#マーケティング #顧客体験 #顧客価値
お金を払いたくなる理由は、商品の中身が良いことです。
そのうえで、いくらまでなら払えるかを真剣に考えてみると、財布を開かせているのは中身だけではないことに気づきます。
今回はファッションサービスの 「エアクロメンズ」 を例に、お金を払いたくなる価値とは何かを考えます。
エアクロメンズを使い始めました
出典: エアクロメンズ
取り上げるのは、最近使い始めた 「エアクロメンズ」 です。"着る" サブスクです。
エアクロメンズは、エアークローゼットが始めた男性向けの月額制ファッションレンタルです。女性向けのサブスクとして知られてきたエアクロに、2026 年 5 月末から男性版が加わりました。
女性版を見て抱いていた期待
実は、以前から女性向けのエアクロが気になっていました。
母親がエアクロを使っていて、新しい服が届くたびに、それを着て出かける毎日を楽しんでいます。年齢を重ねても服を選ぶ時間が暮らしの張りになっている様子を見て、男性版があればいいのにとずっと思っていました。
ついにエアクロメンズが開始されるとニュースで知り、事前予約の段階で申し込みました。
選んだプラン
エアクロメンズはプランがいくつかあります。
私が選んだのは隔月プランです。2 ヶ月に 1 回、服が届くコースです。料金は税込みで 11,800 円です。
隔月プランの他には、1 ヶ月に 1 回の毎月プランがあります (税込みで 19,800 円) 。年間契約にして 12 ヶ月を使い続けるようにすると、隔月プランは 1 ヶ月あたり 9,800 円、毎月プランは月額 15,800 円です。長期でずっと使いたい人にはお得な価格になります。
登録から服が届くまで
エアクロを始めるときは、会員登録をしてカルテのような情報を入力します。身長や体型、サイズ、好きな色や苦手な色、避けたいアイテムなどです。
普段の服装や、全身と顔の写真を登録しておくこともできます。これでスタイリストが雰囲気をつかみやすくなります。
装いの方向性も選べます。カジュアル寄りがいいのか、オフィスカジュアルがいいのか、きちんとしたフォーマル寄りがいいのか、イメージ写真の中から好きなものをひとつ選ぶ形です。
出典: PR TIMES
届く服が確定する前に、スタイリストへ一言の要望を添えられます。ここまで入力すれば、あとは服が届くのを待つだけです。
1 回に届くのは 5 着です。トップスが 3 着とボトムスが 2 着でした。なお、スタイリストの方に選んでもらうのではなく、自分で好きな服を選ぶセレクトアイテムからレンタルすることもできます。
実際に使って気づいたこと
届いた服はどれも気に入りました。そして、価値は服そのものにとどまらないと気づきました。
服が届く前、受け取った瞬間、着ている時間、返すときの各場面で、小さな負担も軽くなっていました。順番にご説明しますね。
自分では選ばない服が届く
最初に思ったのは、5 着とも自分なら選ばない服だということでした。
普段の私は、結局は持っている服と似た色や形を選んでしまいます。クローゼットの中は似たような服が並びます。
一方のエアクロメンズで届いた服は、いつもの服とは違っていました。それでいて奇抜ではありません。プロのスタイリストが、体型や自分の好み、着ていく場面に合わせて選んだ服です。
ここに安心感があります。自分では選ばないけれど、理由を持って選んでもらった服です。いつもの自分とは違う自分になれるのに、無理をしている感覚はありません。新しい服を着るきっかけを、安心できる形で手渡してもらったような感覚です。
服選びの面倒が消える
私はいろいろな服を着るのが嫌いなわけではありません。でも今まで服をあまり買ってこなかったのは、服を買いに行き、お店や EC サイトで選んで買うという行為が面倒だったからです。
どこで買うか、何を買うか、手持ちの服と合うか、サイズは合うかなどが積み重なると、買うこと自体がおっくうになります。結局、いつもの服でいいかと落ち着いてしまうわけです。
エアクロメンズは、この面倒をかなり減らしてくれました。
店に行く必要も、見比べる必要も、悩んで選ぶ必要もありません。受け身でいられることが価値です。服を楽しむ手前にある面倒さをエアクロメンズは先に取り除いてくれます。
返せるから気軽に着られる
エアクロメンズで良いのは、届くときだけではありません。返すことが前提になっている点にも価値があります。
買った服は自分のものになります。これはよいことでもありますが、持ち続けるとモノが増えるということでもあります。
あまり着ないままクローゼットに残る服は、時間が経つと、まだ着られるのか、捨てるかという判断が必要になります。私にはこれは負担でした。明らかに傷んでいれば捨てられますが、まだ使えそうな服を手放すときには罪悪感が残ります。
エアクロメンズはレンタルなので、その気持ちが起きません。2 ヶ月または 1 ヶ月の期間で着たら、捨てるのではなく返すだけです。服が家にたまらないのが良いです。
また、返す日が決まっているので、気に入った服はその間にたくさん着ようと思えます。自分の服だと、長く持たせたくて着るのを控えることになるのですが、レンタルでは遠慮なく楽しめます。
こうして比べてみると、所有と利用の違いがはっきりしてきます。
服を所有するということは、選んでから手放すまでの一切を自分で抱えるということです。買う、しまう、手入れする、いつか捨てるかと、服にまつわる責任が、まるごと抱えることになります。
レンタルでの利用は、責任の多くから解放されます。気に入るかどうかだけを考えればよく、置き場所や捨てるタイミングに頭を使わずにすみます。所有しないからこそ、身軽に楽しめます。
お金を払いたくなる価値はどこに生まれるのか
ここまでの体験から、エアクロメンズにお金を払って使い続けたいと思える価値の正体が見えてきます。
服との付き合い方に価値がある
届いた服そのものの良さがあります。サイズが合い、雰囲気も合い、着てみたいと思える服が選ばれていました。基本となる顧客価値です。
そのうえで強く残ったのは、エアクロメンズの仕組みから生まれる良さでした。
自分では選ばない服に出会え、選ぶ手間が消える。着る服に迷わなくなり、ものが増えず、手放すときの罪悪感もない。返す日まで気軽に楽しめる。良い服に、こうした体験が重なって、月々の料金を払ってもいいと思えるサービスです。
ファッションレンタルは、表面だけ見れば服を貸すサービスです。そこへ、服選びにまつわる迷いや面倒を引き受け、新しい自分を試すきっかけまで届けてくれます。
エアクロメンズの価値は、良い服に、服との向き合い方を変えてくれることが加わった点にあります。
毎月の支払いに納得できる理由
サブスクは、毎月払い続けるサービスです。利用者は、この支払いは自分に必要なのかと、自然に考えます。
エアクロメンズでは自分が最初に選んだプランは 2 ヶ月に 1 回の隔月コースでしたが、その後、毎月のコースに変え、年間契約をしました。
買いに行く面倒がなく、選ぶ不安も小さく、返すことも重くありません。服にまつわる引っかかりがいくつも減り、そのうえで着る楽しさが増えました。良い服が届いたことに加えて、日常の中に、新しい服を着る機会が自然と生まれます。
使う場面と顧客の気持ちまで捉える
商品開発やマーケティングへの示唆があります。
消費者は、商品そのものを買い、その商品を使う日常を送っています。作り手は、商品の性能や機能にとどまらず、お客さんがどんな場面でどう使うのか、その前後で何を面倒に思い、使うことでどのような気持ちになるのかまで広く捉えることが大事です。
エアクロメンズで言えば、服の品質に加えて、選ぶ前の手間や着るときの安心感、返すときの身軽さまでが価値の一部でした。こうした価値は、利用シーンや使う前後の顧客文脈、そのときのお客さんの感情にまで目を向けて初めて見えてきます。
想定するお客さんが本当は何を求め、どこでつまずき、いつ気持ちが動くのかを具体的につかめたとき、そうした顧客文脈に寄り添い、価値をもたらす商品・サービスを提案する。それによって、お客さんから選んでもらえる理由が生まれるのです。
まとめ
エアクロメンズの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 人が支払うお金は、良い商品そのものに加えて、暮らしの中で減る迷いや面倒がなくなる、新しい自分になれるなどの 「より良い未来」 への対価
- 自分では選ばないものに安心して出会える体験は、新しい価値になる
- 所有しないことにも価値がある。ものが増えない身軽さや手放す罪悪感の少なさも対価に含まれる
- サブスクが続く理由は、毎日の暮らしやビジネスに意味のある変化や進歩をもたらすことが期待できたり、実感できること
- 作り手は顧客が使う場面と文脈を理解し、使い方や使うことでの気持ちまで捉えることが重要

