中でもロイヤルティの高いファンに向けて行うのものであり、つまり、ファンマーケティングの対象となる人は顧客全体に占める割合 は少ないということです。

新規顧客はファンマーケティングでは直接は増えにくく、新しいお客さんを獲得しての売上貢献には効きにくい施策です。

ファンマーケティングが効果的なのは、熱量の高いファンとの双方向でのコミュニケーションから相互理解です。ロイヤルティ顧客の理解から、ライト層の使用や購入頻度を高めたり、うまくいけば新規顧客を増やすヒントは得られるかもしれません。

マーケティングでの KGI と KPI の設計


ビジネスの現場でよく用いられる 「KGI (Key Goal Indicator (重要目標達成指標) ) 」 と、「KPI (Key Performance Indicator (重要業績評価指標) ) 」 の2つを順に見ていきましょう。

まずは KGI からです。

売上を KGI にしないほうがいい

本書では、マーケティング施策の KGI 設定として、売上を KGI にはしないほうがいいとします。

というのは、マーケティングの施策の中には、施策を実行したからと言ってすぐに直接的な売上をもたらすほどの効果が出るとは限らないからです。

たとえば SNS でマーケティングコミュニケーションを展開しても、リーチできる多くの人はまだニーズが顕在化していない潜在層である 「そのうち客」 です。それに比べてリスティング広告などの 「今すぐ客」 に即効性のある打ち手では売上につながりやすいですが、「そのうち客」 への施策は短期では売上への目に見える効果は出にくいわけです。

各マーケティング施策でできること・できないことがあるので、最終の売上ではなく、現実的な KGI 設定をするといいと。

マーケティング施策の KGI を売上にしないほうがいいもう1つの理由に、売上は原因の解像度が低いというのもあります。

売上への因果関係は複雑で直線的ではなく構造的なため、売上を KGI にしたときに KGI 達成が未達の場合に要因特定が難しくなります。

KPI をどこに設定するか

マーケティングでの KGI は売上や粗利よりも、売上を分解した客数・購入価格・購入頻度とするといいでしょう。

KGI の中間指標となる KPI は、客数増や客単価の向上のもっと手前にある、KGI のドライバーとなる中間指標とします。具体的には、新規会員登録、広告クリック、自社ブランド名での指名検索数、プランド純粋想起、次回購入意向などです。

クリックなどの指標はあくまで売上や客数増加に向かうための中間指標です。この認識がそろっていないと、現場には普段いない事業責任者や経営層からは、新規会員登録数やクリック数の結果の数字を見て 「 (クリック数などが) 上がったのは確かにその方がいいけど、だから何?」 となりがちです。

ここで重要になるのが、マーケティング KPI が、その先の客数や客単価の KGI にどう影響するのか、KPI が KGI のキードライバーとなるロジックを示すことです。

まとめ


今回は、書籍 マーケティング 「つながる」 思考術 (池田紀行) を読み、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ マーケティング施策の前提

  • マーケティングの目的はお客さんに商品やサービスを購入してもらうこと。マーケティングコミュニケーションはこの目的達成につながるように、お客さんの意識や態度を変える役割を担う
  • お客さんを 「今すぐ客」 と 「そのうち客」 の2つに分け、それぞれに適した施策を選択することが重要

✓ 各マーケティング施策に期待できる成果
  • SNS マーケティング: SNS でのコンテンツ配信やコミュニケーションから、認知向上が期待できる。正しいターゲット設定と課題を明確化し、お客さんとの接点を増やしておき、「そのうち客」 が 「今すぐ客」 になったときに想起してもらうことを狙う
  • インフルエンサーマーケティング: 適切なインフルエンサーの選定から、商品・サービスに対する信頼性と興味を高める。フォロワーがインフルエンサーに何を望んでいるかも理解することが重要。その期待に沿ったコミュニケーションをする
  • ファンマーケティング: 長期的な視点で取り組むこの施策は、既存顧客のロイヤルティを高めることに焦点を当てる。熱心なファンをつくり出し、ファンからの気づきや顧客理解を新規顧客の獲得のヒントにする

✓ マーケティング KGI と KPI の設計
  • 効果的なマーケティング施策を行うためには、マーケティングの KGI を売上ではなく、より現実的な KGI を設定し、KGI の中間指標や先行指標となる KPI を設計する
  • たとえば KGI を客数や購入頻度の増加とする。KGI のドライバーとなる中間指標として、新規会員登録、広告クリック、自社ブランド名での指名検索数、プランド純粋想起、次回購入意向などを KPI にする

この本は、マーケティングの全体像を捉える冒険の地図のような存在です。

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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。