新しい取り組み、大きな変更を相手に無理やり押し付けるとどうなるでしょうか?少なからず抵抗や対立が生まれますよね。
今回は DX を実現したある事例を取り上げます。得られる学びとして、マーケティングでも 「理解してから理解される」 がポイントという話です。
相手の行動や組織の変革につなげるコミュニケーションの秘訣を一緒に探っていきましょう。
鮮魚仕入れの DX
出典: 日経
ご紹介したいのは鮮魚の仕入れの DX を実現した事例です。
鮮魚大手 「角上 (かくじょう) 魚類」 を22店舗展開する角上魚類ホールディングス (HD, 新潟県長岡市) がデジタルトランスフォーメーション (DX) による業務改善を進めている。2022年7月に基幹システムを刷新。連動して魚の買い付け業務にオリジナルアプリを導入した。データを活用し、業務効率化・生産性向上につなげる。
(中略)
商品検索では条件が細分化され検索しやすくなった。仕入れ現場の DX 化に取り組み、バイヤーが手書きしていた 「せりげん」 (競り原票) をアプリ化し、タブレットでの入力・管理に移行した。「場所を選ばずリモートでの作業も可能となった」 (角上魚類商品部関東鮮魚課の呉井宏之課長) という。
DX 化の背景と課題への打ち手
DX を進めるために課題だったのは、新しくデジタルツールを使うことになるバイヤーの心理的な抵抗感や使い方を学習してもらう意欲や手間でした。
そこでバイヤーのこと、鮮魚仕入れの状況や方法を理解するために事前に2週間の現地調査を行いました。
手書きの業務運営をデジタル化する上で、バイヤーの心理的な壁や学習コストに懸念があったという。デジタルコンサルティング・ソフトウエア開発のモンスターラボは2週間の現地視察を通じて業務フローを理解し、バイヤーとの信頼関係を構築。初期開発後、バイヤーとともに実運用に耐えうるように課題の洗い出しや改善に取り組んだ。
東京・豊洲市場と新潟・中央卸売市場や、買い付ける魚種によって、手書きするセリ原票の記載方法が異なっていたり、ファクシミリで送信した手書きのセリ原票を基幹システムで入力したり、従来の業務フローは統一されていなかった。
ユーザー目線での DX 化
実際に現場を体験し理解したことで、ユーザーであるバイヤーに使いやすい DX 化が実現しました。
アプリは、バイヤーが慣れ親しんだ手書きの紙フォーマットをできる限り踏襲し、導入への心理的負荷を軽減。アプリで作成したデータを基幹システム側に直接入れ、基幹システムへの手入力の負担を減らした。
トラックに積み込む際には各自のスマートフォンで写真を撮っていたため、誤配送があった場合の確認にはその担当のスマホから探す必要があった。アプリでは積み込み時に撮影した写真は誰でも見られるようになった。
前半のまとめ
一度ここまでをまとめておきましょう。
- 角上魚類ホールディングスが DX を進め、魚の買い付け業務にオリジナルアプリを導入し、業務効率化と生産性向上を実現
- 2週間の現場のフィールド調査を事前に行い、バイヤーの心理的抵抗感や学習コストを理解し信頼関係を構築
- アプリはバイヤーにとって使いやすなった。基幹システムへの手入力負担を減らし、誤配送の確認が容易になるように改善された
学べること
では今回の鮮魚仕入れの DX 事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
頭ごなしでは現場は動かない
これまでの業務プロセスをデジタル化するとは、現場の人にとってはともすると今までやってきた自分たちのやり方を否定されたと捉えられかねません。
いくら世の中の潮流が DX であるとはいえ、頭ごなしに無理やりに上からデジタル化を押し付けると現場は動かず何も変わらないでしょう。場合によっては現場から反発され対立が生まれ、溝が深まってしまいます。
行動を共にしての深い理解
現場を変えるために大事なのは現状把握から理解です。
対象となる人たち、ツールやシステムなどの仕組みが日々どのように使われているのか、当事者の人たちはどんな姿勢や気持ちから従事しているかを当事者目線で理解します。
これらをアンケートで済ませるだけでは不十分です。面談やインタビュー調査をすれば理解の解像度は上がりますが、必ずしも十分ではありません。今回の事例で見た2週間の期間を一緒にいたように、一定期間で時間を共にすることが有効です。
相手と同じ作業をするなどのプロセスを経験し理解を深めます。行動を共にし相手の中に棲み込むようにすることで、初めて相手が見ている景色を自分たちも相手と同じように見ることができるのです。
理解してから理解される
ところで、自己啓発の世界的なベストセラーに 7つの習慣 という本があります。
✓ 7つの習慣
- 主体的である
- 終わりを描くことから始める
- 重要事項を優先する
- Win-Win を考える
- 理解してから理解される
- 相乗効果を発揮する
- 刃を研ぐ
今回の鮮魚仕入れ DX 化の話は、第5の習慣である 「理解してから理解される」 が当てはまります。
順番はまずは最初に相手のことを深く理解します。現状や課題感に共感した後に、相手にこちらからやりたいこと・変えたいことを伝え、やりたいことを理解してもらうという順です。こちらから押し付けるのではなく、あくまで最初は相手のことの理解からです。
頭で論理的にそう思うだけではなく感情的に心で納得し腹落ちしてもらうことで、初めて現場は動き変わっていくのです。
まとめ
今回は鮮魚仕入れの DX 事例から、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ 理解してから理解される
- 頭ごなしに新しい取り組みや変更を押し付けると反発を招き対立を生んでしまいかねない
- 相手の環境、行動や心理を理解するために行動を共にし、置かれた状況や課題を深く理解することが大事
- 「理解してから理解される」 の原則を適用し、相手のことをまず理解し立場や感情を尊重する。その後で、相手に理解してもらい、動いてもらうコミュニケーションをしよう
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