#マーケティング #パーセプションチェンジ #価値の再定義
「ホットケーキは、ふんわりとして分厚くて甘いもの」 。そんな当たり前を変えた商品が、発売わずか 1 カ月で計画の 2.5 倍を出荷しました。
昭和産業は、休日に家族で食べる甘いおやつというホットケーキの意味を、お酒に合わせたり、人と一緒につまんだりする食べ物へと広げました。
今回は、この事例から、お客さんが商品に抱く価値イメージを変える 「パーセプションチェンジ」 について考えます。
「俺が好きなうすーくてちーちゃいやつ。ホットケーキミックス」
出典: PRWIRE
ホットケーキミックスと聞くと、休日に家族で焼いて食べる、ふんわり厚くて甘いスイーツを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。長らくホットケーキミックスには、そうした価値観が当たり前のものとして定着してきました。
昭和産業は、ホットケーキの 「おつまみ化」 という発想を打ち出します。タレントの堂本剛さんの薄くて小さいホットケーキへの強いこだわりをもとに、商品開発を進めました。
完成した新商品が 「俺が好きなうすーくてちーちゃいやつ。ホットケーキミックス」 です。直径わずか 8 cm 、内容量 150 g 。塩味を配合し、焼き時間は約 3 分です。商品名から味づくり、サイズ、容量まで、従来のホットケーキミックスとはまったく違うものになっています。
発売後の反応も好調です。当初計画の 8 万個に対して、わずか 1 カ月で 20 万個を出荷。計画比 2.5 倍のスピードで新しい需要を開拓しています。
パーセプションチェンジ
この事例からは、マーケティングの 「パーセプションチェンジ」 に学びが得られます。
パーセプションチェンジとは
パーセプションは、日本語に訳すと認識や知覚を意味する言葉です。マーケティングの文脈では、お客さんが商品に対して抱く価値イメージのことを指します。
お客さんが持つパーセプションを、お客さんにとってどんな意味があるのかという切り口で再定義し、より良い方向へ書き換えていくのが 「パーセプションチェンジ」 です。
価値イメージが変われば、お客さんにとっての 「良い商品とは何か」 という基準も変わり、購買基準がアップデートされます。
固定化した認識の外に潜在ニーズを見つける
休日の朝や子どものおやつとして、家族でホットプレートを囲む情景が浮かぶ方もいるかもしれません。実際に購買層も、子どものいる家庭やシニア層に偏っていたとのことです。一方、単身者や若い世代、お酒を楽しむ層にとっては、ホットケーキミックスは自分のための食べ物として想起されにくい存在になっていました。
ホットケーキの見られ方が固定されたままだと、市場も広がりにくくなります。「よりおいしい」 「よりふんわり」 を競っても、従来の延長線上では差をつけにくいからです。実際にホットケーキミックス市場は、原材料費の高騰や少子化の影響もあり、シュリンク傾向にありました。
昭和産業は、商品の見られ方を変える発想を取り入れました。
実は薄くて軽いホットケーキへの需要は、すでに別の場所で兆しを見せていました。
たとえばマクドナルドの朝マックや、ロイヤルホストの定番メニューのように、ホットケーキは外食シーンでは人気を集めています。一方、家庭用ミックス粉の市場では、その需要が十分に商品の形になっていませんでした。
潜在ニーズはすでに存在していても、企業側の固定観念によって見えにくくなることがあります。昭和産業は従来の前提をいったん脇に置いて市場を見直し、潜在ニーズを捉えました。
顧客文脈を把握し、価値を再定義する
起点になったのは、ホットケーキマニアを自任する堂本剛さんの強いこだわりでした。昭和産業は、この声を商品開発の手がかりとして重く受け止めました。
堂本剛さんのホットケーキへのこだわりの背景には、重すぎないこと、すぐ焼けること、一口で食べやすいこと、甘すぎないほうがよいことといった文脈がありました。さらに、ホットケーキを甘いデザート以外の食べ方にも広げられるという、ホットケーキの前提を揺さぶる示唆も含まれていました。
昭和産業は、ホットケーキへの認識を、ふんわり厚くて甘い食べ物から、気軽につまめる、食事にもお酒にも合う、人と一緒に楽しめるものへと置き換えました。150 g 、直径約 8 cm 、塩味の強化、焼き時間約 3 分という仕様は、すべて再定義した価値に合わせて組み立てられています。
薄い、小さい、塩味がしっかりしているといった機能上の特徴は、お客さんにとって、すぐ焼ける、お酒に合う、ホケパ (ホットケーキパーティ) が楽しめるという生活の中での意味につながります。パーセプションチェンジでは、機能が生活の中でどんな意味を持つのかまで伝えることが大切です。
パーセプションチェンジによって起こること
パーセプションチェンジが起きると、お客さんとの関係や市場の見え方はどう変わっていくのかを整理しておきましょう。
購買基準が変わり、新しい顧客が入ってくる
これまでホットケーキの良さは、厚みや甘さ、ふんわり感という評価軸で測られてきました。今回の新商品では、食べやすさ、合わせやすさ、場の楽しさ、手軽さといった、新しい評価軸が提示されました。
今回の新商品は、カテゴリーの中で何を良しとするかという購買基準をアップデートしたと言えます。
購買基準が変われば、これまで売り場の前を素通りしていた人にも新しい接点が生まれます。
単身者、若い世代、お酒を楽しむ層など、従来のホットケーキの主要購入層ではない人たちが、自分向けの商品として手に取れるようになることが期待できます。使い切りの 150 g というサイズや、おつまみ系のアレンジレシピも、試すハードルを下げる役割を果たします。
競争の土俵が変わる
さらに、競争の土俵も変わっていきます。甘いホットケーキとして売っていれば、競合は他社のホットケーキミックスやスイーツ商品です。
おつまみやホケパという文脈に置き換えると、戦う場所も変わります。価格や機能の比較から離れ、まったく新しい文脈で選ばれるようになるのです。
新しい価値イメージを定着させる
新しい価値イメージがお客さんの中に定着するには、商品発売後も時間がかかります。
新しい価値イメージは、お客さんが繰り返し接する中で少しずつ定着していきます。
商品と伝え方、見せ方を一貫させることが重要です。パーセプションチェンジには、継続的なコミュニケーション活動として取り組む必要があります。
今回の事例では、商品名と SNS とパッケージが一体になって、新しい価値イメージを浸透させています。
商品名の 「俺が好きなうすーくてちーちゃいやつ。ホットケーキミックス」 は、従来のホットケーキとは違う特徴をそのまま言葉にしています。
SNS 上では、何もつけなくてもおいしい、3 分で焼けるからすぐ食べられる、急きょのホケパができたといった声が広がっていきました。お客さんの体験談を通じて、新しい食べ方や楽しみ方も広がっています。
パッケージにも工夫が凝らされています。紫を基調にしたグラデーションは、赤や黄色が大半を占めるホットケーキ売り場の中で際立ち、新しいカテゴリーの商品だと感じさせる印象を残します。
事例からの汎用的な学び
ホットケーキミックスの事例から、業界を問わず参考にできる学びを整理しておきましょう。
売り手の固定観念を疑い、一人の顧客を深く見る
カテゴリーの当たり前は、売り手側がつくっていることも少なくありません。今回の事例で言えば、ホットケーキは甘いもの、休日に家族で食べるものというイメージが、業界の中で長く積み上げられてきました。
自社の常識を一度棚卸ししてみると、お客さんが感じる価値を見直す余地が出てきます。商品のスペックを改善することに加えて、生活の中でどんな意味を持つのかを捉え直すことも、選ばれる理由づくりにつながります。
平均的な多数派の声は、今ある需要を知るうえで役立ちます。一方、高い熱量を持つ少数の声には、まだ広く認識されていない価値のヒントが含まれていることがあります。
昭和産業は、過去の調査で多数を占めていたふんわり厚いホットケーキを求める声をあえて脇に置き、堂本剛さんという一人の熱量に賭けました。ヒットの理由には、堂本さんを起用した話題性に加えて、その個人の声を商品、パッケージ、レシピ、売り場のすべてに一貫して反映し、ほかのお客さんにも伝わる価値へ置き換えたことがあります。
顧客接点の気づきを商品と伝え方につなげる
顧客接点で得られる生きた情報には、まだ言葉になっていない価値のヒントが含まれています。そこで得た気づきを、商品から訴求、売り場づくりまでつなげていくと、パーセプションチェンジにつなげやすくなります。
マーケティングの役割は、カテゴリーや自社商品の見え方を変え、お客さんにとっての価値を提案し、選ばれる理由を新たにつくり出すことだと捉えます。
まとめ
学びのポイントをまとめておきます。
- パーセプションチェンジとは、お客さんが商品に抱く価値イメージを、その人にとっての意味で再定義し、書き換えていくアプローチ
- 売り手の固定観念を疑うことが、価値を再定義する第一歩になる
- 高い熱量を持つ一人を深く理解すると、未来の価値を先取りする手がかりが得られる
- 商品名、伝え方、売り場を一貫させると、新しい価値イメージがお客さんの中に定着しやすくなる
