投稿日 2024/10/11

“ひとり” を制する者がマーケティングを制す!人 × シーン × モードで顧客を理解する方法

#マーケティング #シーンとモード #モーメントとジョブ

今回のテーマは 「ひとりモード」 です。

あなたは普段どのように 「ひとり」 の時間を過ごしていますか?ひとりの時間とは物理的にひとりでいるときだけではなく、複数人でいても意識は "ひとり" なら、その状況をひとりと感じるかもしれません。

これはマーケティングにも示唆的です。従来の人の属性情報だけでは捉えきれない、多様な 「ひとり」 の意識や行動に対して、どのようにマーケティングを展開すればいいのでしょうか?

令和時代の 「ひとりモード」 を制し、お客さんと絆をつくるマーケティングを紐解いていきます。

ひとりへの認識


令和時代の新たな消費者像として、「ひとりモード」 が注目されています。

博報堂のひとり調査

興味深かったのは、博報堂生活総合研究所 (生活総研) が実施した 「ひとり意識・行動調査 1993 / 2023」 です。

30年前の1993年と2023年を比べた調査なのですが、調査結果によると 「ひとり」 であるかどうかは、単に物理的にひとりでいるかどうかだけでなく、個人の意識によって決まるとのことです (参考記事) 。

具体的には、博報堂生活総合研究所の調査で以下のような興味深いデータが示されています (調査対象者は20 ~ 69歳の生活者) 。

  • 「近しい関係の人といっしょにいるが、会話はせず、それぞれ自分がしたいことをしている時間」 について、51.0% が 「『ひとり』の時間だと感じる」 と回答

  • 「ひとりで居酒屋や旅行などに行き、出会った人と会話を交わすことになった時間」 についても、51.7% がひとり時間だと感じると答えている


つまり、家族や友人と一緒にいても、各自が別々のことをしていれば 「ひとり」 と感じる人が半数以上いる、また、初対面の人と実際に会話をしていてもその状況を 「ひとり」 と感じる人が同じく半数以上いるということです。

博報堂生活総合研究所の上席研究員の担当者はこの結果について、「物理的に人と一緒にいるかどうかが『いっしょ』か『ひとり』かを一律に決めるわけではなく、意識の問題であり、個々人が自分で選択できるもの」 と述べています。

ひとりを四象限で整理

ひとりの状態とは、物理的にひとりかどうか、精神的にひとりかどうかで変わります。そこで、次のように四象限に分類できます。

  • 物理的にひとり & 精神的にひとり
  • 物理的にひとり & 精神的にひとりではない (例: SNS やバーチャルで気持ちはつながっている) 
  • 物理的に複数人 & 精神的にひとり (例: 複数人で一緒にいてもそれぞれが違うことをやっている) 
  • 物理的に複数人 & 精神的にもみんなと一緒にいる

ひとりの意識を汲み取る重要性

ここまで 「ひとり」 の状態を見てきましたが、マーケティングへの示唆があります。

消費者を理解する上では、単身者かどうか、交友関係が広いかどうかといった外面的な属性だけでなく、個人の内面にある 「ひとりへの意識」 をくみ取ることが重要になります。

 「ひとり状態」 とは、誰もが普通に持ち得るもので、それは時と場合によるフレキシブルな概念です。ひとりについては一種の 「モード」 として捉える必要があるというわけです。

人 × シーン × モード



では、ひとりへの認識からマーケティングをどのように考えていけばいいのでしょうか?

マーケティングでは、「誰に向けて商品・サービスを売るのか」 という 「人 (ターゲット顧客) 」 に焦点を当てることが重視されます。

人だけではなく、「シーン」 と 「モード」 まで捉える

この重要性はこれからも変わりませんが、先ほどの話でひとりの状態などの 「モード」 を捉える必要性を考慮すると、単に 「人」 だけでなく、その人の置かれた状況という 「シーン」 、そして意識状態である 「モード」 をより細かく理解することがポイントになります。

つまり、ひとりの個人が持つ多様な価値観や行動様式を、「人 × シーン × モード」 という切り口で細分化し、より高い解像度で捉えることが大事ということです。

たとえば、同じ人物でも、ひとりでいるときと誰かと一緒にいるときでは、求める商品・サービスやコミュニケーションのあり方が変わってくるでしょう。

さらに言えば、誰かと一緒にいるときでも心理的にひとりだと感じている状況では、物理的に同じひとりのときとは心のモードは違うので、そのシーンでの価値観や顧客ニーズも同じではないはずです。

きめ細かい顧客理解を

そう考えると、これまでされてきたような固定的な属性情報による顧客設定や消費者像の把握では必ずしも十分とは言えません。「人 × シーン × モード」 ときめ細かく捉えていくことが、多様化する消費者の共感を得るカギをにぎります。

この観点から新たな商品やサービスの開発、マーケティングを行うことで、ビジネスチャンスが拡がることが期待できます。「人 × シーン × モード」 は、より細分化された顧客理解のフレームワークであり、マーケティングにおける着眼点になります。

ジョブとモーメント


もう少し話の着想を広げてみましょう。

 「人 × シーン × モード」 は、マーケティングの観点では 「モーメント」 と 「ジョブ」 に当てはめることで、それぞれ次のように言い表すことができます。説明のためにシーンとモードの順番を変えていますが、

  • 人: ターゲット顧客
  • モード: ジョブ (Jobs to Be Done) 
  • シーン: モーメント (ジョブが表出化する瞬間, ブランドと顧客の接点となる瞬間) 


1つ目の 「人」 はターゲット顧客、つまりブランドが価値を届けたい人を指します。

マーケティングでは、性別年代などのデモグラ、居住地域、家族構成、職業、年収などの属性情報によってターゲット顧客を定義することが一般的です。しかし、今の多様化した消費者を理解するには、そうした表面的な属性だけでは不十分です。

ジョブ

ここで重要になるのが、モードとなる 「ジョブ (Jobs to Be Done) 」 の視点です。

ジョブとは、お客さんが製品・サービスを使って達成しようとしている具体的な目的や課題のことを指します。もともとのジョブの定義は 「ある特定の状況で人が成し遂げたい進歩 (progress) 」 です。Jobs to Be Done を日本語にすれば、片付けたい用事、済ませたい仕事となります。

同じ人でも置かれた状況や意識状態によって、求めるジョブは変化します。たとえば、部屋が汚れていたり乱雑になっているという状況において、時間に余裕がない平日の夜では 「効率よく掃除作業を進めたい」 、休日のときは、「普段は掃除ができない箇所までしっかりときれいにしたい」 というふうにです。

商品やサービスのことを、ジョブ理論では 「ジョブをやり遂げるために "雇う (hire) " 」 と位置づけます。商品を雇用し、ワーカーのように働いてもらいジョブを済ませるというイメージです。

ジョブが異なれば、雇うワーカーは違うものになります。先ほどの掃除の例では、平日に雇われるのはたとえば自動掃除ロボット、休日にはハンディタイプのほこりを取るモップが雇われるかもしれません。

モーメント

そして、ジョブが表に出てくる特定の瞬間が 「モーメント」 です。

先ほど見た日常の掃除でのシーン、他には食事シーン、通勤・通学のシーン、休日のお出かけ中のシーンなど、日常やビジネスでは様々なモーメントが無数にあります。

マーケティングの視点でモーメントの意味合いは、お客さんが商品やサービスに関与する重要な瞬間や体験のことです。

お客さんが商品やサービスのことを知ったり、思い出す瞬間、買う場面、商品を使う具体的な状況やシーンがモーメントです。

ジョブとモーメントを捉えるマーケティング

商品を買ったり使うとは、ジョブ理論で言えばお客さんがその商品を雇った瞬間です。

そこで重要になるのが、モーメントにおいてジョブが表に出てきたその瞬間に、自社商品やサービスが選ばれること、たとえば思い出してもらったり、購入候補の中に入る、あるいは実際に使ってもらうことです。ここにマーケティングの役割があります。

マーケティングでは 「人 × シーン × モード」 、すなわち 「ターゲット顧客 × モーメント × ジョブ」 への理解を深めていく必要があります。その上で、各セグメントに対して顧客文脈 (シーンとモード) に合うように、適切なタイミングと場所 (チャネル) でコミュニケーションを図ることが大事になるのです。

たとえば、育児に奮闘する父親 (ターゲット顧客と状況) に向けては、パパの 「自分のがんばりを家族に認めてもらいたい」 というジョブを捉える訴求をし、週末の夜という家族団らんのモーメントでゆっくりと家族と話せるようになる商品が選ばれる (雇用される) でしょう。

このように 「人 × シーン × モード」 の観点から、解像度高くマーケティングを展開していくことが、ブランドとお客さんの絆を築くカギとなります。画一的な属性分析にとどまらず、お客さんの姿を多面的に捉えることで、本当にお客さんに求められる価値を感じてもらうことができるのです。

まとめ


今回は消費者理解について、博報堂生活研究所のひとり意識への調査を皮切りに、マーケティングへの示唆を考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 「ひとり」 は物理的な状態だけではなく、意識によっても左右される。博報堂の調査では、家族や友人と一緒でも別々のことをしていれば 「ひとり」 と感じる人が半数以上という結果だった。内面の 「ひとり意識」 を汲み取ることが消費者理解では重要

  • マーケティングでは 「人 × シーン × モード」 の観点で捉えるといい。同じ人でもシーンやモードによって求めるものが変わる。多様な価値観を細分化し高い解像度で捉える

  • お客さんのジョブ (特定の状況下で遂げたい進歩) とモーメント (ジョブが表れる瞬間) を理解する。ジョブと重要なモーメントに対応することで、きめ細かいマーケティングからお客さんとの顧客関係を築くことができる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。