ブランドがただの名前で終わらせないためには、何が必要なのでしょうか?
朝のコーヒーを選ぶ瞬間、通勤電車の中、目にするロゴ一つで心が動く。その瞬間に記憶の糸をたぐり寄せる 「ブランド連想」 の力が働きます。
今回は、テレビ番組の見逃し配信サービス 「TVer (ティーバー) 」 を取り上げ、ブランディングの秘訣を紐解きます。
テレビ番組の見逃し配信 TVer
テレビの見逃し配信 TVer はユーザー数を順調に増やし、2024年1月の月間のユニークブラウザー数は3500万になりました (参考記事) 。
ビジネスモデル
TVer のビジネスモデルは、従来の民法のテレビ放送のビジネスモデルと比べると特徴的です。
民法テレビのビジネスモデル
出典: 日経クロストレンド
民法テレビのビジネスモデルは、主にテレビ放送への広告収入に依存しています。
視聴者がテレビ番組を視聴し、番組中の CM を見てもらうことが収益の源泉です。
TVer のビジネスモデル
出典: 日経クロストレンド
一方の TVer のビジネスモデルは、放送されたコンテンツをインターネットを通じて配信することで、広告収入を得るというものです。
具体的には、放送後にテレビ局が TVer に番組配信委託をする形で番組を提供します。
テレビ番組コンテンツが TVer でストリーミング配信され、その際に TVer に挿入される広告主の CM が流れます。この TVer 上の CM は 「 (TVer ではない) 民法のテレビ番組で流れた CM」 とは別のものです。
視聴スタイルの違い
テレビ放送と TVer の違いは、視聴者が番組を見るタイミングと方法にも見られます。
TVer はオンデマンドという見逃し配信なので、いつでもどこでもテレビ番組を見ることができます。それに対して、民法テレビはリアルタイム配信が中心であり、放送曜日と時間帯に視聴者が合わせることになります。
広告収入への影響
このような違いは、広告配信や広告収入にも影響を与えます。
TVer は個々の視聴者の属性 (性別や年代, 居住エリアなど) 、視聴習慣に合わせて広告を配信できるため、視聴者ごとに変えた広告のパーソナライゼーションが可能です。
一方の民法テレビ放送は、広範囲の視聴者に一斉に同じ広告を配信するため、広告の個別最適化が難しいです。しかし、大きなイベントや人気番組などの高視聴率を見込める番組に広告を出稿すれば、一度に多くの視聴者に広告をリーチさせることができます。TVer にはない利点です。
TVer のパーセプション変化
従来の民法テレビ放送とは異なる視聴スタイル、そして広告出稿となる TVer が普及することで、TVer への 「パーセプション」 が変わりました。
パーセプションとは
パーセプションとは、英語を日本語に直訳すれば知覚や認識のことです。
マーケティングの文脈ではパーセプションは 「価値へのイメージ」 や 「価値認識」 というニュアンスです。
視聴者とテレビ局のパーセプション変化
TVer のパーセプションチェンジをまとめると、次のようになります。
出典: 日経クロストレンド
✓ 視聴者側のパーセプション変化
- テレビは時間と場所が限定されるので退屈
- テレビはテレビ受像機で視聴する ↓↓↓
- テレビはいつでもどこでも視聴できる自由なもの
- スマホ、タブレット、パソコン 、コネクテッドテレビ (CTV) で視聴できる
✓ テレビ局のパーセプション変化
- 番組はテレビ局で制作、管理、納品し、放送する
- TVer のような制作配信サービスは敵 ↓↓↓
- 番組は放送するだけでなく、インターネット配信もする
- TVer は番組制作を拡大できるパートナー
テレビ局の抵抗感とパーセプション変化
消費者側に比べて、コンテンツの送り手である放送局のパーセプションを変えるのは、かなりの高さのハードルだったはずです。
放送局にとって TVer のような見逃しの配信のサービスは、自分たちの放送ビジネスを脅かす存在として受け止められてきたであろうことは容易に想像がつくからです。また、TVer が登場するもっと前にはテレビ番組の違法アップロードなども普通にされていたというのもあります。
テレビ局にとっては、制作、営業、編成し、多くのリソースをかけて作成し放送した番組を、なぜわざわざインターネットから配信するのかと、その意味を見出せなかったり、抵抗を感じたりする人も多かったことでしょう。
こうした状況からスタートした TVer は、当初はサービスや番組に注目を集めるため、主体的に自らも広告営業を行うなど、企業努力を続けてきました。
TVer の利用者の増加もあって、多くの人に見てほしいという放送人の性は、見逃しの配信へのライバル意識や抵抗感を上回っていきました。結果、テレビ局にとって TVer は 「番組視聴を拡大させるパートナー」 というパーセプションが形成できたのです。
* * *
では、ここまでの内容から、TVer からマーケティングのブランドの観点で、学べることを掘り下げていきましょう。
「独自ブランド資産」 と 「ブランド連想」
人の記憶ネットワークの中に、ブランドにひもづく認識、印象、解釈、体験したことの連想イメージが強化されると、「独自ブランド資産」 が人の頭の中でできあがっていきます。
独自ブランド資産に一貫性があれば 「ブランド連想」 は強化され、お客さんはブランドを容易に思い出すことができるようになります。
ブランド連想には二方向があります。
- 文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド)
- ブランドから文脈の連想 (ブランド → 文脈)
前者はそのシチュエーションという特定の顧客文脈でブランドが想起されることです。シチュエーションがあり、ブランドが連想され、ほしいと思うという流れです。
たとえば、外出中にちょっとコーヒーを飲みたい、少しお店で時間をつぶしたい、休みたいとと思ったときにスターバックスを思い浮かべ、スタバのお店に行きたいと思うのが文脈からブランドの連想です。
もう1つの連想のされ方は、ブランドのロゴや広告、SNS で話題になっているのを見たときに、利用シーンやシチュエーションなどの文脈が思い出されます。ブランドを見たり聞くことで、シチュエーションが思い浮かび、そのシーンになりたいという気持ちになります。
スターバックスの例では、スタバのロゴや他の人がスタバでテイクアウトしたコーヒーを飲んでいるのを見たときに、スタバのお店で休みたい、スタバのコーヒーの香りでリラックスしたいという気持ちを思い起こすことです。
TVer のブランド連想
では、TVer にブランド連想を当てはめてみましょう。
TVer は、多様化する視聴者のニーズに応える形でテレビの見方を変え、ブランド連想が双方向で強化されています。
文脈からブランド
まず 「文脈 → ブランド」 の連想においては、視聴者がテレビ番組を決まった放送時刻ではなく、また家にテレビが置いてある部屋以外の場所でテレビを見たいとなったときに、見逃し配信のことを思い出し、そして TVer が使えると思い浮かぶでしょう。
たとえば、通勤や移動の電車の中、職場や学校の休み時間、カフェにいるとき、朝の支度をしながら、キッチンでの料理中、自室でゆっくりとしたい時など、視聴者の生活状況に合わせてテレビ番組を見たいときに TVer が連想されるわけです。
TVer は時間や場所の制約を超えた視聴機会を提供することで、このような文脈におけるテレビ番組視聴の選択肢としての地位を確立しています。
ブランドから文脈
逆の 「ブランド → 文脈」 の連想では、TVer というブランドを目にすることで、視聴者がテレビ番組を観るさまざまな利用シーンを想起します。視聴シーンにおいて TVer を利用することを考えるようになるでしょう。
TVer のロゴや広告、SNS で TVer の話題を見聞きした際に、あとで帰宅後に自分も家でリラックスしながら番組を観たり、移動中にそのまま TVer を使ってスマートフォンで観るなど、多様な視聴環境が連想されるわけです。
独自ブランド資産の構築
ブランド連想の2つの方向をともに満たすことで、TVer はこれまでのテレビ放送やテレビ視聴の延長ではなく、新たな視聴体験を提供し、生活者に価値をもたらすブランドになります。
視聴者にとっての、さまざまなシーンで TVer で視聴するという選択肢が頭に浮かびやすくなることで、TVer を使う人が増え、それだけ視聴回数が多くなり、メディアとして広告媒体の魅力も高まります。
ブランド連想を通じて視聴者は TVer に対してはポジティブなイメージを記憶し、それが強固な独自のブランド資産をつくる土壌となるのです。ブランド (TVer) と視聴者との関係性が深まることで、TVer の存在価値が高まるでしょう。
まとめ
今回はテレビ番組の見逃し配信サービスの TVer を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 人の記憶ネットワークの中に、ブランドにひもづく認識・印象・解釈・体験したことの連想イメージが強化されると、「独自ブランド資産」 が頭の中でできあがっていく
- 独自ブランド資産に一貫性があれば 「ブランド連想」 は強化され、お客さんはブランドを容易に思い出すことができる
- ブランド連想には二方向がある。1つは、文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド) 。あるシチュエーションという特定の顧客文脈でブランドが想起され、ほしい・使いたいと思う
- もう1つのブランド連想は、ブランドから文脈の連想 (ブランド → 文脈) 。ブランドのロゴや広告、SNS の話題から、利用シーンという文脈が思い出される。ブランドを見たり聞くことで、シチュエーションが思い浮かび、そのシーンになりたいという気持ちになる
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