#マーケティング #BtoB #顧客理解
法人を顧客とする BtoB のマーケティングでは、目の前の窓口担当者だけを 「顧客」 と捉えてしまう場面が少なくありません。
ですが、その先にいるエンドユーザー、他には経営層まではっきりと見えているでしょうか。
今回は、MarkeZine のマーケティングイベントで語られた 「パナソニック コネクト」 と 「コクヨ」 の事例をもとに、BtoB マーケティングにおける顧客理解について解説します。
BtoB マーケティングの顧客理解
はじめに、今回の事例の概要を見ていきましょう。MarkeZine Day 2026 Spring というマーケティングイベントでの登壇からです (参考情報) 。
パナソニック コネクトの担当者は、BtoB 企業が陥りやすい問題として 「顧客」 「自社」 「競合」 の 3 つの解像度問題を提起しました。業務プロセスが整理されて分業が進むほど、それぞれの解像度が下がっていくという指摘です。
たとえば顧客については、直接やり取りする窓口担当者だけをお客さんと捉えてしまい、その先のエンドユーザーである従業員まで見えていないケースがあります。コクヨの担当者からは、オフィス移転を例に、移転担当者の先には経営層もいれば現場社員もいて、それぞれが異なる思いを抱えているという話が紹介されました。
顧客の 「先」 を見ること。これが BtoB マーケティングで景色を変えるカギになります。そこでここからは、事例をもとに 「顧客は誰か」 という問いを掘り下げていきます。
顧客は誰か?
売りたい商品があっても、それを必要としているお客さんがいなければ、ビジネスは成立しません。そして顧客が見えていなければ、商品の良さも届かないわけです。
お客さんを定める
ビジネスへの第一歩は、お客さんが誰かをはっきりさせることです。これができていないと、どんなにすばらしい製品やサービスを持っていても、買ってはもらえないでしょう。
マーケティングには目的があり、目的を達成するための戦略を立て、戦略から施策を実行し展開していきます。その流れで進めていくにあたってはっきりさせたいのは、「自分たちのお客さんは誰か」 です。
顧客解像度を高める
「顧客は誰か」 という問いかけは、あらゆるビジネスに当てはまります。自分たちのビジネスがどういうものかを知るために良い方法は、この問いを投げかけることです。
様々なお客さんをひとくくりにせずに、自社のお客さんの解像度を高めるほど、それはすなわち自社のビジネスの特徴を知ることにつながります。
注力顧客や自社の強みの定義すら社内でバラバラというケースは少なくないでしょう。顧客の解像度の低さは、自社の強みの言語化の曖昧さと地続きになります。
BtoB の注力顧客の設定
議論のために、こんなケースを想定してみます。BtoB 企業のマーケティング担当者に、「注力する顧客は?」 と尋ねると、担当者からは次のような答えが返ってきました。
- 年商 300 億円以上の ◯◯ 業界のメーカー
- 従業員は 500 ~ 1000 名ほどの中堅企業
- 業界において三番手のポジション
このような粒度で想定する顧客企業の情報は、一見すると顧客像がはっきりしているように見えますが、果たしてそうでしょうか。
企業像からユーザー像へ解像度を上げる
今の顧客の情報からは、顧客企業がどういう会社かは目星がつきます。しかし、わからないのは、自社が売っている製品やサービスを買ったり使う人が 「どういう人なのか」 です。
その企業の中でどの部門のどの職種や職能の人が、何のために、いつ、どこで、誰と使うかなどの、具体的な製品・サービスの利用者についての顧客情報がありません。
BtoB の顧客は単一の人物や部署ではなく、複数のステークホルダーで構成される DMU (意思決定ユニット) として立体的に見る必要があります。
出典: MarkeZine
たとえば医薬品会社における業務用パソコンの採用を例にすると、IT 部門が選定・運用を行い、その先に実際に使うエンドユーザーがいます。調達部門は 「コストを下げてほしい」 と言い、CTO などの意思決定者からは 「今までのやり方を全部見直したい」 という声が上がっているかもしれません。同じ顧客企業の中にも、立場の違う人たちがいて、それぞれの関心は異なります。
お客さんは誰かという問いには、BtoB 企業であっても顧客設定を 「企業単位」 で終わらせないことが大事です。
その企業にいるどういった人がお客さんなのか、たとえば、「従業員が 300 人以上 500 名以下の食品メーカーで、事業部長またはマーケティング責任者を務めマーケティング活動を統括している人」 のようにです。ここまで顧客解像度を高めた顧客設定を言語化しておくといいでしょう。
購入文脈と利用文脈を分けて理解する
顧客像の解像度を上げた次のステップとして、「買う人」 と 「使う人」 それぞれの 「文脈」 を理解することが重要になります。
事例で紹介されたコクヨのオフィス移転の話を思い出してみると、経営層は何億円もの投資を最大限に活かしたいと考えています。一方で、現場の社員は慣れ親しんだ働き方を変えることへの抵抗感を持っています。手探りの中でプレッシャーも強い複雑な状況の中にいるプロジェクト担当者もいます。
両方を満たさなければ購買は成立しない
買う人と使う人が分かれている場合、どちらか一方の文脈に応えるだけでは、商売はうまくいきません。
BtoB においては、窓口担当者の購入文脈だけを満たして契約まで結びつけても、現場のエンドユーザーが使いこなせなければ、顧客にとっての価値は生まれません。
事例でも、こんな話が紹介されていました。ツールがあるから価値が生まれるのではなく、顧客がそれを使いこなして初めて価値が生まれる、と。だからこそ、共に価値を生み出すパートナーとして顧客を捉えるのです。
買う人の文脈と使う人の文脈、両方を満たして初めて、「この提案に乗ってよかった」 「買ってよかった」 という顧客の実感が生まれます。
BtoB マーケティングへの示唆
BtoB マーケティングは 「企業に売る」 だけでは足りない
顧客企業の属性を定義するだけでは、顧客理解としては不十分です。年商や従業員数、業界ポジションといった企業の輪郭を描いただけでは、その先にいる人たちの姿は見えてきません。
大切なのは、企業の中の誰が関わり、どんな文脈で判断し、どう使うかまで見ていくことです。窓口担当者の顔だけを思い浮かべるのではなく、その後ろにいる意思決定者、現場のエンドユーザー、調達部門、関連部署の人たちまで視野を広げます。
顧客理解は、今だけでなく 「未来」 まで含める
担当者の先にいる関係者、利用者と購入者の違い、そして顧客企業がこれから向かおうとしている未来。未来までを見据えてこそ、時間軸的な意味での 「顧客の先」 を見るマーケティングになっていきます。
事例の中でも、対面しているお客さんのさらに先、すなわち、お客さんの企業がどこへ向かっているのか、ビジョンや将来像を把握しているかが大切だと語られていました。目先のビジネスだけを追うのではなく、顧客の未来を一緒に考える視点を持ち続けることが大事です。
選ばれる理由は、「顧客を立体的に見た先」 に生まれる
顧客理解の解像度が高まるほど、何をどう提供すれば選ばれるかが明確になります。誰に、どんな価値を、どんな文脈で届けるかが具体化していくからです。
その結果、提案も商品開発もコミュニケーションも、顧客起点でつながっていきます。バラバラに動いていた施策が、ひとつの顧客像のもとに束ねられていく感覚です。
今回の事例は、BtoB マーケティングにおいて、組織的な意味と時間軸的な意味での 「顧客の先」 を見ることが、選ばれる理由をつくるための実践そのものであることを示しています。
まとめ
学びのポイントをまとめておきます。
- マーケティングでは 「自分たちのお客さんは誰か」 をはっきりさせる。お客さんの解像度を高めることは、自社ビジネスの特徴を知ることにつながる
- BtoB の顧客設定の解像度を 「企業単位」 で終わらせない。その企業の中でどの部門のどういった人が、何のために、いつ、どこで、誰と使うかまで言語化する (組織的な顧客の先)
- 顧客の現在だけでなく、これから向かう未来まで含めて理解する (時間軸的な顧客の先)
- 顧客理解を立体的に深めることで、選ばれる理由ができる
