投稿日 2024/07/21

ミズノのテストマーケティング。画期的アイデアのジレンマを解決し、PMF を実現する方法

#マーケティング #テストマーケティング #PMF

新しい製品を市場に投入する際、「この製品は本当に売れるのだろうか?」 という疑問は、多くの企業が直面する課題です。

特に予算や時間が限られている中で、高いリスクを背負ってまで新製品を発売する決断は簡単ではありません。

そこで、効果的な解決策の1つとして取り上げたいのが、スモールスタートでのアプローチです。ミズノの事例を通じて、最小限のリソースで市場性を検証する 「テストマーケティング」 の重要性と方法について探ります。

その秘訣を、ぜひ一緒に解き明かしていきましょう。

ミズノの課題と挑戦


ミズノ社内では、前例のない製品アイデアが数多く生まれてはいたものの、その多くが商品化の難しさに直面し、実現されないことが一般的でした (参考記事) 。

画期的なアイデアが日の目を見ない

開発メンバーの新規性あふれるアイデアを知ってワクワクしても、そのような製品はお蔵入りしやすい状況が起こっていました。

もし挑戦的な製品だった場合、既存事業を促進させる製品であれば、比較的に社内稟議が通りやすいですが、新たな顧客層の開拓や、まだ世に存在していない製品を出す経営判断をする場合は、難易度がぐっと上がります。

新しいアイデアや製品が市場で受け入れられるか、またそれがビジネスとして利益を得られるのかという不確実性がつきまとうからです。ミズノでは、新規事業や製品の成功が保証されない中、リスクを避ける傾向があったとのことです。

テストマーケティングへの挑戦



この状況を打破しようと、ミズノは新しい試みとして応援購入サービスの 「Makuake (マクアケ) 」 を使ったテストマーケティングに挑戦しました。

具体的には 「THE MIZUNO ENERZY ULTRA LIGHT (ザ ミズノ エナジー ウルトラライト) 」 という、ミズノの高反発ソール素材 「ミズノエナジー」 を搭載した新シリーズのシューズを、2022年7月にマクアケで受注販売を開始しました。

このシューズの特徴は靴紐がなく、日常生活での使用を目的とし、その特徴的な柔らかさによって、歩行をより軽快に感じさせることができるという点でした。

マクアケでの反響と結果

マクアケでのテストマーケティングの検証ポイントは、大きく3つでした。

✓ テストマーケティングの検証の論点
  • 独自性があるか
  • 価値があるか
  • 必然性があるか


フタを開けてみれば、マクアケでの反応はミズノの期待を大きく上回り、想定以上の早さでの売れ行きを見せました。

マクアケの購入ページに付くコメントでは、「ミズノを買うのは初めて」 というものもありました。

ミズノにとって学びになったのは、想定とは違う使い方をするユーザーも多かったことです。特に予想外だったのは、金額についてのお客さんからの反応で、ミズノは値段が高いのではと心配していましたが、むしろ 「安い」 という声が届きました。

テストマーケティングを経ての社内の変化

テストマーケティングというステップを踏むことで、ミズノの社内には変化が起こりました。

これまでミズノ社内では、今回のテストマーケティングをした製品である、靴ひもすらないような常識を打ち破るシューズは、既存顧客から需要がないと考えられていたそうです。社内からは、発売する前まで 「本当に売れるのか」 という不安の声も上がっていたとのことです。

しかしマクアケでの既存顧客や新規顧客からの高い評価は、社内でも驚きを持って受け止められました。

マクアケを使うことにより、ミズノは新製品に対する市場の反応を直接確認できるテストマーケティングの意義を見出し、既存顧客だけではなく新しい顧客層からの興味や、予想外の使用方法が提案されるなど、貴重なフィードバックが得られました。

テストマーケティングからの拡大

マクアケでの成功を受け、ミズノは念願だった 「THE MIZUNO ENERZY ULTRA LIGHT」 の一般発売に踏み出すことになりました。

商品コンセプトや訴求点を 変えることなく、まずは自社の EC サイトで会員向けに先行発売しました。

予定していた半年間での販売計画が、発売後のわずか2 ~ 3週間で売り切れるという結果に終わり、一般発売前に在庫が切れてしまったほどのヒットでした (参考記事) 。

新製品の市場検証と顧客理解の深化


ではミズノの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

新製品の市場導入における課題

既存の販売ルートや販売チャネルに乗せて売るためにはハードルが高いのも事実です。生産量の確保、流通や販売店との協力などやることは多岐にわたり、それぞれの関係者・関係各社との調整も必要になるからです。

このようなコールドスタート問題、いわゆる "卵と鶏のジレンマ" が新製品の立ち上げには存在します。

スモールスタートによる市場検証

こうした状況では、今回のミズノの事例が参考になります。

ミズノは、ユニークな製品に対して、本当に売れるのかへの答えの確度を高めるために、「小さく始める」 というスモールスタートで検証しました。

具体的にはミズノはクラウドファンディングサービスのマクアケを利用することによって、予算を多くかけず、手間や時間をかけすぎることなく新製品の市場性があるかを見定めました。

応援購入サービスの利点

応援購入サービスを利用することのメリットは、製品の市場性があるかが把握できるだけにとどまりません。

どういう人たちがどのように評価をするのか得られるところに、売り手にとって価値があります。

魅力を持っているのは既存顧客なのか、それともこれまではいなかった新しいお客さんなのか。彼ら・彼女らは製品のどこに魅力を感じているのか。その金額で妥当か、あるいはもっと高くても買ってくれそうなのか。こうした顧客文脈と購入意向、その理由など心理面まで理解できるのです。

テストマーケティングによる PMF の検証

新製品発売前に顧客理解を深められ、市場性があると見極められれば、本格的な販売につなげていけます。

クラウドファンディングで Product Market Fit (PMF) という、自社製品が市場に受け入れられるか、必要な製品だと思ってもらえるかを定量と定性の両面から検証できます。ここにテストマーケティングをやる意味合いがあります。

まとめ


今回はミズノの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 新製品の市場性への検証は、最小限のリソースを使いリスクをかけないスモールスタートの方法が効果的。たとえばミズノのようにクラウドファンディングや応援購入サービスを活用するのも手

  • 応援購入サービスは、製品の市場性を把握するだけでなく、お客さんことを探り、誰がどういった文脈や心理で購入意向を示してくれるを理解できる。どの顧客層が、製品に何を期待しているか、さらには価格設定に対する反応まで得ることが可能

  • テストマーケティングにより、製品が市場に受け入れられ必要とされるかを定量的、定性的に把握し、 Product Market Fit (PMF) を検証することが大事。PMF ができていると判断できれば、本格的な販売へと拡大する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。