投稿日 2023/04/04

ベンザブロック YASUMO 。逆転発想に学ぶ競争ルールを変える価値提案

#マーケティング #価値提案 #競争ルール

出典: PR TIMES

今回のテーマは競争ルールを変える価値提案です。

おもしろいと思った風邪薬の事例から、マーケティングに学べることを掘り下げていきましょう。

✓ わかること
  • 逆転発想のベンザブロック YASUMO
  • 価値イメージのアップデート
  • 競争ルールを変える価値提案

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ベンザブロック YASUMO


出典: PR TIMES

売上が好調


風邪薬の 「ベンザブロック YASUMO」 の売上が好調とのことです。

体調が悪いときは休んで治そう――。そんな思いを込めたアリナミン製薬の風邪薬 「ベンザブロック YASUMO (ヤスモ) 」 が好調だ。

眠気を覚ますためのカフェインを配合せず、眠りを妨げる症状を抑えてしっかり休める処方にした。これまでは風邪でも休めない人に向けた商品が多かったが、消費者の意識は新型コロナウイルス禍で変わった。従来の風邪薬と一線を画すコンセプトは20 ~ 40歳代を中心に支持を広げている。

ベンザブロック YASUMO は寝て治すことを前提とした風邪薬です。従来は眠くなりにくい風邪薬が主流でしたが、真逆の発想をしています。

開発の背景


開発の背景について見てみましょう。

開発が始まったのは2018年。商品企画を担ったマーケティング部の八尾あすかさんは 「働き方改革が始まり、消費者のマインドに変化が出始めていた」 と背景を語る。

 (中略) 

体調が悪いときは無理せずに休むという機運は新型コロナ禍で急速に高まった。アリナミン製薬の調査によると 「風邪のときは休みたい」 という人の割合は22年11月に 64.5% と、20年1月比4ポイント上昇。実際に休める環境だと答えた人は6.2ポイント増えた。

 「コロナで強制的にマインドが変わり、少しでも症状があったら休むことを社会が許容するようになった」 (河合洋二ベンザグループマネジャー) 。まさに開発コンセプトに時代が追いついた格好だ。

コンセプトの反映


休んで治すというコンセプトは商品名やパッケージにわかりやすく反映されています。

コンセプトを直感的に伝えることにも気を配った。

従来は記号的なネーミングが多かったが、特徴がわかりやすいよう 「ヤスモ」 という商品名を採用。外箱はつや消しの紫色のグラデーションと 「今までの風邪薬っぽくない」 (八尾さん) パッケージにした。
出典: PR TIMES


学べること


ではアリナミン製薬の 「ベンザブロック YASUMO」 から学べることを掘り下げていきましょう。

価値イメージのアップデート


マーケティングの観点で捉えると、ベンザブロック YASUMO がやったことは消費者からの 「風邪薬への価値イメージ」 のアップデートです。

従来の風邪薬には飲んでも眠くならないようカフェインが配合されていました。仕事などを休みたくても休めない時に風邪薬を飲み、仕事中に眠たくならないことが求められたからです。

一方のベンザブロック YASUMO は逆の発想をしています。コロナ感染拡大の影響から体調が悪いときは無理せずに休むという機運が高まったことが背景にあります。しっかりと寝て休むために風邪薬を飲むという位置付けです。

ベンザブロック YASUMO は人々からの価値イメージとして 「良い風邪薬とはゆっくりと休むことができるもの」 に新しく書き換えたのです。

新しい良い商品の定義


今までになかった新しい価値を知ったり実際に体験をすると、そのカテゴリーにおける 「良い商品」 の定義が変わります。少し大げさな表現をすればカテゴリー内や市場での地殻変動が起こるわけです。

ここで言う地殻変動とは新しい価値の提供によって、消費者からの商品を見る視点や買う基準 (選ぶ理由) が変わることです。それまでの基準で買われていたものとは異なる商品・サービスが選ばれるようになります。

風邪薬に当てはめれば、新しく 「ゆっくりと休むことができる風邪薬」 という切り口 (良い商品の定義) が生まれました。人々の認識や知覚が変わり、「良い商品とは何か」 の定義が変わったのです。

競争ルールを変える


良い商品の定義が変わるとは、そのカテゴリーや市場の中での 「競争ルール」 が変わるということです。

競争とは自社と競合他社における 「お客さんから選ばれる争い」 です。競争ルールは選ばれるための前提や制約、選ばれる理由と見ることができます。

今回のベンザブロック YASUMO の事例とつなげると、今までにはなかった 「薬を飲んでゆっくり休む」 という風邪の治し方が提案され、買うなら 「ゆっくりと休むことができる風邪薬」 という新しい選ぶ理由が生まれたのです。

マーケティングからの価値提案


ところで、売れるもマーケ 当たるもマーケ - マーケティング 22 の法則 という本に次のようなことが書かれています。

Marketing is not a battle of products, it's a battle of perceptions.
マーケティングは商品の戦いではなく、パーセプションをめぐる戦いである。


パーセプションは日本語では知覚や認識を意味します。今回の文脈に当てはめれば 「価値イメージ」 です。マーケティングとは商品やサービスに 「どんな価値のイメージを持ってもらうか」 をめぐる戦いであると。

パーセプションは価値提案によってつくられます。

単に商品の機能的な特徴を説明するのではなく、商品がお客さんにとってどんな意味や価値があるかをお客さん目線で伝えることが大事です。お客さんの文脈に寄り添い、価値があると思ってもらえることで商品がようやく自分ごととして捉えてもらえるわけです。

学びを一般化すると、商品そのものは変わらない・変えられなくても、マーケティングの役割はお客さんからの自社商品・サービスへの価値イメージを変え、お客さんから選ばれる状態にすることです。


まとめ


今回は風邪薬の 「ベンザブロック YASUMO」 を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 競争ルールを変える価値提案
  • 新しい価値提案により人々の 「良い商品とはこういうもの」 への認識が変わる
  • 新たな価値イメージによって良い商品の定義が変われば、従来とは異なる商品・サービスが選ばれ市場での地殻変動が起こる
  • マーケティングとは価値イメージをめぐる戦い。お客さんにとっての商品の意味づけや価値をお客さん目線で伝えよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。