#マーケティング #顧客状況 #ジョブ
今回は、サッポロビールへのインタビュー内容をもとに、サッポロビールの戦略を紐解きます。得られる学びとして、"顧客状況ターゲティング" の成功の秘訣を探ります。
「顧客の属性ではなく、顧客の状況に焦点を当てる」 というアプローチが、どのようにサッポロビールのブランドを支えているのでしょうか?
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
サッポロビールのマーケティング
以下は、サッポロビールの常務執行役員マーケティング本部長の武内亮人氏へのインタビューからの抜粋です。
―― サッポロビールには柱となる黒ラベルとエビスの他にもブランドがあります。それぞれはどう位置づけているのでしょう。
武内 当社では、黒ラベルも含め、ブランドごとに個性や背景にある物語をブランドパーソナリティーとして言語化し、それに沿ったアクションや飲用シーン、ブランド選択理由を想定しています。このブランドパーソナリティーがしっかりしていれば、商品はすみ分けできると思います。
(中略)
―― ブランドパーソナリティーによって好まれる場やシーンも異なるということでしょうか。
武内 結局、私たちがつくっているのは、プロダクトよりもそれを飲みたくなるオケージョン (機会) だと思っています。例えば、「正月のビールと言えばエビス」 と言ってくれるお客様がいらっしゃいますが、それはエビスビールが独特のオケージョンを持っているということです。
商品開発においても、ただ "もの" を造るのではなく、オケージョンを生み出すような "もの" を造ってくれと言っています。例えば、若い人にビールを飲んでもらうなら、若い人が好きそうな商品をただ造るだけではダメで、若い人が飲みたくなるようなオケージョンをつくらないといけない。
サッポロビールのマーケティングのアプローチは、クレイトン・クリステンセンが提唱した 「顧客状況ターゲティング」 に通じます。
顧客状況ターゲティング
顧客状況ターゲティングとは、顧客の属性 (年齢, 性別, 収入など) ではなく、お客さんが置かれている "状況" や "課題" に焦点を当てて、商品やサービスを開発したりマーケティングを行うという考え方です。
破壊的イノベーションの理論で有名な経営学者クレイトン・クリステンセンが提示したものです。
属性ターゲティングとの違い
従来のマーケティングでは、お客さんを属性ごとに分類し、それぞれの属性に合わせた商品やサービスを開発していました。
しかし、クリステンセンは、顧客の属性は必ずしもお客さんのニーズや購買行動を反映しているわけではないと指摘しました。
たとえば、年齢が若いからといって、必ずしも新しい技術に興味があるわけではありません。また、収入が高いからといって、必ずしも高級品を購入するわけではないでしょう。
顧客状況ターゲティングでは、お客さんが置かれている状況や課題を理解することが重要になります。お客さんがどのような状況で、どんな課題に直面しているのかを理解することで、顧客ニーズに合致した商品やサービスを開発することができます。
サッポロビールの実践例
ここで話をサッポロビールにつなげます。
サッポロビールでは、ブランドごとに 「ブランドパーソナリティー」 を設定し、そのパーソナリティーに合った飲用シーンやブランド選択理由を想定していると述べられていました。商品の属性ではなく、お客さんがそのビールを選ぶ 「状況」 や 「コンテクスト」 に着目しているのです。
さらに、「私たちがつくっているのは、プロダクトよりもそれを飲みたくなるオケージョン (機会) 」 とおっしゃっていました。これはお客さんがその商品を "雇う" 状況や目的、つまり "Jobs to Be Done (JTBD) " というジョブ理論を意識した発言だと言えます。
具体例として、「正月のビールはエビス」 というオケージョンに対して、エビスブランドを最適化しています。単に 「高級ビール」 という "もの" としてではなく、お正月という特別な "状況" に合わせてブランドを位置づけているのです。
また、若者向けの新商品開発でも 「若者が好きそうな味」 ではなく、「若者が飲みたくなるようなオケージョン」 をつくることが重要だと説いていました。若年層という顧客属性ではなく、彼ら・彼女らの生活やライフスタイル、嗜好に合わせた "状況" を想定して商品開発をしているわけです。
このように、サッポロビールでは顧客属性ではなく "顧客状況 (Customer situation) " と "Jobs to Be Done (ジョブとは 「特定の状況でお客さんが遂げたい進歩」 ) " というレンズを当て焦点を絞ることで、顧客ニーズに合ったブランディングや商品開発を行っています。クリステンセンの理論を実践しているマーケティング戦略です。
顧客状況ターゲティングを行う際のポイント
では最後のパートでは、顧客状況ターゲティングを行う際のポイントについて整理をしておきましょう。
顧客状況ターゲティングを行う際には、以下の点を意識しながら進めていきます。
- 顧客状況・ジョブの深い理解: 顧客インタビュー、調査、データ分析などを活用して、顧客属性だけではなく 「顧客の状況」 と 「顧客のジョブ」 を深く理解するよう努める
- 顧客状況・ジョブの具体化・構造化: お客さんの状況とジョブを抽象的な概念ではなく、どういう状況で生じているジョブなのか、具体的な行動や望みとして言語化し、全体を体系立てて把握する
- 顧客状況・ジョブに合致した商品やサービスの開発: お客さんの状況とジョブを理解した上で、顧客ニーズに合致した商品やサービスを開発する
- 顧客状況・ジョブに寄り添ったマーケティング展開: お客さんの文脈に沿ったメッセージにし、その顧客状況と抱えるジョブにおいて共感されるコミュニケーションを行う
- 顧客状況・ジョブの変化の把握: 生活者環境やビジネス環境は常に変化し、それによってお客さんの状況やジョブも変わる。顧客状況・ジョブの把握を続け、商品やサービス、マーケティングを改善していく
以上のポイントを押さえながら、サッポロビールのように顧客状況にもとづいたマーケティングを展開することで、お客さんの真のニーズに応えることができます。
まとめ
今回はサッポロビールの事例を取り上げ、「顧客状況ターゲティング」 をキーワードに学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- サッポロビールでは、ブランドごとにブランドパーソナリティーを設定し、お客さんがそのビールを選ぶ 「状況」 や 「コンテクスト」 (例: お正月, 若者が飲みたくなるようなオケージョン) に着目。状況を起点に商品開発やマーケティングを展開している
- 顧客状況ターゲティングは、顧客属性ではなく、お客さんの "状況" と "Jobs to Be Done (特定の状況でお客さんが遂げたい進歩) " に焦点を当てる
- 顧客状況ターゲティングを行う際には、お客さんの状況とジョブを深く理解する。状況とジョブに合致した商品・サービス開発とマーケティングを行う。お客さんの状況・ジョブの変化を常に把握することも重要
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