#マーケティング #ブランド戦略 #エントリーポイント
SEO で検索結果の 1 ページ目を取っていても、生成 AI に訊くと自社名がほとんど出てこない。これでは、検索で勝っていても、AI の世界では存在しないブランドになりかねません。
京都の老舗米店、八代目儀兵衛はこの現実に正面から向き合い始めています。
今回は同社の AIO (AI 検索最適化) 対策の事例から、「カテゴリーエントリーポイント (CEP) 」 と 「ブランドエントリーポイント (BEP) 」 という 2 つの入口について学んでいきます。
八代目儀兵衛の AIO 対応
八代目儀兵衛は京都を拠点とする老舗米店で、贈答用のお米ギフト通販を主力事業としています。
SEO で成果を出してきた八代目儀兵衛が直面した変化
八代目儀兵衛は 2006 年からインターネット販売を開始し、SEO (検索エンジン最適化) に早くから取り組んで成果を上げてきた EC 事業者です。
そんな八代目儀兵衛が、ある変化に危機感を強めています。検索で 1 ページ目を取っているキーワードでも、ChatGPT などの生成 AI に尋ねると自社名がなかなか推奨候補に挙がってこないのです。
加えて熨斗 (のし) の書き方のような情報ニーズでは、Google 検索の AI Overviews が回答を表示するケースが増えました。検索結果に表示されても自社サイトへクリックされない、いわゆるゼロクリック問題によって、自社コンテンツ記事を経由してお米ギフトの存在を知ってもらう導線が弱まりつつあります。
カテゴリー需要そのものは存在しているのに、その入口で自社サイトが見込み顧客との接点になりにくくなっている。これが八代目儀兵衛の直面した現実でした。
AIO 対策として変えようとしていること
八代目儀兵衛は 2025 年 9 月ごろから AIO (AI Optimization / AI 検索最適化) 対策に着手しました。自社サイトの表現を AI に理解されやすい形に修正し、外部メディアで取り上げてもらう働きかけを進めて権威性を高め、SNS やオフライン施策にも広げています。
目指しているのは、検索に依存するのではなく、検索する前に思い出されるブランドになることです。
この事例をマーケティングの 2 つのエントリーポイントという視点から見ると、同社の取り組みの意図が見えてきます。
2 つのエントリーポイント
マーケティングでは、お客さんが商品を選ぶまでに 2 つの入口があると考えます。
カテゴリーエントリーポイント (CEP)
カテゴリーエントリーポイント (Category Entry Points: CEP) とは、消費者が特定の商品カテゴリーについて 「必要かも」 「ほしい」 と思う瞬間や状況のことです。そのカテゴリーへの入口が開く瞬間を指します。
飲料カテゴリーなら 「喉が渇いたとき」 「食事中」 などが代表例です。ギフトカテゴリーなら 「目上の人への贈り物を探す」 「内祝いを決める」 といった場面が該当します。
ブランドエントリーポイント (BEP)
ただし、カテゴリーを思い浮かべただけで、自動的に自社の商品が選ばれるわけではありません。
もうひとつの入口が、ブランドエントリーポイント (Brand Entry Points: BEP) です。カテゴリーを思い浮かべた後に、どのブランドを候補に入れるかという瞬間を指します。
ここで大切になるのが想起集合 (Evoked Set) という考え方です。想起集合、あるいは考慮集合とも言いますが、あるカテゴリーで何かを思い立ったときに、比較検討の候補として自然に頭に浮かぶブランドのリストのことです。一般的に想起集合に含まれるブランドの数は 2 つから 3 つ程度と言われています。
CEP と BEP の関係
CEP と BEP を簡単に言えば、CEP は 「ブランドを思い出してもらうための舞台設定」 、BEP は 「その舞台でいかに自社ブランドを主役として輝かせるか」 という関係です。
CEP を押さえるだけでは BEP で選ばれなければ売上につながらず、逆に BEP だけ強くてもカテゴリー需要の入口が狭ければ成長は頭打ちになります。両方をつなげて考えるのが大切なのです。
CEP で読み解く八代目儀兵衛
これまで捉えてきた既存 CEP
八代目儀兵衛がこれまで捉えてきたのは、出産祝い、結婚祝い、内祝いなど贈答需要が顕在化する場面を、検索経由で押さえる方法でした。
同社が検索上位を勝ち取ってきたキーワードには 「結婚祝い センスがいい」 「5000 円 おしゃれ」 のような複数語の組み合わせがあり、これらは具体的な CEP の表れです。ニーズが顕在化した検索の瞬間を的確に捉えるのが、贈答需要では効率的だったわけです。
既存 CEP だけでは足りなくなった理由
ところが、この既存 CEP を捉えるやり方が通用しにくくなっています。熨斗の書き方のような情報ニーズでは生成 AI が回答を直接表示するケースが増え、そこから八代目儀兵衛のサイトへ流入するルートが弱まっているのです。
CEP 自体は消えていません。ただ、その入口で自社サイトが接触点になる機会が減っているというのが、同社の直面した変化の本質です。
検索クエリから生活者の相談文脈へ
従来の CEP は検索キーワードとして存在していました。しかし AI が当たり前のように使われる場合には、生活者が AI に投げかける相談文そのものが CEP になりつつあります。
「目上の人へのギフトは何がいいか」 「センスのいい内祝いは?」 といった自然な問いかけが新しい CEP なのです。
検索キーワードは断片的な語句の組み合わせですが、相談文には状況も感情も含まれています。「失礼がないものを選びたい」 「センスがいいと思われたい」 といった気持ちがそのまま言葉になって AI に投げかけられます。
八代目儀兵衛が重視しているのは、こうした相談の中でまずカテゴリー候補として 「お米」 が挙がる状態をつくることです。検索キーワード発想から生活者の相談文脈発想へという転換が、AI が普及する環境での CEP を考える出発点になります。
なお同社には、ギフト以外の CEP と捉えられる取り組みもあります。2024 年 11 月にバーガーキングとのコラボで 「KYOTO ワッパー」 を発売し、「ランチで何か変わったものを食べたい」 という贈答とはまったく異なる文脈にブランドを接続しました。
BEP で読み解く八代目儀兵衛
現状の生成 AI は 「目上の人へのギフトは何がいいか」 と訊くと、ブランド名より先にタオルや菓子といったカテゴリーを薦めるケースが多いはずです。仮にお米というカテゴリーがギフトの候補に入ったとしても (CEP) 、次のブランド段階で八代目儀兵衛の名前が出てこなければ (BEP) 売上にはつながりません。
八代目儀兵衛が進める BEP 強化策
1 つ目は AI に理解されることです。1020サイトの中に 「ギフト」 という直接的な言葉を追記し、自社がギフトカテゴリーの有力候補であることを AI に認識させていきます。
2 つ目は AI に信頼されることです。SEO でもアドバイスを受けた Faber Company と共に、ギフトで想定されるプロンプトを 200 種類以上用意して推奨状況を調査しつつ、アフィリエイトサイトや紹介メディアなどで取り上げてもらう働きかけを進め、ニュースメディアでの露出も重視し、第三者からの権威性を積み上げようとしています。
3 つ目は人に思い出されることです。八代目儀兵衛は 2023 年にセブン‐イレブンのおにぎり商品でご飯の監修を担当し、先ほどのバーガーキングとのコラボも同じ文脈です。こうした協業はブランドの認知を広げ、日常の記憶に残る接点をつくります。
ギフト体験が BEP を育てる好循環
八代目儀兵衛が BEP を強くしようとしているのは、広告や協業だけではありません。ギフト体験そのものが次の想起を生んでいます。
同社の新規利用者の約 2 割は、以前に八代目儀兵衛の商品をもらったことがあると回答しているそうです。ギフトを受け取った人が、いつか自分が贈り手になったときに 「あのお米ギフトが良かった」 と思い出し、今度は自分で注文するという構図です。
八代目儀兵衛は、AI 検索で推奨されやすいブランドには 「このカテゴリーといえばこれ (このブランド) 」 といった長年の認知や代表性の蓄積があると分析しています。
CEP と BEP の連動で考える AIO の設計
CEP と BEP は、片方だけでは機能しません。ここまで見てきたように、お米というカテゴリーを推してもらうのは CEP の拡張であり、その中で八代目儀兵衛というブランドを推してもらうのは BEP の強化です。
八代目儀兵衛は、検索、EC モール、SNS、PR、オフラインをまたぐ動線設計によって、この想起経路を組み立てようとしています。
同社は TikTok で月に 4 本ほど投稿し、数十万回再生された例もあるとのことです。Instagram にも力を入れていて、重視しているのは再生数だけではなくブックマーク数です。将来ギフトが必要になったときに思い出してもらうための想起形成の準備という位置づけです。
チャネルごとの最適化ではなく、生活者の中に 「お米ギフトなら八代目儀兵衛」 というカテゴリーからブランドへの想起の道筋をつくる。AI に対しても人に対しても、この考え方は同じです。
まとめ
- AI 時代の CEP は、検索キーワードではなく生活者の相談文脈に移りつつある。どんな状況や気持ちで AI に問いかけるかという文脈を捉える
- BEP は AI と人の両方の想起集合に入ることが重要。AI に理解され、AI に信頼され、人に思い出される状態をつくる
- AIO は CEP から BEP までの想起経路を設計する。お客さんの頭の中に 「このカテゴリーならこのブランド」 という道筋をつくることが、AI にも人にも効く戦略になる