#マーケティング #ブランディング #変えないこと
変えないことを知っているから、すべてを変えることができる――。
この言葉は一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれません。しかし実は、ブランド戦略や製品開発に当てはまる重要な示唆を与えてくれます。
まず変えないことを見極めて、残った他のすべては変えることができる。変化することの重要性と、同時に 「変えないこと」 を持つことの大切さです。
今回は、山崎製パンの 「ランチパック」 に、この哲学を当てはめ、ブランディングの示唆を考えます。
山崎製パン 「ランチパック」
出典: 日経クロストレンド
1984 年の発売以来、定番から限定、コラボ、地域商品まで含めて、累計 2700 種類以上を世に出してきたのが 「ランチパック」 です。いまや、コンビニやスーパー、駅売店など、どこでも見かけるパン売り場の定番商品ですよね。
ランチパックは耳を落とした食パンで具材を挟み、縁を圧着して中身がこぼれにくくした形状が特徴です。持ち運びやすく、どこでも食べられる商品として生まれました。
かつての認知度 30% から 90% 超へと飛躍的な成長を遂げたランチパックは、どのようにブランドを築いたのか――。その戦略には、ブランディングでの重要な学びが詰まっています。
「変えないこと」 が 「変わり続ける力」 を生む
ランチパックは 40 年以上にわたって、2700 種類以上という驚異的な商品展開を実現してきました。しかし 「ランチパックらしさ」 は一度も揺らいでいません。
まず 「変えないこと」 を明確にする
2007 年のフルリニューアルは、ランチパックにとって転換点となりました。
当時の認知度はわずか 30% 程度ほどでした (参考情報) 。
ランチパックは菓子パンの一つとして認識されている程度で、主力ブランドには程遠いという状況。普通なら 「認知度が低いから、もっと目立つデザインにしよう」 と考えるところでしょう。
しかしランチパックのチームは、異なるアプローチを取りました。最初に着手したのは、「何がランチパックらしさなのか」 を徹底的に見極めることだったのです。
社内調査を実施し、パッケージを見せずに 「ランチパックのパッケージを描いてください」 と依頼しました。すると多くの人が 「ロゴが上のほうにある」 「帯があった」 と回答。キャラクターである 「ランチちゃん」 と 「パックくん」 も、ランチパックを想起させる重要な要素として浮かび上がってきました。
この調査結果を踏まえ、ランチパックチームはパッケージ上部の水平方向に配置された帯にロゴを収めるデザインと、ピーナツを持つキャラクターを、ブランドアイデンティティの軸として定義しました。
2007 年のパッケージリニューアルしたデザイン (出典: 日経クロストレンド)
興味深いのは、ランチパックのリニューアルのプロセスにおける慎重さです。
帯の太さを変えた案、帯を外した案など、様々な試作を重ねながら、「何があればランチパックらしいか」 を丁寧に検証し、アイデンティティを特定していったのです。
変えてはいけないことをまず明確にすることが、その後の自由な展開を可能にする重要な土台となりました。
「変えない軸」 があるからこそ、思い切った変更ができる
中心に通る一本の軸となる要素を固めたことによって、ランチパックはそれ以外の部分を柔軟に変えていきました。
2020 年にはインバウンド需要に対応して英語表記を追加。ロゴに 「LUNCH PACK」 、商品名に 「Peanut Cream」 などの英語を併記しました。
ところが翌 2021 年には、この英語表記をあっさりと削除しています。コロナ禍でインバウンド需要が減少したこともありますが、何より優先したのは日本の消費者にとっての選びやすさでした。そのため、ブランド名よりも商品名を大きくするという、通常なら躊躇する変更も果敢に実施したのです。
2025 年のマイナーチェンジでは、さらに踏み込んだ改良が加えられました。
出典: 日経クロストレンド
お店の売り場での視認性を高めるため、ロゴと商品名をより強調。文字を中央揃えにすることで、棚に並べた際にロゴや商品名が見切れにくくなりました。担当者は 「ロゴをあまり大きくし過ぎると品がなくなるので、そのバランスに気を付けた」 と語ります。
帯がわかりやすくなったことで、お店の商品棚にランチパックが 3 ~ 4 個並んだとき、ランチパックのそれぞれの商品の帯が全体で一本のラインとしてつながります。これにより、ブランドとしての存在感を高め、個々のランチパックが一つに統合され、ブランド全体として視認されることが期待できます。
商品ラインナップの多様性も目を見張ります。定番のピーナッツ・たまご・ツナマヨネーズに加えて、地域限定商品、コラボ商品、2 種類の味が楽しめる 「よくばり PACK」 など、何でもありの様相を呈する展開を実現しました。
これほど多種多様な変化を遂げながら、なぜブランドの根幹が揺らがないのか。その答えは明確です。
パッケージの帯とキャラクターという譲らない軸があるからこそ、他のすべてをその時々や消費者ニーズに合わせて最適化できます。消費者はどんな新商品を手に取っても、あの帯とキャラクターを見れば 「ランチパックだ」 と瞬時に認識することでしょう。
この 「守るべきものを守っているという確信」 が、変化への恐れをなくしてくれます。ブランドイメージを損なう可能性を最小化しながら、最大限の変化を追求できる――。ランチパックは、うまいバランスを実現しています。
自由な挑戦を支える仕組み化
ランチパックのブランド戦略において、もう一つ注目したいのが仕組み化です。
ランチパックには、本社が企画する全国商品だけでなく、各地の工場が独自に企画する地域限定商品もあります。
かつては、各工場が作る独自商品のパッケージがバラバラで、ランチパックのブランドとしての統一感に欠けるという解決すべき問題がありました。商品数は多様で開発スピードも速いため、本社が一つひとつの商品デザインを監修することは現実的ではなく、全国の工場に細かく指示を出し続けることも非効率でした。
この難題を解決したのが、2007 年のリニューアル時に整備されたデザインフォーマットとガイドブックです。
出典: 日経クロストレンド
ロゴのサイズやレイアウトなどを定めたレギュレーションに加えて、キャラクターが統一感を保つように、顔や体といったパーツのバリエーションを収録したガイドブックです。
この仕組み化の優れている点は、「守るべき軸」 を押さえれば、それ以外は自由に開発できるという明確なルールを示したことです。
各地の工場は、地域の特産品を使った商品や、地元で人気の味を使った商品など、地域色豊かな商品開発に挑戦できるようになりました。「この範囲内なら自由に動いていい」 というガイドラインが、現場の創造性を解放したわけです。
結果として、ブランドの一貫性と商品の多様性という、本来トレードオフになりやすい二つの要素を高いレベルでの両立にランチパックは成功しました。
北海道から沖縄まで、どの地域で作られた商品も 「ランチパックらしさ」 を保ちながら、それぞれが独自の魅力を放つ――。この状態を組織レベルで実現しているのです。
ランチパックの担当者の一人は 「フルリニューアルではデザインをガラッと変えたくなるものですが、どこを変えないかが同じくらい大切です」 と語ります。また別の担当者は 「ロングセラー商品では、どの要素をなぜ守るのかという視点が欠かせません」 と指摘しました。
こうした 「なぜ守るのか」 「どこを変えないのか」 を明確にし、仕組みとして定着させたことが、ランチパックの持続的成長を支えます。
ブランディングとは
ランチパックの 40 年にわたる歩みが教えてくれるのは、ブランディングの要諦は決して変化を避けることではなく、むしろ 「変えないことと変えることの見極め」 だということです。
通常は、「ブランドを守る = 現状維持」 と捉え、変化を拒んだり、あるいは逆に 「時代に合わせる = すべてを新しくする」 という極端な発想に陥ります。しかしランチパックは、異なる第三の道を示しました。
ランチパックは、ブランドの本質を見極め、それを明文化し、組織全体で共有することにより、揺るがない中心の軸を作りました。その上で、時代の変化、消費者ニーズの変化、お店などの流通環境の変化に応じて、変えないこと以外のことを柔軟に最適化し続けてきたのです。
「変えないこと」 は現状維持や停滞ではなく、変わり続けるための羅針盤になります。この真理を、ランチパックは見事に体現しています。
認知度 30% から 90% 超への飛躍、菓子パンから主力ブランドへの成長、そして 2700 種類以上という圧倒的な商品展開。これらはすべて変えない軸があったからこそ実現できたのです。
確固たるブランドの 「らしさ」 があるからこそ、新しい変化への挑戦が 「らしくない」 ではなく 「らしさを伴った新しいこと」 として受け入れられる。安心感と驚きを同時に提供する。長く愛されるブランドの秘訣です。
まとめ
山崎製パン 「ランチパック」 の事例を取り上げました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 企業が新たな市場や事業に乗り出すとき、多くの要素を一度に変えようとすると、本来アピールすべき強みまで失ってしまうことになりかねない
- それを避けるには、自社の強みやブランドの本質がどこにあるのかを見極め、ブレない軸として設定することが重要
- 「変えない軸」 があるからこそ、思い切った挑戦や変更ができる。変えないことを知っているから、すべてを変えることができる
- まず変えないことを見極めて、残った他のすべては変えられる。変化することは大切だが、同時に 「変えないこと」 を持つことが大事


