投稿日 2023/06/15

オールバーズ CEO 「消費者に言行不一致はある」 。お客さんの本音理解からの価値提案

#マーケティング #顧客理解 #価値提案


お客さんの本音になかなか迫れない。そんな悩みはないでしょうか?

お客さんが言っていることだけを聞いても本音は見えてきません。

そこで今回は、お客さんの言葉と行動の間に存在する 「ギャップ」 に注目し、お客さんの建前と本音を探ります。顧客理解から価値を提案する方法をぜひ一緒に学んでいきましょう。

Say Do Gap - 言行不一致


言っていることとやっていることが違うという 「言行不一致」 の例をいくつか見ていきましょう。

オールバーズ CEO の指摘


アメリカのフットウエアブランド 「オールバーズ」 の CEO へのインタビュー記事を読みました。

印象的だったのは消費者の言っていることと実際の行動には、少なからずギャップがあるという指摘でした。CEO はこれを 「Say Do Gap (セイ ドゥ ギャップ) 」 と表現しています。

世界中の消費者の間でサステナビリティー (持続可能性) への関心が高まっていることは明らかだ。

ただ一方で、環境問題について理解したり共感したりしていても、現状の消費行動に常には結びついてはいないことが多い。我々はこの状態を 「Say Do Gap (セイ ドゥ ギャップ) 」 と呼んでいる

Say do gap とは日本語で言えば言行不一致です。

Z 世代の購買行動


別の記事ですが、有識者インタビューで Z 世代について次のように語られていました。

―― 過去の若者世代と比べ、Z 世代特有の特徴はあるのでしょうか。

 「ゆとり世代は生まれたときから不況なので、消費に消極的だ。一方、Z 世代はアベノミクスの時に育ったのである程度消費に積極的な世代といわれる。また氷河期世代に比べれば就活は大変ではなく、競争も少ない。そういう意味ではゆとり世代より心にゆとりがある世代といえる」 

―― Z 世代の特徴として一般に言われているもので違うと感じるものはありますか。

 「エシカルに興味があるかと聞かれればあると答えるが、消費にはつながっていない。エシカル商品を出して売れたと言っても、それはエシカルだからではなく安いから買っていることがある。人気のビーガン商品も、実はカロリーが低いという理由で売れているものがある」 

よく Z 世代はエシカルや SDGs への関心が高いという言説を見聞きしますが。しかし実際のところは買っている理由はその商品がエシカルだからというよりも、他のことを魅力に感じているという指摘です。

インタビューで語られなかったこと


ここまでの話は Google のオウンドメディア Think with Google の記事内容につながるのでご紹介します。

記事で 「インタビュー調査では、聞けなかったことの中にこそ答えがある」 と書かれていて、今回の文脈で示唆があります。

定性調査の評価が分かれるもう 1 つの理由は、現場で聞いたことがそのまま結果になる訳ではなく、むしろ聞けなかったことの中にこそ答えがあるという点があります。

たとえば以前、オンラインショッピングにおける消費者のインサイトを探るために、実店舗と EC サイトでの普段の買い物の実態を調査したことがあります。さまざまな家庭を訪問し、普段の買い物についての考えを聞き、さらに実店舗で買うものと EC で買うものを聞いたうえでその両方の買い物に同行するというものでした。

ある女性に話を聞いたところ、EC では趣味のアロマテラピーに関連するものは買うが、一般消費財の買い物では EC を利用しないと答えてくれました。理由は、いつもの店で実物を見て買い物をしたいからとのことでした。もちろんそれは本心だったと思いますが、その後スマートフォンで EC サイトの閲覧履歴を見せてもらったところ、柔軟剤や消臭剤などを時折 EC で購入していることがわかったのです。

この人は嘘をついたのでしょうか。そうではありません。このズレが生じた理由の 1 つは、私たちが 「普段」 と聞いたことでした。つまり、この女性にとって 「時折購入する柔軟剤や消臭剤」 は 「普段」 の買い物ではないという認識だったのです。そしてもう 1 つの理由は、彼女は消費財の購入を EC で済ませることに対して、無意識のうちに罪悪感があったためです。このため買い物行動の記憶にふたをしていたのです。

これがまさに 「聞けなかったことの中にこそ、答えがある」 ということです。定性調査だからこそ、この女性の話を深掘りでき、オンラインショッピングで済ませてしまうことへの罪悪感に気づくことができました。そして結果的に、この罪悪感はその人特有のものではないこともわかりました。

聞けなかった、つまりインタビュー対象者が話さなかったのはインタビューをする側とされる側で 「普段」 という言葉の捉え方が違っていたからでした。

また、対象者の女性は消費財の購入を EC で済ませることに無意識に罪悪感があったのも話してくれなかった要因でした。

インタビュー調査では 「聞けなかったことの中にこそ答えがある」 というのはこういうことなのです。


お客さんの本音までの理解と価値提案


では今回の内容を俯瞰して学べることを整理してみましょう。

マーケティングでのお客さんの理解で忘れないようにしたいのは、お客さんには Say Do Gap という言行不一致はあるという前提です。

ギャップの中身をお客さんが直接教えてくれることはありません。お客さんが言わないのは他人には知られたくない、言葉にしてうまく説明できない、そもそも気づいていないからです。

ではどうするかと言うと、マーケターが自らギャップを見出し解釈も入れながらお客さんの理解を深めるのです。

その行動はどんな心理からなのか。建前なのか、それとも生々しい本音による行動なのか。心理を汲み取り、建前と本音の両面から1人の人間として理解し、お客さんの理解にもとづいて相手の文脈に寄り添った価値提案をするのがマーケターの役割です。


まとめ


今回は言行不一致という話をいくつか取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ お客さんの本音までの理解と価値提案
  • お客さんには言行不一致は必ずある
  • マーケターが解釈も入れ心理を汲み取り、建前と本音の両面から1人の人間として深く理解する
  • お客さんの理解にもとづいて相手の文脈に寄り添った価値提案をしよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。