投稿日 2024/10/07

硬グミ 「忍者めし 鉄の鎧」 。お客さんの心をつかむ 「前座」 と 「本番」 の落語マーケティング

#マーケティング #前座と本番 #顧客体験

新商品やサービスを新しく出していくときに、どうすればお客さんの関心を惹きつけ、強い印象を残すことができるでしょうか?

魅力的な商品を提供しても、魅力や価値が適切なタイミングと方法で伝えられなければ、せっかくの良さが行き渡りません。

今回は、人気のグミ菓子 「忍者めし 鉄の鎧」 のヒット理由を紐解き、"前座" と "本番" という落語の視点から、商品開発やマーケティングへのヒントを探っていきます。

応用の仕方次第で、お客さんの心に響くような訴求ができる可能性が広がります。

硬いグミ 「忍者めし 鉄の鎧」 



合格基準の5倍も売れた

UHA 味覚糖のハード系の硬いグミの 「忍者めし 鉄の鎧」 が、異例のヒットを記録しています。2023年12月の発売以降、コンビニ店頭でたびたび完売が起こる人気ぶりです。

UHA 味覚糖の忍者めしブランド担当者によれば、「コンビニでは一般的に週に5個売れれば良いとされているが、今回の "鉄の鎧 "は発売当時にその3倍ほどを記録した。さらに2024年4月の再販時には合格基準5個の約5倍も売れた」 とのことです (参考記事) 。

この 「忍者めし」 シリーズは2008年から続くロングセラー商品です。

ハード系グミの草分け的存在としてビジネスパーソンや若者層に支持されてきましたが、今回の 「鉄の鎧」 の売れ行きは過去に例を見ないヒットとなったのです。

ヒットの要因は?

ヒットの理由を探ると、1つ目はグミ自体の硬さにあります。ハードグミカテゴリーの中でも、鉄の鎧はさらに硬く分厚いつくりになっており、かみ応えの強い食感がハードグミ好きの人を満足させたのでしょう。

2つ目が、グミの独特の2層構造から生まれる食感です。


鉄の鎧はグミの表面が糖衣でコーティングされています (表面の一層目) 。鉄の鎧を食べたときに最初にザクッとした、既存のグミにはない 「クランチ感」 を味わえます。

そして二層目の奥にグミ本体があります。先に一層目で独特の歯ざわりがあることで、二層目のコーティングの中のグミ本体の 「硬い食感」 が際立つというわけです。

異なる2つの食感を立て続けに楽しめる点が 「鉄の鎧」 のユニークなところです。ハードグミ好きの人だけでなく、グミやお菓子全般が好きな人をも虜にする食感設計です。

単に硬いグミを提供するのではなく、クランチ感と硬さの絶妙な演出で消費者を楽しませる点が、鉄の鎧のヒットの秘密です。グミの新しい食感体験を提供し、ハードグミブームの更なる拡大を後押しするでしょう。

前座と本番


ではここからの後半のパートで注目したいのは、鉄の鎧のヒットの要因の1つとみた、従来のハードグミとは一線を画す 「独特の食感」 についてです。

 「忍者めし 鉄の鎧」 を口に入れてまず最初に感じるのが、グミ表面の糖衣のざくっとしたクランチ感ですが、この心地よい食感が落語での 「前座」 のような役割を果たしています。

既存のグミにはない新鮮な体験を客席 (消費者) に前座的なボジションで提供し、前座があることで本番 (グミ本体) への期待を高めます。

そしてその後に味わえるのが、鉄の鎧のグミ本体の弾力のある硬い食感です。この硬さがクランチ感による 「前座」 の演出によって、「本番」 の硬いグミ本体の食感が際立って強調され、より楽しめる舞台が整えられているというわけです。

この前座と本番という視点で、もう少し掘り下げてみます。

[前座] 糖衣による 「ザクッとした食感」 

鉄の鎧のグミの表面にコーティングされた糖衣による 「ザクッとした食感」 は、場を温める前座のような役割を果たします。具体的には次のような効果を生みます。

    ✓ 顧客の心をつかむ

    前座としての糖衣のクランチ感は、一般的なグミとは異なる最初のグミ体験を提供します。歯ごたえのある 「ザクッ」 というユニークな食感は、従来のグミにはない新感覚で消費者の興味を引きます。


    ✓ 基準をつくる

    独特の糖衣のクランチ感は、そのあとに味わうことになる 「硬さへ基準」 を設定することになります。基準となるクランチ感と後からの硬さのギャップがあることで、硬いグミ部分の味わいや食事体験をより良くします。


    ✓ 期待感を高める

    最初のインパクトで、その後のグミ体験への期待感を高めます。初めのクランチ感が好印象を与えることで、その後の体験に対する期待値が高まった状態で二層目の 「硬い食感」 へ移ります。


こうした前座によって舞台が整い、いよいよ本番に入っていきます。

[本番] グミ本体の 「硬い食感」 

鉄の鎧の糖衣を砕いた後に現れるグミ本体の 「硬い食感」 は、本番のごとく消費者に強い印象を与えることでしょう。

    ✓ 基準よりも相対的に高い体験をもたらす

    前座 (クランチ感) で設定された基準に対して、それを超える本番 (グミの硬い部分) の食感は、消費者にインパクトをもたらします。二段階のアプローチによりグミ体験は予想を超えたものになります。


    ✓ 満足感を与える

    クランチの後のしっかりとした硬く弾力のあるグミの食感は食べ応えがあり、満足感を与えます。噛むほどにグミの旨味が口いっぱいに広がります。


    ✓ 余韻を残す

    長く続く弾力は、食べ終わった後も心地よい余韻を残します。一度味わったら忘れられない独特の食感です。


二重の食感による相乗効果

このように 「前座」 と 「本番」 のふたつの食感が織りなす相乗効果が、 「忍者めし 鉄の鎧」 のヒット要因です。

    ✓ 飽きさせない

    二重の食感は、一度の食べる体験の中で変化をもたらします。クランチ感から硬いグミへの移行は、味覚や食感の変化を楽しむことができます。消費者が飽きることなく何度も 「鉄の鎧」 というグミを楽しみたい欲求を生み出します。


    ✓ 幅広い層に訴求

    硬いグミの食感が好きな人だけでなく、新感覚のお菓子を求める人にもアピールできます。若者だけにとどまらず幅広い世代に愛されることが期待できます。



マーケティングへの応用


それでは最後のパートでは、鉄の鎧がもつ 「前座 (クランチ感) 」 と 「本番 (硬い食感) 」 の考え方を、マーケティングに当てはめて応用例を考えてみましょう。

たとえば、マーケティングのブランディングに取り入れることで、お客さんからの関心を引きつけ、商品やサービスへの強い印象を持ってもらうことが期待できます。

マーケティングへの具体的な応用方法は次のようになります。

商品の先行体験としての 「前座」 の活用

商品やサービスを新たに出していく際に、特定の商品特徴を前面に出してお客さんの興味を引く 「前座」 を設けます。

たとえば限定版の発売、特別な体験イベントの開催、あるいは著名人やインフルエンサーとのコラボなどです。通常の商品ラインナップとは異なるマーケティングを展開し、新商品への先行体験を提供します。

前座として先出しをしますが、あえて全ては言わずどこかベールがつつまれた状態にとどめます。

本格導入としての 「本番」 の強化

 「前座」 によって場をあたため下地をつくり、その後に新商品の本格的な特徴や利点をしっかりと提示し、お客さんとの関係を深める 「本番」 のフェーズに入ります。

ここでは商品の品質や使用感など、実際にお客さんが経験できる価値を充実させることが重要です。具体的には、商品の高い機能性や独自のサービス、サポート体制も含めて、商品やブランドの核となる顧客価値を訴求します。

統合的なコミュニケーション戦略の展開

こうした 「前座」 と 「本番」 の両方を効果的に組み合わせるためには、統合的なコミュニケーション戦略が必要になります。

前座でつくったお客さんからの関心を本番での深いブランド体験へと自然に移行させるために、オンラインとオフラインの各チャネルを活用し、一貫したメッセージと顧客体験をつくりだすことが大事です。

このように、落語の前座と本番の概念をマーケティングに応用することで、前座でお客さんからの期待を醸成し、本番でその期待を超えた顧客価値を体験する中でお客さんはブランドの一貫性のある世界観に共感し、ブランドとの関係性を深めることにつながっていきます。

まとめ


今回は、UHA 味覚糖のグミ 「忍者めし 鉄の鎧」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 前座と本番の役割
  • 前座 (例: ザクッとするクランチ感) : 新鮮な体験でお客さんの興味を惹き、本番への期待を高める
  • 本番 (例: 硬い食感) : 前座で設定された基準を超える本質的な価値をお客さんに提供し、満足感を与える。余韻も残す

✓ マーケティングへの応用
  • 新商品の特徴を 「前座」 として先出しして一部を先行体験してもらい、本格的な商品価値の "本番" への期待を高める
  • 統合的なコミュニケーション戦略で、チャネルを越えて 「前座」 から 「本番」 への一貫したブランドストーリーと体験を提供する
  • 前座で商品の顧客価値は体験できるが、ベールのつつまれたままの状態にあえてしておき、本番で強い印象や顧客体験価値からお客さんとの関係性を築く


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。