#マーケティング #ジョブ理論 #顧客価値
なぜあの商品やサービスがお客さんから選ばれているのでしょうか?
その答えのヒントは、お客さんの本質的な欲求を捉える 「ジョブ理論」 にあります。
今回は事例を使って、ジョブ理論をマーケティングに活用する方法を解説します。お客さんが商品やサービスを購入する背後にある具体的な 「ジョブ (その状況において成し遂げたい "進歩" 」 を明らかにし、ジョブを解決する商品を提供することでお客さんに価値をもたらすマーケティング手法です。
ジョブ理論を用いて顧客心理を深く掘り下げ、自社商品・サービスが選ばれるためのポイントを紐解きます。
不動産投資サービスRENOSY
GA technologies (ジーエーテクノロジーズ) は、創業10年で売上1000億円を超えるというスピードで成長しているベンチャー企業です。
GA technologies が提供するのが、不動産投資サービスの 「RENOSY (リノシー) 」 です。
RENOSY の動画広告
RENOSY の動画広告でのコミュニケーションが興味深かったです。
汲み取った顧客心理
まずは RENOSY のこの動画広告において、訴求するにあたってどのような顧客心理を汲み取ったのかを掘り下げてみましょう。
将来に対する漠然とした不安を抱え、資産形成の必要性を感じながらも行動に移せないという人たちは一定数で存在します。
たとえば首都圏に住む一人暮らしの働いている若い世代など、将来の資産形成に不安を抱えている人々です。不動産投資に関心を示してはいるものの、その必要性や緊急性を強くは感じていないのが実際のところでしょう。また、「不動産投資にはお金がかかる」 というイメージが心理的障壁となり、投資に踏み切れない人も少なくありません。
その一方で、年収が高く、家族のために資産を残したいと考える人たちも存在します。こうした人は不動産に安心して投資できる方法を求めていたり、投資物件を選定するために信頼できる情報や投資する理由 (後押し) を必要としています。不動産投資は高額な取引であるため、失敗したくないという心理もあることでしょう。
こうした顧客心理を考慮すると、不動産投資サービスを選んでもらうためには、見込み顧客の将来に対する不安を解消し、資産形成への具体的な一歩を踏み出すきっかけを提供することが重要になります。
あわせて、不動産投資に対する心理的バリアーを取り除き、安心感と信頼性を訴求することで、見込み客の態度変容や行動変容を促すことができるでしょう。
RENOSY の価値提案
ここまでの文脈から、先ほどの RENOSY の動画広告は顧客心理を理解しての訴求内容になっていることがわかります。
RENOSY は国内 No.1 の販売実績データをもとに物件を選定できる不動産投資サービスでなること、また、AI を活用して収益性の高い物件を厳選できることなど、お客さんに安心感を提供する姿勢を打ち出しています。
また、「月々1万円で確度の高い不動産投資ができる」 というメッセージも入れ、不動産投資を始める心理的なハードルを下げようとしています。
ジョブ理論
では、RENOSY の事例に別の視点を加えて、マーケティングへの学びをさらに深めていきましょう。補助線として使いかたいのが 「ジョブ理論」 です。
ジョブとは
ジョブとは 「ある特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。
提唱したのはクリステンセンで、ジョブの定義を次のように表現しました。
the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.
ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。
ジョブはもともとの英語では "Jobs to Be Done (JTBD) " といいます。日本語に直訳すれば 「片付けたい用事」 や 「済ませたい仕事」 という意味です。
ジョブにもう少し意訳を入れると、ジョブという進歩とは、人が置かれた状況において達成したい目的、解決したい問題、対処したい課題を指します。
ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをジョブを終わらせるために 「雇うもの」 ととらえることにあります。お客さん (雇用者) が商品を 「ワーカー (被雇用者) 」 として雇い、ワーカーに働いてもらうことでジョブが完了し、状況が進歩するという考え方です。
ジョブの3つの側面
ジョブ理論では、お客さんのジョブには3つの側面があるとします。
- 機能的ジョブ: 商品やサービスが直接的に対処する課題
- 感情的ジョブ: 商品やサービスを通して得られる感情的な満足
- 社会的ジョブ: 商品やサービスを使うことで得られる社会的評価 (他人から自分のことをこう見られたいという要素)
それぞれをもう少し補足しますね。
機能的ジョブ
機能的ジョブは、具体的な問題解決や作業の効率化など、実用的な側面です。
お客さんはジョブを達成するために、機能的なメリットを求めて商品やサービスを選びます (雇う) 。たとえば、新しい掃除機を購入する際、お客さんは 「家をより効率的に掃除する」 という機能的なジョブを達成するために掃除機を雇います。
感情的ジョブ
感情的ジョブは、お客さんが商品やサービスを通じて感じる個人的な満足感や安心感などに関連するものです。ストレスの軽減、幸福感の向上、自信の増加などが含まれます。
たとえば、環境に良いエコな商品を購入することで、人は 「自分は環境に良い行動をしている」 という自己肯定感を満たしてのジョブの完了を求めています。
社会的ジョブ
社会的ジョブは、お客さんが商品やサービスを雇うことで、他者との関係や社会的地位を向上させたいという欲求にもとづくものです。他人からの評価、所属感、社会的評価などです。
たとえば、高級ブランドの時計を買う (雇う) 場合、お客さんは自己満足感だけではなく、「高級腕時計をつけるに値する高いステータスのある人物」 とまわりから見られたいという社会的ジョブが隠れています。
RENOSY が捉えたジョブ
では RENOSY の事例に、ここまで見てきたジョブ理論を当てはめてみましょう。ジョブの3つの側面はそれぞれ次のようになります。
- AI が活用されたサービスで効率よく収益性を高めたい
- お金をかけずお小遣い感覚の金額感から始めたい。できればお得にやりたい
✓ 感情的ジョブ
- ここなら大丈夫という安心感を得たい
- ずっといつかやろうと思っていた資産運用に一歩踏み出せた達成感・進捗感を得たい
- 家族のために自分はいいことをしているという満足感を得たい
- 将来への不安をなくし希望を持ちたい
✓ 社会的ジョブ
- 将来のことを考えている人とまわりから思われたい
- 賢い投資家としての評価を得たい
- パートナーや家族から良い夫や父親と思われたい
それぞれを補足します。
機能的ジョブ
不動産投資サービスのお客さんが求める機能的ジョブには、効率的な収益性の向上があります。
また、多くのお金をかけずに、お小遣い感覚の金額から不動産投資を始めたいというニーズもあるでしょう。できるだけお得に不動産投資を行いたいという気持ちです。
感情的ジョブ
感情的ジョブにおいては、「このサービスなら大丈夫」 という安心感を得たいという心理です。いつかやろうと長い間で思っていた資産運用に一歩踏み出すことで、達成感や進捗感を得たいと考えています。
また、家族のために良いことをしているという満足感を得たい気持ちもあります。ほかには将来の不安をなくし、希望を持ちたいという願望も感情的な要素です。
社会的ジョブ
社会的ジョブでは、将来のことを考えている人だと思われたいという欲求です。賢い投資家として評価されたいという望みもあるでしょう。
また、パートナーや家族から良い夫や父親と思われたいという気持ちもあります。
ジョブを捉えワーカーとなる
このように 「ジョブ理論」 というレンズを通すことで、GA technologies は RENOSY という不動産投資サービスを提供するにあたり顧客心理を的確に捉えていることがわかります。
お客さんの機能的、感情的、社会的なジョブを把握し、自社サービスを選んでもらう、すなわちジョブを完了する 「ワーカー」 として雇ってもらうことを狙ったマーケティングコミュニケーションを実施しているのです。
学びの汎用化
それでは、RENOSY の事例からの学びを汎用化して整理しておきましょう。
他ではなく自分たちの商品・サービスがお客さんから選ばれる、ジョブ理論で言えば "雇われる" ためのポイントは次のとおりです。
- お客さんを決める
- そのお客さんの背景 (顧客文脈や置かれた状況) を理解する
- お客さんが雇うためのバリアーを見極め、解消する
- やりたかったことに一歩踏み出せるきっかけをつくる (手軽に雇えるものとする)
では順番に見ていきましょう。
顧客設定
まず、ターゲットとなる顧客層を明確に定義することが最初です。
年齢、性別、職業、収入などの基本的な顧客属性だけではなく、ライフスタイルや価値観、抱えている問題や達成したい目標など、多面的な視点から顧客像を描き出します。
顧客理解
次に、定義した顧客層の背景やコンテクスト、つまりお客さんの状況や文脈を深く理解することが求められます。
お客さんがどのような環境で商品やサービスを利用するのか、どのような課題や欲求を抱えているのかを把握します。このときにジョブというレンズを使い、機能的・感情的・社会的な側面に注目するといいでしょう。
たとえば顧客インタビューを直接行い、ジョブや置かれた状況を詳しく理解します。
バリア解消
さらに、お客さんが商品やサービスを "雇う" ためのバリア (障壁) を見極め、解消することが大事です。
たとえば価格、利便性、リスク、心理的抵抗感など、お客さんが買う (雇う) のをためらったり邪魔をする要因は何かです。
一般的なバリアとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 情報不足: お客さんが自社のサービスについて十分な情報を持っていない
- 不安: サービスの安全性や効果について不安を持っている
- 時間や手間: サービスを利用する時間がない、手間がかかると思っている
- コスト: サービスの費用対効果に納得していない (期待価値に対して値段が高いというイメージを持っている)
想定するお客さんの中にどのようなバリアが存在するかを分析し、それぞれのバリアを解消するための施策を講じることが大切です。バリアを取り除くことで、お客さんの行動を促すことができます。
アクションへの誘導
そして、お客さんがやりたかったことに一歩踏み出せるきっかけをつくることが求められます。
商品やサービスを手軽に "雇える" ものとして設計し、すなわち 「ジョブスペック」 というワーカーとして雇われる要素を実現し、お客さんが気軽に試せる環境を整えることで、お客さんの行動変容を促すことができるでしょう。
具体的には、次のような方法が有効です。
- 無料トライアル: お客さんが無料でサービスを試せる期間を設けることで、リスクなくサービスを体験できる機会を提供する
- 割引キャンペーン: サービスを割引価格で購入できるキャンペーンを実施し、初期費用を抑える
- 特典: サービスを利用したお客さんに特典を提供することで、顧客満足度を高める
- 成功事例の共有: 既存のお客さんの成功事例を共有することで、不安を解消する
こうしたバリアを取り除く施策も組み合わせることで、お客さんに雇ってもらうハードルを下げていきます。
まとめ
今回は、不動産投資サービスの RENOSY (リノシー) を取り上げ、ジョブ理論とつなげて学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ジョブ理論は、お客さんが特定の状況で達成したい進歩を 「ジョブ」 として捉える。商品やサービスのことをジョブを達成するために 「雇うもの」 という考え方をする
- ジョブは、機能的ジョブ、感情的ジョブ、社会的ジョブ (他人から自分のことをこう見られたい) の3つの側面に分類される
- ① 機能的ジョブは具体的な問題解決や作業の効率化、② 感情的ジョブは個人的な満足感や安心感などの向上、③ 社会的ジョブは他者からの評価や社会的地位の向上を目指す要素
- お客さんに自社商品を雇ってもらうためのポイントは、ターゲット顧客を明確にし、置かれた状況からなぜそのジョブが生まれているのかを理解する
- ジョブを解決するための雇う判断基準 (ジョブスペック) を満たし、邪魔をしているバリアを解消することで、お客さんに雇われ選ばれる状態をつくる
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