出典: AV Watch
今回のテーマは 「価値提案」 です。
独自のターゲット設定、データ分析からの市場洞察によりユニークな商品を生み出した事例を紐解きます。顧客理解から非連続なジャンプで価値提案につなげる秘訣を見ていきましょう。
✓ わかること
- ドンキの光るスピーカー GRAV
- 開発の背景
- 顧客理解から価値提案につなげる方法
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
ドンキの光るスピーカー GRAV
出典: AV Watch
ご紹介したいのはドン・キホーテで発売されている Bluetooth スピーカー 「GRAV (グラブ) 」 です。
LED が付き光るスピーカーです。
2022年7月下旬に発売したところ、月に1500台ほどのペースで売れているのだ。
最大の特徴は、なんといってもピカピカと 「光る」 こと。本体に LED のリングイルミネーションが搭載されていて、光の色や発光パターンを複数の中から選べるようにしているのだ。
開発の背景
光るスピーカー 「GRAV」 を開発したのは、さいたま市に拠点を置く 「アズマ」 です。長年ドンキなどの PB 商品を手掛けている会社です。
GRAV の開発背景が興味深かったです。
コロナ禍になって、密を避ける行動をしなければいけなくなった。しかし、たまには仲間だけで盛り上がりたい。そんなときに、イルミネーションがピカピカ光るスピーカーがあれば、盛り上がるのではないか。マイルドヤンキーとパリピを掛け合わせて、商品のターゲットを 「マイルドパリピ」 と定義したのだ。
キャッチーなネーミングをつけたわけだが、なんとなく思いついたわけではない。小川さん (引用者注: アズマの小川大介社長) は、野村総合研究所が発表したデータに注目した。家庭の収入はどうなると思いますか?という質問に対し、「悪くなる」 と答えた人を見ると、2015年は 30% 、18年は 24% まで減少していたが、21年には 33% に。
また 「生活に満足している」 と答えたのは、21年で 78% 。この数値は、調査を始めてから最も高い。さらに、商品を購入する際に 「ピンとくる」 というノリで決める感覚消費派が増えていることもうかがえた。
開発の流れを整理しておくと、
- ターゲット顧客を 「マイルドパリピ」 に設定
- 家庭の収入は悪くなる景況感になりつつも、生活には満足している (外部定量データ)
- 商品を買う時に 「ピンとくるか」 の感覚で決める人が増えている (外部定量データ)
買って欲しい人を定めて見込み客の行動や心理、置かれている環境から理解しようとしました。個人的な感覚だけで終わらず定量データも使っています。
商品への転換
ターゲット顧客を設定した後に売り手目線になり、「では自分たちはどんな商品で、どのような価値を提供するのか」 に発想を切り替えました。
このデータを受けて、小川さんは次のような仮説を立てた。「新型コロナの感染が広がって、多くの人が家の中などで自粛を余儀なくされた。時間的な余裕が生まれた中で、充実感を見出そうとしている人が増えているのでは」 と。
であれば、"クラブごっこ" ができるスピーカーがウケるのではないかと考えて、開発を進めていったのだ。もちろん、マイルドパリピに向けて、である。
ドンキは 「こういう商品が受け入れられるのでは」 と仮説を進めていき商品化したのです。
ここまでのまとめ
一度まとめておきますね。
- ドンキの光るスピーカー 「GRAV」 は LED リングイルミネーションが搭載され、光の色や発光パターンを選択できる
- 開発会社アズマは 「マイルドパリピ」 というターゲット顧客を設定。外部定量データを用いて市場を分析し、家庭収入の悪化や感覚消費派の増加を確認した
- 市場分析をもとに、自粛生活中の充実感を追求するマイルドパリピ向けに、クラブごっこが楽しめるスピーカー GRAV の開発が進められた
学べること
ではドンキの光るスピーカー GRAV から、学べることを掘り下げていきましょう。
着想プロセスの一般化
顧客理解から商品コンセプトへの着想のプロセスを一般化すると次のようになります。
✓ 着想プロセスの一般化
- ターゲット顧客の設定
- 顧客内や環境で起こっている事象を新しい現実として理解する
- 現状把握から新しい問題や課題感を見つけ、新たなニーズを見出す
- 求められている商品を開発し、お客さんに価値を提供する
ターゲットとするお客さんを決め、自分なりの見立てや解釈も入れながら、お客さんにとって・自社のビジネスにとって何を意味するのかを掘り下げていきました。
観察やデータからわかったことを統合し 「要するにどういうことか (so what) 」 を打ち出したのです。
顧客理解から価値提案へのつなげ方
GRAV の開発事例が教えてくれるのは、顧客理解から商品企画、コンセプト立案、マーケティング、販売と進める中でどこかで一度ジャンプアップする重要性です。
ジャンプとは非連続な転換点です。データや事実に時には大胆な解釈も加えて膨らませ、一気に引き上げるイメージです。
お客さんから 「そうそうこれが欲しかった」 「ここまでやってくれた」 という驚きを生むためには、お客さんからの直接の要望やクレームにただ応えるだけでは十分ではありません。ジャンプを入れることで、把握した顧客理解から価値提案やアクションに転換できます。
お客さんに期待以上の価値を提供し選ばれるためには、顧客理解から勇気を持って非連続なジャンプをし価値提案に変えることがポイントです。
まとめ
今回はドンキの光るスピーカー GRAV を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ 顧客理解から価値提案につなげる方法
- ターゲット顧客を設定し、現状把握から起こっている新しい問題や課題感を理解する
- 顧客理解から価値提案へつなげる時のポイントは、データや事実に大胆な解釈を加えて非連続なジャンプをすること
- 事実から解釈をふくらませることで驚きを生む価値提案やアクションに転換できる
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