投稿日 2024/07/27

母の息子への思いから開発された WILLCOOK HO-ON 。実感のある身近な人の困りごとから

#マーケティング #顧客起点 #困りごと

日常で見過ごしている、人の 「困りごと」 に気づいているでしょうか?

今回は、身近な人のペインポイント (困りごと) に始まり、ユーザー中心の設計で形づくられたユニークなバッグを取り上げます。

持ち歩ける電子レンジバッグの 「WILLCOOK HO-ON (ウィルクック ホオン) 」 の開発プロセスを紐解き、商品開発やマーケティングにおいて学べる教訓を掘り下げていきます。

WILLCOOK HO-ON がどのようにしてユーザーの生活に寄り添う存在となったのか、その舞台裏の秘密を一緒に学んでいきましょう。

電子レンジバッグ 「WILLCOOK HO-ON」 


出典: WILLCOOK

WILLTEX 社は、持ち運びが可能な電子レンジバッグ 「WILLCOOK HO-ON (ウィルクック ホオン) 」 を開発しました。

アメリカで毎年開催される CES (コンシューマー・エレクトロニクス・ショー) で、今年の CES2024 でなんと 「イノベーション・アワード大賞」 を受賞しました (参考記事) 。

WILLCOOK HO-ON の特徴

このバッグは布そのものが発熱することで、冷えてしまった食品をバッグに入れておくだけでレンジのように温め直すことができます。

その秘密は布自体が発熱する点にあります。

電熱線を使用する代わりに、導電繊維を利用して布全体を均一に加熱する技術が採用されています。この技術は、おにぎり、レトルト食品、お弁当、肉まんなど、様々な食品を自然な温かさで均等に温めることができるという優れものです。

バッグとスマートフォンアプリ 「Hotopia (ホットピア) Standard」 が連携しており、アプリの温度調整機能を使えば、ユーザーは自分の好みに合わせて温度設定を行うこともできます。

開発のきっかけ

WILLCOOK HO-ON の開発のきっかけは、WILLTEX の CTO である上田彩花さんが、ご自身の息子のある姿を見たことからでした。

当時、中学生で野球をやっていた息子さんが寒い中で冷たいお弁当を食べている様子を見て、なんとかできないかと考えたことが WILLCOOK HO-ON の開発につながりました。パーソナルな課題から着想を得て、移動式の発熱機能を持つ布を考案し、その実現に向けて研究を開始しました。

開発プロセス

開発では上田さんが以前勤務していた電子回路の基盤を製造する会社での経験が活かされました。

布に導電性のペーストを塗り、電極をプリントする実験を重ねた結果、布が発熱する技術 「HOTOPIA (ホットピア) 」 にたどり着きました。この技術を作り出した三機コンシスという会社との出会いによってさらに発展しました。

その後、HOTOPIA の技術を応用し、持ち運び可能な電子レンジバッグ 「WILLCOOK HO-ON」 の開発に至りました。

開発プロセスでは、機能性と安全性を考慮しながら、生活に寄り添った製品を目指しました。断熱材の選定や熱の伝わり方、バッグの形状に至るまで、様々な試行錯誤を重ねた結果、現在の製品 「 WILLCOOK HO-ON」 が完成しました。

学べること


では電子レンジバッグ 「WILLCOOK HO-ON」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

WILLCOOK HO-ON の成功は、単に技術的な革新にとどまらず、具体的なユーザーの困りごと (ペインポイント) に根差した開発プロセスにあります。

身近な人の 「困りごと」 から

WILLCOOK HO-ON の開発は、冷たいお弁当を食べる自分の子どもの姿からスタートしました。

身近な人のペインポイントという 「困りごと」 に気づき、問題への理解と共感が、製品開発の原動力となり、ユーザー中心での開発アプローチにつながりました。

このアプローチの第一歩は、問題認識です。

開発チームは、日常生活で遭遇する具体的な問題に着目し、それを解決するための製品となることを目指しました。

次に、ユーザーニーズの深掘りと洞察の段階へと進みます。開発では、外出先でも食品を温められる機能性を持つ 「持ち運べる電子レンジ」 というコンセプトに到達しました。

プロトタイプとフィードバック

コンセプトが決まり、想定するユーザーへのインタビューや調査を行い、ユーザーが本当に必要としている機能や、利便性などの使い心地を検証していきます。

開発プロセスにおいて、製品のプロトタイプをユーザーに試してもらい、その反応をもとに改善を繰り返しました。ユーザーからのフィードバックを得て製品開発に活かし、次のプロトタイプで検証を繰り返すことで、ユーザーの実体験にもとづく製品改善を続けました。

ユーザー起点の開発

ユーザー中心の思想や設計は、WILLCOOK HO-ON の細部にも反映されています。

たとえば、バッグがどのような場面で使われるか、どのような物を入れることが多いのかという点から、バッグのサイズや形状、保温性能や安全性に至るまで、ユーザーの利用シーンを想定して設計されました。

WILLCOOK HO-ON の成功は、身近な大切な人の困りごとから始まり、開発では一貫してユーザー体験を重視した結果です。

このアプローチにより、WILLCOOK HO-ON は単なる便利なツールを超えて、ユーザーの生活に寄り添うパートナーのようなバッグになることでしょう。

まとめ


今回は、持ち歩ける電子レンジバッグ 「WILLCOOK HO-ON」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • WILLCOOK HO-ON は身近な人の具体的なペインポイントから始まった。中学生の息子が冷たいお弁当を食べる姿を見てなんとかしたいという思いから。ユーザー起点のアプローチは、問題認識からユーザーニーズの深掘りに至るまで一貫してブレなかった

  • 開発プロセスでは、想定ユーザーへのインタビューや調査を通じて、ユーザーが実際に必要とする機能や使い心地を検証。製品プロトタイプでのテスト実施とフィードバックの収集により、製品がユーザーにとって本当に価値のあるものへと進化させた

  • ユーザー起点の思想や設計は WILLCOOK HO-ON の細部にまで反映されている。バッグが使用される場面や収納される物を考慮し、サイズや形状、保温性能や安全性をユーザーの利用シーンに合わせて作られた。徹底したユーザー中心思考で、WILLCOOK HO-ON をユーザーの生活に寄り添う存在になることを目指す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。