#マーケティング #リブランディング #相乗効果
自社のブランドは、安売りセールに頼らずとも、定価で買ってもらっているでしょうか?
実はセール依存に陥っていり、ブランド力の低下に気づかないまま利益率の悪化が起こっていないでしょうか?
スポーツ用品ブランド 「デサント」 も、かつてはそんな問題を抱えていました。しかし、大胆なリブランディングにより、安売りに依存しない体制を確立。直営店の売上を1.7倍に伸ばすことに成功したのです。
では、デサントはどのようにしてリブランディングを成し遂げたのでしょうか?
その秘密は、三位一体の戦略にありました。デサントの成功事例から、あなたのマーケティングに活かせるヒントをお届けします。
デサントのリブランディング
デサントは、かつて商品の大量生産と在庫処理のための安売りセールに依存していたことで、利益率の低下とブランドイメージの毀損という問題を抱えていました (参考記事) 。
この状況を打開するため、2019年から経営陣を中心に本格的なブランド刷新に着手しました。
2022年秋冬シーズンの商品販売から、アウトレットなど一部店舗を除き、値引きを原則撤廃しました。
これにより一時的に売上が減少したものの、その後は値引きをやめたことで直営店の売上を1.7倍に増加させました。
また、高価格帯の 「デサント」 と、若年層向けの 「ムーブスポーツ」 の扱いを明確に区別しました。
前者のデサントは直営店での販売を中心とし、高価格帯ラインの強化に注力。一方のムーブスポーツは卸売を中心とするブランドとして位置付けました。
ブランド改革の3本柱
高価格帯である 「デサント」 は、プレミアムブランドとしての確立を目指し、以下の3つの改革に着手しました。
- 店舗刷新
- コミュニケーション戦略の見直し
- 生産体制強化
順番に見ていきましょう。
店舗刷新
従来、デサントは 「デサント ブラン」 という屋号で、高価格帯商品を主に販売する店舗を展開していました。
これらの店舗は、無機質な空間にシンプルに商品を配置するセレクトショップのような内装でした。ファッション性を志向するお客さんとの相性は良かったものの、スポーツウエアを求めるお客さんなどの幅広いニーズに応えることが難しい状況でした。
この問題を解決するため、デサントは2023年度に6店舗のリニューアルを実施。スポーツブランドとしての色味やトーンを取り入れ、商品を見つけやすく、販促プロモーションを強化した店舗空間へと刷新しました。
また、取り扱い商品のジャンルも日常服だけでなく、スポーツウエアまで拡大することで、より多様な顧客ニーズに対応できるようになりました。
コミュニケーション戦略の見直し
デサントは、ブランドイメージを 「高機能ウエア」 に一本化するため、コミュニケーション戦略を新たにしました。
それまでスキー、ライフスタイルウエア、ランニングウエアなど、カテゴリーごとに別々にプロモーションを実施していたため、ブランド全体でのイメージを打ち出せずにいました。
そこで、デサントの発祥であるスキーウエアで培った高機能素材や技術を、日常服に落とし込んだ高機能ウエアであることを訴求するプロモーションを強化。「スキーウエアで評価を得てきたデサントがつくる ○○」 というメッセージを軸に、ブランド全体で統一感のある情報発信を行いました。
また、夏季にはスキーと同様にハードなスポーツであるトライアスロンを中心にプロモーションを展開し、ブランドの機能性を訴求しています。
生産体制強化
デサントは、自社工場である水沢工場に約30億円を投資し、生産体制の強化を進めています。アパレル業界では、自社工場を持ち独自技術を磨く企業は多くないため、この取り組みはデサントの強みにつながる独自資源です。
水沢工場では、デサントの代表的な商品である 「水沢ダウン」 を生産しており、商品名にも工場の所在地である 「水沢」 を冠することで、ストーリー性を打ち出しました。この投資により、さらなる機能性の向上と、ブランドストーリーの強化が期待できます。
学べること
ではデサントのリブランディング事例から学べることを掘り下げていきましょう。
デサントのブランド刷新には店舗刷新、コミュニケーション戦略の見直し、生産体制の強化という3つの大きな柱が相乗効果を発揮しました。
ゴールを狙う店舗
店頭刷新は、お客さんとの直接の接点を強化する取り組みです。
これをスポーツのサッカーで例えるなら、店頭はゴールを狙うフォワード (FW) のポジションに相当します。
デサントは店舗のことを、ブランドコンセプトを反映しブランドの世界観を体験できる場所と位置づけ、店内空間やディスプレイの刷新に注力しました。これにより、より多くの来店客にブランドの魅力を直接伝えることができるようになります。
FW にアシストをするブランドコミュニケーション
ブランドコミュニケーションは、消費者に届き (リーチし) 、製品の優位性を伝えることで、ブランドのことを消費者に魅力的に思ってもらえることを狙います。
サッカーで言えば、FW にアシストをするミッドフィルダー (MF) の役割を担うのがブランドコミュニケーションです。
デサントは、高機能ウエアを軸にブランドイメージを一本化し、スキーやトライアスロンなどのハードなスポーツを通じて、ブランドの機能性を訴求するコミュニケーション戦略を展開しました。
土台となる生産体制
生産体制の強化は、メーカーにとって欠かせない取り組みです。
品質が高くブランド力のある製品を安定的に生産し、欠品によって欲しいのに買えないお客さんをひとりでも少なくすることが求められるからです。
店頭刷新とブランドコミュニケーションが効果を発揮するのは、製品が作られ、安定的に店頭に並んでいればこそです。
デサントは自社工場への投資により、独自技術の磨き上げと商品の機能性向上を図っています。メーカーのビジネス活動の土台となるのが、この生産体制の強化なのです。
三位一体での相乗効果
デサントのリブランディング事例から学べるのは、ブランドのために行った店舗刷新、コミュニケーション戦略の見直し、生産体制の強化という3つの大きな柱がそれぞれ連動して機能することで、初めて効果を発揮したということです。
店舗刷新で築いたブランドイメージを、コミュニケーションで広く消費者に届け、生産体制の強化によって高品質な製品を安定的に提供する。この3つの取り組みが三位一体となって、ブランドの価値を高めていくのです。
リブランディングは、単なるイメージ戦略ではなく、ここまでをやり切る事業の根幹に関わる全社的な取り組みです。
まとめ
今回はデサントのリブランディング事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- デサントのリブランディング事例から学べるのは、店舗刷新、コミュニケーション戦略の見直し、生産体制の強化という3つの柱が相乗効果を発揮したこと
- 店頭刷新は、お客さんとの直接の接点を強化する施策。デサントは店舗をブランドコンセプトの体現の場とし、ディスプレイや空間を効果的に活用し、ブランドの魅力を直接伝える
- ブランドコミュニケーションは、消費者に製品の優位性を伝える役割を担う。デサントは、高機能ウェアを軸にスキーやトライアスロンなどから統一したブランドイメージを打ち出し、機能性を訴求
- 生産体制の強化はブランド刷新の土台となった。デサントは自社工場への投資により、独自技術の磨き上げと商品の機能性向上を実現。高品質な製品の安定供給が可能となり、店頭刷新とブランドコミュニケーションの効果を最大化する
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