投稿日 2024/10/09

P&G の優位性を築くマーケティングフレームの全貌

#マーケティング #P&G #優位性

世界的な消費財メーカーである P&G は、独自の 「優位性のフレームワーク」 を公開しています。

このフレームワークは、製品開発からマーケティング、販売に至るまでの一連のプロセスを、顧客価値の提供につなげるための羅針盤となっています。

P&G はどのような戦略でお客さんの心を掴み、市場で選ばれる存在となってきたのでしょうか?

今回は、P&G のマーケティングを詳しく解説し、その秘訣を紐解きます。

P&G のマーケティングフレーム


P&G のサイトに、自社製品の優位性をつくるフレームが公開されています。

英語のサイトなので原文を載せておくと (英語のあとに日本語訳を記載) 、次の5つの項目で構成されます。

  1. PRODUCT
    Products so good, consumers recognize the difference. Superior products raise expectations for performance in the category.

  2. PACKAGING
    Packaging that attracts consumers, conveys brand equity, helps consumers select the best product for their needs and delights consumers during use.

  3. BRAND COMMUNICATION
    Advertising that reaches consumers and communicates the superiority of the brand’s product and packaging benefits—attracting consumers to the brand and driving brand and category growth.

  4. RETAIL EXECUTION
    In-store: with the right store coverage, product forms, sizes, price points, shelving and merchandising.
    Online: with the right content, assortment, ratings, reviews, search and subscription offerings.

  5. CONSUMER & CUSTOMER VALUE
    For consumers: all these elements presented in a clear and shoppable way at a compelling price.
    For customers: margin, penny profit, trip generation, basket size and category growth.


以下は日本語訳です。

  1. 製品 (PRODUCT)
    消費者が違いを認識するほど優れた製品。卓越した製品は、その分野のパフォーマンスに対する期待値を高める

  2. パッケージ (PACKAGING)
    消費者を惹きつけ、ブランド価値を伝え、消費者が自分のニーズに最適な製品を選べるよう助け、使用時に喜びを与えるパッケージ

  3. ブランドコミュニケーション (BRAND COMMUNICATION)
    消費者に届き (リーチし) 、ブランドの製品とパッケージの優位性を伝える広告。ブランドに消費者を惹きつけ、ブランドとカテゴリーの成長を促進する

  4. 店頭販売の実行 (RETAIL EXECUTION)
    店頭では、適切な店舗カバレッジ (販売店舗網の確保) 、製品形態、サイズ、価格帯、棚割り、売場づくりを実現。オンラインでは、適切なコンテンツ、品揃え、評価、レビュー、検索、定期購入の提供

  5. 消費者と顧客価値 (CONSUMER & CUSTOMER VALUE)
    消費者には、これらすべての要素を魅力的な価格で明確かつ買いやすい状態で提示。顧客には、マージン、1個あたり利益、購買促進、バスケットサイズ、カテゴリー全体の成長を提供

P&G の優位性への考察



P&G は、消費者に支持される優れた製品を提供し、市場の成長を牽引するという明確なビジョンを掲げています。

その実現に向けて P&G が重視しているのが、製品そのものの品質だけでなく、パッケージ、ブランドコミュニケーション、店頭展開、そして消費者と顧客に対する価値提供という5つの要素です。

それでは、ここからは5つの要素を見て考えさせられたことを3つ共有します。

パッケージへのこだわり

1つ目は、製品を 「Product」 と 「Packaging」 に分け、特にパッケージを独立した要素として強調している点が興味深いです。

パッケージが購買意欲や顧客体験に直結するという深い洞察にもとづいているのでしょう。パッケージがショッパー (来店購入者) やユーザーにとって重要な顧客価値を提供する要因であると P&G が認識していることを示しています。パッケージは単なる容器ではなく、ブランドの世界観やメッセージを伝え、消費者が製品を選ぶ際の重要な決め手となります。

加えて P&G は、パッケージは製品を使う時に喜びを与えるものであるべきという考え方をしています。パッケージのことをお店で見つけやすくしたり、買ってもらえるためだけではなく (FMOT (First moment of truth) ) 、買ったあとの利用シーンにおいても大切な存在とみなしているのです (SMOT (Second moment of truth) ) 。

マーケティングの両輪

次に、ブランドコミュニケーションと店頭展開についてです。この2つは、マーケティング活動の両輪として機能します。

魅力的な広告や販促活動によって消費者の心に響きかけると同時に、店頭では適切な製品ラインナップ、陳列、価格設定などを通じて、消費者が製品を手に取る機会を最大化します。この2つが相乗効果を発揮することで、ブランドへの認知や購買意欲を効果的に高めることができるのです。

ブランドコミュニケーションと店頭展開の2つは、メンタルアベイラビリティ (商品の思い出しやすさ) とフィジカルアベイラビリティ (商品の買いやすさ) を構築するものであり、一方だけでは消費者に対する影響力は不十分です。両者がセットとなることで、消費者がブランドを認識し、購入に至るまでのプロセスをサポートします。

すべては消費者の価値へ

 「Consumer & Customer Value (消費者と顧客への価値) 」 は、マーケティング活動の最終的な目的地です。

プロダクト (Product) 、パッケージ (Packaging) 、ブランドコミュニケーション (Brand Communication) 、店頭展開 (Retail Execution) の4つの要素はすべて、最終的にお客さんに価値を感じてもらうためにデザインされています。P&G は、あらゆる施策を消費者視点で捉え、製品やサービスを通じて消費者の生活をより豊かにすることを目指しているわけです。

この姿勢は、P&G が大切にする価値観 「Consumer is boss (消費者がボス) 」 に通じます。全てのマーケティング活動は、消費者のニーズを満たし、期待を超えるために行われているのです。

優位性の源泉

P&G の優位性の源泉は、これら5つの要素を高い次元で融合し、シナジーを生み出すことにあります。

卓越した製品をつくり、パッケージで消費者の関心を引き、ブランドコミュニケーションで製品の魅力を訴求し、店頭での実行力で購買を促進する。そのすべてが、消費者と顧客に対する価値提供につながるよう緻密に設計されています。

このような一貫した考え方と実践力が、P&G のブランドを市場で強固なものにしているのでしょう。

まとめ


今回は P&G の優位性構築の考え方とフレームをご紹介し、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • P&G のマーケティングフレーム: ① プロダクト (Product) 、② パッケージ (Packaging) 、③ ブランドコミュニケーション (Brand Communication) 、④ 店頭展開 (Retail Execution) 、⑤ 消費者と顧客価値 (Consumer & Customer Value) 

  • パッケージへのこだわり: P&G のマーケティングフレームではプロダクトとパッケージを分け、パッケージを独立した重要な要素と位置づけている。パッケージは購買意欲や使用体験に直結する戦略的ツールであり、店頭と使用シーンの両面で消費者に価値を提供する役割を担う

  • マーケティングの両輪: ブランドコミュニケーションと店頭展開は連携して機能する。魅力的な広告や販促活動で消費者の心に訴求し、店頭での適切な製品ラインナップ、陳列、価格設定により、相乗効果で消費者の購買機会を最大化する

  • すべては消費者の価値へ: P&G のマーケティング活動の最終目的は、顧客と消費者に価値を提供すること。プロダクト、パッケージ、ブランドコミュニケーション、店頭展開の4つの要素は、すべて消費者に価値を感じてもらうために設計される。この姿勢は 「Consumer is boss」 という P&G の価値観に通じる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。