#マーケティング #ブランド #本
今回はマーケティングの本でおすすめの一冊をご紹介します。
こちらの本、 "ブランド・パワー - ブランド力を数値化する 「マーケティングの新指標」 (木村元 (きむらつかさ) ) " から学べるポイントは、次のとおりです。
- ブランド・パワーとは何か
- ブランド・パワーの測定方法
- 効果的なブランドコミュニケーション戦略のポイント
ブランド力をどう調査するか、測るかについて、個人的には学びがあった本です。
自社商品のブランド力を高める秘訣、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
ブランドとは
本書 (著者) の定義では、ブランドとは、企業や個人が提供する価値、品質、信頼性、そして顧客との感情的なつながりを包括するものです。
これに加えて、ブランドはプロダクトやサービスを提供する主体だけでなく、その背後にあるブランドのビジョン、使命、価値観もブランドに含まれるとしています。
「ブランド力」 と 「買いやすさ」
この本の前提にある考え方は、売上を拡大させるためには2つのことが重要であるというものです。2つとは、
- 強いブランドをつくること
- 製品の見つけやすさ・購入しやすさを高めること
ブランド力だけでは、お客さんからの購入にはつながりません。ブランドが競争力を持ち成功をおさめるためには 「物理的な購入のしやすさ (フィジカルアベイラビリティ) 」 があることが重要です (上記の2つの後者) 。
製品の在庫状況や販売チャネル、配荷 (店頭に商品が売られている状態にすること) などが適切にされており、商品やサービスがお客さんに対して物理的に購買可能な状況であることが、売上に強く影響します。
ブランド・パワー
ここまで見てきた 「ブランド力」 と 「買いやすさ」 の2つのうち、本書がメインで扱うのは前者のブランド力です。
ブランド力のことを、本書ではタイトルにもなっている 「ブランド・パワー」 と表現します。ブランド・パワーとは、お客さんがどれだけそのブランドを認識し、評価しているかを可視化するものです。
お客さんからの買いやすさという 「フィジカルアベイラビリティ」 に対し、本書が詳しく解説するのは、お客さんの心の中におけるブランド想起のされやすさとその度合いである 「メンタルアベイラビリティ」 です。
ブランド・パワーの測り方
では 「ブランド・パワー」 をどうやって測るかを詳しく見ていきましょう。
想起スコアとイメージスコア
ブランド・パワー (Brand Power Analytics) は大きく2つの項目があります。
- ブランド想起のスコア (= Brand Awareness Score)
- ブランドイメージのスコア (= Brand Image Score)
この2つについて、定量調査をもとに次の合計6つの指標を見ていきます。
- 助成想起率
- 純粋想起率
- 想起集合率 (エボークトセット (購入検討時の候補) )
- 購入率
✓ ブランドイメージ (Brand Image Score)
- POP (Points of Parity)
- POD (Points of Difference)
POP と POD とは
ブランドイメージを分解した POP と POD についての補足です。
POP は Points of Parity の略で、その商品カテゴリーでお客さんから最低限に求められる必須の要素です。
英語の Parity は 「等しい」 というニュアンスがあります。POP はそのカテゴリーの中でどの商品も等しく持っている特徴 (必須の要素) です。売り手にとってはカテゴリーに参入するために必要な “チケット” や “入場券” のような存在です。POP は他社には 「負けない」 という内容です。
それに対して、POD は Points of Difference の略で差異化要素です。
商品やサービスが他と異なるユニークな価値をつくることで、お客さんからの関心を引き、選ばれる理由を提供します。POD は他社に 「勝てること」 です。
Brand Awareness Score
ブランド想起の4つ、助成想起、純粋想起、想起集合、購入率は、それぞれ次のように測ります。
- 全回答者のうち、自社ブランドを知っていた人の割合を算出
- [設問例] この中で知っているブランドをすべて選択してください (複数選択式)
✓ 純粋想起率
- 全回答者のうち、カテゴリー内にあるブランドとして自社ブランドを挙げた人の割合を算出
- [設問例] ○○ のカテゴリーの中で思い浮かぶブランドはありますか (記述式)
✓ 想起集合率
- 全回答者のうち、当該カテゴリーで購入候補に入るブランドとして自社ブランドを挙げた人の割合を算出
- [設問例] ○○ のカテゴリーで思い浮かぶブランドの中で、購入候補に入るブランドはありますか (記述式)
✓ 購入率
- 全回答者のうち、自社ブランドを該当期間に購入した人の割合を算出
- [設問例] ○○ カテゴリーで、直近○○ヵ月以内に購入したブランドをすべて挙げてください (記述式)
認知は 「量」 と 「質」 に分けて捉えるといいですが、4つのうち助成想起は認知の 「量」 、純粋想起から先は認知の 「質」 となります。
ロイヤルティ指標
上記の Brand Awareness Score の定点観測に、さらに次の4つの項目を追加して、ロイヤルティファネルの分析まで取り組むといいでしょう。
- Brand Awareness Score の購入率に関する設問で 「自社ブランドを購入したことがある」 と回答した人のうち、2回以上リピート購入している人の割合
- [設問例] この中で過去1年以内にリピート購入したブランドはありますか? (複数選択式)
✓ 愛着率
- リピート顧客のうち、ブランドに対する愛着を持っている人の割合
- [設問例] 自社ブランドに関して当てはまるものはどれですか? (とても好き ~ まったく好きでないの段階評価式)
✓ 推奨率
- リピート顧客のうち、他者にブランドをおすすめしたいと思う人の割合
- [設問例] 自社ブランドに関して、当てはまるものはどれですか? (積極的に推奨したい ~ まったく推奨したくないの段階評価式)
✓ 発信率
- リピート顧客のうち、不特定多数の相手にブランドについて発信している人の割合
- [設問例] 自社ブランドに関して、当てはまるものはどれですか? (積極的に発信している ~ まったく発信していないの段階評価式)
特徴的なのは 「愛着」 よりさらに先のロイヤルティ指標があることです。
愛着をゴールにするだけではまだ足りないという考え方からです。
ウェブ上で大量の情報に日々触れている消費者は、ブランド発の情報だけではなく、自分の信頼できる人からの情報を手がかりに買うかどうかを見極めることが一般的です。周囲の人のおすすめが影響力を持っているわけです。
ロイヤルティがさらに高まると、一部のお客さんは周囲に推奨してくれる、自ら発信してくれるようになります。ブランドに愛着があり、推奨してくれ、そして自ら発信までしてくれる人を増やすことで、ブランドに対するお客さんからのロイヤルティの総量が増え、ブランドの長期的な成長の土台が築かれていきます。
Brand Image Score
次にブランド・パワーのもう1つの柱である 「ブランドイメージ」 のスコアの測り方も見ていきましょう。
同じく定量調査を行います。調査では、次の3つの設問を設け、カテゴリーにおいて価値となり得るブランドイメージを複数で提示します。
- カテゴリーの中でプロダクトを購入する際に重視することは何か?重要度の高いものを3つ選択してもらう
[設問 2] 自社ブランドに対する評価
- 「自社ブランドの特徴と言えば」 のイメージで当てはまるものをすべて選択してもらう (複数選択可)
[設問 3] 競合ブランドに対する評価
- 「競合ブランドの特徴と言えば」 のイメージで当てはまるものをすべて選択してもらう (複数選択可)
なお、 設問 1 ~ 3 の項目で設ける選択肢 (ブランドイメージ候補) は、自社と競合で変えたりせず、すべて同じものを用います。 設問の提示の仕方についても同様です。
POP と POD の見極め方
POP は消費者が特定カテゴリーにおいて 「当然必要だと考えている要素」 です。
これは、ブランド側が決めるものではなくお客さんの中で形成されているものなので、POP を定義する際はブランド側の意思は関係なく、顧客調査のファクトをもとに考えるといいでしょう。
ブランドイメージの調査では、対象カテゴリーにおいて優先順位の高いものを、たとえば3つを選択肢の中から選んでもらいます。アンケート回答結果の中で、上位3つに選ばれたものを POP として定めます。
たとえば化粧品カテゴリーの場合、調査の結果で上位3つになった 「保湿力がある」 「肌を整える、キメ細かくする」 「口コミの評価が高い」 を POP として定義します。
POD のほうは、競合他社ブランドではあまり選ばれず、自社ブランドにのみ目立って多く選択されたブランドイメージが差異化要素となり、これらを POD とします。
ブランド想起とブランドイメージは補完関係
ブランドイメージはブランド想起の質を高める役割を果たします。
言い換えれば、POP と POD のスコアを高めること自体が目的なのではなく、POP と POD の強化によってブランド認知の質を高めることが目指すことになります。最終的にはファネルを動かし、購買につなげることがゴールです。
よって、ブランドイメージのスコアを高める時は、その目的 (= ブランド想起の質をどう上げたいのか) を明確にし、ブランド想起のスコアとセットで検証するようにします。
これを前提とした上で、ブランドコミュニケーションでは、必要最低限の要素である POP と差異化ポイントである POD をバランス良く伝えることが肝となります。
まとめ
今回は、書籍 "ブランド・パワー - ブランド力を数値化する 「マーケティングの新指標」 (木村元) " をご紹介し、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランド・パワーは 「ブランド想起スコア」 と 「ブランドイメージスコア」 の2つで構成される
- ブランド想起スコアは、助成想起率、純粋想起率、想起集合率 (購入時検討候補に含まれる率) 、購入率の4つの指標で測定。購入後のロイヤルティ指標にはリピート、愛着、推奨、発信がつづく
- ブランドイメージスコアは、POP (Points of parity: カテゴリー必須要素) 、POD (Points of difference: 独自性のある差異化要素) の2つの指標で測る
- ブランドイメージは、ブランド想起の質を高める役割を果たす。ブランドイメージとブランド想起は補完関係にある
- ブランドコミュニケーションでは POP と POD をバランス良く伝える。ブランド想起の質を高めブランド・パワーを向上させ、購買行動につなげることがゴールとなる
この本は、ブランド力やブランドイメージを科学的にどう捉えるかで学びが得られます。
次のような方に有益な本です。
- ブランド力を数値化して客観的に評価したい人
- ブランド想起とブランドイメージの重要性を理解したい人
- 効果的なブランドコミュニケーション戦略を立てたい人
よかったら、ぜひ読んでみてください!
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