投稿日 2023/04/06

ラジオ広告でヘビーリスナー購買率が高いという分析。分析の本質を考えさせられた話

#マーケティング #データ分析 #広告


今回のテーマは 「データ分析」 です。

ある広告調査を取り上げて学べることとして、分析の本質、ビジネスで成果を出すデータ方法を見ていきましょう。

✓ わかること
  • ラジオ広告の購買効果の調査
  • 本当に広告効果があったと言えるのか?
  • 望ましい調査設計
  • 分析の本質
  • ビジネスで成果を出すデータ方法とは

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ラジオ広告の効果調査


ラジオ広告の 「購入への効果」 を検証した調査結果が発表されていました (リリースはこちら) 。

ラジオアプリ radiko の聴取データと、Ponta の湖池屋商品群の購買データを使っての分析です。

ヘビーリスナー購買率が 7.6 倍


結果はこちらです。

出典: PR TIMES

対象となったラジオ番組は 「湖池屋 歌エーール!」 で、リスナーの湖池屋全商品の購買率をヘビーリスナー、ライトリスナー、Ponta 会員平均と比較しています。

上のグラフのように、結果はヘビーリスナー (調査期間中に提供コーナーを2回以上聴取している人) の湖池屋全商品の購買率が、Ponta 会員平均と比べて 7.6 倍になったとのことです。

広告に効果があったと言える?


気になったのは調査対象のラジオ番組です。

一般的にはラジオ広告は番組の中身とは直接は関係がなく、番組の前後や途中に広告が入ります。一方の 「湖池屋 歌エーール!」 は番組そのもので湖池屋を扱っています。

このような番組を対象とした今回の調査であえて問いたいのは 「この調査設計で、ラジオ広告が購買に効果があったと本当に言っていいのか」 です。

違う解釈もできてしまう設計


比較の方法は次のようになっています。

出典: PR TIMES

調査対象のラジオ番組が 「湖池屋 歌エーール!」 ということは、そもそも番組を普段から聞いているリスナーには湖池屋のことが好きな人が多そうです。だとすると、上の図のような調査設計からは以下の両方が言えてしまいます。

✓ 両方の可能性が考えられる
  • ラジオ番組内の広告を聞いたから買った (広告に購買効果があった) 
  • 湖池屋のお菓子を多く買う人がラジオを聞いていた (もともと多く湖池屋を買っている人に広告が当たっただけにすぎない) 

調査結果では前者と評価していますが、後者とも言えてしまうのです。広告に接触した人はすでに湖池屋のヘビーユーザーだったという解釈です。

つまり、調査したラジオ広告を聞く前の段階ですでに湖池屋のヘビーユーザーだった可能性があるわけです。湖池屋のお菓子をよく買っていたヘビーリスナーと世の中の平均と比べれば、当然ヘビーリスナーのほうが購買率は高いよねという話です。

望ましい設計


では、どのような調査設計がより良いかを考えてみましょう。

今回の設計は 「ノンリスナー (Ponta 一般会員) vs リスナー」 という比較でした。

出典: PR TIMES

もし 「ラジオ広告が購買に効果があった」 と言うためには、比較方法を変えると正確に検証ができます。

ノンリスナー (Ponta 一般会員) 
 vs
リスナー

ではなく、

広告を聞いていない人 (広告非接触者) の前後変化
 vs
ラジオ広告を聞いた人 (広告接触者) の同じ期間の前後変化

とします。

イメージは以下の図です。

出典: PR TIMES

単純な比較ではなく 「比較の比較」 をするという調査設計です。


学べること


今回の話からの学びを一般化すると、分析とは何かに示唆があります。

分析の本質


結論から言うと、分析とは比較によって情報や示唆を出し、意思決定や行動につなげることです。

今回の調査で言えるのが、もし 「湖池屋商品を多く買う人が湖池屋の番組のヘビーリスナーだった」 という当たり前の話でしかないとすると、必ずしもラジオ広告の購買効果を示すものではありません。

得られる示唆は広告効果というよりも、「自社商品のファン (ロイヤルユーザー) がいるメディアはどれか」 や 「どうすれば購入数や購入頻度の多いお客さんを満足させられる番組やコンテンツにできるか」 という論点になります。

比較のやり方次第で示唆が変わるわけです。自ずと分析の先の意思決定や行動にも影響を与えます。

データ分析の前提


分析とは 「比較によって示唆を出し、意思決定や行動につなげること」 としました。

比較の前提として大事になるのは 「そのデータはどのように収集されたのか」 です。今回のラジオ広告の分析で言えば調査設計のところです。設計によっては分析の論点も変わり、そもそもの分析目的からズレてしまうこともあります。

だからこそ大事なのは設計という、どういう目的で、誰が、いつ、どこで、何を使って、誰から、どのようにデータを収集したのかの把握です。

ビジネスで成果を出す分析


分析は目的達成のための手段です。この認識を忘れないようにしたいです。

ビジネスで成果を出す分析にするためには、以下のような問いを持って分析に臨むといいです。

✓ データ分析者が持っておく問い
  • 分析の目的は何か
  • データの前提は何か
  • 分析結果から要するに何が言えるか (例: 因果関係は本当に成り立つのか) 
  • 結果や示唆は何の意思決定や実行にどう使われるのか


まとめ


今回はラジオ広告の広告効果の調査から、データ分析に学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 分析の本質
  • 分析とは比較によって情報や示唆を出し意思決定や行動につなげること
  • 示唆は比較のやり方次第で変わる。データ分析を行う前に、データの収集方法や調査設計の前提を把握することが重要
  • ビジネスで成果を出す分析にするためには、分析の目的やデータの前提を明確にし、分析結果がどのように意思決定や実行に使われるかをあらかじめ理解しておこう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。