出典: 朝日新聞
今回のキーワードは、「価格設定」 と 「損して得とれ」 です。
おもしろいと思った 「お城に宿泊できるサービス」 を取り上げ、学べることを掘り下げます。
✓ わかること
- 1泊100万円以上もする城主体験
- 街全体への相乗効果
- 価値と提供価値
- 普通とは逆の 「損して得とれ」 がおもしろい
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
1泊100万円以上のお殿様・お姫様の体験
出典: 朝日新聞
ご紹介したいのは、「大洲城キャッスルステイ」 です。
大洲城キャッスルステイの料金は、基本料金が1泊1人55万円。利用は2人以上からなので、最低でも110万円からの宿泊となる。
これを分かりやすく税抜き価格で 「1泊100万円の城」 として打ち出しているが、オプションの体験を付けて利用する顧客がほとんどで、実際の平均単価は150万 ~ 160万円ほどなのだという。
愛媛県大洲 (おおず) 市にある大洲城で、日中の観覧可能後の閉館から翌日の開館までの間に貸し切りで宿泊ができるプランです。「1泊100万円」 で天守に宿泊でき、歴史と伝統のある城のお殿さまやお姫さまになれます。
宿泊プランの中身
1泊2日の基本プランは次のような内容です。
出典: ITmedia
大洲城キャッスルステイの入場体験 (出典: ITmedia)
先ほどの記事からプランの中身を詳しく見てみましょう。
通常の体験はこのような流れだ。
まず、松山空港までスタッフが送迎に向かい、大洲到着後にお客が男性なら "殿" として甲冑の着付けを、女性なら“姫”として着物の着付けを行う。
その後、城への入場体験のセレモニーを行う。1617年、大洲藩初代藩主の加藤貞泰 (さだやす) が、米子 (よなご) 藩から大洲藩に移ってきた際の史実を基にして、移動のための馬や鉄砲隊の祝砲や法螺貝 (ほらがい) の合図、10 ~ 20人にもなる家臣らの出迎えなどを演出する。なお、これらのパフォーマンスには伝統に造詣が深い住民が出演する。
家臣からの城内を案内した後、隣接している重要文化財の高欄櫓 (こうらんやぐら) で夕食 「お殿さま御膳」 を提供。地域の最高級食材を用いて、お殿さまが召し上がったであろう色とりどりの料理を再現し、地酒と共に提供する。
隣接する施設には、ライトアップした城を眺めながら入浴できる浴場と、お酒を楽しめるラウンジを用意している。その後、天守にて就寝する。
翌朝は重要文化財である臥龍山荘 (がりゅうさんそう) にて食事、御呈茶 (ていちゃ) を提供。街歩きや街での体験を楽しんだ後、松山空港まで送り届ける。
これらを基本の体験として、オプションも含めてオーダーメイドで旅程を組み立てる。
出典: ITmedia
「100万円は安い」
宿泊者の評価はと言うと、
「宿泊者の方は、口をそろえて『100万円は安い』とおっしゃいます。これは、われわれとしても、良い驚きでした。甲冑を着て城に向かい、何十人もの家臣や楽隊が出迎える入城セレモニーを体験した時点で『採算合ってる!?』『 (100万円は) 安すぎない?』と言われることが少なくありません。食事の評価も高いです」
吉田さん (引用者注: 大洲城キャッスルステイを運営するバリューマネジメントの吉田覚氏) の分析によると、入場体験などを通して 「街全体で歓待してくれている」 という実感や、普段は身近に感じることがない文化財の中で寝食することへの感動などが、特に宿泊客に評価されているという。
街全体が変わった
大洲城キャッスルステイは、大洲市の全体への良い影響をもたらしているとのことです。
大洲市では、大洲城キャッスルステイと同時期に古民家を改装した分散型ホテルの 「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」 もオープンしている。
分散型ホテルは現在、28室を運営。今年度新たに4室追加して、32室になる予定だ。予約は好調で、今年の8月には合計1000人以上が宿泊した。平均単価は1人1泊3.5万円ほど。
こうした取り組みによって 「地元の方々は口をそろえて、『目に見えて来ているお客さんの層が変わった』『街が変わった』と言っています」 と吉田さんは笑顔を見せる。
従来、大洲市の宿泊施設の多くはビジネスホテルだった。観光はバスツアー客がメインで、日中に大洲城などを観光して夜は別の観光地へ去っていくことがほとんど。そのため、街の経済への貢献にはつながっていなかった。
こうした状況から一変して裕福な顧客層が増え、街は劇的に変わったという。
前半のまとめ
では一度ここまでをまとめておきます。
- 大洲城キャッスルステイは愛媛県大洲市の大洲城での1泊100万円以上の高級宿泊プラン。宿泊客はお殿様やお姫様の体験ができる。宿泊客からは 「100万円は安い」 と言われることも少なくない
- プランには送迎、甲冑や着物の着付け、入城セレモニー、城内案内、お殿様御膳、ラウンジでのお酒、天守での就寝、翌朝の食事とお茶、街歩きなどが含まれる。オプションでカスタマイズも可能
- 大洲城キャッスルステイは大洲市全体に良い影響をもたらし街の雰囲気が変わった。分散型ホテル 「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」 もオープンするなど観光客の層が変わり、地元経済に貢献している
学べること
では、大洲城キャッスルステイから学べることを掘り下げていきましょう。
価格と提供価値
大洲城の宿泊客からは 「100万円は安い」 「採算は合っているのか」 と言われるように、お客さんには価格以上の体験価値を提供できています。
住民の方々も多数いて、ここまで熱烈に歓迎してくれるのかと感動が伴う城主体験です。オプションを入れると150万円ほどになりますが、それでも宿泊客は満足して過ごしているはずです。
逆に言えば、大洲城の宿泊プランはもっと価格を上げる余地があると言えます。お客さんへの提供価値の観点からも、また売り手の利益を上げる意味でも値上げができる状況なわけです。
しかし、あえてやっていないと思うのは戦略的な狙いがあるからです。
損して得とれ
1泊100万円以上もする大洲城キャッスルステイは、化粧品の 「試供品」 のような役割を担っています。
試供品に対しての 「本品」 は何かと言うと大洲市全体です。
大洲城への宿泊滞在の期間に大洲市に出かけてお金を払い旅行を楽しみ、大洲市への親近感や愛着の高まることで、次もまた大洲へ行こうと思えるわけです。
かつての大洲市の宿泊施設の多くはビジネスホテルで、観光客が来てもバスツアーがメインだったので、日中に大洲城などを観光しても夜は別の観光地へ去っていくという状況でした。
今は裕福な顧客層が増え街は劇的に変わったとのことで、100万円の大洲城の宿泊プランで利益は出ていなくても、つまり試供品のように損をしても後から大洲市の街全体で得になっているのです。
長い時間軸と広い視野
一般的な化粧品での試供品は小サイズのものを無料で配り、定価の本品につなげます。
一方の大洲城キャッスルステイは逆です。100万円以上の宿泊プランをあえて 「試供品」 としています。高額商品では利益を出さずに顧客満足度を高め、普通の観光・旅行の金額感での街全体への支払いという 「本品」 につなげているのがおもしろいです。
大洲城キャッスルステイからの学びを一般化すると、長い時間軸で視野を広げて捉え、何を 「損して得とれ」 にできるかを考えてみると、戦略をつくったりマーケティングのヒントになります。
まとめ
今回は大洲城の宿泊プランを取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ 損して得とれ
- 一般的な化粧品での 「試供品」 は、小サイズのものを無料で配り定価の 「本品」 につなげるが、あえて逆の設計にしてみよう
- 高額商品では利益を出さずに顧客満足を高め、お客さんからの愛着を生み出す
- 長い時間軸でファンになってもらい、後から得になるような設計を考えてみるとマーケティングのヒントになる
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