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今回は、書籍『ベインキャピタル 企業価値向上力の秘密 (ベインキャピタル) 』を取り上げます。

PE ファンド (プライベート・エクイティ・ファンド) であるベインキャピタルは、キオクシアへの投資などで名前を聞く機会が増えました。

一方で、PE ファンドが投資先の企業で何をしているのかは、外から見えにくいところがあります。

本書には、企業の成長余地を見つけ、経営陣や社員とともに改革を進める実務が具体的に書かれています。経営戦略、事業戦略、マーケティング、現場での実行をどうつなぐのかを見ていきましょう。

本書の概要

PE は Private Equity の略で、未公開株式を意味します。

PE ファンドは、投資家から集めた資金で企業の株式を取得し、経営に関わりながら企業価値を高める投資ファンドです。数年後の再上場や売却などによって投資資金を回収するため、投資先の企業価値向上がファンドの収益につながります。

本書は、ベインキャピタルが手がけた投資案件を通して、PE ファンドによる企業価値向上の仕事を紹介した本です。

一言の主題

本書の主題を一言で表すと、企業価値向上とは、企業が持つ成長の可能性を見つけ、現場に入り、経営陣や社員とともに事業と組織を変えていくことです。

ベインキャピタルは、投資先の価値が高まれば、自らの投資収益も高まると考えています。企業を成長させることと、ファンドが利益を得ることを同じ方向にそろえています。

事業の競争力、顧客が感じる価値、現場の業務、意思決定の流れ、組織文化までを理解し、企業が成長を続けられる状態をつくろうとします。

PE ファンドへの見方が変わる本

PE ファンドには、企業を買収し、借入やコスト削減を使って収益性を高め、数年後に売却する金融会社という印象があります。本書を読むと、ベインキャピタルの仕事には、かなり泥臭い活動が含まれていると分かります。

ベインキャピタルは投資後は企業の内部に入り、経営陣や社員と一緒に改革を進めます。現場へのインタビュー、店舗や工場の観察、会議への参加、顧客調査、データ分析を重ね、日々の業務で起きている問題を一つずつ確かめます。

取締役会や経営会議で助言しながら、改革の途中で生じる問題も投資先と一緒に解いていきます。企業を外から指導する支援よりも、同じチームに入り、成長を支える姿勢が強く表れています。

9 つの投資案件から企業改革を具体的に描く

本書では、すかいらーくホールディングス、ユキグニファクトリー、ニチイホールディングス、キオクシアホールディングス、プロテリアル、ヨーク・ホールディングス、IDAJ、T&K TOKA、トランコムの事例が紹介されています。

事例は、既存企業の成長力を高める支援、大企業から事業を切り出して独立会社をつくるカーブアウト、創業家やアクティビストとの関係を整理する支援に分かれます。

各社で行った施策に加え、なぜ課題に気づいたのか、どのような調査を行い、改革案を決めたのかまで書かれています。PE ファンドの仕事を、投資判断から現場での実行まで続く流れとして理解できます。

財務エンジニアリングを超えた企業変革

本書に登場する改革は、メニュー構成、価格設定、顧客調査、採用、人事制度、店舗運営、IT 、経営会議など、企業活動の広い範囲に及びます。

キオクシアやプロテリアルのようなカーブアウトでは、親会社から事業を切り離す作業に加え、独立企業として必要な経営体制を整えます。財務、人事、IT 、調達、意思決定の仕組みを自社で持ち、世界市場で戦える会社へ変えていきます。

すかいらーくやニチイの事例では、顧客や働く人の行動をデータで捉え、日々の仕事を変えています。企業価値を高める仕事は、事業を支える具体的な活動まで扱い、財務指標の改善へつなげます。

留意しておきたいのは、本書がベインキャピタル自身によって書かれた PR 本としての性格を持つことです。紹介されているのは、成功した案件や、うまく進んだ施策が中心です。

投資の失敗、想定外に起きた問題、従業員との衝突、借入を活用するレバレッジのリスク、改革によって不利益を受けた関係者については、前面には出てきません。ベインキャピタルが自らの仕事をどう捉え、どのような企業改革を目指しているのかを知る本として読むと、内容を受け止めやすくなります。

ベインキャピタルから学ぶ企業価値向上の方法

本書からは、経営戦略や事業戦略を考え、マーケティングや組織の施策へ落とし、現場で実行するまでの流れを学べます。

企業の潜在的な成長力を見抜く

ベインキャピタルの企業価値向上は、投資する前の調査から始まります。現在の売上や利益に加え、事業構造、顧客、商品、価格、競合、店舗、コスト、組織などを詳しく見ていきます。

調査では、業績が伸びない理由とともに、すでに支持されている商品、優れた技術、顧客との関係、店舗網、人材、ブランドなど、まだ十分に活用されていない資産を探します。

そして、どこを変えれば成長できるのか、どの施策でどれくらい価値を高められるのかという仮説をつくります。投資価格にも、将来の成長余地に対する見立てが反映されます。

事業戦略を考える際にも応用できる姿勢です。現在の数字に加え、顧客から支持されている理由や、活用しきれていない強みまで見ることで、次の成長機会が見つかります。

現場と組織を理解してから改革を考える

ベインキャピタルは、投資先企業の文化や DNA 、意思決定の流れ、社内に残る慣習まで慎重に見ます。現場へのインタビューや視察を行い、会議に参加しても、当初は発言を控えて観察することがあります。

数字と現場の動きを合わせて見ると、会社がどのように動いているかが分かります。誰の意見が意思決定に影響するのか、現場と経営陣の間で情報がどう伝わるのか、過去の改革が進まなかった理由は何かを確かめます。

同じ施策でも、会社によって受け止められ方が変わります。経営陣が方向を示したほうが動きやすい会社もあれば、現場で納得をつくってから広げたほうがよい会社もあります。

外部で成功した手法を取り入れる際にも、自社の仕事の進め方や組織の癖を知ることが必要です。改革の内容と進め方を、投資先の実情に合わせて考えています。

顧客価値から事業戦略を組み立てる

すかいらーくの事例では、メニューごとに、どの価格までお客さんが価値を感じるのかを調べました。価格を少しずつ上げた時に、価値を感じる人が急に減る価格帯を見つけ、その範囲を超えないように値上げを進めました。

メニューごとの役割も分けています。ガストのドリンクバーやバーミヤンの餃子のように、多くのお客さんが価格を覚えている商品は、値上げが店全体の割高感につながるため守りました。

一方で、原材料価格の上昇が広く知られている商品や、固定客が繰り返し注文する商品では、値上げが受け入れられる余地があります。こうした違いを組み合わせ、顧客離れを抑えながら全体で約 2% の値上げを実現しました。

価格を決める時には、原価や競合価格に加え、お客さんが商品のどこに価値を感じ、どの価格を覚え、値上げをどのように受け止めるかまで理解する必要があります。

企業価値と顧客価値はつながっています。顧客理解を深めることで、守るべき商品、価格を見直せる商品、収益性を高める余地が見えてきます。

戦略を数字と現場の仕事に落とし込む

経営戦略や事業戦略をつくっても、現場の仕事が同じままでは成果につながりません。ベインキャピタルは、改革案を KPI 、業務の手順、会議、役割、権限、評価制度へ落とし込みます。

すかいらーくでは、売上の多くを生み出すメニューを特定し、メニュー数、使用する食材、調理工程を見直しました。提供の早さや厨房の動き、調達効率を改善し、店舗の収益性を高めています。

ニチイでは、地域ごとの採用市場を調べ、地域ごとの報酬を最適化しました。本部が全国の採用状況を把握し、共通の基準を示しながら、各地域が実際の採用活動を進める形に変えました。

改革を進めるには、誰が、どの数字を見て、どのような判断をし、次に何をするかを明確にする必要があります。戦略と毎日の仕事がつながるところまで具体化しています。

経営陣や社員と一緒に改革を実行する

ベインキャピタルが重視するハンズオン支援では、改革案を示した後も投資先に深く関わります。計画を進める中で起きた問題を、経営陣や社員と一緒に解決します。

ユキグニファクトリーでは、担当者が新潟に住み込み、現場で再上場に向けた改革を支えました。現場で仕事をともにすることで課題をつかみ、同じ時間を過ごしながら改善を進めました。

IDAJ では、経営会議などの仕組みを完成形のまま渡さず、企業側が自分たちで考える余地を残しました。投資先の経営陣や社員が、自分たちで会社を変えたと感じられる進め方を選んでいます。

PE ファンドはいずれ投資先から離れます。ファンドが離れた後も会社が成長を続けるには、投資先に判断する力と実行する力が残っていることが重要です。

企業の可能性を見つけ、現場や組織を理解し、顧客価値から戦略を考え、日々の仕事に落とし込む。そして、経営陣や社員が改革を続けられる状態をつくるまで伴走します。本書から見えるベインキャピタルの企業価値向上は、以上の流れで進められています。

まとめ

書籍『ベインキャピタル 企業価値向上力の秘密 (ベインキャピタル) 』を取り上げ、学べることを見てきました。

学びのポイントをまとめておきます。

  • 企業価値向上とは、企業の成長余地を見つけ、事業・組織・現場の仕事を変えていく取り組み
  • ベインキャピタルは投資先の内部に入り、経営陣や社員と問題を解きながら改革を進める
  • 投資前から顧客・商品・価格・組織を調べ、活用しきれていない強みと成長機会を見つける
  • 顧客が感じる価値を調べ、商品ごとの役割や価格への反応を踏まえて事業戦略を組み立てる
  • 戦略を KPI や業務、会議、役割まで落とし込み、投資先が自ら成長を続けられる力を残す