投稿日 2024/07/12

エビスビアタウンに学ぶ、ファンマーケティングとコミュニティマーケティング。既存顧客と新規顧客の両方に活用

#マーケティング #コミュニティ #既存顧客と新規顧客の両方

自社のビジネスはお客さんとの結びつきを深め、それと同時に新しいお客さんを増やし、継続的な成長を遂げているでしょうか?

今回は、サッポロビールのエビスが展開する 「エビスビアタウン」 の事例を取り上げます。

ファンマーケティングとコミュニティの力を活かし、既存顧客との関係を強め、新規顧客の獲得にもつなげる秘訣を、ぜひ一緒に紐解いていきましょう。

エビスビアタウン


出典: PR TIMES

サッポロビールのビールブランド 「YEBISU (エビス) 」 は、2022年よりファンコミュニティ 「エビスビアタウン」 の運営を開始しました。

エビスビアタウンは会員登録をすれば “住民” になれます。

日常でビールを楽しむ様子を投稿して住民同士で交流をしたり、エビスブランド担当者から商品開発の裏側を聞ける、一緒にグッズ開発をできるというコミュニティです。会員登録者数は2024年2月末で約12万人に達しました (参考記事) 。

運営の狙い


エビスビアタウンというコミュニティ運営の目的は、エビス好きな人たちに情緒的価値をもたらすことにあります。

コミュニティ参加者とブランドのつながりを強化するとともに、ロイヤルティ (心理的な愛着度合い) の高いファンの顧客情報をヒントに、ライトやミドルユーザー向けの施策にも活用することを狙ってます。

住民の声の活用


エビスビアタウンでは住民の声を収集し、3つの主要な場面で活用されています。

  • コミュニティ内の企画や運営
  • コミュニティ外の施策
  • 住民のロイヤルティ変化の可視化

順番に見ていきましょう。

コミュニティ内の企画や運営


エビスビアタウンでは、特に積極的に参加する住民から選出された約20人の 「実行委員」 を通じてファンの声を集めています。

エビスビールのブランド担当者と月1回程度、定期的にコミュニティ運営についてミーティングを開催します。ミーティングで出た意見は速やかにコミュニティの運営に反映されるので、「意見を言うと実現する」 という感覚を住民に持ってもらえ、これによりコミュニティでのさらなる投稿や意見の発信を促します。

住民の意見を反映した企画で代表的なのがグッズ開発です。

2023年に 「エビスものづくりプロジェクト」 の第1弾として、「エビスと、東京の工芸。」 を実施しました。東京・渋谷区恵比寿近辺の工芸品職人とコラボレーションして、グラスやコースターなどお酒に関わるグッズの開発です。商品サンプルをつくり、エビスビアタウンの住民に人気投票をしてもらい、上位のグッズを実際に商品化しました。

他にも、住民の投稿の中で他の住民から人気を集めたものをエビスビアタウンのトップページに掲載したりしています。

コミュニティ外の施策


エビスビアタウンで集めた住民の声は、コミュニティの外での施策にも活用されています。エビスへのファン度合いや愛着がまだそこまで高くないライトやミドルユーザーをターゲットにした取り組みにも活用されています。

エビスビアタウンの住民の声をひもとくと、 住民の多くがエビスを好きになった原体験を持っているそうです。たとえば 「20歳の誕生日に両親とエビスを飲んだ」 「友人との楽しい飲み会でエビスを飲んだ」 といったエピソードです。

こうした原体験を参考に着想を得た企画を実施し、ライト・ミドルユーザーにも提供することで、ファンになってもらうことにつなげたい考えです。

例を挙げると、エビスのアンテナショップ 「YEBISU BAR」 の全国展開や、エビスの醸造過程や歴史を体験できる施設 「YEBISU BREWERY TOKYO (エビス ブルワリー トウキョウ) 」 の開設など、 体験する場の提供にエビスビアタウンを活かしています。

住民のロイヤルティ変化の可視化


エビスビアタウンでは、住民のロイヤルティの変化を細かく追跡し、それを可視化することで、ロイヤルティ向上に必要な施策を見極めています。

どういった内容を調査しているかというと、まずエビスビアタウンの新規ユーザーは、住民登録時にエビスへのファンレベルを問う設問に回答します。

続けて、ログイン後の会員情報アンケートでは、エビスに対することだけでなく、ビールを飲むときの気持ちや理由、ビールの購入方法、購入銘柄の傾向、暮らし方への価値観など、多岐にわたる設問に答えます。

さらに、年に1回行う 「住民意識調査」 で、会員情報アンケートと同じ項目を訊くことで、項目ごとの回答の変化を記録しています。

併せて、その間に接触したコンテンツやプロモーションも聴取することで、ロイヤルティ向上を狙った施策の効果を評価しているとのことです。


コミュニティマーケティングへの学び


エビスビアタウンの事例は、ファンマーケティングやコミュニティマーケティングの運用に示唆があります。

エビスビアタウンでは住民であるお客さんの声を収集し、主に3つの場面で活用しているとのことでした。

  • コミュニティ内の企画や運営
  • コミュニティ外の施策
  • 住民のロイヤルティ変化の可視化

コミュニティー内の企画や運営への活用


1つ目のコミュニティの企画や運営とは、集まってくれたエビスビール好きな人や熱量の高いファンの人たちに、長くコミュニティにいてもらうためのヒントを住民の声から集めています。

エビスビールの既存顧客の中でも、エビスビアタウンに来てくれる人たちのエビスビール愛を高め、顧客ロイヤルティを向上させることを目指しています。

コミュニティ外の施策へのヒントに


エビスビアタウンのコミュニティを使った施策は、それだけにはとどまらないポテンシャルを秘めています。

収集した住民の声の使用目的の2つ目は、コミュニティの外への施策に活用することでした。

エビスビアタウンのコミュニティにはまだはいないライトユーザー、新しいエビスユーザーに対しての施策のヒントを、コミュニティから得ようというものです。

エビスビアタウンの住民の声に耳を傾け、活動にも目を向けることで、すでにエビスビールのファンになってくれている人たちが、なぜファンになったのかのきっかけが見えてきます。エビスビールの思い出、初めてエビスを知ったり飲んだときの原体験をリアルなストーリーとして知ることができます。

エビスビールとの出会いや記憶について、ファンの人たちが持つ共通心理や同じような体験パターンを見出せれば、それらと同じような体験ができる施策に転換します。エビスのほうからこれからファンになってくれるであろう人に向けた施策につなげるわけです。

たとえば、ビールが醸造される様子やエビスの歴史、ビールの味も体験できる施設 「エビス ブルワリー トウキョウ」 です。

施策の効果検証


コミュニティでのユーザーの声を、コミュニティの中と外への施策に活用しただけにとどまりません。

エビスビアタウンで収集したお客さんの情報は、住民のロイヤリティ変化の可視化にも活用されています。

施策が結局のところ成果があったかの評価と振り返りまでを、エビスビールがコミュニティを使って行っていることには注目に値します。

エビスタウンの会員登録をする初めの段階でアンケートを取り、ログイン後も詳細なアンケート、その後にも定期的に毎年1回の住民意識調査を実施するなど、住民のユーザーの人たちの経年変化を追い続けているのです。

これによってコミュニティの熱量や大切にされている価値観、ビールとの関わり、生活スタイルなどからユーザーのことを把握でき、かつ時間軸での変化も理解できます。

各種施策の実施に合わせて、施策対象者ごとに見れば、具体的にどういった取り組みから、どのような影響が生まれているのかを洞察することができるでしょう。

既存顧客と新規顧客の両方への貢献


エビスビアタウンでの施策と声の収集がセットになっていることで、コミュニティ内の既存顧客にはロイヤルティ向上、コミュニティからヒントを得た施策を展開しての新規顧客の獲得、それらの施策効果の可視化という 「三位一体の仕組み」 ができています。

既存顧客の満足度を高めつつ、新規顧客を常に獲得することで、継続的なコミュニティ活動となり、ひいてはブランドの持続的な成長にも貢献することでしょう。


まとめ


今回はエビスビールのファンコミュニティ 「エビスビアタウン」 から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • エビスビアタウンはファンとの情緒的な結びつきを深め、顧客 (住民) の声をコミュニティ内外での施策、ロイヤルティ変化の可視化に活用している

  • 顧客参加型の企画や運営は、エビスビールの愛好者の熱量を高める既存顧客に向けた活動になるだけではなく、新規顧客の獲得につながるヒントも得られる

  • ロイヤリティの経年変化だけではなく、実施した施策もかけ合わせることで施策の効果を把握。実行策はやりっぱなしでは終わらず、効果検証を行い PDCA をまわしている


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。