#マーケティング #ジョブとワーカー #ドライバーとバリア
お客さんの心理的な動きや行動の変化について、どのくらい理解できているでしょうか?
マーケティングを成功させるためには、お客さんが商品やサービスを選ぶ際の心理、動機、あるいは障壁を深く理解することが欠かせません。しかし、そのための明確な指針がないと感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、マーケティングの 「ジョブ理論」 をもとに、お客さんの心理と行動に影響を与える4つの重要な概念 ── ジョブ、ワーカー、ドライバー、バリア ── について解説します。
これらの概念を理解することで、お客さんのニーズをより的確に応えられるマーケティング戦略を立てられるようになります。
ジョブ
最初は 「ジョブ」 について見ていきましょう。
もともとはクリステンセンが提唱した 「ジョブ理論」 からです。
”済ませたいこと”
ジョブは "Jobs to Be Done (JTBD) " とされ、日本語に直訳すれば 「片付けたい用事」 や 「済ませたい仕事」 という意味です。
クリステンセンのジョブの定義は 「ある特定の状況で人が遂げようとする進歩 (progress) 」 で、次のように表現しました。
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the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.
ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。
ジョブにもう少し意訳を入れると、ジョブとは人が特定の状況において、商品やサービスを使って、達成したい目的、解決したい問題、対処したい課題を指します。
ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをジョブを終わらせるために 「雇うもの」 ととらえることです。
お客さん (雇用者) は商品を “被雇用者” や "ワーカー" として雇い、ワーカーに働いてもらうことでお客さんのジョブが完了するという考え方です。
ジョブの具体例
ジョブの例は、家の部屋を手間をかけずに掃除したい、時間を節約したい、きれいな家に住みたい、自宅で気持ちよく過ごしたい、家族との時間を増やしたいなどです。
こうしたジョブに対して雇うワーカーの候補が自動掃除ロボット、掃除代行サービスなどです。
ジョブは、日本のマーケティングの中ではニーズほどは頻繁には出てこないワードですが、個人的には私はジョブの概念は考えやすく使いやすいと思っています。
というのは、商品・サービスを手段とし 「ワーカー」 と位置づけることで、本当のお客さんの望み (ジョブ) を把握しようと目が向き意識が高まり、自社商品はお客さんにとって何のために存在するのかを考えられるからです。
ドライバーとバリア
では次に 「ドライバー」 と 「バリア」 についてです。
ドライバーとバリアは、お客さんの行動に影響を与える要素です。矢印の向きは正反対になりますが、まずはドライバーから見てみましょう。
ドライバー
人が何かを買うシチュエーションに当てはめると、「購入ドライバー」 とは人が商品やサービスを購入する主な理由や動機です。
たとえば、商品が自分向けだと感じる、こんな価値がありそう (期待価値) 、あの人がおすすめしていた、タイミングよくセールをしていていつもより安い、これらが購入への背中を押すドライバーになります。
購入ドライバーはお客さんの商品・サービスへの関心を高め、最終的には購入につながる要因となります。
バリア
バリアの意味は 「障壁」 というニュアンスです。
購入におけるバリアは、人が商品やサービスを今買わない要因、または購入プロセスを遅らせたり意図せず止めてしまう障害となるものです。
たとえば、ほしい商品が高価格なので手が出せない価格の障壁、もう少し商品情報や使っている人の感想 (口コミ) を知りたいがどこにも載っていないという情報不足、SNS でネガティブな投稿を見てその商品へのマイナスのイメージを持ってしまったなどのブランドイメージの悪化、他にもっといい商品が見つかったという代替品の存在もバリアです。
こうした購入へのバリアがあることで人は買うという気持ちにはならず、売り手にとっては販売機会を失う要因になります。
ドライバーとバリアは、たとえバリアを取り除いたとしても、もう一押しとなるドライバー (購入への動機) がないと、結局は買われないということもあります。
ジョブ、ワーカー、ドライバー、バリアの関係性と心理的変化
ここまで見てきたジョブ、ワーカー、ドライバー、バリアの4つの概念を見てきました。
これら4つは、お客さんの行動と心理に密接に関連しています。ひとつひとつが重要な役割を持ちながらも、相互に影響を及ぼし合い、お客さんの最終的な購入決定に至るプロセスを形成します。
4つを俯瞰して理解を深めるために、流れに沿って見てみましょう。
心理的変化の始まり (ジョブの認識)
まず、お客さんが何かしらの 「進歩」 を遂げたいと感じた瞬間に、ジョブの認識が起こります。進歩への気づきは、新しいことの習得、問題の解決、または生活の質の向上など、さまざまな形で表れます。
たとえば、家を効率的に掃除したいというジョブが生まれると、お客さんはそのジョブを完遂するための最適なワーカー (商品やサービス) を探し始めます。
ワーカーの選択とドライバーの作用
お客さんがジョブを認識すると、次にそのジョブを完了できるワーカーを選ぶ過程に移ります。
この選択は、ドライバーによって影響されます。ドライバーは、商品の魅力、期待される価値、おすすめ情報の影響など、お客さんがそのワーカーを選ぶ際の積極的な動機付け要因となります。
この段階でお客さんは商品やサービスに対するポジティブな期待を持ち、購入へと進む可能性が高まるでしょう。
バリアの影響と心理的抵抗
ただし、購入プロセスは常に順調に進むわけではありません。
というのは、バリアが存在することでお客さんは購入を躊躇したり、別の選択肢を検討したりすることがあるからです。価格の問題、情報の不足、ブランドイメージの悪化などがこれに該当します。
バリアによりお客さんの心理に不安や疑問が生じれば、ジョブの完了が阻害されてしまいます。
ジョブ理論を通じた全体の理解
これらの4つの概念 (ジョブ, ワーカー, ドライバー, バリア) はこのように連動して機能し、お客さんの心理的な動きや行動の変化を引き起こします。
ジョブが顕在化し、適切なワーカーの候補を思い浮かべ、ドライバーによって背中を押され、バリアが最小限に抑えられた場合、お客さんは特定の商品やサービスをジョブの完了のために雇うことになるのです。
このプロセスを理解することは、マーケティング戦略を構築し、実行に移し、より効果的にお客さんのニーズに応えるために大切です。
ジョブ、ワーカー、ドライバー、バリアは連携してお客さんの購買行動を形成し、心理的な変化を促進します。各要素は個別に重要でありながら、それぞれが相互に影響し合い、お客さんの行動を決定づけるダイナミクスをつくり出しているのです。
まとめ
今回は、ジョブ理論を中心に、人の購買への心理変化をあらためて考察し言語化しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ジョブとは 「ある特定の状況で人が遂げようとする進歩」 。人がその状況の下で商品やサービスを使って、達成したい目的、解決したい問題、対処したい課題を指す
- 商品やサービスはジョブを完了させるための 「ワーカー」 である、商品を 「雇うもの」 と捉える
✓ ドライバーとバリア
- ドライバーは、人が商品やサービスを購入する主な理由や動機となるもの
- バリアは、人が商品やサービスを今買わない要因、購入プロセスを遅らせたり止めてしまう障壁。意図せぬバリアにより売り手は販売への機会損失をつくってしまう
✓ 4つの概念の関係性と心理的変化
- お客さんが 「進歩」 を遂げたいと感じた瞬間に、自分のジョブに気づく
- その状況でジョブを済ませられる候補となるワーカーを選ぶ。このときにドライバーが積極的な動機付け要因となる
- しかし、もしバリアがあると、お客さんの心理にそのワーカーでいいのかという不安や疑問が生じ、ジョブの完了が阻害されてしまう
- ジョブ、ワーカー、ドライバー、バリアはそれぞれが相互に影響し合い、連携して購買行動に結びつく
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