投稿日 2024/10/19

ジョブ理論で攻略!BtoB 展示会を成功させるためのマーケティング

#マーケティング #展示会 #ジョブ理論

BtoB ビジネスにおいて展示会は重要な機会ですが、最近は来場者の行動や目的が大きく変化しているのをご存知でしょうか?

展示会は製品やサービスを展示する場としてではなく、お客さんとの信頼関係を築き、ビジネスチャンスを創出するチャンスです。しかし、展示会への参加者数や成約率の低迷など、課題を抱えている企業も少なくないでしょう。

そこで今回は、BtoB 展示会の役割と位置づけについてあらためて考え、より効果的な展示会出展を実現するためのポイントを、マーケティングの 「ジョブ理論」 を使って解説します。

来場者の 「ジョブ」 を理解し、顧客文脈に寄り添った展示内容やブース設計にすることで、参加者の満足度を高め、ビジネスチャンスを最大化することができます。

BtoB での展示会の位置づけ


BtoBマーケティングにおいて、展示会は重要な顧客接点のひとつです。

展示会の位置づけや使い方は変化しており、展示企業はリード獲得の場としてだけでなく、顧客企業のキーパーソンが製品を 「見たことがある」 「知っている」 という状態にすることも重要となっています。

―― 先ほど言及された通り、BtoB マーケティングでは展示会も選択肢となります。

小笹 (カラフル代表の小笹文氏) ただし、企業にとって、展示会の位置づけが今までとは違ってきている側面もあるという認識が必要です。展示会に出展する目的はリード (見込み客) を獲得するためという企業も多いと思います。確かにそうした面もありますが、もう一つ重要な役割があります。それは、部長や本部長といった顧客企業のキーパーソンが、自社の製品を 「見たことがある」 「知っている」 という状態をつくることです。

というのも、決裁者がその製品を知っていると、窓口担当者が稟議を通すときに、承認が得やすくなることは容易に想像できるからです。実際、担当者が導入したい製品やサービスを見てもらうために、上司を連れていくというケースが多いことも、私が大学院在籍時に行った調査研究でも明らかになっています。

―― 従来、展示会は一回りして数多くの製品やサービスに触れてみる場でした。それが今では、担当者はインターネット上で既に情報を得ており、検討段階に絞り込んだ製品を上司に見てもらう場に変わってきている。

小笹 もちろんすべてではないですが、デジマが発展した結果、そういうケースも増えているわけです。そこで問題となるのが、主催者や出展側がそうした展示会の位置づけの変化に対応しきれていないこと。展示会のフォーマットは数十年以上変わっていません。いまだに女性のコンパニオンがブースに立って名刺集めをしている光景も目にします。

そうではなく、必要なのは、訪問した上司に会社や営業の雰囲気を気に入ってもらったり、信頼感を持ってもらったりすること。そのためには、説得力のある話ができる人を配置し、上役との商談にも対応できる場所を設けるなど、"上司訪問仕様" に展示スペースを作り変えることが不可欠です。


展示会はかつて多くの製品やサービスに初めて触れる場所でしたが、現在では担当者がインターネットで情報をあらかじめ得た上で、絞り込んだ製品を上司に見せる場になっているという指摘です。これは、決裁者が製品を知っていることで稟議が通りやすくなるためです。

しかし、この変化に主催者や出展する側が十分に対応していないと、出展者と来場者でミスマッチが起こります。

ジョブ理論で BtoB 展示会をとらえる

ではここからは、BtoB の展示会の話を 「ジョブ理論 (Jobs to Be Done) 」 に当てはめて考察してみます。

ジョブ理論とは

ジョブとは 「ある特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。

提唱したのはクリステンセンで、もともとの英語では "Jobs to Be Done (JTBD) " といいます。日本語に直訳すれば 「片付けたい用事」 や 「済ませたい仕事」 という意味です。

クリステンセンのジョブの定義を次のように表現しました。

    the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.

    ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。


ジョブにもう少し意訳を入れると、ジョブという進歩とは、人が置かれた状況において達成したい目的、解決したい問題、対処したい課題を指します。

ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをジョブを終わらせるために 「雇うもの」 ととらえることにあります。お客さん (雇用者) が商品を 「ワーカー (被雇用者) 」 として雇い、ワーカーに働いてもらうことでジョブが完了し、状況が進歩するという考え方です。

* * *

では、展示会をジョブの観点でとらえなおすために、次の3つで整理をしてみます。

  • 来場客 (部下と上司) の置かれた状況 (ジョブが発生している文脈や背景, コンテクスト) 
  • 来場者のジョブ (その状況において成し遂げたい進歩) 
  • そのジョブを片付けるために現在雇用しているものやソリューション

来場客の置かれた状況

来場者を現場担当者 (部下) と上司に分けると、それぞれの 「状況」 は次のようになります。

✓ 担当者 (部下) の状況
  • 業務として新しい製品やサービスを調査し、導入の可能性を検討中
  • 既にインターネットで情報収集を行っており、いくつかの候補製品をリストアップしている
  • 上司 (部門責任者や決裁者) と同行して展示会に参加している

✓ 上司の状況
  • 部門の運営や戦略などの意思決定に責任を持っている
  • 担当者がリストアップした製品やサービスの導入の可否の最終判断をする立場

来場者のジョブ

こうした状況での来場者のジョブを具体的に見てみましょう。

ジョブには 「機能的」 「感情的」 「社会的」 な側面があるので、3つに分けて整理してみます。感情的ジョブは 「どう感じるか」 、社会的ジョブは 「どう見られるか」 でとらえます。

担当者のジョブ


✓ 機能的ジョブ
  • 製品のデモや具体的な使用例を見てもらう、上司に製品導入のメリット、価値や有用性を実感してほしい
  • 同行する一緒にいる上司から、その場で検討製品に関するフィードバックを得たい
  • 製品やサービスの詳細な情報を収集し、ネットでは出てこなかった社内承認に活用できる資料を入手し、デモでの実際の使い勝手を知りたい

✓ 感情的ジョブ
  • 製品やサービスの品質や信頼性を実際に確認し安心感を得たい
  • 自分が選定した製品が適切であるという自信や確信を持ちたい
  • 製品導入後のサポート体制についても確実にしておきたい

✓ 社会的ジョブ
  • 出展企業とのコネクションや信頼関係を築きたい
  • 業界イベントに参加することで、社外の関係者に対して自社のプレゼンスや業界に対するコミットメントを示したい
  • 自分が業界や製品の最新情報に精通していることを示し、社内外での専門家としての自分の印象や評価を高めたい
  • 展示会を通じて得た情報を社内に共有し、チーム全体の知見を深めたい

上司のジョブ

一方の上司のジョブ (成し遂げたい進歩) は、どうなるでしょうか?

✓ 機能的ジョブ
  • 部下が推奨する製品候補について、自分の目で確かめて実際の性能や品質、コスト、導入プロセスなど詳しく確認したい
  • 限られた時間内で効率的に情報を収集をしたい
  • しばらく現場から遠のいていたので、最新の業界動向をキャッチアップしたい

✓ 感情的ジョブ
  • 展示会に参加してしっかりと情報収集をしたという満足感を得たい
  • 選定した製品やサービスが自社のニーズに適合し、信頼できるものであることに安心感を持っておきたい
  • 業界のトレンドを知るなど知的好奇心を満たしたい

✓ 社会的ジョブ
  • チームや部下に対して、適切な意思決定を行うリーダーとしての信頼感を得たい
  • 業界イベントでのネットワーキングを通じて、他企業や業界関係者との関係を強化し、社外にも自分の存在感を高めたい
  • 展示会で得た最新情報を社内で共有することで、社内での影響力を高めたい

ジョブを片付けるために現在雇用しているワーカー

ここまで、ジョブ理論で押さえたい3つのポイントのうち、「状況」 と 「ジョブ」 の整理でした。

3つ目のポイントは、今現在で雇っているワーカーは何かです。もし他社のものを雇うのであれば、自分たちとワーカーの座を競う競争相手になります。

たとえば担当者は製品候補の情報を集めるためには、展示会以外に次のようなワーカー (展示会参加以外のジュブを解決する手段) を雇うことになるでしょう。

✓ 担当者のワーカー
  • 製品サイトからホワイトペーパーやカタログ資料のダウンロード
  • 紹介動画やウェビナーなどの視聴
  • 業界コミュニティでの情報収集
  • 販売代理店の担当者からの情報収集


一方の上司については、担当者ほど製品情報の収集やリサーチには時間をかけられないのが現状でしょう。

ジョブ理論で上司のこの状態を表現するなら、ジョブを済ませるために何も雇っていないということです。こうした状況をジョブ理論では 「無消費」 と表現します。何も雇っていない、すなわち消費していないというわけです。

来場者のジョブに合わせた展示会への出展を


今回の冒頭で見たように、BtoB マーケティングにおける展示会の役割が変化する中、出展企業は参加者である担当者とその上司のそれぞれの 「ジョブ (成し遂げたい進歩) 」 を十分にくみ取ることが大事です。

従来のただ製品を展示するだけのスタイルからは脱却し、来場するお客さんのジョブに合わせ、担当者が上司を同行するという 「上司訪問仕様」 のブース出展へと転換することが求められます。

置かれた状況とジョブを理解し、今雇っているワーカーでは解決していないジョブをやり遂げることを目指します。

たとえば、説得力のある製品担当を配置し、デモもできる十分なスペースを確保、社内稟議にそのまま使えるような製品資料の用意、上役の方ともその場で商談できるテープルを奥に設けるなど、来場者のジョブをプログレス (進歩) させる対応が展示会出展の成功のカギをにぎります。

まとめ


今回は BtoB 展示会の出展を成功させる方法を、ジョブ理論から考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 従来の展示会は現場担当者が製品を見てまわるための機会だったが、最近では担当者が決裁権限のある上司と共に来場し、絞り込んだ製品を上司に見せる場になっている。上司に製品を知ってもらうことで、提案や承認をスムーズに通しやすくするため

  • この変化に主催者や出展企業が適切に対応できていないと、来場者ニーズと出展コンテンツのミスマッチが生じる

  • そこで、担当者と上司それぞれの 「置かれた状況」 と 「ジョブ (特定の状況で遂げたい進歩) 」 を理解し、従来の製品展示スタイルから脱却し 「上司訪問仕様」 のブース出展へ転換する必要がある

  • 具体的には、説得力のある製品担当者を配置し、デモもできる十分なスペースを確保、社内稟議にそのまま使えるような製品資料の用意、上役となる上司も交えてその場で商談できるテープルを奥に設けるなど


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。