新規顧客の獲得は、ビジネスで常に課題になるものです。
そこで今回はチョコレート菓子 「アポロ」 の事例を取り上げ、お客さんの本当のニーズを理解し、新たな顧客層を開拓するための秘訣を紐解きます。ぜひ一緒に学んでいきましょう。
明治のチョコレート菓子 「アポロ」
出典: 明治
明治の 「アポロ」 は、1969年に発売された人気のチョコレート菓子です。発売から今年2024年で55周年を迎えます。
イチゴがドット模様になったパッケージや、茶色とピンク色が組み合わさった三角錐のデザインが特徴です。
アポロ開発のストーリー
ちなみにアポロという名前は、1969年に月面着陸をした宇宙船アポロ11号からではなく、ギリシャ神話の太陽神アポロンから名付けられました (公式サイト) 。商標登録をしたのは1966年でしたが、しかしこの時は商標登録をしたのみで、具体的な商品の構想はまだなかったとのことです (参考記事) 。
その後、アメリカの NASA から月面着陸計画が発表され、宇宙船の名前が偶然にもアポロだったことから、明治は1968年の春に商品開発をスタートしました。当時の社内では NASA の月面着陸計画にあやかり、”明治のアポロ計画” と呼ばれていたそうです。NASA の月面着陸に間に合わせるため、開発自体は急ピッチで行われました。
そして、形が宇宙船アポロ11号からイメージして作られた明治のチョコレート菓子 「アポロ」 は、1969年7月20日に宇宙船アボロ11号が人類初の月面着陸に成功した同じ年の1969年に発売されたのです。
1969年の新発売当時のアポロ (出典: ITmedia)
アポロの課題感
発売から55周年を迎え、ロングセラー商品となっているアポロですが、ビジネス課題がありました。
子どもの頃にはアポロを食べていたけれど、大人になるにつれて段々食べなくなるという状況が続いていました。ブランドが成長するためには、一度離れてしまった大人を呼び戻すという 「離反顧客の復帰」 が必要だったわけです。
アポロマイスタイルの開発
出典: PR TIMES
離れてしまった大人にお客さんとして再び戻ってきてもらうために発売されたのが、2020年に発売した 「アポロマイスタイル」 でした。
アポロマイスタイルの商品開発時に力を入れたのが、どういう商品にすればお客さんの日常生活に入り込めるかでした (参考記事) 。
大人向けの工夫と発売結果
そこで明治は大人の日常生活を調査し、従来のアポロとは違う特徴を持たせました。
アポロマイスタイルは、アポロのような箱ではなくパウチパッケージに入っています。見た目はアポロとほぼ同じですが、サイズがやや大きめです。
アポロマイスタイルの味は、子ども向けのお菓子という印象から脱するために、通常のアポロに比べて砂糖を 25% カットし甘さを控えめにしています。一方でイチゴクリームはアポロより濃厚なものにし、大人向けの味わいに仕上げられました。
大人向けに食べやすさも工夫されています。仕事中に食べることを想定し、手でつまみやすく、かつ一口で食べたときの満足感を出すため、少し大きめのサイズです。また、つまんだときにチョコレートが手につきにくいよう、特別なコーティングを施しています。パッケージは、持ち運びやすさを考慮し、中身が出づらいチャック付きのパウチパッケージが採用されました。
アポロマイスタイルは、発売後に生産能力が追い付かず、一時品薄になることもありました。主な購買層は20 ~ 30代の女性で、想定顧客として設定していた層から支持を獲得でき、かつて子どものときには食べていたであろう 「大人の離反顧客」 に戻ってきてもらうという狙い通りの結果となりました。
学べること
それでは明治のチョコレート菓子の 「アポロ」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
アポロの事例は子どものころに食べてくれていた "離反顧客" の獲得でしたが、もう少し広く捉え新たにお客さんを獲得すると捉えれば、既存のお客さんとは違う層にお客さんになってもらうにはどんな考え方や方法をとればいいかに示唆があります。
新しい顧客文脈を捉える
今までと違うお客さんを獲得するためには、それまでやってきた従来と異なるアプローチが必要になります。
異なるアプローチとは、新しくお客さんになってもらいたい人たちの 「顧客文脈」 に沿った商品展開や価値訴求を指します。
お客さんの置かれた状況や環境において、どんなニーズがあるのか、その奥にある本当の望み、なかば諦めている不満、何に価値を見出すかの価値観まで、お客さんのことを広く深く理解します。
こうした顧客理解にもとづいての 「顧客文脈」 を解像度高く捉えることが大事です。
大人に向けたアポロマイスタイルの特徴
ここでアポロに話をつなげると、明治のアポロマイスタイルでは、子どもではなく大人 (かつて食べていた大人) をお客さんとするために、次のような変更や工夫を入れました。
- 通常のアポロに比べて砂糖を 25% カットし甘さを控えめに
- イチゴクリームはアポロより濃厚なものにし、大人向けの味わいにした
- 一口で食べたときの満足感を出すため、少し大きめのサイズに
- 仕事中に食べることを想定し手でつまみやすく、つまんだときにチョコレートが手につきにくいように特別なコーティングを施す
- パッケージは持ち運びやすさを考慮し、中身が出づらいチャック付きのパウチパッケージを採用
定番商品の継続的な活性化
アポロからの事例からは、ロングセラーや定番商品における商品の活性化の重要性も見えてきます。
継続的に既存商品のテコ入れを行い、連動するコミュニケーションをはかることによって、新規のお客さんの獲得を狙います。ビジネスを成長させるためには、新しいお客さんを常に獲得していくことが大事です。
新規顧客獲得には、顧客文脈がこれまでのお客さんとは違うことを前提に、あらためてお客さんのことを理解することから始め、利用シチュエーションやニーズに合わせた価値定義、商品開発、コンセプトの言語化、価格設定、価値提案と連動して進めていくことがビジネスでの成功のカギを握ります。
まとめ
今回は明治のチョコレート菓子 「アポロ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新しい顧客獲得には、既存のお客さんに対して行っていた従来のやり方とは異なるアプローチが必要になる
- お客さんへの深い理解、具体的にはお客さんの置かれた状況や環境、顧客ニーズ、奥にある本当の望み、なかば諦めている不満、何に価値を見出すかの価値観までをお客さんのことを広く深く理解する
- 顧客理解にもとづき顧客文脈を新たに捉え直し、商品の価値定義、商品開発、コンセプトの言語化、価格設定、価値提案と連動させて進めていく
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