#マーケティング #ジョブ #ワーカー
自社商品は、本当にお客さんの求める 「ジョブ」 をこなしているでしょうか?
ジョブ理論 (Jobs to Be Done) は、お客さんが商品やサービスに何を求めているのか、どのように活用しているのかを理解するための強力なツールです。
今回は、cado (カドー) の布団乾燥機 「FOEHN (フェーン) 001」 が、なぜ市場で成功を収めたのかをジョブ理論の視点から解説します。
従来の布団乾燥機が果たせなかった役割を 「FOEHN 001」 がどのように担い、お客さんに選ばれる存在になったかを紐解けば、マーケティングに新たな視点が得られるはずです。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
FOEHN 001
「FOEHN (フェーン) 001」 は、家電メーカーの cado (カドー) 社が開発した布団乾燥機です。
多幸感を感じるふかふかの布団に
応援購入サイトのマクアケでは、FOEHN 001 は3万9千件以上のプロジェクトの中で歴代21位、家電カテゴリーでは4位の1億5000万円以上の支援を集めました。
FOEHN 001 は、ふっくらさらさらの布団をこよなく愛する cado の開発者の2人が3年をかけて追求した 「こうだったらいいのに」 という布団乾燥機です。「多幸感を感じるふかふかの布団を毎日使えるようにしたい」 という思いから生まれ、手軽さにこだわって設計されました。
機能的な特徴
折り畳み傘ほどの小型サイズながら、FOEHN 001 は強力な送風機能を備えています。
FOEHN 001 は一般的な布団乾燥機とは異なり、ノズルと本体が一体化されたスリムな形状になっています。一般的な布団乾燥機の約100倍の回転数を持つ強力なモーターを搭載し、重い布団を持ち上げる風圧と足元まで届く風速を実現しました。
FOEHN 001 は本体のスイッチはわずか4つで、説明書なしでも直感的に操作できます。ふっくら温めるのに10分、ダニやトコジラミ対策には1時間程度で済みます。
FOEHN 001 は安全面にも細心の注意が払われ、10種類の安全装置を搭載。子どものおねしょ、ペットの毛の吸い込み、毛布の巻き込みなど、あらゆる利用シーンを想定して起こらないように対応しています。
布団乾燥機の 「買い替え需要」 を捉える
FOEHN 001 は2万4200円という高価格にもかかわらず、2023年の販売数は計画の約3倍に達し、発売当初は生産供給が追い付かないほどでした。購入者は30 ~ 50歳代の女性が中心で、全体の約半数が買い替え需要でした (参考記事) 。
花粉症やアレルギー体質の人の増加により、布団乾燥機は季節を問わない売れ筋商品となりつつあります。
ジョブ理論から考察する FOEHN 001
では、FOEHN 001 から学べることを掘り下げていきましょう。
ジョブ理論の観点で学びがあります。
ジョブ理論とは
ジョブ理論 (Jobs to Be Done) は、クレイトン・クリステンセンによって提唱された理論です。
ジョブの定義は 「人がある特定の状況で遂げたい進歩」 です。ジョブとは人が片付けたい用事や達成したいタスクのことを指します。
ジョブ理論で特徴的なのは、製品やサービスのことをお客さんのジョブを達成するために 「雇われる」 と見立てます。つまり、お客さんは製品のことを、自分のジョブを片付けるために働いてくれる 「ワーカー」 として雇用し選び、利用するのです。
FOEHN 001 が捉えたジョブ
cado の布団乾燥機 FOEHN 001 は、応援購入サイトのマクアケで大成功を収めた商品ですが、ジョブ理論というレンズを通して見ることでヒット理由が浮かび上がってきます。
FOEHN 001 が捉えたジョブとは、 「毎日ふかふかで清潔な布団で快適に眠ること」 です。少なくない家庭で布団乾燥機が押入れの奥に眠っていた理由は、乾燥機のサイズが大きく、取り出すのが面倒だったためです。つまり、従来の布団乾燥機は、期待された働きを十分に果たしていなかったのです。
既存のワーカーの不十分な働き
既存の布団乾燥機は、ユーザーが期待するジョブを満たすために雇われましたが、実際にはワーカーとしての働きが足りませんでした。
これにはいくつかの理由があります。サイズが大きく、収納場所を取るため収納スペースの奥に仕舞われ、使いたい時にすぐに取り出せないという問題があります。さらに、操作が複雑で、使い勝手が悪いことも一因でしょう。
その結果、少なくない家庭で布団乾燥機は使われずに、しまい込まれたままになっていたわけです。
FOEHN 001 の 「ジョブスペック」
この状況で新たな 「ワーカー」 として登場したのが FOEHN 001 でした。
FOEHN 001 は、従来の布団乾燥機が持っていなかった 「ジョブスペック (ジョブを完了させる要素, ワーカーとして雇用される条件) 」 を備えていました。
具体的には、コンパクトなサイズで収納が容易であり、ボタンが4つだけのシンプルな直感的な操作性を実現しています。さらに、強力な送風機能を持ち、重い布団を持ち上げる風圧と足元まですばやく風を届ける風速も実現しました。
FOEHN 001 は一般的な布団乾燥機の使い勝手の悪さという問題を解消し、ユーザーが求めるジョブを効果的に達成できるジョブスペックを持つ製品となっているのです。
マーケティングへの学びの汎用化
FOEHN 001 の事例から、マーケティングにおいて学べる教訓がいくつかあります。
ターゲット顧客を定める
製品を開発したりマーケティングを行う際には、明確なターゲット顧客を定めることが重要です。
FOEHN 001 の場合、忙しい30 ~ 50歳代の女性が主なターゲット顧客でした。この層は、家事や子育てに忙しく、手軽に布団を乾燥させたいという望みを持っていました。
顧客の 「状況」 を把握する
次に、お客さんの状況を深く理解することが求められます。
たとえば、既存の布団乾燥機が使いにくいため、押入れの奥にしまい込まれているという実態を把握するというようにです。
成し遂げたい進歩 (ジョブ) を理解する
次に、お客さんがその状況において達成したい進歩、すなわちジョブを正確に理解することが必要です。
FOEHN 001 が捉えたジョブは、「毎日ふかふかで清潔な布団で快適に眠ること」 でした。
既存のワーカーの不十分な働きを把握する
見出したジョブに対して、既存のワーカー (競合となる製品やサービス) がどのような働きをし、また何がジョブの解決を不十分としているかを分析します。
FOEHN 001 の場合、既存の布団乾燥機が大きくて使いにくいという問題点を見出しました。
ジョブスペックをつくる
自分たちがワーカーとして選ばれるためのジョブスペックを設計します。
今回の事例では、コンパクトなサイズ、シンプルな操作性、強力な送風機能などが FOEHN 001 のジョブスペックになりました。
顧客の文脈や状況に合うワーカーとして訴求する
自分たちの製品をお客さんの文脈や状況に合うワーカーとして訴求し、選ばれる状態をつくります。
FOEHN 001 は、忙しい生活の中でも手軽に使える布団乾燥機として、お客さんに訴求しました。
cado の FOEHN 001 の成功は、ジョブ理論の視点で見ればマーケティングが有効に機能した事例です。
私たちが学べるのは、お客さんの状況を深く理解し、その状況下で達成したいジョブを明確にする。そして、お客さんのジョブを満たすためのジョブスペックを備える製品をつくり、お客さんに製品の魅力を訴求する。そうすることで、お客さんにとっての価値のあるワーカーという存在になれるのです。
まとめ
今回は cado の布団乾燥機 「FOEHN 001」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ジョブは 「人がある特定の状況で遂げたい進歩」 。お客さんが片付けたい用事や達成したいタスクのこと。ジョブ理論では、製品やサービスのことをお客さんがジョブを達成するためにワーカーとして 「雇われる」 と捉える
- ターゲット顧客を明確に定め、お客さんの状況を理解する。そして、その状況でお客さんが達成したいジョブを見極める
- こうした顧客理解にもとづいて、ジョブを完了できる要素 (ジョブスペック) を反映した製品・サービスをつくり、顧客文脈に沿った価値提案 (あなたのジョブを解決しますという期待価値の提案) をすることで、お客さんに選ばれる状態にする
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