#マーケティング #4P #顧客起点
企業が想定していなかった顧客が、製品の価値を再発見する。
そんな時、「マーケティング 4P」 はどう変わるのでしょうか?
今回は、カシオの腕時計ブランドの 「カシオクラシック」 の事例から、マーケティング 4P について学びます。
欧州発のカシオクラシックが若者に人気
出典: カシオ
まずは事例の背景を見ていきましょう。
カシオ計算機の腕時計といえば 「G-SHOCK」 シリーズが有名ですが、今回取り上げるのは別のシリーズです。世界的に広く親しまれ、時計事業の土台を支えているのは数千円から買えるベーシックな製品です。
日本国内では 「カシオクラシック」 と呼ばれている製品群で、「チプカシ (チープカシオの略称) 」 という愛称でも親しまれています。ヨーロッパでは 「CASIO VINTAGE COLLECTION (カシオヴィンテージ) 」 と呼ばれる腕時計です。
そのカシオヴィンテージが、2010 年前後からヨーロッパの 10 ~ 20 代にレトロなデザイン性で支持され始めました。レトロ感のあるモデルを中心に欧州でファッションアイテムとして人気を呼び、その流れが世界中に広まりつつあります。
もともと実用品として 「正確・丈夫・安価」 という価値で作られていたカシオヴィンテージが、「実用 + ファッション」 で選ばれる存在に変化しました。
ヨーロッパでの人気によって日本に逆輸入され、日本でも 20 ~ 30 代を中心にカシオクラシックの支持が拡大。安い腕時計というイメージから脱却し、デザインで選ばれる存在になっています。
マーケティング 4P
では、カシオクラシックの事例を、「マーケティング 4P」 の視点で読み解いてみましょう。
中心に注力顧客を置く
マーケティング 4P の前提として、注力するお客さんが明確に設定され中心に置かれていることが大事です。
顧客起点のマーケティング 4P
ビジネス活動において注力顧客を定義することによって、マーケティング 4P に紐づく商品開発 (Product) 、価格設定 (Price) 、売場づくり (Place) 、プロモーションの内容 (Promotion) のマーケティング 4P に一本の軸が通ります。
4P で一貫性を保つ
マーケティング 4P では、一貫性があることが大切です。
4P の各要素を組み合わせるとき、4 つをバラバラに課題に対処するのではなく、全体として整合性は取れているかを意識するといいでしょう。
カシオクラシックのマーケティング 4P の変化
では、カシオの事例にマーケティング 4P を当てはめていきましょう。
カシオクラシックの事例のおもしろさは、企業が想定していなかった顧客が製品価値を再発見し、それに対して企業が 4P をどう調整したかという点にあります。
[事例の構造] 注力顧客の意図せぬ変化
カシオクラシックの注力顧客は、当初と現在で大きく変わりました。
- 当初の注力顧客: 実用性を求める幅広い層 (時間を正確に知る必要がある人々)
- 現在の注力顧客: 欧州の 10 代後半 ~ 20 代、日本の 20 ~ 30 代のファッション感度の高い層。具体的には、高価な時計よりも抜け感のある日常のスタイルをつくりたい層、アクセサリー感覚で、気分と服に合わせて時計を選びたい層
興味深いのは、企業が意図的に注力顧客を変えたというよりも、顧客が自ら価値を再発見したという点です。
では、この注力顧客の変化に対して、カシオはマーケティング 4P をどう変えていったのでしょうか?
[Product] コアバリューを守りながら、新しい文脈を加える
製品開発において、カシオが徹底したのは 「カシオらしさの維持」 でした。
具体的には次の 3 つです。
- 実用性 (正確に時を刻む)
- 手に取りやすい価格
- 壊れにくい品質
カシオクラシックのこれら 3 つの価値は、30 年以上変わっていません。
一方で、新しい顧客層に対応するため、こんな工夫を加えています。
- 欧州のトレンドカラーを取り入れる
- 文字盤周りの情報量を減らす (ミニマルなデザイン)
- メッシュバンドなどファッション性の高いバリエーション展開
中核的な顧客価値であるコアバリューは変えず、見せ方や表現方法は進化させています。
ファッション性を求める若者向けに作り直すのではなく、既存のコアバリューを保ちながら、カシオは新しい文脈 (ファッション) でも選ばれる要素を加えるというアプローチをとっています。
[Price] 価格帯は変えないこと自体が価値になり得る
カシオクラシックの価格帯は、2,200 円 ~ 9,900 円と幅はありますが、1 万円未満です。
注力顧客がファッション感度の高い若者に変わっても、価格は大きく変えていません。むしろ、今まで通りの手に取りやすい価格こそが、若者に選ばれる理由の一つになっていることでしょう。
もし高級化して値段を上げれば、気軽に楽しめる腕時計というカシオクラシックの魅力は失われます。ファッション性を理由に価格を上げるのではなく、実用品の価格で、ファッション性も手に入るという独自のポジションを確立しているのです。
これが意味するのは、Price という価格そのものがブランド価値の一部ということです。
[Place] 顧客の変化に合わせて、流通を拡張する
マーケティング 4 P の 4 つの中で最も変わったのが、Place である販売チャネルです。
- 従来の流通: ホームセンターなど、実用品を扱う大衆流通
- 現在の流通: ジュエラー (アクセサリーも扱う時計専門店) 、ファッション系流通
注力顧客が実用性重視の層からファッション性重視の層に変わったことで、顧客が製品と出会う場所も変える必要がありました。
ここで重要なのは、従来の流通を捨てたわけではなく、新しい流通を追加したという点です。実用品として求める人にも届けながら、ファッションアイテムとして求める人にも届ける。これが、マーケティング 4P の一貫性を保ちながら市場を拡張する方法です。
[Promotion] 顧客がつくった文脈を企業が広げる
プロモーションの変化も興味深いです。
- 2010 年前後 ~ 2024 年: 特別なマーケティングは展開せず。顧客が自然に価値を発見し、SNS などで拡散
- 2025 年: FUTURE CLASSIC キャンペーンをグローバル展開。若いクリエーターやインフルエンサーを起用し、SNS 中心の共感型マーケティングを実施
顧客が自らつくり上げたレトロでシンプルな時計をファッションとして楽しむという文脈を、企業が後追いで増幅させたという構造です。
プロモーションのメッセージも、製品のコアバリュー (実用性・価格・品質) と矛盾しない形で、未来に受け継がれるクラシックという価値を打ち出しています。
顧客起点と 4P の一貫性が、ブランドの強さになる
では最後のパートでは、ここまで見てきたマーケティング 4P それぞれの動きを、全体として眺めてみましょう。
俯瞰すると、次のようになります。
変えなかったもの (コアバリュー)- Product: 実用性、品質、シンプルなデザイン
- Price: 手に取りやすい価格帯
- Product: カラーリング、バリエーション展開
- Place: ファッション系流通への進出
- Promotion: グローバルキャンペーンの実施
カシオのカシオクラシックの事例が示すのは、コアバリューは変えないという一貫性が、ブランドの強さになるということです。
カシオクラシックは、実用品として支持されてきたコアバリューを守りながら、新しい顧客層 (ファッション感度の高い若者) にも選ばれるブランドへと進化しました。もし、ファッション性を重視しすぎて実用性や価格を変えていたら、既存顧客を失い、なおかつ若者からもカシオらしくないと見なされていたかもしれません。
カシオクラシックの事例は、企業が一方的に市場をつくるというよりも、お客さんと共に価値を進化させるという共創のマーケティングの重要性を教えてくれます。
そして、その進化を支えるのが、注力顧客を中心に据え、マーケティング 4P に一貫性を保つという基本原則です。
あなたのビジネスでも、顧客が予想外の価値を見つけていることはありませんか?
その時、マーケティング 4P をどう変えるか。カシオの事例はヒントになるはずです。
まとめ
カシオクラシックの事例から、マーケティング 4P についてあらためて考察しました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 注力顧客を中心に据える。出発点として明確なターゲット顧客を設定することで、商品開発、価格設定、売場づくり、プロモーション内容のすべてに一貫した軸が通る
- マーケティング 4P の一貫性を保つ。製品 (Product) 、価格 (Price) 、流通 (Place) 、プロモーション (Promotion) の各要素をバラバラに扱うのではなく、ブランドの方向性をそろえる
- コアバリューとの整合性を維持する。ブランドの中核的な顧客価値を基盤としつつ、新たな要素を加える場合でもコアバリューを損なわない進化と拡張をさせる

