投稿日 2023/06/12

介護食用の調理家電 デリソフター。長く諦めていた問題を解決するインパクト

#マーケティング #問題設定


自社の商品やサービスから、本当に解決したい問題は何でしょうか?

多くの人々が見過ごしたり諦めてしまっている問題を解決することで、魅力的な価値をもたらすことができます。今回は、介護食用の調理家電 「デリソフター」 の事例から、的確な問題設定からの成功の秘訣を一緒に探っていきましょう。

デリソフター


出典: ITmedia

ご紹介したいのは介護食用の調理家電です。商品名は 「デリソフター」 といいます。


介護食用の調理家電


デリソフターは短時間で料理や食材を柔らかくしてくれる、介護食用に開発された調理家電です。

デリソフターは料理や食材を柔らかくする調理家電。本体は炊飯器のような見た目で、2.0 気圧の高圧力と 120℃ の蒸気加熱により、短時間で料理や食材を柔らかくする仕組みだ。

使い方は、柔らかくしたい食材や料理を専用調理皿にのせ、200cc の水とともに内鍋にセットして調理開始ボタンを押すだけ。専用調理皿には一般的な幕の内弁当をのせられる程度のスペースがあるので、1回で1食分の調理が可能だ。異なる食材も同時に柔らかくなるので、短時間で食事を用意できる。

介護食が抱える課題


介護食用の調理家電 「デリソフター」 の開発の背景について見てみましょう。

嚥下 (えんげ) 障害 (食べることや飲み込むことの障がい) で、うまく食べられない・飲み込めない状態にある人の食事といえば、ミキサーやすり鉢などでペースト状にするか、市販の介護食を購入するのが一般的だ。しかし、用意する側には自分たちの食事の他に介護食を別で準備する手間や、市販品を購入する金銭的負担がのしかかる。

また、「ペースト状になった食事は見た目も良くなく、食欲がそそられない」 と感じる人もいる。ペースト状にできる食材は限られているため、それまで慣れ親しんだ家庭の味や好物を味わうこともできなかった。

開発者の原体験


デリソフターの誕生のきっかけには開発担当者の原体験がありました。

デリソフターは、開発担当者である水野時枝さんと小川恵さん、それぞれの実体験から生まれた。鹿児島で生まれ、大家族の中で育った水野さん。116歳まで長生きした水野さんの祖母は、家庭料理をとても大切にしていたという。「家族みんなが同じ食事を食べられることの喜びがずっと心の中にありました」 (水野さん) 

小川さんは嚥下障害の父親を介護した経験を持つ。普通の食事が食べられなくなった父親のため、忙しい合間をぬって1日3食の介護食を作る日々。しかし、ミキサーやすり鉢でペースト状にした介護食を作るには想像以上に手間がかかること、時短のため市販の介護食を活用しようにも、かなりの出費になり使いづらいことなど苦労の連続だったという。

 「ある日、父が介護食を前にして『こんなエサみたいなものを食べてまで、生きてる意味がない』とつぶやいたんです。それを聞いた時、『こんなに手間もお金もかけているのに』と思ってしまいました。当時は、父を思いやる余裕もありませんでした。本来楽しいはずの食事の時間が苦痛で仕方なかったです」 (小川さん) 。いきなり食べる喜びを奪われた人、介護食を作り続けなければならない人の悲しみや苦労を痛感したという。

前半のまとめ


では一度ここまでをまとめておきますね。

  • 嚥下障害のある人はペースト状の食事または市販の介護食を摂取するが、料理の準備やコスト、見た目や味の問題がある。家庭料理の味や好きな食べ物を味わうことが難しい

  • デリソフターは介護食用の調理家電。1回で1食分から、高圧力と蒸気加熱を使って短時間で食材を柔らかくし、効率的に食事の準備ができる

  • デリソフターは開発者の介護経験から生まれた。食べることの喜びを奪われた人々や、介護食を作る苦労の軽減を目指している


学べること


ではデリソフターの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

諦めていた問題を解決


これまでの一般的な介護食には 「介護食とはこういうもの」 という固定観念がありました。

介護食は、介護をする側の作り手にとっては準備に手間がかかり金銭的な負担が大きいと思われ、介護される側の高齢者からは好んで食べたいとは思えない存在でした。介護食を作り続けなければならない人の苦労、食べる側には食の喜びを奪われた悲しみがあったわけです。

しかし有効な解決策は見出されず、介護をする側とされる側の両方が諦めていた問題でした。この問題を解決するのが介護食用に開発された調理家電 「デリソフター」 なのです。

誰の何の問題を解決するのか


デリソフターは、人々が受け入れざるをえないと諦めていた問題を解決しています。

マーケティングへの学びとして一般化すれば、誰の何の問題を解決することで、どんな価値を提供するかを明確にする重要性です。

向き合おうとしている問題が見過ごされていたり、解決を長く諦められていた根深いほど、解決した時のインパクトと提供できる価値は大きくなります。

マーケティングで向き合う問いは 「誰のどんな問題に対してどう解決し、提供する本質的な価値は何か」 です。


まとめ


今回は介護食用の調理家電 「デリソフター」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 諦めていた問題解決からの価値提供
  • 人々の一般的な捉え方で 「◯◯ とはこういうもの」 という固定観念にはビジネス機会が眠っている
  • 見過ごされていたり多くの人が解決を長らく諦めていた根深い問題ほど、解決した時のインパクトや提供できる価値は大きい
  • 誰のどんな問題に対してどう解決し、提供する本質的な価値は何かを見出そう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。