ビジネスをさらに進化させるために、既存の事業資産を活かし、新たな価値をつくるかは、多くの企業にとって共通する課題です。
そこで今回は、あるスキマバイトアプリの挑戦的な取り組み事例から、各サービスや事業を 「点」 としてバラバラにしておくのではなく、「線」 につなげることでの Win-Win の価値創出の方法を紐解きます。
スキマバイト求人情報アプリ 「シェアフル」
パーソルホールディングス傘下のシェアフル社は、スキマバイトアプリ 「シェアフル」 を提供しています。
シェアフルのアプリダウンロード数は累計555万ダウンロードを超え (2024年4月時点) 、最大手のタイミーに続き業界で2番手につけています。
シェアフルの求人例 (出典: 日経クロストレンド)
そんなシェアフルですが、2024年4月に人材派遣事業を展開する 「パーソルテンプスタッフ」 の全国拠点とシェアフルが連携することを発表しました (参考記事) 。
スキマバイトと人材派遣の連携
パーソルテンプスタッフは全国で人材派遣事業を運営しています。
スキマバイトの 「シェアフル」 と、人材派遣の 「パーソルテンプスタッフ」 がつながることで、全国一括対応や地域に根差す地元企業への対応などがしやすくなるとのことです。
他には、相互連携によってキャリアのステップアップの道をつくることも可能になります。たとえば、スキマバイトでのスポットワーカーから派遣社員、正社員への登用の流れをつくることを目指しています。
採用のミスマッチを防ぐ効果
スポットワーカーとは、面接や履歴書なしですぐに応募でき、好きなときに好きな場所で働けるのが特徴です。採用する企業側も数時間単位で募集をかけられるので、急な欠員補充などに対応できます。
一方の事務系の派遣求人は、即戦力になれる文書作成や会計ソフトなどの使用経験が求められるため、事務職未経験だと、履歴書の時点で選考からはじかれることもあります。
スキマバイトと人材派遣が連携することで、スキマバイトからの応募で、まずは単発で簡単な事務業務を学びながら経験を積み、ある程度スキルが身についたら、派遣社員や正社員を目指すといったスキルアップができる可能性が開けます。
企業側にとっては、履歴書では測りきれないような、たとえば業務をこなす上で大切な真面目さやコミュニケーション能力など人柄の部分を、単日からスキマバイトとしてお試し勤務をしてもらうことで把握できます。
このように、求職者も企業側も相互にミスマッチを減らすことが期待できます。
点と点を有機的につなげ 「線」 にする
汎用化してとらえれば、シェアフルとパーソルテンプスタッフの連携は、既存事業の資産を活かした新しいサービス展開になっています。2つの異なるサービスが有機的に結びつくことで、相乗効果が生まれます。
スキマバイトサービス単体ではなく、派遣社員や契約社員、正社員になるパスを用意することによって、サービスが dot という点でなく、点と点が線でつながるわけです。
これができるのはパーソルグループ全体で見たときに、人材派遣事業を展開するパーソルテンプスタッフとスキマバイトのシェアフルの両方を持っているからこそです。
就業者と顧客は表裏一体
シェアフルでもう1つおもしろいと思うのは、お店への 「働き手」 とお店の 「お客さん」 を結びつけようとしているところです。
具体的には、今後開始を予定しているの 「シェアフル クーポン (仮称) 」 です。
シェアフル クーポン
シェアフルのアプリ利用者向けに、就業と関係するクーポンを送るというものです。
「シェアフル クーポン」 では、就業前に店内の様子を見てもらうための割引クーポンや、単発で就業した後にそのお店の割引クーポンがもらえるといった内容を想定しています。
クーポンにより効果的に来店を誘え、採用側の飲食店などのお店にとっては集客と売上にもつながります。
職場を 「お客さん」 として利用する狙い
働く側にとってはシェアフル クーポンを利用することで、職場を事前に知れたりなど、はじめの一歩へのハードルを下げてくれます。
誰しも初めての現場へ働きに行くのは緊張するものです。職場が飲食店だった場合、先にお客さんとしてお店を訪れ、雰囲気を確かめてから応募するのも1つの手です。
反対に、時間と場所が合致したため単発で仕事に入った飲食店の雰囲気が良かった、まかないがおいしかったなどの理由から、今度はお客さんとして利用することもあるでしょう。
スキマバイトを通じて一度でも勤務した飲食店やサービス店が気に入れば、そのお店の常連客になることも期待できます。
お店は単にスキマバイトという労働力を確保するだけでなく、新たなお客さんを獲得する機会も得られるわけです。このように働き手と店舗の両者にとって恩恵をもたらし、さらにはその地域での雇用や経済の活性化にも寄与する可能性を秘めています。
捉え方として、「就業者と顧客は表裏一体」 というのがおもしろいです。
価値創出のプラットフォーム
シェアフルの取り組みから学べるのは、一見異なる市場やサービス間でのクロスオーバーによって、新しい顧客体験や顧客価値を生み出せることにあります。
そして一方的な送客ではなく、相互作用の起こるビジネスモデルに発展させることが重要です。
シェアフルが実現しようとしている、顧客としての経験が働き手としての経験につながり、それが再び顧客体験を深めるという好循環が期待できます。
ビジネスは商取引の場にとどまらず、人々の生活や地域社会に根差した価値を提供するプラットフォームとしての役割を果たすことが求められます。その点で 「シェアフル」 は示唆に富む事例と言えるでしょう。
まとめ
今回は、スキマバイト求人募集サービスの 「シェアフル」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
✓ 点と点をにつなげ 「線」 にする
- シェアフルとパーソルテンプスタッフの連携は、既存事業資産を活かした新しいサービス展開
- 連携によりスキマバイトだけでなく、派遣社員や契約社員、正社員へのキャリアパスが提供される
- 点から線へと連続したサービスとすることで、求職者 (ユーザー) にとっても企業にとっても価値になる
✓ 就業者と顧客は表裏一体
- 新しいクーポン制度 「シェアフル クーポン」 により、就業前に店内を体験する割引を提供したり、就業経験が顧客へとつながる効果を目指す
- 職場の雰囲気を事前に知ることができるため、ユーザーは就職への最初のハードルを下げられる。企業にとっては求職者と新たな顧客獲得という二重の恩恵をもたらす
✓ 価値創出のプラットフォーム
- シェアフルは、異なる市場やサービス間の相互連携により新たな顧客体験や顧客価値を創出するプラットフォームとなり得る
- 顧客としての経験が働き手としての経験に連動し、それが再び顧客体験を深める好循環を創出する
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