投稿日 2024/10/10

コラボだけじゃない!焼肉きんぐの戦略に見る、基本価値と差異化のバランスの取り方

#マーケティング #戦略 #POPとPOD

自社の商品やサービスには、競合他社と比べてどのような強みがあるでしょうか?その強みは本当にお客さんから求められているものでしょうか?

マーケティングにおいて、自社の商品・サービスを差異化することは重要です。しかし、差別化要素ばかりに目を向けていると、本当にお客さんが求めている基本的な価値を見失ってしまうかもしれません。

今回は焼肉チェーン 「焼肉きんぐ」 の事例を通して、マーケティングにおける2つの重要な概念、POP (Points of Parity) と POD (Points of Difference) について解説します。

焼肉きんぐがどのように POP と POD をバランスさせているのか、具体的な施策から見ていきましょう。

焼肉きんぐの 「ペヤング」 コラボ企画



焼肉チェーン 「焼肉きんぐ」 は、2024年3月から春の期間限定の 「CAMPフェア」 を開催し、限定メニューの中にインスタント焼きそば 「ペヤング」 を取り入れたコラボレーション企画が話題を呼びました。


店舗では、ペヤングをアレンジして楽しむことを提案し、「#きんぐでペヤング」 キャンペーンを展開。焼肉きんぐは SNS でユーザーの投稿をリポストするなど、企画参加者の声を積極的に拡散しました。

SNS で大きな話題を呼び、関連投稿のインプレッション数は累計1000万回以上、関連動画の再生数は累計150万回以上を記録したとのことです。5月13日時点で、店舗で提供されたペヤングは5万食を突破しています (参考記事) 。

焼肉食べ放題への 「安かろ悪かろう」 の危機感と対処


焼肉きんぐは、焼肉食べ放題業界に対する危機感を抱いていました。創業当時、食べ放題というと 「安かろう悪かろう」 というイメージが一般的で、おいしくない、元が取れない、ビュッフェスタイルで慌ただしいといった印象があると見ていました。

焼肉きんぐは、創業当時から食べ放題に対するこの 「安かろう悪かろう」 を変えようと努力してきました。焼肉きんぐは、おいしくて圧倒的な品ぞろえを低価格で楽しめ、席で簡単に注文ができる店づくりを目指してきました。

また、2022年ごろには同じターゲット顧客層ばかりへの訴求が業界の衰退につながると危惧を抱き、次世代の顧客育成にも力を入れています。

焼肉きんぐの差異化戦略


マーケティングの観点から見ると、焼肉きんぐの取り組みには、POP (Points of Parity) とPOD (Points of Difference) の概念を当てはめることができます。

POP と POD


出典: MarkeZine

POP は Points of Parity の略で、その商品カテゴリーでお客さんから最低限の求められる必須の要素です。

英語の Parity には 「等価」 や 「等しい」 というニュアンスがあります。POP はそのカテゴリーの中でどの商品も等しく持っている特徴 (必須の要素) です。売り手にとってはカテゴリーに参入するために必要なチケットや入場券のような存在です。POP は他社には 「負けない」 という内容です。

POD は Points of Difference の略で差別化要素です。

商品やサービスが他と異なるユニークな価値をもたらすことで、お客さんからの関心を引き、選ばれる理由を提供します。POD は他社に 「勝てること」 です。

では、焼肉きんぐの事例に POP と POD の概念を当てはめてみましょう。

焼肉きんぐの POD

後者の POD (差異化要素) に該当するのはペヤングとのコラボ企画や韓国フェア、新感覚デザートなどの期間限定企画です。

これらの施策は、他の焼肉食べ放題店にはない独自の価値を提供することで、お客さんの関心を引き、焼肉きんぐを選ぶ理由になっています。たとえばペヤングとのコラボは、焼肉とインスタント焼きそばという異なるカテゴリーを組み合わせた斬新なアイデアであり、SNS で大きな話題を呼びました。

こうした期間限定の企画はバズりや話題性から焼肉きんぐを目にし、思い出してもらえ、一時的な集客効果が期待できる 「飛び道具」 のような存在と言えるでしょう。

では POP は?

一方、POP は焼肉専門店としての基本的な魅力であり、焼肉きんぐの場合、 「五大名物」 に代表される高品質な焼肉メニューがその中核をなしています。


おいしい料理だけでなく、スムーズな注文システム、品切れのない豊富なメニューや店内在庫、時間内に満足できるボリューム、リーズナブルな価格設定なども、焼肉食べ放題に求められる重要な要素です。

これらの POP は、 お客さんが焼肉きんぐを選ぶ際の基本的な期待価値です。

POP があってこその POD

期間限定キャンペーンは話題性があり、ブランドの印象を高める効果がありますが、それだけでお客さんがリピーターになるわけではありません。

キャンペーンをきっかけに来店したお客さんが、次回も焼肉きんぐを選んでくれるかどうかは、POP の充実度が前提になると言っても過言ではないでしょう。

順番は POP があり POD です。POP があってこそ POD が生きてくるのです。差別化が重要という認識から、とかく POD に注力しがちになりますが、POP にも力を入れ両者のバランスを取ることが重要です。

焼肉きんぐは、この POP と POD の関係性を理解した上で、期間限定の話題作りと焼肉専門店としての本質的な魅力の強化を並行して進めることで、長期的なブランド価値の向上を目指しているのです。

まとめ


今回は焼肉きんぐの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • POP (Points of Parity) とは、商品カテゴリーにおいてお客さんから最低限求められる必須のものであり、競合他社に "負けない" 基本的な要素。焼肉きんぐの場合、高品質な焼肉メニュー、スムーズな注文システム、豊富なメニュー、満足できるボリューム、リーズナブルな価格設定などが POP に該当する

  • POD (Points of Difference) は、商品やサービスにおける他社と異なるユニークな価値。お客さんの関心を引き、選ばれる理由となる "勝てる" 要素。焼肉きんぐでは、ペヤングとのコラボ企画、韓国フェアや新感覚デザートなどの期間限定企画が POD に該当し、話題性から集客効果が期待できる

  • POP と POD のバランスが重要。POD という差異化に注力しがちだが、POP があってこそ POD が生きてくる。焼肉きんぐは、期間限定の話題作りと焼肉専門店としての本質的な魅力の強化を並行して進めることで、長期的なブランド価値の向上を目指している


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。