投稿日 2022/12/22

毎年の新製品をやめるパナソニック。市場やお客さんを見る重要性


今回は 「外向き姿勢でビジネスを展開しよう」 という話です。

おもしろいと思ったパナソニックの取り組みをご紹介し、マーケティングに学べることを掘り下げます。

✓ この記事でわかること
  • 過去の慣習と決別する新しい取り組み
  • 毎年の新モデル発売の背景と弊害
  • 価格を下げないと売れないことの意味
  • 教訓として学べること

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

パナソニックの新しい取り組み


パナソニックが家電事業において新たな取り組みを進めています。

新しい取引形態の導入


以下は、日経新聞の記事からの引用です。

パナソニックが、量販店からの返品に応じる代わりに価格を指定する取引形態の導入を進めている。家電の販売価格を巡ってはメーカーと量販店が激しく争ってきた歴史がある。

新取引の導入背景をパナソニックの品田正弘社長に聞くとともに、量販店の受け止め方、こうした取引形態が広がるのかを探った。

パナソニックの新スキームの大きな狙いが家電販売では当たり前と思われていた値崩れをなくす点だ。例えば2021年秋に発売した 「レイアウトフリーテレビ」 。

キャスター付きで移動しやすく、ウェブ会議用でも活用できる独自製品だが、BCN の店頭価格のデータによると発売から11カ月後の値下がり率は 1% 未満だった。21年春に発売した同型 (43型) の液晶テレビは同期間で 25% 値下がりしている。

 「消費者不在の製品だった」 


パナソニックの社長は次のようにコメントしています。

パナソニックの品田正弘社長は 「多くの家電は終売までに2割くらい価格が下がっていた」 と振り返る。売価を戻すことを目的に新製品を投入することが慣習となった結果、消費者が望まない機能がてんこ盛りになるなど 「消費者不在の製品」 (品田社長) も生まれてしまっていた。

パナソニックは1年ごとに製品刷新する慣習から脱し、独自製品や市場シェアの高い製品に関しては販売期間を2 ~ 3年程度まで伸ばしていきたい考えだ。21年度には家電全体の 8% (金額ベース) にしか導入していないが、既に営業利益への貢献額は100億円弱に上ったとみられる。

製品のロングサイクル化


別の日経の記事で、パナソニックの品田社長へのインタビューが載っていました。

毎年のように新製品を出していた背景について、次のように語っています。

―― これまでの家電開発は何が課題だったのでしょうか。

 「顧客志向ではなく、プロダクトアウト (作り手目線) になっていた。例えば、洗濯機は8年に1度程度しか買い替えない。本来は8年前に製品を買ってもらった顧客の悩みをどう解決するか訴求しないといけないが、社内の提案資料を見ると前年モデルから何が進化したかが書いてある。これは消費者ではなく (量販店の) バイヤーを見ているということだ。相当な内向き志向だ」 

 「家電は値下がりするのが当たり前になっていたのも問題だ。消費者に新しい価値を提供することではなく、売価を戻すことが新製品を出す最大の大義になっていた。市場シェアの高い製品でも勝手に値下がりしてしまっていたので、機能を追加するなどしたマイナーチェンジ機を毎年出さざるをえない状態になっていた」 

ここを解決すべき問題ととらえ、今後の方針として 「製品のロングサイクル化」 を掲げています。

―― 開発姿勢をどう変えますか。

 「強い製品はころころ刷新するのではなく、なるべくロングサイクル化していく。しっかり技術開発を積み重ねて、2 ~ 3年後のモデルチェンジの時には格段に良い製品になっているのが理想だ」 

学べること


では、パナソニックの事例から学べることを見ていきましょう。

価格を下げる意味


学びとしてまず掘り下げたいのは、製品の販売価格を下げることの意味合いです。

パナソニックや他の家電メーカーも含めて、家電業界はこれまでは大量の新製品を出していました。すぐに後から新しいモデルが登場するので、いつしか需要に対して供給が過剰になってしまったわけです。

需要を超えた分の、特に古いモデルは価格を下げないと売れない状況になっていました。

内向きと外向き


市場規模、つまり消費者が欲しいと思うトータルの量に対して多すぎる製品の供給はなかなか改善されませんでした。

複合的な要因がありますが、消費者不在だったことです。消費者の集合という市場を見ずに、社内や小売を見ていました。本来は、最終的に製品を買って使う生活者に目を向けるべきです。

誰を向いて仕事をするか


教訓として一般化するなら、「外向き姿勢を持とう」 です。

家電製品を値下げしないと売れないというのが、一時的なことではなく慢性的に起こっていた状況とは市場の見誤りです。外ではなく内向き姿勢が続くと、市場の理解が古いままで変わりません。この状態が続くと、市場の理解と実態のギャップが大きくなります。

自分たちのいる市場 (お客の集合体) はどういう状況なのか、どんな顕在的 / 潜在的なニーズがどれぐらいあるのか。市場の規模と質の両方から、常に市場に目を向ける 「外向き姿勢」 が大事です。


まとめ


今回はパナソニックの新しい取り組みをご紹介し、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にまとめです。

✓ 外向き姿勢のビジネス活動
  • 内向き姿勢が続くと市場の理解が古いまま。顧客不在になりビジネス活動を見誤る
  • 市場の規模と質の両方から、常に市場に目を向けるといい
  • 自分たちのいる市場 (お客の集合体) はどういう状況なのか。どんな顕在的 / 潜在的なニーズがどれくらいあるのか


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。