投稿日 2024/10/17

行列店に即入れる "飲食店ファストパス" な TableCheck FastPass 。価格設定と顧客価値への顧客心理を考える

#マーケティング #価格設定 #顧客心理

人気のお店で食事をしようとしたときに、長蛇の列を見て断念したことはないでしょうか?

せっかくお店まで来たのに、待ち時間が長すぎて諦めるなんてもったいない話ですよね。でも、もしその行列をスキップして、優先的にお店に入れるとしたらどうでしょうか?

もちろん、そのためには追加の料金を払うことにはなりますが、時間を節約できる代わりに料金を支払うというテーマパークの "ファストパス" の選択肢があれば、あなたはどう思いますか?

今回は、飲食店の優先案内サービス 「TableCheck FastPass」 を取り上げ、価格と顧客価値への人間心理を掘り下げます。さらに、このアプローチを他のビジネスに応用できる可能性についても考えていきます。

TableCheck FastPass



2024年2月に飲食店の検索・予約サイト 「TableCheck (テーブルチェック) 」 が 「TableCheck FastPass (テーブルチェック ファストパス) 」 を開始しました。

サービス内容と利用状況

TableCheck FastPass は、追加料金を支払うことで人気のお店でも行列に並ばずに食事ができる優先案内サービスです。

行列に並ばずに済むことでユーザーは時間を節約できます。行列店にすぐに入れる 「飲食店ファストパス」 のようなイメージです。特に観光客や遠方から訪れる人、忙しくて1分でも時間が惜しい人とって魅力的なことでしょう。

飲食店にとっても追加料金を収益として得られ、機会損失を防ぐ手段となります。

TableCheck FastPass はサービス開始から4ヶ月で、累計利用者数が3万3500人を超えています (参考記事) 。

現在、利用できるのは 「ミシュランガイド東京」 で一つ星を獲得した中華そばの名店・銀座八五 (きんざはちご) や、約70年の歴史を持つ老舗・みなと寿しなど全国26店舗です。年内に300店舗での導入を目指すとのことです。

サービス開始の背景

TableCheck FastPass は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン (USJ) の 「ユニバーサル・エクスプレス・パス」 や東京ディズニーリゾートの 「プライオリティパス」 といった優先案内サービスから着想を得ました (参考記事) 。

TableCheck の代表取締役社長 CEO である谷口優 (たにぐち ゆう) さんは、飲食店の価格設定に疑問を持ったことがサービスを立ち上げるきっかけになりました。

価格設定への疑問とは、平日と週末でお店の混雑度が異なるのに、同じ価格で食事を提供するのは不合理でないかというものです。また、谷口さんが熊本県のラーメン店で長時間待った経験も、サービス導入の決意を後押ししました。

料金設定の今後の課題

TableCheck FastPass では予約手数料を各店舗がそれぞれ設定しています。

390円や500円の店舗が多いものの、1000円や2000円とする店舗もあります。TableCheck は、適正な手数料についてはまだ答えが出ていないと見ているようです。

今後、利用者データの蓄積により、需要に応じた価格変動 (ダイナミックプライシング) が可能になるだろうと TableCheck では見込んでいます。現時点ではまだ解決すべき問題点はあるものの、将来的には来店客が少ない日は割引するなど、柔軟な価格設定になることを期待したいです。

TableCheck FastPass のメリットと顧客心理


では、TableCheck FastPass への考察として、ユーザーメリット、サービスを使いたいと思うユーザー心理について掘り下げてみます。

行列に並ぶ必要がなく、人気店を利用するために追加料金を払うことで、ユーザー側のメリットや使いたいと思うお客さんの気持ちはどんなものがあるのでしょうか?

状況に応じた柔軟な選択

人は、状況に応じて無意識的にもさまざまな要素から総合的に判断するものです。

たとえば、出張先や旅行先では追加料金を払ってでも食事を確保したいと考えたとしても、日常的な外食ではそこまでの必要性はないかもしれません。混んでいればまた別の機会にと考え、他の空いているお店を選ぶこともあるでしょう。

TableCheck FastPass は、ユーザーの状況に応じて、お金を多く払ってでも利用したいというシチュエーションで価値を発揮します。消費者がお金と時間を天秤にかけ、時間や機会を優先したいときの新たな選択肢を提供するわけです。

時間の節約

時間は貴重な存在です。とりわけ忙しいビジネスパーソンや観光客にとっては、いくら人気店だとしても長時間行列に並ぶことは避けたいことです。

行列を見てあきらめて引き返すことなく、確実に食事ができるお店を使えることで、機会損失を避けられます。これは消費者が 「せっかく来たのに無駄になった」 という残念な体験をなくせることを意味します。

確実に食事を楽しめる安心感

遠方から来る人にとって、わざわざ訪れたお店が行列で食事ができないというのはがっかりするものです。また、せっかく並んだのに自分の番が来る前に目当てのものが売り切れてしまうなんてこともあるかもしれません。

しかし、TableCheck FastPass では追加料金を支払うことで、確実にその店の料理を食べられて楽しめるという安心感が得られます。この安心感が、追加料金を払う価値があると感じさせることでしょう。

特別な体験への価値

話題の人気店や評価の高い店で食事をすることは、多くの人にとって特別な体験となります。お店に着いてすぐに入店できる体験はうれしいことです。

追加料金を支払うことで、その特別な体験を手に入れられる、一定数の人はその価値を見出すはずです。こうした心理は、特別なイベント時や旅行中の状況においては、特に強く影響すると考えられます。

これらの点を踏まえると、追加料金を払うことで、行列に並ぶ時間を他のことに使えるというメリットが得られます。お金をかけることでタイパ (タイムパフォーマンス) の分母にあたる時間を減らせ、また、待たずにお店を利用できたことによる顧客体験価値が高まれば分子も大きくなり、分母と分子のダブルでタイパに効きます。


さまざまなビジネスへの応用


お客さんの状況に応じた柔軟な選択肢を提供し、お客さんが時間の節約や機会損失の回避、特別な体験への価値を見出せるようにすることは、他のビジネスにおいて重要な考え方になります。

スポーツイベントでの VIP チケット販売

たとえば、スポーツイベントのチケット販売においても、同様のアプローチが有効です。

一般的な価格帯のチケットに加えて、追加料金を支払えば優先入場ができる VIP チケットを用意することで、お客さんに柔軟な選択肢を提示できます。

遠方から訪れるので会場に到着するのは開始ぎりぎりになる人、小さい子どもがいる家族連れの人などは、長蛇の列に並ぶのをできれば避けたいと思い、追加料金を払ってでも早く確実に入場したいと考えるでしょう。

待ち時間というあまり楽しめない顧客体験をすることなく、観戦を楽しめます。一方、地元から来ているお客さんは比較的時間に余裕があるため、手頃な価格の一般チケットを選ぶかもしれません。

また、VIP チケットには専用の休憩スペースやグッズなどの特典が追加されれば、それ自体も 「特別な体験」 として捉えられ、追加料金を支払う価値をより見出しやすくなります。イベントに合わせた限定特典であれば、さらにその価値は高まるでしょう。

価格設定と顧客価値

このように、お客さんの状況や心理に応じて、価格や付加価値を柔軟に変えられる仕組みを取り入れることで、お客さんの求めるレベルに合わせた展開ができ、顧客満足度を高められます。

それぞれのお客さんが自身の状況とニーズに合った最適な選択をでき、売り手側も収益機会を最適化できるため、買い手と売り手で Win-Win の関係が生まれます。

価格に応じた顧客価値の違いを明確に打ち出し、どちらか一方への不公平感を生みだすことなく、状況に応じた柔軟な選択肢を用意することポイントです。TableCheck FastPass が示したように、このアプローチは飲食業に限らず、他のビジネスにおいて有効な手段となります。

まとめ


今回は、追加料金を支払うことで人気店でも行列に並ばずに食事ができる優先案内サービス 「TableCheck FastPass」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

追加でお金を払ってでも、ファストパス的な優先案内サービスを使いたい顧客心理
  • 出張や旅行中、時間が惜しい人、家族連れなどの状況では、追加料金を払ってでも優先的に利用したい
  • 時間の節約ができ、行列に並ぶ時間を他の活動に使える
  • 行列に並ぶ必要がなく、また売り切れなどで利用できずにあきらめて帰ることなく確実に利用できる安心感
  • 人気店での食事を並ぶことなく、着いてすぐに入店できる特別な体験価値を得たい


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。