今回のテーマは 「生活者やお客さんをどう理解するか」 です。
おもしろいと思った博報堂の分析事例をご紹介し、マーケティングに学べることを掘り下げます。
✓ この記事でわかること
- 博報堂生活総合研究所のデジノグラフィ
- 家計簿データの分析事例
- 売上増 / 減のメカニズムはわかっている?
- 顧客インサイトまで理解しよう
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
デジノグラフィ分析
こちらの記事が興味深かったです。
「行動 × 意識」 で見えてくる生活者の欲求 - 博報堂生活総研のデジノグラフィ研究事例|MarkeZine
デジノグラフィとはデータをエスノグラフィ (行動観察) の視点で読み解くアプローチです。博報堂生活総研が様々なデータ所有会社と協働で推進しています。
家計簿データの分析事例
デジノグラフィの事例では家計簿アプリ Zaim を使った分析が紹介されていました。
コロナ禍前後の支出総額を分析すると、全体の傾向ではコロナ禍前より支出総額は減少していた。しかしユーザー1人ひとりについて支出の推移を見たところ、4人に1人はコロナ禍で支出総額が増えたというデータも明らかになった (2019年から2021年のデータ比較) 。
では、支出総額が増えた人はどんな人か。家計簿データを2019年1月以降蓄積している人約3,000人の中で、2021年の支出が2019年より増加した767人に対し、全体と比較して消費の傾向や意識の特徴を分析した。
まず、支出が増加した人の属性 (年齢・性別・世帯年収) には、全体と比較して大きな偏りはなかった。また、支出の総額が増えたといっても、飲み会、旅行、レジャー、外食といった 「外」 での支出金額は行動制限の影響で大きく減少していたということがわかった。
支出が増えたカテゴリー3つ
家計簿データの分析でわかったのは2019年と比べて2021年において、3つのカテゴリーで支出が増えたということでした。
3つを順番に見ていくと、1つ目は住設備です。
出典: MarkeZine
住宅、家具、家電などの住設備でした。特に本棚や空気清浄機の機能性の高い家具・家電の購入が目立ったとのことです。
コロナ禍の前は特に飲み会やアクセサリーなどの 「社交関連」 に支出していた人が、コロナ禍では 「住設備」 に支出をシフトしたようです。
次に2つ目の支出が増えたカテゴリーはコンテンツでした。
出典: MarkeZine
ゲームやマンガなどのコンテンツです。特にコロナ禍前はアウトドアに多く支出していた人が、コンテンツに支出をシフトしたことがわかりました。
3つ目のカテゴリーは美容でした。
出典: MarkeZine
エステ・ネイル、コスメ、美容院といった美容関連の支出が増えたようです。特にコロナ禍前は外食や旅行でリフレッシュしていた人が、行動が制限されたためか美容にシフトしていました。
背後にある価値観
博報堂生活総研のこの分析で注目したいのは、さらにもう一歩踏み込み支出の増えた人の心理や価値観を深掘りしたことです。
酒井氏 (引用者注: 博報堂生活総合研究所 上席研究員 酒井崇匡氏) は意識調査の結果を基に 「交際 → 住設備」 「アウトドア → コンテンツ」 「リフレッシュ → 美容」 といった支出のシフトをした人は、裏側にどのような意識や価値観があるのかも解説した。
まず、住設備への支出が増加した人には 「何かに属していることによる自信がある」 「情報処理能力が高い」 傾向があることがわかった。彼らは拠り所だった飲み会やアクセサリーの消費がしにくくなり、次の拠り所として家の中の設備の充実に動いたようだ。
コンテンツへの支出が増加した人の意識には 「欲しいものを買うためなら生活の何かを削る」 「将来に備えるより今をエンジョイするタイプ」 という傾向があった。アウトドアから漫画、ゲームなどにシフトした人は、今を生き "リア充" な人たちだった、ということだ。
最後に、美容への支出が増加した人は 「お金は使わないと幸せになれないと思う」 「多少値段が高くても後悔しないものを買う」 といった "自分にご褒美をあげたい" 消費意欲の高い人々だった。
現在、行動制限の緩和でコロナ禍で行った支出のシフトに揺り戻しが起こっている。しかし、完全に以前の状態に戻るというよりは、この分析で見えてきた拠り所の確保、今の充実、自分へのご褒美といったベースの意識の上で、2つの市場は混ざり合っていくことになるだろう。
出典: MarkeZine
支出が増えた3つのカテゴリーごとに奥にあった価値観は、
✓ 奥にある価値観
- 交際 →住設備: 自分の拠りどころを持つ
- アウトドア → コンテンツ: 今を充実させる
- リフレッシュ → 美容: 自分へのご褒美
学べること
では今回の博報堂の分析事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
生活者の行動と心理
デジノグラフィの分析からの学びは、生活者の行動の結果だけではなく、結果に至るプロセスやメカニズムまで理解する重要性です。
ここで言う 「結果」 とは、今回の分析では3つのカテゴリーの支出が増えたという事象です。結果を引き起こしたメカニズムは生活者の行動の変化、さらに行動に影響を与えた心理 (感情や価値観) です。
結果に至るまでの流れは 「心理 → 行動 → 結果」 です。
表面的な事象である結果、例えばあるカテゴリーが伸びた、自社商品の売上が増えた / 減っただけで理解を止めないことがポイントです。結果につながった行動、さらに行動の背後にある心理までを掘り下げられることがマーケティングでは大事なのです。
顧客インサイトの理解
目指したい顧客理解のレベルは、マーケティングの専門用語を使うと 「顧客インサイト」 までです。
顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。
心のホットボタンとか心のツボのようなものです。普段は本人は意識していないものの心のボタンを押されると態度が変わり、行動を起こす奥にある心理です。
お客さんや生活者の考えや行動は、マーケターからすると合理的ではなく矛盾した振る舞いに見えることもあります。例えば、非効率とも思えるような行動を繰り返していたり、そうかと思えばその行動を突然やめてしまったりです。こうした行動の変化の裏には、無自覚ではあっても何らかの心理が隠れています。
マーケターの役割
顧客インサイトは生活者やお客さんが直接教えてくれるものではありません。
というのはインサイトは本人もまだ言葉にできなかったり、本音を他人に言うのが恥ずかしい、あるいはそもそも自身もまだ気づいていないような奥にある気持ちだからです。
ではどうするかと言うと見出すのはマーケターです。時には解釈を膨らませて、マーケター自らがいわば赤の他人であるお客さんのことを本人以上のレベルで理解する。ここにマーケターの役割があります。
まとめ
今回は博報堂生活総研のデジノグラフィ分析を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ 顧客インサイト
- 顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 。普段は本人は意識していないが、心のホットボタンを押されると態度が変わり、行動を起こす奥にある心理
- 生活者やお客さんが直接的に顧客インサイトを教えてくれるものではない
- 解釈を膨らませて、マーケター自らが赤の他人であるお客さんのことを本人以上に理解しよう
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