#マーケティング #ブランド #ジョブとモーメント
「〇〇 といえば、やっぱりこの商品!」
多くの人がそう思うような、記憶に残るブランドをつくりたい。しかし、実際にどのようにすればいいのか、具体的な方法が分からないと感じている企業は多いのではないでしょうか?
現代社会は情報過多で、お客さんの記憶に残ることはそう簡単ではありません。多くの商品やサービスがあふれる中で、自社の存在をアピールし、お客さんに選ばれるためには、従来の 「認知度を高める」 というだけでは不十分です。
では、どのようにすれば、お客さんの心に深く刻まれるブランドを築き上げることができるのでしょうか?
今回は、「ジョブ理論」 と 「モーメント」 という概念を軸に、現代のマーケティングにおいて重要な 「顧客目線に立ったブランド戦略」 について解説していきます。
お客さんの記憶に残るブランドをつくるヒントを、ぜひ一緒に探っていきましょう。
ブランドとブランディングは
あらためてブランドとは何でしょうか?
ブランドとは
ブランドとは、似たような商品やサービスがある中で、他とは違うというイメージや認識が持たれている商品やサービス、あるいは企業そのものを指します。
たとえば、iPhone は他のスマートフォンの中にあっても、ユニークな "らしさ" によって際立っています。
ブランディング
ブランド (Brand) に ing がつくブランディングは、商品やサービスの優れたユーザー体験からお客さんにブランドとして知ってもらい、思い出してもらったり、忘れられないようにする、他とは違うと認識してもらうための 「働きかけ」 です。
自社の商品やサービスを知ってもらい、また買ったり使ってもらう可能性がある状況で、その存在を思い出してもらうことが大切です。これは広告や営業活動を通じて実現します。
頭の中の引き出し
お客さんの頭の中にある様々な 「引き出し」 に自社の商品やサービスを関連付けることが重要です。
引き出しとはたとえですが、人が何かをしたいと思ったタイミングで、頭の中の引き出しを開けると、手段や方法の候補が入っているイメージです。
引き出しの名前は、お客さんが普段使っている言葉になっています。売り手視点だと 「中華料理店」 という引き出しを想定しますが、お客さんにとっては 「しっかり食べたいランチ候補」 という引き出しに中華料理店が入っています。
お客さんの頭の中の引き出しに自社商品が入っていて、なるべく手前に置いてあれば、そのシチュエーションにおいて自社商品は選ばれやすくなります。買ってもらえたり、使ってもらえる可能性が高まるわけです。
引き出しへの入り方
引き出しへの入り方には、3つのパターンがあります。
- 既存の引き出しの中で、より前の位置に並ぶ
- 他の引き出しにも入っていく
- 新たな引き出しをつくりだす
特に3つ目の 「新たな引き出しをつくりだすこと」 は魅力的です。もちろん実現は難しいかもしれませんが、成功すればカテゴリーそのものを生み、やがては業界トップになれる可能性もあります。
引き出しとブランディング
先ほど引き出しの名前はお客さんの認識や言葉でつけられるという話をしましたが、お客さんの立場になって引き出しを考えることで、効果的なブランディングにつながります。
ブランディングは時間がかかる取り組みですが、自社商品がお客さんの様々な引き出しに入ることで、思い出してもらえる機会が増えるのです。
ジョブとモーメントへの考察
ジョブ理論とは
ジョブ理論は、ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。
ジョブの定義は 「特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。英語では 「Jobs to Be Done」 と表現されます。日本語にすれば、ジョブは 「片付けたい用事」 「済ませたい仕事」 という意味合いを持つ概念です。
ジョブ理論で特徴的なのは、人がジョブを解決するために商品やサービスを 「雇う」 と表現することにあります。商品やサービスはジョブを解決するための手段と位置づけられるわけです。
そこで、ここではジョブのための雇う商品やサービスの総称として、「ワーカー」 と表現することとします (ジョブを片付けるために働いてくれるイメージからワーカーとしました) 。
このジョブとセットでとらえたいのは、「モーメント」 という概念です。
モーメント
モーメントには日本語で 「瞬間」 という意味がありますが、ジョブの文脈でのモーメントは、「ジョブが具体的に顕在化する (発生する) お客さんの場面やシチュエーション」 です。
たとえば、健康食品メーカーにとっては、「今まで不健康な生活を変え、健康的になりたい」 という生活者のジョブは、モーメントとして 「健康診断の結果が手元に返ってきた瞬間」 に一年の中でも最も強く引き起こされるでしょう。診断項目に 「C」 や 「D」 をあるのを見て、ちょっとこれは食生活や生活習慣を見直さないとやばいかもと思った瞬間です。
自社商品・サービスにとっては、モーメントは商品のことを思い出したり買うきっかけ、使われるシーンなどの日常のなかでの "お客さんとつながれる瞬間" を指します。
先ほどの健康診断が返ってきたモーメントにおいて、健康食品メーカーが 「ジョブを解決するワーカーになりますよ」 ということを的確に訴求できれば、ジョブへの解消モチベーションが高まっているタイミングなので普段よりも意識を向けてもらいやすいでしょう。
ビジネス事業者は、狙うジョブが表れるお客さんにとってのモーメントを的確に捉えることで、ブランドへの接点や関与への機会をつくることができます。
モーメントとジョブの関係
それでは、モーメントとジョブの関係を整理してみましょう。
お客さんの生活文脈やビジネス文脈の中にあるモーメントにおいて、何かをしたいという気持ちがジョブとして表に出てきます (顕在化) 。
ジョブを解決するためにお客さんが思い浮かべるのが、頭の中の引き出しに入っている選択肢です。ジョブを解消するための雇う候補である 「ワーカー」 が引き出しに入っています。
たとえば、そろそろお昼なのでお腹がすいたのでランチに行きたいという状況で、このジョブへのワーカーが、ランチが食べられる近くのお店、さっと買ってオフィスや自宅で食べるコンビニに売っているもの、フードデリバリーサービスなどです。
ワーカーとして選ばれるには?
では、頭の中の引き出しにおいて、自社商品やサービスの存在感を高めるためには、お客さんに選ばれるためにはどうすればいいのでしょうか?
ブランディング活動によって、知ってもらったり、モーメントにおいて思い出してもらいやすい状況をつくっておけば、引き出しの手前に位置取りができます。
ジョブが顕在化したときに、引き出しからワーカーとして選ばれやすくなるわけです。
選ばれ方の3つのアプローチ
自社商品がワーカーとしてお客さんに選ばれる (雇われる) ためには、今ある既存の引き出しの中に自社商品がなるべくいいポジションに入っているだけでなく、これまでとは違った引き出しの中にも進出することも必要です。
これをジョブというレンズを使って表現をすれば、「別の引き出し」 とは、今まで捉えていなかったお客さんのジョブについて、新しくワーカーとして自分たちも雇われる候補として手を挙げるということです。
さらには、引き出し自体を新しくするという挑戦的な取り組みも大事になります。引き出しそのものを新しくつくるとは、ジョブ自体を新しく生み出していこうということです。
ジョブとモーメントを活用する全体像
マーケティングで目指したいのは、お客さんにもたらす価値創出です。
そのためには、
- お客さんの本音や深層心理、潜在的な普段は意識されないような望みまで理解する
- そこを巧みに刺激し 「心のスイッチボタン」 を押すことで、お客さんにジョブを認識してもらう (顧客課題の醸成)
- 特定のある瞬間 (モーメント) において、そのジョブが顕在化したときにワーカーとして選ばれる状況をつくる
以上がジョブとモーメントを活用する全体的なマーケティングの流れです。
まとめ
今回は、前半ではブランディングと頭の中の引き出し、後半はジョブとモーメントにつなげて考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドは、他と差異化されたイメージや認識を持たれている商品やサービス。ブランディングは、商品・サービスのユーザー体験からブランドとして知ってもらい、思い出してもらうための働きかけ
- ブランディングでは、生活者の頭の中にある 「引き出し」 に自社の商品やサービスを関連付けることが重要。引き出しへの入り方には、① すでに入っている引き出しでの優位な位置取り、② 他の引き出しへの進出、③ 新たな引き出しの創造という3つの方法がある
✓ ジョブとモーメント
- ジョブとは 「特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」。ジョブ理論では、人が 「片付けたい用事 (ジョブ) 」 を解決するために、商品やサービスは 「雇うもの (ワーカー) 」 と捉える
- モーメントは、ジョブが顕在化するお客さんの場面やシチュエーションを指す。商品のことを思い出したり買うきっかけ、使われるシーン。ブランドとお客さんがつながる瞬間
- マーケティングでは、お客さんの心理までを深く理解し、ジョブが生じる特定のモーメントにおいてワーカーとして選ばれる状況をつくる。商品がジョブを解決することで価値創出を目指す
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