マーケティングの本に書かれた理論やフレームワークを実践しているのに、なかなか成果が出ないと感じたことはありませんか?
「ターゲットを絞り込めば売れる」 「とにかく認知度を上げればいい」 。
そんなふうに信じていたのに、実際は思うように結果につながらないーー。そんな悩みを多くの人が抱えているのではないでしょうか?
教科書通りのマーケティング手法が必ずしも成功しない理由はどこにあるのでしょうか?
今回は 「なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか - 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論 (北村陽一郎) 」 という本を取り上げます。
マーケティングの理論や型などの 「定跡」 を学びながらも、現場での応用力と柔軟性の大切さ、そして、実務でのマーケティングに役立つヒントをお届けします。
本書の概要
こちらの本は、良い意味で 「マーケティングは万能ではない」 ということを教えてくれます。
タイトルは 「なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか」 ですが、理論やフレームワークなどの原則と思えることも、マーケティングの実務においては必ずしも想定どおりに機能しないことが実際にあります。
この本には、マーケティングの考え方やフレームを実践においてどのように使えばよいかが、著者の知見にもとづいて書かれています。
扱うテーマは、 ブランド認知、ターゲット設定、パーチェスファネル、カスタマージャーニー、インサイト分析、重回帰分析の6つです。
6つそれぞれについて、 ① 教科書における扱われ方、② 現場でのよくある誤解、③ 現場での使用上の注意を解説しています。
最後の章のでは、著者が開催する 「北村塾」 の様子を紹介しています。
著者 (塾講師) から受講生へのマーケティングの質問、受講生からの相談と回答を興味深く読めます。
現場のマーケティング論
では、実務の場で使えるマーケティングにするためにどうすればいいかを、本書でポイントだと思ったことをピックアップして見ていきましょう。
定跡は必要条件
勝負の勝ちパターンとされる 「定跡」 は知っておく必要はありますが、定跡の通りにやってもいつも勝てるとは限りません。
この話はマーケティングにも通じます。マーケティングでの間違いのもとは、本当は 「原理原則的ではないこと」 を絶対的な真実のように見てしまうことにあります。
定跡は必要条件ですが、勝利への十分条件ではないと知っておくことが大事です。
状況によってマーケティングを使い分ける
ではどうするかですが、自社が置かれた状況によってマーケティング手法を使い分けるしかありません。
原理原則ではないこと、すなわち時代によって変わるのはたとえば、人の価値観、競合、顧客接点、マーケティングの手法です。
状況によってマーケティングを使い分けようというのが、この本が言わんとする趣旨です。
状況とは、たとえば、
- リソースとして使える予算や時間
- 商品カテゴリーの特性 (例: 間口 (購入者数は多いが1人あたり購入量は少ない) と奥行き (購入者数は多くないが買う人はたくさん買う) にどちらに偏っているカテゴリーか)
- 自社ブランドの立ち位置
こうした自らの置かれた状況によって最適なマーケティングは変わります。
マーケティングは個別最適をするものである
市場やカテゴリー、自社ビジネスの状況、お客さんなどの前提によって、ビジネス活動は変わりつづけます。
マーケティング活動において、唯一絶対の正解はありません。マーケティングの課題は常に個別事象なのです。
カテゴリーやその中でのブランドの立ち位置、ターゲット顧客からどのように見られているのか、対流通への営業力などの条件が異なり、あるいは同じブランドの課題であっても競合や顧客接点などが変化します。
ぴったりのマーケティングのフレームや手法を見つけ、当てはめようとするのではなく、その都度で個別に最適化して解決するしかありません。
もちろん、型を使って整理したり、関係者間で共通認識を持ったりすることはよいですが、あくまでも会話や理解、思考を深める際の参考のためです。最後までその型にこだわる必要はないでしょう。
マーケティングの型
とはいえ、マーケティングには型があります。
マーケティングの順序
ではマーケティングの型とは何か。本書では、マーケティングを進めていく順序として次の流れになると書かれています。
- 競合: 何が自ブランドに置き換わるのか
- ターゲット: 誰が自ブランドに置き換えるのか
- 便益: 自ブランドはターゲットに何をもたらすのか
- 心理 1: ターゲットの “現在の” 心理状態
- 心理 2: ターゲットの “理想の” 心理状態
- 接点: ターゲットはどこで心理変容を起こすのか
インサイトについて
マーケティングでのお客さんの理解において、重要な概念が 「インサイト」 です。
インサイトとは、日本語に直訳をすると洞察ですが、マーケティングの顧客理解の文脈では、顧客インサイトとは 「お客さんを動かす隠れた気持ち」 を見出すことを指します。
普段はお客さんは意識することはありませんが、何かのきっかけで "心のスイッチボタン" を押され欲求のドライバーとなることで、態度が変わり、さらに買うなどの行動につながる奥にある心理が顧客インサイトです。
顧客インサイトは、お客さん自身もまだはっきりと言語化できていない本音です。よって、お客さんに訊いても言葉にして教えてもらえることはまずありません。顧客インサイトはマーケター自らが掘り起こし見出すものです。
顧客インサイトの発掘には、次の2つを意識するといいです。
- 「変化を体験したい気持ち」 を見抜く
- 「欲求と規範の葛藤」 を掘り下げる
変化を体験したい気持ち
前者の変化を体験したい気持ちとは、たとえば、ペットを飼っている人にペットの話を聞くと、よく出てくるは 「見ていて飽きない」 という言葉です。
気持ちの変化を感じたいというのは人間の根源的な欲求であり、購買行動においても時間軸での気持ちの変化という視点を持つと顧客理解が進みます。
他には、魚釣りは釣れるまでの長い時間と釣れた一瞬の気持ちの変化が楽しい、ジェットコースターも乗る前と乗っている間、降りた後の気持ちの変化が楽しいなどです。
こうした変化を体験したい気持ちに注目すると、インサイトへの着想につながります。
欲求と規範の葛藤
もう1つの顧客インサイトの発掘で意識するといいのは 「欲求と規範の葛藤」 です。
インサイトは 「こうしたい」 という欲求への切り口だけで考えてしまいがちなのですが、実際の生活では欲求と規範という、「こうしたい」 と 「こうあるべき」 が合致しないことはよく起こります。
たとえば会社の帰りに疲れていて、電車に乗って席が1つだけ空いていたときに、自分は座りたくても近くに年配の方がいれば席を譲るのではないでしょうか。
このように 「席に座って休みたいという」 の欲求と、「お年寄りには席を譲るべき」 という規範がぶつかると、規範が勝つことがあります。購買行動の心理を捉えるには、その人の何が欲求で何が規範なのか、欲求と規範がどのようにジレンマを起こしているのかを考えてみるといいです。
まとめ
今回は、書籍 「なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか - 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論 (北村陽一郎) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングでの 「定跡」 と呼ばれる勝ちパターンや基本原則を知ることは重要だが、固執しすぎると、本来の目的を見失うことも
- マーケティングでは理論やフレームを絶対的な真実と見なさず、状況に応じて柔軟に対応することが大切
✓ 状況に応じたマーケティング手法の使い分け
- 時代によって人々の価値観、競合、顧客接点、マーケティング手法は変わる
- 自社のリソース、商品カテゴリー、ブランドの立ち位置を把握し、使える予算や時間など、置かれた状況に応じて最適なマーケティングを見極め実践する
✓ マーケティングは個別最適を追求するもの
- ブランドやターゲット顧客、対流通の営業力など、状況に応じて異なる条件を考慮し、個別にマーケティングを最適化する
- 既存のフレームや手法に頼りすぎるのではなく、その都度最適な解決策を見つける
- マーケティングの型を用いることは整理や共通認識のためとし、最終的には柔軟な考え方と対応をすることが大事
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!