投稿日 2023/06/06

飴のカンロが Z 世代に注力。新たな現実と課題からの価値創造マーケティング

#マーケティング #顧客理解 #価値提案


お客さんの本当の課題を理解し、それを商品価値にどう落とし込むか。

難しいテーマではありますが、この問いに正面から向き合っている事例としてカンロの飴のマーケティングから、その独特のアプローチを紐解きます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

カンロの取り組み


出典: ITmedia

今回はカンロの飴 (あめ) の事例を見ていきます。

飴市場の課題


飴の市場全体の課題として若年層を取り込むかがあります。

ブームが続くグミに対して、あめは若者が積極的に購入する菓子ではなくなっている。市場を拡大していくためには、若い世代にもあめに親しんでもらうことが大きな課題だ。

 (中略) 

長期的に見れば、あめの市場は緩やかな縮小傾向が続く。あめの消費は40代以上の中高年層が占める割合が大きく、若年層は伸びていないという。将来の市場を見据えると、今の若い世代にもあめに親しんでもらうことが課題となる。

飴は 「もらうもの」 


こうした背景からカンロは若年層をあらためて理解するようにしました。

まずわかったのは若者にとって飴は 「人からもらうもの」 という存在だったことです。

若い世代にヒアリングを行った。

 「ヒアリングの結果、若い世代にとって、あめは自分で "買う" ものではなく、人から “もらう” ものでした。つまり、これから自分のお金で好きなものを買えるようになったときに、あめが選択肢に入ってこないのです」 (ピュレグミ・カンデミーナブランド部の河野亜紀氏) 。市場縮小の危機感を反映するような結果だった。

同時に、飴にはポジティブなイメージがあるというのも収穫でした。

一方で、若い人たちの声によく耳を傾けると、前向きな "兆し" も見つけた。親や祖父母にあめをもらって食べた幼いころのあたたかい記憶、色や形がかわいい、透明感があってきれい ―― といった前向きなイメージが強いことだ。

 「あめはコミュニケーションツールであり、安心感もある。そして、お菓子の象徴としての根源的なかわいさがあります。若い世代もそういった良いイメージを持っているので、もう一度振り向いてもらう兆しがあるのではないかと考えました」 (河野氏) 

人に上げたくなる顧客心理


顧客理解からカンロが目指す方向性は、飴をぱっと見て 「かわいい」 「映える」 だけではなく、飴の価値である 「コミュニケーションツール」 「安心感」 「根源的なかわいさ」 を心から感じてもらうことになりました。

プロジェクトでは、あめの "原体験" をつくることを目的に、現役の高校生3人に参加してもらって商品開発を行っている。22年8月から本格的に始動し、月1回、企画会議を実施。5月の発売に向けて、開発は最終段階に入っている。

 (中略) 

プロジェクトに参加したのは、モデルやタレントとしても活動する高校生。しかし、じっくりと話を聞くうちに、華々しさだけではない "感情" も見えてきた。

 「今の若い人たちはスマホネイティブで、SNS を楽しんでいるというイメージがあります。しかし、彼女たちの話を聞いていると、実際は気持ちの浮き沈みが大きく、不安や孤独と葛藤する "心のもろさ" があることを感じました」 (河野氏) 

 「SNS でメッセージの返事を送ってこない相手が、ストーリーを更新している」 「自分の知らないうちに SNS のグループができている」 「自分がひとりぼっちだと感じることがある」 など、SNS で他人とつながりやすくなったからこそ、若者たちが抱える "モヤモヤ" は複雑で際限のないものになっている。

SNS や日常での人間関係での負の部分、10代の中高生は日々こうしたストレスにさらされています。カンロは飴を通じてこうした問題に寄り添うことを自分たちの役割だと捉えたわけです。


学べること


ではカンロの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

新しい現実において生まれた問題


カンロがやったことを整理してみましょう。

飴という商品のテコ入れや活性化のためにターゲットを若年層に設定しました。そこで10代を取り巻く環境やターゲット顧客の日常生活に立ち返って、お客さんの現実として何が起こっているのかを理解していきました。

気持ちの浮き沈みが大きくなったり、不安や孤独と葛藤する精神状態になることを解決すべき問題だと捉えました。ターゲット顧客 (若年層) を取り巻く新しい現実において生まれた問題です。

お客さんの文脈を理解しての提供価値


とはいえ SNS や対面での人間関係でストレスが一定程度において発生するのは致し方ないことです。ゼロにはできません。

その前提でカンロは自分たちができることは何か、飴でどんな貢献ができるかを見つめ直しました。

カンロが若者に飴をなめてどんな気持ちになりたいかと尋ねると、安心や愛という言葉が出てきたそうです。若者が使う 「かわいい」 の言葉の意味には幅があり、掘り下げていくと 「ポジティブな気持ちになれる」 「元気になれる」 というニュアンスを含んだ 「かわいい」 に対して特に心が動くことがわかりました。

飴がもたらすうれしさについてお客さんの目線と言葉で捉えています。お客さんの文脈を理解し、飴の提供価値を再解釈したわけです。

価値提案を実現するアイデア


カンロはターゲットとしたお客さんの気持ちに寄り添えるような商品の形や味、パッケージを決めていきました。

開発中の商品には、Z 世代の気持ちを高めるような要素をたくさん取り入れているという。

キーワードの一つは 「青春」 。パッケージには、日々の青春を表すようなイメージ、また、上の世代にとっては懐かしさを感じるようなイメージを採用。商品名については 「小説の一節のような、物語が始まることをにおわせる」 (河野氏) 言葉を使っているという。

そして、「安心」 「愛」 を感じられるものが求められていることから、あめのフレーバーは 「どこか懐かしく、ほっとする味」 (河野氏) にした。試作を経て、最終的に決定する。パッケージのサイズは、バッグに入れて持ち歩きやすい小さめのサイズになる予定だ。

価値のつくり方


カンロの事例からの学びを一般化するとお客さん目線での価値のつくり方です。

お客さんの文脈理解から提供価値を見出し、商品やマーケティングの施策に落とし込んでいます。全体の流れは次のようになります。

✓ 価値のつくり方
  • 重視するお客さんを決める
  • お客さんの文脈を理解し、新しい現実から起こっている問題を見極める
  • 問題を解決する方法をつくる
  • お客さんの文脈に合わせて価値を提案する
  • 提供価値につなげるアイデアを実行する

以上がお客さんの現実と問題を捉えての価値のつくり方です。


まとめ


今回は飴のカンロの事例からマーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 価値のつくり方
  • お客さんの文脈を理解し、提供価値を実現する商品やマーケティング施策に落とし込む
  • ① ターゲット顧客の明確化
  • ② お客さんの文脈理解からの問題設定
  • ③ 問題解決策への落とし込み
  • ④ お客さんの文脈に合わせての価値提案
  • ⑤ 提供価値につなげるアイデア実行


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。