投稿日 2023/06/21

Pentel Ain のシャー芯ケース。「買う時」 と 「使う時」 のシーンごとに最適化しよう

#マーケティング #顧客理解 #パッケージ


お客さんが商品を選んで買うときと、商品を実際に使うときで、同じ要素が重要だと思いますか?

今回は、ぺんてるのシャープペンシル 「Pentel Ain」 を例に、この問いを掘り下げます。

それぞれのシーンにおける顧客ニーズを見極め、最適なデザインとコミュニケーションを設計することでユーザー体験がいかに向上するのか。一緒に探っていきましょう。

Pentel Ain


出典: Pentel

ご紹介したいのは、ぺんてるの新しいシャープペンシルの芯です。名前は 「Pentel Ain (アイン) 」 といいます。

Pentel Ain の特徴は折れにくさ、濃さ、汚れにくさなどを高いレベルで維持しつつ、書き味の滑らかさに磨きをかけたという新製品です。

若いスタッフから出た非常識なアイデア


Pentel Ain の 「ぬるっとした書き味」 を生み出したのは若手からでした。アイデアは斬新で非常識なものだったといいます。

 「滑らかさについては、これまで、芯を作る後半の工程、熱処理まで終えた芯に『浸油』という工程で、芯を油に浸すことで実現していました。芯の構成物をオイルコーティングするような形ですね」 と坂田氏 (ぺんてる研究開発本部の坂田祖 (さかたはじめ) 氏) 。

ところが、今回、若いスタッフから出たアイデアは、それとは全く違ったのだという。

 「芯の材料を配合する段階で、オイルを混ぜてしまうという提案があったんです。ただ、ずっと芯を作ってきた僕らは、滑らかさは最後の浸油工程で出すものだと思い込んでいました。また、黒鉛は元々、かなりツルツルした粉なのですが、その段階でさらに滑らかさを高める方法は、色々考えてはいたんです。例えば、黒鉛の粒子1つ1つをフッ素コーティングするとか考えたのですが、それだと膨大なコストがかかっちゃうので諦めてました」 と坂田氏。

材料を混合して成型した後、芯は熱処理するため、オイルを混ぜていても意味はないのではないかと考えていたのだそうだ。

 「ただ、何でもやってみるというのが、わが社の昔からのスタイルでもあるし、特殊オイルが良さそうだというのはあったので、やってみたら、上手くいってしまったんです。面白いのは、この特殊オイル以外では、先に混ぜても上手くいかないんです」 

シャー芯ケースの工夫


興味深いのは Pentel Ain のシャー芯の 「ケース」 です。ケースに貼るシールをうまく活用することでシンプルなデザインを実現しました。

ここには狙いがありました。

ケースも凝っている。使いやすいケースを作ろうと中高生にアンケートを取ったところ、芯の出し方、シャープペンシルへの芯の入れ方には何の法則性もないということが分かったそうだ。それでぺんてるが考える使いやすくてカッコいいケースを独自にデザインしている。

面白いのは、店頭で必要な 「0.5 の HB」 といった表示を大きく分かりやすくすることや、ケースの開閉の仕方といった情報は、使う時には不要になるということで、それらをシールにしてしまって、使う時には剥がしてもらうというデザインを採用したこと。これなら、店頭では見やすく買いやすいけれど、使う時はシックでカッコいい。
左が使用時にシールを剥がした状態 // 右は店頭のディスプレイに並んでいる時の状態 (出典: ITmedia


学べること


では Pentel Ain から学べることを掘り下げていきましょう。

学びへのポイントで着目したいのは Pentel Ain のケースです。

買うシーン、使うシーン


Pentel Ain はお店で売られている時には 「Pentel」 「0.5 HB」 「芯の取り出し方の説明イラスト」 をシールでわかりやすく目立たせました。買った後はシールをはがせるようにしています。

出典: ITmedia

これが意味するのは、お客さんに買ってもらう時の最適なケースデザインと、買った後に使いやすいケースは同じではないということです。本当にお客さんのことを考えるなら、お客さんが買うシーンと使うシーンでデザインを変える必要があるわけです。

買われるシーンでは他の選択肢 (競合商品) と比べて独自性や期待できるベネフィットを訴求します。選ばれるためのコミュニケーションをする役割がパッケージにはあります。

一方の買った後の使われるシーンでは、使いやすいデザインになっていることが大事です。パッケージの情報には買ってもらえる・選ばれるための情報はなくてよいのです。

Pentel Ain はお店で売られているときに表示した 「Pentel」 「0.5 HB」 「芯の取り出し方の説明イラスト」 をシールを買った後に簡単にはがせるようにしました。使う時にはこれらの情報は重要でないとの判断からです。

お客さん目線での最適化


Pentel Ain のケースからマーケティングへの学びとして一般化すると、買ってもらうためのお客さんへのコミュニケーションや商品デザインは、使う時とは分けて考える重要性です。

選んだり買う時に必要な情報は使う時には不要で、場合によっては邪魔な存在になっているかもしれません。お客さん目線になりお客さんはどのように商品を選んで買っているのか、使う時の利用用途やシチュエーション、使い方を理解し、お客さんのシーンごとに最適なデザインやコミュニケーションを設計することが大事です。


まとめ


今回は Pentel Ain のシャー芯のケースを取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ お客さん目線での最適化
  • お客さんに買ってもらう時の最適なパッケージデザインと、買った後に使いやすいパッケージは同じデザインでいいとは限らない
  • 買われるシーンではパッケージには独自性・ベネフィットを訴求し選ばれるための役割があり、使われるシーンでは使いやすいデザインになっていることが大事
  • お客さん目線になり、お客さんのシーンごとに最適な顧客接点 (デザインやコミュニケーション) を設計しよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。