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投稿日 2011/03/12

「津波」と「波」は似て非なるもの

2011年3月11日、東北沿岸でM8.8を記録する東北地方太平洋沖地震が発生しました(追記:その後M9.0に修正されている)。この規模のマグニチュードは国内観測史上最大の大きさであり、その後もM7を超える地震が複数回発生し、地震による家屋倒壊などの被害だけではなく、津波、火災、土砂崩れなど、大きな災害となっています。被災されたみなさまには心よりお見舞い申し上げます。また、不幸にして亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

私は幸いにも同日深夜になんとか帰宅できましたが、あらためて東北地方の被害状況を見ると、信じられないような映像が次々に報道されていました。中でも、気仙沼市街地の広範囲に渡る火災、そして津波の被害が惨劇としか言えないような悲惨な状況でした。今回のエントリーでは、あらためて危険性を感じた後者の津波について、「普通の波」とは違うという視点から整理しておきます。

■衝撃的だった津波の様子

まずは実際の津波の映像。1つ目は、自衛隊が宮城県名取市沿岸部の上空から撮影したものです。複数の津波が押し寄せており、専門家はこの津波の特徴として、「陸に上がった時は速く、強い力で家屋や人を押し流す危険性がある」と指摘しています。

YouTubeより

実際に津波に襲われた港では多数の車が飲み込まれており、そのまま津波とともに流されています(岩手・宮古情報カメラから)。

YouTubeより

そして衝撃だったのは次の映像。津波が河川を遡上しているだけではなく、大量の瓦礫・自動車・家屋などとともに、田畑や道路・家などのあらゆるものを破壊しながら流れています。

YouTubeより

■普通の波と津波は似て非なるもの

津波の「津」には、「船着き場」「船の泊まるところ」「港」などの意味があり、港を襲う波ということで「津波」となったのが語源のようです。(引用:津波|語源由来辞典

しかし、津波は普通の波とは異なるものだと認識しておいたほうがいいと思います。特に、今回のような地震発生後などの遭遇すると生死にかかわるような状況ではなおさら。以下、津波と波の違いについて書いておきます。

津波の特徴は波長の長さにあります。ちなみに波長というのは、波の山から山への長さを指します(図1)。

出所:ISASニュース 2002.2 No.251から引用

普通の波と津波では、次の図のように波長の長さが異なります(図2:下が津波)。これは、津波が海底の地盤の上下により海水全体が押し上げられ、長い波長で発生するためです。

出所:津波の波|岡村土研から引用

この違いは、堤防や家屋へ津波が衝突した時のインパクトにまともに効いてきます。波長が長いことで、津波は普通の波と比べ、長時間にわたり家屋等を押し続けることになります(図3)。

出所:津波の波|岡村土研から引用

なので津波は、波の高さが異常に高くなる急激な潮の満ち引きのようなもので、海水が塊として襲ってくるようなものなのです。津波は普通の波が大きくなったものとは違います。

■津波の破壊力

それでは、津波のインパクトはどれくらいなのでしょうか。一般的に波による圧力はP=ρghで表されます。

P :圧力(N/m2)
ρ :流体の密度(kg/m3)
g :重力加速度(9.8m/s2)
h :波高(m)

津波の威力は、海水の密度(ρ)と津波の高さ(m)によることがわかります。上記の3つ目の動画は海水に瓦礫などの漂流物が大量に含まれており、海水のみの場合よりももっと大きな破壊力を持っています。

津波の高さが高いほど津波の破壊力が大きくなるわけですが、ここで注意しておかなければいけないのが、普通の波の高さの感覚で津波の威力を予想してしまうと、それこそ命とりになりかねない点です。ここは百聞は一見にしかずで、参考になるのは以下の動画です。ここでは室内実験として津波の高さを50㎝に設定していますが、それでも大人が簡単に流されてしまうことがわかります(2分14秒~)。
≪注意≫ 「高さ50㎝の津波なら流されない」部分が表示されていますが、実際は流されます

YouTubeより

高さが50㎝と言えば、大人の男性であれば自分の身長の1/3以下の高さですが、立っていられないくらいの威力を持っています。今回の地震により発生した津波は、高さが10mを超えるものもあったと報道されており、もはやその破壊力は想像を絶します。

最後に、四日市市防災情報のサイトにあった津波の高さと被害程度の関係性を引用しておきます(図4)。図の10mを超える津波の被害と、今回の被害状況は近いように思います。

出所:津波|四日市市防災情報から引用


※参考情報

津波|語源由来辞典
ISASニュース 2002.2 No.251
津波の波|岡村土研
津波|四日市市防災情報


投稿日 2011/03/08

個人情報という価値を考えてみる


Free Image on Pixabay


今回のエントリーでは、若者がプライバシーをよりオープンにする傾向が見られる点、消費者自らが個人情報を売る事例 (海外) 、これらを踏まえ個人情報という価値をあらためて考えます。


1981年以降に生まれた世代のプライバシー意識


アメリカの位置情報サービスの1つ Loopt の CEO である Sam Alnman によれば、1981年以降に生まれた世代は、オンライン上のプライバシーに対する意識がそれまでの世代と明らかに異なるとのことです。

参考:People born after 1981 have lower privacy standards, Loopt CEO says | Hillicon Valley
投稿日 2011/02/12

渋滞という視点で見てみる

以下のグラフは、NEXCO東日本が調べた2009年の高速道路の渋滞要因です(図1)。

日本経済新聞 10/12/24より

(どうやって調べたのか・%なので100は何かは個人的に気になりますが)

■サグと渋滞

7割を以上を占めるのが「サグ・上り坂」となっています。日経新聞によれば、次のような説明がされていました。『サグ(sag)は英語で「たるみ」の意味で、緩い下り坂から緩い上り坂に切り替わる地点を指す。上り坂に入ったことをドライバーが認識しづらく、アクセルが遅れて自然と減速してしまう。後続車は前のクルマとの車間距離が縮まるため、ブレーキを踏んで一定の車間を保とうとする。こうしたブレーキが連鎖し、後ろに伝わっていくことで最終的にどこかでクルマが停止し、そこに渋滞が発生する。』(日本経済新聞 10/12/24より)

日本自動車連盟 (JAF)のサイトでは、これを図で説明してくれています(図2)。

引用:日本自動車連盟 (JAF)

■渋滞をASEPモデルで考える

このように、渋滞の発生原因としては、サグ部という物理的な要因と車間距離が短いという人的要因が存在します。車間距離が小さいことで渋滞が起こる様子は、「渋滞学 (新潮選書)」で詳しく書かれていて、次のようなASEP(Asymmetical Simple Exclusion Process、非対称単純排除過程)という確率過程モデル(図3)が使われています。

引用:渋滞学

このモデルでは、丸印が車を表していて、車は一車線の道路を左から右に走っています。一番左の車(図では最後尾)は前の車との車間距離が小さいため、t⇒t+1の時間経過後も、同じ場所にとどまっており、これが渋滞です。もう少しASEPモデルを見てみます(図4)。

引用:渋滞学

左から2番目の車は車間距離を十分に取っていたために、t⇒t+4の間に4マス進んでいます。一方、左から4番目の車は同じ時間で半分の2マスしか進めていないことがわかります。

このASEP(エイセップ)のモデルはとてもシンプルなものです。マスが一次元で並んでおり、マス内には丸印が存在するかどうかの1/0の世界です。そしておもしろいと思うのは、自動車の流れや渋滞という連続的な事象を、1/0という非連続なモデルで表しているところ。すなわち、アナログな世界をデジタルに置き換えているのです。

■渋滞を社会に応用する

書籍「渋滞学」では車の渋滞という現象をシンプルに表現することで、そこから様々なものに渋滞を応用しています。有名なレストランに並ぶという人の渋滞であったり、アリの行列、電車の運行、航空機、エレベーター、などなど。

電車に関しては例えば山手線に乗っていると、「後続の電車が遅れており、時間調整のため当駅に3分ほど停車します」というアナウンスが流れることがあります。なぜこのような措置を取るかについてもその理由が書かれています。後続の電車が遅れているということは、その電車が駅に到着する頃にはその分だけたくさんの乗客がホームで待つことになります。多くの乗客を乗せるにはその分だけ時間がかかり、この状況が重なっていくと、遅れている電車のダイヤがますます乱れてしまいます。よって、あえて駅に電車を停車させることで、全体の電車と電車の車間距離を最適化しているのです(もっとも乗っている乗客からすれば、停車せずに早く出発してくれとついつい部分最適な考えを抱いてしまいますが)。

本書でのここまでの渋滞事例は、渋滞を「悪」として捉えられていますが、一方で渋滞を「善」とする事例も紹介されているのが興味深かったです。具体的な事例は森林火災と伝染病。森林火災の場合は火を車・木を道路に、伝染病の場合は病原菌を車・人を道路に当てはめれば、いかに渋滞させるか、つまり拡散しないかを考えることが重要になります。

「渋滞学」という本は、高速道路では車間距離がおよそ40m以下になると渋滞が発生するという知識が得られるだけではなく、渋滞×○○という感じで様々なものを渋滞と掛け合わせているのが、「なるほど」と思わせてくれます。

ところで著者である西成活裕氏は、なぜ一見異なる事象を渋滞と結ぶ付けられるのでしょうか。そのヒントは日経ビジネスにありました(2010.10.4号)。「渋滞学者、数学で社会救う」記事では、同氏がある遊びを披露しています。『箱にたくさんの単語を書いた紙片を入れておく。毎晩2枚を取り出して、それらを論理的に結びつけるという「紙切れ連想術」だ。3~4年続けるうちに「野良犬と三角関数でも結びつけられるようになった」』。また、次のようにも書かれています。『数学や物理の理論を学んでいると、いくら高度な研究を発表しても社会に成果を還元できているという実感は持ちづらい。西成は専門である流体力学を何らかの社会問題の解決に使えないかと相性の良さそうな対象を実社会の中で探すようになった。』

■ネットと渋滞

渋滞という視点で考えた時に、個人的に今後気になるのはインターネットでの渋滞です。ここ最近、IPv4アドレスの枯渇が話題になっています。何が起こっているかの概要はニュースをマンガで紹介してくれている「漫画の新聞」がわかりやすいですが、簡単に言うと、ネットに接続するPCやモバイルなど1つ1つに割り当てられているIPアドレス(IPv4)が、底をつきそうだというものです。IPv4のアドレス数は約43億個ですが、近年の特にモバイルの世界的な普及により43億では不足するのだそうです。そこで、IPv6という次のバージョンに移行させるとのことで、これは全世界の人にアドレスを1万個割り当てても枯渇しないくらいのアドレス数みたいです。(詳しくは:「ASSIOMA」で解説されています)

自動車で例えるならば、IPv4アドレスは車のナンバーです。車が増えすぎたことで、「あ11-11」というナンバーでは組み合わせの数が足りなくなり、これからは「あ112-112」という新しいナンバーを導入する、と考えればイメージしやすいかもしれません。なお、引き続きIPv4は使用できるなので、今使っている(すでにアドレスが割り当てられている)PCやモバイルへは影響はないようです。ナンバーの例で言えば、「あ11-11」というナンバーの車はこれからも道路を走れるけれど、今後発売される新しい車は「あ112-112」となるということ。

とはいえ、車が増えるということはその分だけ道路が増えないと渋滞が発生してしまいます。これと同じことがネットの世界でも起こる可能性もあります。増大する通信料をまかなえるだけの回線や周波数を広げる必要があるのだと思います。まさに、車の渋滞を緩和するために道路の幅を広げるのと同じなのです。


※参考情報

対談:万物は流れ、渋滞する──創発的ASEPアーバニズムにむけて|10+1 web site

渋滞学者、数学で社会救う|日経ビジネス2010.10.4号

【ニュースの裏】IPv4枯渇問題|漫画の新聞

遂にIPv4アドレスが枯渇。IPv4アドレス枯渇の原因とこれからを解説します。|ASSIOMA


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投稿日 2011/02/04

facebookで国民の声を聞くデジタル民主主義なインド

フェイスブック情報に特化したブログ「All Facebook」に、次のような記事がアップされていました。
Indian Government Asks For Budget Input On Facebook|All Facebook
(インド政府はFacebookで国家予算への意見を募る)

■フェイスブックから国民の声を聞くインド政府

同記事によれば、インド政府はフェイスブック上に専用の「フェイスブックページ」(ファンページから名称を変更)を設定し、2012~2017年の5ヶ年の国の予算について国民の意見を広く募るそうです。この取り組みに関して、インドのビジネスブログ「Trak.in」には、もう少し詳しく書かれています。国家予算について国民の意見を集める場としては、専用サイトとフェイスブックが用意されているようです。

この専用サイトには、Strategy Challengesとして次のような12項目が明記されています。今後インド政府が重点的に取り組む分野なのでしょう。

<12 Key Strategy Challenges>
1. Enhancing the Capacity for Growth (成長)
2. Enhancing Skills and Faster Generation of Employment (雇用)
3. Managing the Environment (環境)
4. Markets for Efficiency and Inclusion (市場の効率化)
5. Decentralisation, Empowerment and Information (地方分権)
6. Technology and Innovation(技術革新)
7. Securing the Energy Future for India (エネルギー)
8. Accelerated Development of Transport Infrastructure (交通インフラ)
9. Rural Transformation and Sustained Growth of Agriculture (農業)
10.Managing Urbanization (都市開発)
11.Improved Access to Quality Education (教育)
12.Better Preventive and Curative Health Care (ヘルスケア)
出所:12TH five year plan (Government of India Planning Commission)

インド政府の今回の取り組み、とりわけフェイスブックを使って国民の声を聞くことは、かなり驚かされました。企業レベルであれば、ここ最近は日本でも複数の企業が自社のフェイスブックページを開設し、そこでは商品説明や、画像、動画があったり、キャンペーンの告知や、担当者とユーザーの双方向からの発信がウォール上に流れているのを見かけます。これと同じことを、インドでは政府が、しかも5ヶ年の国家予算という大きなテーマでやろうとしているのです。もちろん、専用のサイトがありフェイスブックの位置づけは、あくまでそれを補足するものだとは思います。同時に、実験的な意味合いもありそうです。(これを考慮しても、個人的には驚きですが)

■フェイスブックユーザーの偏り

インド政府の意欲的な取り組みだと評価する一方で、フェイスブックで本当に国民の意見が集めらるのかという疑問も生まれます。フェイスブックを使うということは、そこでの議論や自分が書き込むためにはフェイスブックユーザーでなければいけません。あるいは、PCにしろモバイルにしろネットに接続できる環境が必要です。逆に言うと、そのような条件にない人々は排除されてしまいます。

フェイスブックのユーザー数などのデータを公表しているsocialbakersでは、11年2月4日時点でのインドのユーザー数は約2,000万人となっています(図1)。国別では第7位とはいえ、それでもインド全人口(約12億人弱)に占めるフェイスブックユーザーは2%にも満たない状況です。


出所:socialbakers


以下(図2)はインドの人口構成を男女×年代で表したものです(きれいなピラミッドを構成しています)。

出所:国連による人口推計から作成

同じくsocialbakerにはインドでのフェイスブックユーザーの男女別の構成比が提示されています(図3)。なんとユーザーの7割が男性で、明らかにインド人口のそれと異なります。これから予想されることとして、フェイスブック上での意見は男性の声がより多くなることが考えられます。

Male/Female User Ratio on Facebook in India

出所:socialbakers


以上のような状況から、フェイスブックに集まる声にはユーザーのバイアス(偏り)が発生していることから、一般の人々の意見とのかい離が発生する可能性もあります。

■フェイスブックが目指す「オープンで透明な世界」

もっとも、インド政府はそんなことは十分に承知でしょう。その上でフェイスブックを民主主義のインフラとしての可能性を試しているのだと思います。そういえば、冒頭で紹介したAll Facebookにはこんな記事が紹介されていました。ニューヨークのブルームバーグ市長がフェイスブックCEOのザッカバーグと会談し、ニューヨーク市民のためにフェイスブックページをつくることについて意見交換をしたとのこと。同市長はソーシャルメディアの大きな可能性に言及したようです(一方、これに関してフェイスブックの正式コメントはない模様)。

話をインドに戻すと、気になるのは、本日時点(2/4)でインド政府によるフェイスブックページ「Twelfth Plan」に登録しているユーザー数は1,000人を超えた程度にすぎない点です。まだ人々に認知されていないだけなのか、あるいは興味がないのかなどはわかりませんが、今後の状況はどうなっていくのでしょうか。

フェイスブックは原則として実名主義であることから、フェイスブックページへの書き込みも身元がわかる実名とともに意見が反映されます。また、その様子はフェイスブックユーザーであれば誰でも見ることができます。これは、まさにフェイスブックが目指す「オープンで透明な世界」です。今回のインド政府がフェイスブック上で国民に意見を問う試みは、今後のデジタル民主主義のパイロットケースになるのかもしれせん。


※参考情報

Indian Government Asks For Budget Input On Facebook|All Facebook
http://www.allfacebook.com/indian-government-asks-for-budget-input-on-facebook-2011-02

Twelfth Plan|facebook
http://www.facebook.com/TwelfthPlan

wow…Govt goes hi-tech! 12th Five Year Plan uses Web & Facebook for citizen Feedback|Trak.in
http://trak.in/tags/business/2011/02/03/indian-government-planning-commission-12th-five-year-plan/

12TH five year plan|Government of India Planning Commission
http://12thplan.gov.in/

India Facebook Statistics|socialbakers
http://www.socialbakers.com/facebook-statistics/india

NYC Mayor Wants Municipal Page On Facebook Site|All Facebook
http://www.allfacebook.com/nyc-mayor-wants-municipal-page-on-facebook-site-2011-02


フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
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投稿日 2011/01/23

ポケベルのブームとソーシャルという功績




2011年の今から15年前の1996年当時、女子高生を中心に大ブームを巻き起こしていたのが、ポケベルことポケットベル (無線呼び出し) でした。

今回のエントリーでは、ポケベルを取り上げます。ポケベルブームの背景、当時の状況、ポケベルの功績は何だったのかを書いています。
投稿日 2010/12/12

00年代ヒット商品グランドチャンピオンから考える「消費者のコレを変えた」

日経トレンディの2010年12月号に、「2000~2009年 ヒット商品グランドチャンピオン」という企画が掲載されていました。ゼロ年代のヒット商品を発表するという企画です。同誌では毎年12月号でその年のヒット商品ベスト30を発表しており、2000~09年の10年間に発表されたベスト30の計300アイテムから選ばれています(メーカー等の商品企画・開発に関わる208人へのアンケート調査)。その結果は以下の通りです。
投稿日 2010/10/10

実はよく知らなかったイスラム教のこと

世界には様々な宗教があります。下図は、1980年と2010年における主な各宗教の人口構成比です(図1)。

出所:「世界キリスト百科事典」(1980年)、「ブリタニカ国際年鑑2010」(2010年)
(1980年の人口はWikipediaを参照) 


■イスラム教とは

先月、旅行でエジプトに一週間滞在しました。初めてのイスラム圏の国への旅行だったわけですが、あらためて思ったことに、自分はイスラム教について実はよく知らないことに気付きました。帰国後、たまたま見つけた「高校生からわかるイスラム世界」(池上彰 集英社)を読んでみました。もっとも1冊くらいでは、最低限の知識にもならないかもしれませんが。

そもそもイスラム教のイスラムとは、「神に帰依する」という意味です。つまり、神様を信じ、神様の教えに従うということ。

イスラム教の信仰は、六信と五行から成り立っています。六信とは6つの信仰箇条で、1.神、2.天使、3.啓典、4.使途、5.来世、6.定命。啓典とはコーランのことです。五行とは5つの信仰行為であり、1.信仰告白、2.礼拝、3.喜捨、4.断食、5.巡礼です。


■六信とは

六信についてWikipediaを確認すると、これらのうち1.神と、4.使途がイスラム教の教義の根本に関わり、イスラム教徒は、アッラーが唯一の神であり、預言者であるムハンマドが真正な神の使途であると固く信じてると記載されています。ちなみに、イスラム教徒になる方法は、2人のイスラム教徒の証人の前で「アッラーのほかに神はなし」「ムハンマドは神の使途なり」とアラビア語で唱えることです。なお、イスラム教の神は日本語で「アッラーの神」という言い方をしますが、これは正確ではないようです。というのは、アッラー自体が神という意味を持っているからです。


■五行とは

五行についても簡単に書いておきます。1つ目の信仰告白とは、「アッラーのほかに神はなし」「ムハンマドは神の使途なり」、つまり、アッラーこそが唯一の神でありそれ以外に神は存在せずアッラーを信じること、その唯一の神の言葉を預かったのがムハンマドであると、常に言うことです。

2つ目の礼拝とは、1日5回、メッカの方向に向かってお祈りをすること。夜明け前の太陽が昇る前、昼過ぎ、午後3時くらい、日の入り、寝る前、の5回です。メッカはムハンマドが生まれて育ちイスラム教を教え始めた場所です。

3つ目は喜捨、つまり、寄付をしたり恵まれない人のためにお金を恵みなさいということ。どれくらいの額かというと、喜捨の目安は収入の2-2.5%程度。サウジアラビアでは、喜捨による税が存在するようです。また、喜捨に関係するところではイスラム金融があります。コーランの教えに基づくイスラム銀行は利子が存在しません。銀行は資金を(コーランの教えに反しない)事業にむけます。よって、銀行へお金を預けるというのは、間接的に喜捨を実践しているとも言えそうです。

4つ目は断食について。1年に1回、ラマダーンという月がありその1ヵ月は断食です。ただ、1ヵ月間全く何も食べないというわけではなく、日の出前の夜明け前から日没までの間は、飲み食いをしてはいけないというものです。エジプトに行った時の現地のガイドさんが言っていましたが、断食の期間はむしろ体重が増えるなんてこともあるようです。どういうことかと言うと、日中は飲み食いを我慢するのでその分夜にたくさん食べてしまい、それも盛大にお祭り気分で飲み食いすることもあるとのことで、自分のこれまで持っていた断食のイメージとかなりかけ離れていました。また、全てのイスラム教徒が断食をするわけではなく、子供や妊婦さんは断食をする必要がないそうです。

5つ目の巡礼は、前述のメッカへの巡礼。本当は毎年一回はメッカへの巡礼が望ましいのですが、せめて一生に一度はメッカに行くことが望ましいとされているようです。


■ユダヤ教・キリスト教・イスラム教は密接に関わる

これは、今まであまり知らなかったのですが、この3つの宗教は密接に関わっており、複数の共通点が存在します。ユダヤ教とキリスト教については知っていましたが、イスラム教がそれぞれと関係しているとは知りませんでした(正確には習ったはずだけれども忘れていた)。簡単に整理すると下表のようになります(表1)。


中段のモーゼ、イエス、ムハンマドはイスラム教では全て「預言者」です。預言者とは、神の言葉を預かる者という意味。ただし、イスラム教にとっては同列ではなくムハンマドが最後の預言者としています。モーゼを通じて神の言葉を伝えたのがユダヤ人は正しく守ろうとはしなかった、イエスに神の言葉を託したがキリスト教徒も正しく守っていない、そこで、ムハンマドを最後の預言者と決め、人間たちが守るべきことを最後の言葉として伝えたということになっているようです。とはいえ、イスラム教の考えでは、モーゼもイエスも神の言葉を預かっている存在には違いないので「預言者」なのです。

では神の言葉を信者はどうやって知るのか。イスラム教徒にとっては、ムハンマドが聞いた神の言葉を書き記したコーランを読みあげることで、人々は神の言葉を知ることができます。なお、イスラム教徒にとっては、キリスト教の「旧約新書」も「新約聖書」も聖書であり、神の言葉であると信じています。ただ、前述のようにムハンマドが伝えたコーランこそが本当の言葉であり、故に、コーランを読めば良いという考え方のようです。

キリスト教やユダヤ教の聖書も、イスラム教徒にとっては聖書であるというのは知りませんでした。実際にコーランの中には、ユダヤ教徒もキリスト教徒も同じ神の言葉を信じている民であるという表現があるようです(これを「啓典の民」と言う)。


■様々な考え方を知ること

今回、エジプトというイスラム圏への旅行、関連する本や複数のサイトなどを通じて、イスラム教の考え方やユダヤ教やキリスト教との関連を知りました。

多くの日本人にとって、宗教は日常の生活においてはあまり意識するものではない存在です。むしろ宗教そのものよりも、それにもとづくイベントのほうが生活に根付いています。例えば、12月は日本中がクリスマスの雰囲気になりますが、1ヵ月もしないうちに年が明けると多くの人は初詣に神社へ訪れます。あるいは、七五三は神社、結婚式は教会、お葬式はお寺で行われたりします。そんな日本人の1人として、各宗教の考え方は時に実感が伴わないものの、最低限とはいえ様々な考え方を知ることができました。ついおろそかになりがちですが、物事を考える際には複眼的な視点で捉えることはとても大事だなと、あらためて考えさせられました。


※参考情報

世界人口 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%BA%BA%E5%8F%A3

イスラム教 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%A0%E6%95%99

その他複数の関連サイト


投稿日 2010/09/16

世界で増加する「遺伝子組み換え作物」と日本の食料安保

9月14日付の日経新聞朝刊一面に、非遺伝子組み換え作物についての記事がありました。


■全農が米国で非組み換えトウモロコシを安定調達へ

タイトルは、「非組み換えトウモロコシ安定調達 全農、米で契約栽培」。この記事では、全国農業協同組合連合会(全農)が遺伝子を組み換えないトウモロコシを米国で契約栽培し、安定調達につなげると報じています。

なぜ全農は非組み換えトウモロコシを調達する必要があるのでしょうか。同記事ではその理由を、米国では遺伝子組み換え品の作付けが急増しており、非組み換え品の調達難に陥りかねないと判断した、と書いています。その背景として、米国ではガソリンに混ぜるバイオ燃料用のトウモロコシ需要が急拡大しており、農家は栽培に手間がかからず多くの収穫を見込める遺伝子組み換え品に移行していると指摘。ちなみに、米国のトウモロコシ作付面積に占める非組み換え品比率は約1割とのこと。逆に言えば、全農がわざわざ一定量を確保するために調達を図らなければいけないほど、米国では非組み換え作物の栽培が減少していると言えそうです。


■増え続ける遺伝子組み換え作物

遺伝子組み換え作物(Genetically Modified Organism 以下GM作物)については、日経ビジネス2010.7.19の特集記事「食料がなくなる日」でも取り上げられていました。日本にいるとあまり実感はありませんが、世界的に見ると、GM作物の作付けは増加し続けており(図1)、2010年現在で世界25ヶ国、1億3400万ヘクタールとなり、1996年と比較し約80倍に拡大しているようです。

GM作物の作付け面積の推移

出所:国際アグリバイオ事業団(ISAAA)

では一体なぜ、これほどまでに増加しているのでしょうか。さらに言えば、消費者や環境活動家らの反対運動が続くにもかかわらずです。日経ビジネスの記事では、その理由をGM作物により農家の負担が軽減することと、収穫量の増加を挙げています。農家の負担というのは、例えば害虫に耐性のあるGM作物であれば農薬をまく回数が減り、その分の作業負担やコストも低減できます。また、枯れにくいGM作物であれば収穫増も期待できます。それ以外にも、気候変動の影響を受けにくい点も挙げています。このように、なぜGM作物を作るかについて、記事で取材したアメリカのある農家のコメントがそれを象徴しています。「儲かるからだよ」。


■GM作物をめぐる論争

一方で、前述のようにGM作物に対しては、健康や環境に悪影響があるのではないかという意見もあり、こと日本においては遺伝子組み換え食品への意見はこれが主流であるように思います。スーパーで売られている豆腐などは、ほぼ全て「遺伝子組み換えではありません」と記載されています。

GM作物についてWikipediaを参照すると、その論点となっているのは次ようなものがあるようです。「生態系などへの影響」、「経済問題」、「倫理面」、「食品としての安全性」など。そもそもとして、特定の遺伝子組換え作物の安全性を指摘するのではなく遺伝子組換え操作自体が食品としての安全性を損なっているという主張も見られます。


■食料安保と遺伝子組み換え作物

農水省のHPには食料安全保障について、次のような言及がなされています。「食料安全保障とは、予想できない要因によって食料の供給が影響を受けるような場合のために、食料供給を確保するための対策や、その機動的な発動のあり方を検討し、いざというときのために日ごろから準備をしておくことです。」

個人的には、この食料安保を実現するためには、食糧の入手先の多様化だと思っています。つまり、農水省が食料安保と結びつける自給率向上ではなく、輸入も含めた国内外からの食料の担保です。そもそも自給率などという指標を国の政策に採用しているのは日本だけであり、現在カロリーベースで40%ですが、例えば家畜用の飼料を国産のものに切り替えれば数値自体はすぐに上がるような指標です。40%だけ聞くと低いように感じますが、生産額ベースでは70%であり、自給率向上は自国だけで国民の食料をまかなうという考え方で、うがった見方をすれば食料政策において自国さえよければという鎖国をするようなものだと思います。

話を食料安保に戻すと、そのためにはGM作物も論点に入ってしかるべきだと思っています。農水省のGM作物の取組みを見てみると安全性評価を続けていますが(管轄は農水省以外にも環境省や厚生労働省など複数の省庁が絡んでいる)、国民の関心はあまり高くないように感じます。

農水省が表明するように、海外で生産された飼料用のトウモロコシや油糧用のダイズ・ナタネなどの遺伝子組み換え農作物はすでに輸入され利用されているのが現状です。世界ではGM作物が増加している中、本当に日本は今後も遺伝子組み換え作物=Noというままでいいのか。国民も含めた議論がもっとあってもいいように思います。


※参考情報

記者が見た米国農家の今 「人が食べる遺伝子組み換え作物を植え始めた」 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100716/215463/

遺伝子組み換え作物、事実上の勝利 安全性への懸念をよそに栽培農家は世界中で急増 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071214/143127/

遺伝子組み換え作物 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%B5%84%E3%81%BF%E6%8F%9B%E3%81%88%E4%BD%9C%E7%89%A9#.E8.AB.96.E4.BA.89

食料自給率の部屋 (農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/index.html

「遺伝子組換え農作物」について pdf (農林水産省)
http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/information/pdf/gm_siryo.pdf


投稿日 2010/08/28

書籍 「死刑絶対肯定論」 の内容整理とそこから考えたこと


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死刑絶対肯定論 - 無期懲役囚の主張 という本をご紹介します。



著者の立場と本書の特徴


著者の考察の深さや受刑者達のリアルな実態、また具体的な提言など考えさせられる内容が多く、読んで良かったと思う本でした。

本書の特徴は著者自身が無期懲役の囚人であることです。罪状は二件の殺人です。2010年現在は、刑期十年以上かつ犯罪傾向が進んだ者のみが収容される LB 級刑務所で服役しています。

著者は 「死刑絶対肯定論」 という本書のタイトル通り、死刑在置論者です。本書では 「死刑こそ人間的な刑罰である」 とさえ言っています。

読み進めていくと、現役受刑者にしか持てない視点で書かれている内容が数多く出てきます。詳細は後述しますが、だからこそ説得力のある内容の本だと思いました。
投稿日 2010/08/22

春夏連覇の興南高校と「もしドラ」に共通する組織マネジメント

今年の甲子園は沖縄の興南高校が県勢初の夏の甲子園制覇、そして松坂大輔擁する98年の横浜高校以来の春夏連覇で幕を閉じました。

昨日の決勝戦は興南の強力なバッティングが目立ちましたが、個人的には我喜屋監督の存在も忘れてはいけないなと思っています。同監督の組織マネジメントついて、日経ビジネス2010.6.14号が記事で取り上げていました。記事のタイトルは「組織マネジメント  企業流改革で日本一に」。勝つ組織を短期間で作り上げる秘訣を、監督の語録から探っていくというものです。


■我喜屋監督の組織マネジメント

我喜屋監督の組織マネジメントのベースには、興南高校卒業後の社会人野球選手や監督以外にも、サラリーマンとしての職務の経験があるようです。
投稿日 2010/08/15

梅棹忠夫とドラッカーから考える情報革命のこれから

今回のエントリー記事では、梅棹忠夫、ドラッカーのそれぞれの著書から情報革命にいたる歴史を大きな流れで整理し、あらためて情報革命について考えてみます。


■人類の産業の展開史 (梅棹忠夫)

梅棹忠夫の著書「情報の文明学」(中公文庫)によると、人類の産業の展開史は次の三段階を経たとしています。(1)農業の時代、(2)工業の時代、(3)精神産業の時代(以下、情報産業とします)。「情報の文明学」がおもしろいのはここからさらに進めて、この3つの時代の生物学的意味を考察している点です。ここで言う生物学的意味というのは、受精卵が発生から自らが展開していく過程のことで、具体的には人間の体が形成されるまでの、内胚葉、中胚葉、外胚葉の3つの胚葉です。以下、本書から抜粋してみます。

(1)農業の時代
生産されるのは食糧であり、この時代は人間は食べることに追われている。農業の時代を人間の機能に置き換えれば、内胚葉からできる消化器官系統の時代であり、三分類で言えば内胚葉産業の時代である。(p.133)

(2)工業の時代
工業の時代の特徴は生活物資とエネルギーの生産。人間の手足の労働を代行し、これは筋肉を中心とする中胚葉諸器官の機能充足の時代を意味する。よって、工業の時代とは中胚葉産業の時代である。(p.133)

(3)情報産業の時代
外肺葉系の諸器官は皮膚や脳神経系、感覚諸器官を生み出す。情報は感覚、脳神経に作用し、情報産業の時代は外肺葉産業の時代である。(p133-134)

以上について著者の梅棹忠夫は、食べることから筋肉の時代へ、そして精神の時代へと産業の主流が動いてきたとし、三段階を経て展開する人類の産業史は、「生命体としての人間の自己実現の過程」とも捉えることができると総括しています。(p.134)


■産業革命とIT革命 (ドラッカー)

次はドラッカーです。ドラッカーは著書「ネクスト・ソサエティ」で産業革命とIT革命について比較し、次のような内容を書いています。

(2)産業革命
産業革命が、実際に最初の50年間にしたことは産業革命以前からあった製品の生産の機械化だけだった。鉄道こそ、産業革命を真の革命にするものだった。経済を変えただけでなく、心理的な地理概念を変えた。(p.75-76)

(3)IT革命
今日までのところ、IT革命が行なったことは、昔からあった諸々のプロセスをルーティン化しただけだった。情報自体にはいささかの変化ももたらしていない。IT革命におけるeコマースの位置は、産業革命における鉄道と同じである。eコマースが生んだ心理的な地理によって人は距離をなくす。もはや世界には1つの経済、1つの市場しかない。(p77-79)


■インターネットの2つの特徴

梅棹忠夫の言う情報産業、あるいはドラッカーの言うIT革命を語る上で、欠かせない存在はインターネットだと思います。もはや自分の生活や仕事においてなくてはならない存在ですが、私はインターネットの特徴は「双方向性」「個の情報発信」だと考えています。この2つの特徴の例としては、例えばmixiやFacebookのようなSNSやツイッター、あるいはソーシャルゲームなどで、ネットによりこれまでにはなかった「つながり」が実現しています。


■これまでになかった「つながり」とは

これまでになかった「つながり」をもう少し掘り下げてみます。例えば前述のSNS。SNS上では、過去から現在に至る自分の人間関係がフラットに並んでいます。例えば、小中学校時代の友達、高校や大学の友達、社会人になってからの知人もいれば、趣味を通して知り合った友人もいます。また、お互いに会ったことがない人でも、SNS上でつながることもでき、これら友人・知人がSNS上に並んでいます。SNSや携帯がなかった時には、中学校を卒業すれば次に会い近況を話す・知る時は5年後の成人式だったかもしれませんが、SNSでつながっていれば、(全てではないですが)お互いの状況を確認することもできます。

SNSが長い時間軸にわたる人間関係が並び情報がストックされるイメージな一方で、ツイッターはリアルタイムでその時その瞬間でつながるフローのイメージです。お互いがツイッターを使っているという前提はありますが、ツイッターで「○○なう」とつぶやけば状況が、楽しいやおいしいとつぶやけば感情が瞬時に伝わります。もしネットがなければ、「昨日、××を食べておいしかった」などとなり、おいしいという感情がその場にいない友人にリアルタイムでつながることはできないでしょう。


■情報革命のこれから

上記のドラッカーが言及するIT革命も考慮すると、eコマースでは買い手と売り手の距離をなくしましたが、ネットによる「つながり」ではこれまでにはなかった人と人との距離感を生み出しているように思います。やや大げさかもしれませんが、既存の人間関係の距離感を破壊していると感じます。

ここまでは「つながり」について人と人との場合を見てきましたが、「双方向性」と「個の情報発信」は何も人だけとは限らないと思います。モノと人やモノとモノのつながりも考えられます。例えば、デジタル家電と人がネットを媒体につながることや、異なる複数の家電が情報のやりとりをする可能性も十分にあります。単なる想像ですが、外部から携帯で連絡すれば、冷蔵庫と台所と電子レンジが連携し勝手に料理を作ってくれるとか、自動車と自動車がつながれば車同士の交通事故が無くせるかもしれないなど、いろんな可能性があります。

梅棹忠夫は先述の「情報の文明学」において、工業の時代になり農業は飛躍的に生産性が向上し、情報産業の時代でも工業だけでなく農業も大発展を遂げた書いています。ネットによるこれまでにない人と人、人とモノ、モノとモノがつながることで、情報革命はこれからも進化が続きそうです。


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投稿日 2010/08/07

書籍「文明の生態史観」に見るシンプル化

世界を区分する時に、東洋と西洋という分け方があります。この分け方は私たちには当たり前すぎるくらいなんの疑問も持たない区分かもしれません。しかし、「文明の生態史観」(梅棹忠夫 中公文庫)では、これとは全く異なる考え方を提示しています。


■第一地域と第二地域

この本の内容を一言で表現するとすれば、東洋と西洋ではなくA図のような「第一地域」と「第二地域」に分けられるということです。第一地域は西ヨーロッパと日本。第二地域はその間に挟まれた全大陸であるとしています。これが本書の主題です。


このA図について少し補足すると、斜線で表されている大陸を東北から西南に走る大乾燥地帯が存在します。筆者によると、この乾燥地帯は歴史にとって重大な役割を果たしたと説明されています。なぜなら、乾燥地帯は悪魔の巣、すなわち暴力と破壊の源泉だったから。ここから遊牧民その他による暴力が表れ、その周辺の文明の世界を破壊したという歴史です。文明社会は、しばしば回復できないほどの打撃を受けることになりますが、ここが第二地域の特徴です。

第二地域の特徴をもう少し見ると、A図では四つの地域にわかれています。(Ⅰ)中国世界、(Ⅱ)インド世界、(Ⅲ)ロシア世界、(Ⅳ)地中海・イスラム世界。これら第二地域に関して、「古代文明はこの地域から発生。しかし封建制を発展させることなく、巨大な専制帝国をつくった。多くは第一地域の植民地や半植民地となり、数段階の革命をへて、新しい近代化の道をたどろうとしている」と説明されています。

翻って第一地域。その特徴は暴力の源泉から遠く、破壊から守られ中緯度温帯地域の好条件であったとしています。

なお、「文明の生態史観」ではA図から発展する考え方を表したものとして、以下のB図も提唱しています。東ヨーロッパや東南アジアが区分され、西ヨーロッパは日本より高緯度の部分を多く持っているのがA図に比べたB図の特徴です。



■シンプルに考えること

この第一地域と第二地域に分ける考え方は非常にシンプルなものです。もちろん、上記のような図では世界を詳細には説明できるとは思いません。この点は著者も十分承知しており、「この簡単な図式で、人間の文明の歴史がどこまでも説明できるとは思っていない。細かい点を見れば、いくらでもボロがでる」と書いています。個人的に思うのは、この分け方は主にヨーロッパとアジアを中心とするユーラシア大陸の分け方なので、中南米やアフリカ、そしてアメリカを加えると修正点も出てくるかもしれません。特にアメリカについては、ヨーロッパ等に比べるとその歴史は浅いものの、現在を語る上では欠かせない存在です。

ただ、この本を読んで思ったことは、複雑なものごとを捉える時にはシンプルに考えることが大事だなという点です。複雑系をシンプルに表現するということは、物事の枝葉をそぎ落とし本質に迫るということだと思います。逆に言えば、本質を把握できないと正しくシンプルに表現できないのではないでしょうか。


■現場の情報

もう一つ、この本を読む中で考えさせられたことは、自分の目で現場を見ることの大切さでした。本書の冒頭で、著者は次のように説明しています。「私が旅行したアジアの国々についての印象。もう一つは、私のアジア旅行を通してみた日本の印象を書こうと思う」。実際に本書では著者が訪れたアジアを中心とする多くの国々のことが書かれており、それは自分の目で見た世界でした。これらの情報を踏まえての第一地域と第二地域が説明されており、説得力を感じます。

自分の目で見る、直接触れるなどの体験は、大切にしたいものです。


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投稿日 2010/07/25

「情報」と「情報入手媒体」を考える

前回の記事では、「新聞消滅大国アメリカ」という本から新聞やジャーナリズムについて取り上げました。今回の記事でも同じテーマをもう少し考えてみたいと思います。


■情報入手媒体という意味では新聞衰退は仕方ない

私は新聞は宅配でとっていますが、なぜ自分は新聞を買っているのかを考えてみると、(当然ですが)紙面に書いてある情報を手に入れるのが目的です。朝刊で言うと前の日の夜中までくらいの情報をその日の朝に得るためです。ただ、新聞以外にもテレビやネットを利用し情報を入手しているので、必ずしも新聞でなければいけないことはないのが正直なところです。

「新聞消滅大国アメリカ」に書かれいるように、新聞業界は縮小傾向にありこの流れはある程度は仕方ないのではないでしょうか。ただし、それは新聞という情報媒体についてであり、情報提供者である新聞記者や編集者がいなくなっていいというわけではないと思っています。

その理由は、新聞から得られる情報(ニュース記事等)は自分一人ではとても入手しきれない貴重な情報だからです。もちろん、ネット上には無料でニュース記事が多くありますが、それも元をたどると新聞記事がネットでも転用されたものだったりします。


■ジャーナリズムに期待すること

ここで、このニュースなどの情報についてあらためて考えてみると、大きくは2つに分けることができると思っています。すなわち、「事実」としての情報とその事実に基づく「分析や見解・意見」です。また、記者が情報を得る方法も例えば、「人に聞く」という取材と、「調べる」という2つを考慮すると、新聞やネットに掲載されている情報は下図のように整理できそうです(図1)。


マトリクスの各情報が今後も私たちが入手できること、これが報道やジャーナリズムにこれからも期待したいことです。


■情報入手媒体の整理から

ここまで、新聞等で掲載される情報について見てきました。情報について大事な点だと思うことにその伝達手段があります。受け手の側から言うと情報を何から得るかということ。ぱっと思うつく自分の情報入手する媒体を整理すると、以下のようなマトリクスで分けられました(図2)。なお、人から直接聞く情報や店頭などの現場からの情報は含めていません。


横軸は、ストック情報かフローかどうか。フローというのは、基本的には情報を蓄積せずに流れていくものです(もちろん、新聞や雑誌の切り抜き、ツイッターのアーカイブ、テレビの録画でストックすることはできます)。縦軸は静的な情報か動的なものかです。静的な情報の例としては文字などのテキスト情報が画像、動的な情報例は動画や音声情報も入れていいと思います。

こうして見ると、「新聞消滅大国アメリカ」の題材でもあった(紙の)新聞は、情報を入手する多くの手段の1つにすぎないことがわかります。となると、私たちにとってはこれら複数の選択肢がある状況においては、他の情報媒体と差別化された「強み」を持たなければいずれ消滅する可能性もあるのではないでしょうか。


■ずっと続く情報入手媒体の検討

私にとって紙の新聞は通勤時の情報入手媒体としては、読む・持ち運ぶという点で現時点で優れていると思っています。また、値段的にも、一日当たり120-150円ほどで、費用対効果もそれなりにあります。ただし、将来的も同じかと言われると、個人的にはやや悲観的な立場なのかもしれません。現在は値段的には決して高くはないと思っていますが、これからの技術革新による全く新しい仕組みができれば、もっと安いコストで情報が入手できることもあり得ます。そうなると、150円程度とはいえ無理に紙媒体の新聞を維持すると、無駄なコストが発生してしまいます。

「知的生産の技術」(梅棹忠夫著 岩波出版)という本には、情報にどう対処するかについて書かれた示唆に富む言葉があります。
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くりかえしていうが、今日は情報の時代である。社会としても、この情報の洪水にどう対処するかということについて、さまざまな対策がかんがえられつつある。個人としても、どのようなことが必要なのか、時代とともにくりかえし検討してみることが必要であろう。(p.15より引用)
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ちなみにこの本は、1969年に出版されたており当時はPCが全くPersonalな存在ではなかった時代ですが、この指摘は現在においても通じることだと思います。(紙の)新聞が自分の情報を入手する手段にとして必要なものなのかどうかを検討するのは、もしかしたらそう遠くはない将来なのかもしれません。


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新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)
鈴木 伸元
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投稿日 2010/07/24

書籍「新聞消滅大国アメリカ」

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)「新聞消滅大国アメリカ」(鈴木伸元著 幻冬舎新書)という本を読みました。気になった部分を中心に、自分なりに整理してみます。


■新聞消滅大国アメリカ

アメリカでは新聞が想像を絶する勢いで消滅しているそうです。「新聞消滅大国アメリカ」はこのような書き出しで始まります。具体的をそのまま紹介すると、「新聞消滅大国」とした状況が見えてきます。
  • 04-08年の5年間で、廃刊になった有料日刊紙は49紙(アメリカ新聞協会)
  • 同5年で発行部数は5460万部から4860万部に減少。10%超の600万部の落ち込み
  • 09年の1年間で同水準の46紙が廃刊(調査機関ペーパーカッツ)
  • NYタイムズ・メディアグループは、06年からの3年で全社員の3割の約1400人を削減
  • ワシントン・ポストは全ての支局を閉鎖

上記のような状況について、オバマ大統領は、「新聞のない政府、活力あるメディアが存在しない政府は、アメリカの選択すべき道ではない」と語りました。大統領がこのように発言するほど、アメリカの新聞業界は危機的な状況にあるようです。


■日本の状況は

「新聞消滅大国アメリカ」ではその大部分をアメリカの新聞やメディアについて書かれていますが、最終章では日本の新聞についても言及されています。

まず挙げているポイントは、アメリカと日本では新聞社の収益モデルが異なるという点です。具体的には、アメリカは収入の8割を広告から得ているのに対して、日本は3割のようです。日本の場合は残りの7割は新聞の販売収入、つまり、新聞代を読者が支払うことで成り立っています。2つ目のポイントとして、戸別宅配率の違いを挙げています。アメリカの74%に対して日本は95%(それぞれ日米の新聞社協会の発表による)。これらの数字を見ると、日本の新聞社の収入は安定しているようにも見えます。

しかし、新聞協会の「新聞研究」による新聞社41社(サンプリングにより抽出)の営業利益を見ると、
  • 06年度:955億円 (対前年比 -4.4%)
  • 07年度:672億円 (対前年比 -29.6%)
  • 08年度: 74億円  (対前年比 -89%)「新聞消滅大国アメリカ」p.183から引用
という減益傾向が見られます。

また、電通が発表した「日本の広告」によれば、09年のメディアの日本の広告費および対前年比は以下のようになっています。
  • テレビ:1兆7139億円 (対前年比 -10.2%)
  • インターネット:7069億円 (対前年比+1.2%)
  • 新聞:6739億円 (対前年比-18.6%)
  • 雑誌:3034億円 (対前年比-25.6%)

広告収入はアメリカの8割に比べ日本は3割とはいえ、09年に新聞はついにインターネットに抜かれた状況です。


■新聞がなくなったら何が起こるのか

では、もし新聞がなくなってしまうとどうなるのでしょうか。本書では、新聞廃刊に関するある調査結果が引用されています。プリンストン大学のサム・シェルホファーによる、07年の新聞が廃刊となったある地方選挙についての統計学的な分析です。それによると、以下のような記述があります。
  • 選挙での投票者の数が軒並み減少した
  • これは新聞廃刊による情報減少で、有権者の政治への関心低下が考えられる
  • 立候補する候補者の数も減少
  • 競争が起きにくくなり、現職に有利な状況が生まれる

地元の新聞が完全に消滅したケンタッキー州コビントンのある住民は、次のように嘆いています。「とにかく地元のニュースが入ってこなくなった。」


■新しいメディアのかたち

一方で、「新聞消滅大国アメリカ」では新聞に取って代わりつつあるメディアについても紹介しています。以下、4つほど書いておきます。

グーグル・ニュースやヤフー・ニュースでは、様々なニュースの見出しや本文が無料で閲覧できます。アメリカン・オンライン(AOL)は新聞社をリストラされた記者をリクルートし、ニュースの発信を行っています。グーグルやヤフーは自らが取材をしているわけではないのに対し、AOLは自ら取材し情報を提供しています。

ニュース記事などの情報に対して「課金」を行う動きもあります。日本では日経新聞電子版が代表的ですが、アメリカではウォールストリートジャーナルは1996年のサービス開始当初から有料で配信し、課金制の成功事例とされています。

もう一つ、アメリカで議論になっているものとして、新聞社をNPO(非営利団体)とし政府による救済を行うというものがあるそうです。併せて、税制上の優遇措置を与えることや新聞社への寄付についても税制上の優遇を与えることについても議論になっているとのこと。しかし、新聞社のNPO化については反対意見が多いのが現状のようです。理由は政府による支援を受けることで言論の自由が妨げられるのではないか、あるいは、そもそも新聞社を救う必要があるのかというものです。寄付についても同様で、寄付の出資先に対して時には批判的な記事も書くことになりますが、果たして書けるのかどうかという懸念もあります。

アメリカのジャーナリズムの方向性の1つに調査報道があります。これは、長期間に及び取材を重ねることで事実関係を積み上げ、最終的には社会の隠れた問題や政治問題を暴くという取材スタイルです。新聞が衰退する一方で、注目を集めていると本書では書かれていました。


■ジャーナリズムと新聞

本書で印象的だったのは、ジャーナリストの立花隆氏による、新聞が担うべきジャーナリズムの定義についてです。

「もし新聞がただひとつだけの機能しか果たさないものであると仮定した場合、新聞は社会において正義が行われているかどうかということをモニターする、絶えず監視する役目をつとめなければならないということになるでしょう。(中略) 現代社会では、ジャーナリズムが正義の夜警役をつとめなければならないわけです」 (p.190から引用)

個人的には、報道機関が正しく情報を報道し、それが社会における監視役となることは期待したいですが、ただ一方で、その役目は必ずしも新聞でなければいけないとは思わないです。これまでは最も手軽であった新聞が、インターネットによりその立場が難しくなっていると思います。アメリカで起こっている新聞業界の衰退や相次いで廃刊する状況と同じことが日本でも起こるかもしれません。新聞が他の情報媒体との「強み」を再構築する時が来ているのではないでしょうか。


※参考情報

09年「日本の広告費」 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


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投稿日 2010/07/11

イースター島に見る文明崩壊


イースター島 Anakena にて撮影 (2009年11月)


文明崩壊を招く5つの要因


書籍 文明崩壊 - 滅亡と存続の命運を分けるもの によると、文明の崩壊を招く要因は5つあるとされています。

  • 環境被害
  • 気候変動
  • 近隣の敵対集団
  • 友好的な取引相手 (近隣諸国からの支援減少など)
  • 環境問題への社会の対応

本書の主題は、文明繁栄による環境負荷がやがては崩壊につながることです。



多数の事例の1つに、イースター島を扱っています。イースター島は上記の5つの要因のうち、 「環境被害」 と 「環境問題への社会の対応」 が当てはまる事例で取り上げられています。

今回のエントリーは、イースター島での文明崩壊について書いています。なお、記事内の画像は昨年2009年にイースター島に訪れた時の現地の写真です。
投稿日 2010/07/01

ローカリズムのグローバル化


■まとめ

今回の記事のまとめです。

・ 企業のグローバル化には3段階ある
・ 中国での賃上げ労働争議と海外の人材登用
・ ローカリズムのグローバル化とは



■3段階の企業のグローバル化

NTTドコモの「iモード」を立ち上げた一人でもある夏野剛氏は、著書「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」(ソフトバンククリエイティブ)において、企業のグローバル化には次のように3段階あるとしています。

(1)国内製造輸出型
*グローバルマーケットはあくまで売り先の市場としか考えていない
*経営体制や企業哲学などはグローバル化していない場合がほとんど

(2)製造拠点のグローバル化
*人件費などの製造コストの低減のために工場を海外に移す
*日本国内のやり方、哲学を海外に移転しようとする

(3)グローバル企業化
*一部本社機能も必要に応じて海外に移すことも厭わない
*経営体制や企業哲学は世界で通用する、世界中の従業員を動かす独自性が要求される



■中国での賃上げをめぐる労働争議

ここ最近気になる出来事として、中国で賃上げをめぐる労働争議やストが相次いでいるニュースをよく目にします。中国の消費者物価指数(CPI)が上昇する一方で、賃金が据え置かれたままの状況では、相対的には減収しているようにも感じられ労働者の不満が労働争議につながるというのもわかる気がします。

ただ、日経新聞の10年6月27日の朝刊国際面の記事では、「一連の労働争議の根本的な問題は労組。労組のあり方を変えない限り、スト問題は解決しない」(北京の日系企業幹部)と報じています。というのも、工場に労組があったとしても、共産党や企業経営者寄りで従業員の賃上げ交渉の受け皿になっていないためだそうです。この記事では、「”労働争議が中国進出リスク”と言われるようになれば、長い目で見ればマイナス」であると懸念しています。



■海外の人材登用

そんな中、コマツが2012年までに、中国にある主要子会社16社の経営トップ全員を中国人にする方針を決めたようです(日経10年6月29日朝刊)。コマツ以外にも、海外の人材を積極に登用している例として、トヨタ自動車、伊藤忠商事、資生堂、花王などが取り上げられていました。

日本企業では人事異動の一環として日本人が数年間、現地法人のトップや幹部を務める例が多いようですが、現地市場に精通した人材を積極登用して権限を委譲し、経営の意思決定を速めるのがコマツの狙いのようです。記事では、「中国で相次ぐ日系工場でのストライキの背景には現場の社員との対話不足も指摘され、経営層の現地化を求める声がある。現地生え抜きの人材が要職につけば社員の意欲向上にもつながる」と期待しています。



■ローカリズムのグローバル化

フジサンケイビジネスアイの「論風」に、グローバル企業のマネジメントについてのある記事が掲載されました。投稿者である日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)会長の田下憲雄氏によると、中国市場に進出する日本企業の重要課題として以下のポイントを挙げています。
・ 「マネジメントの現地化」と、それを可能にする人材の確保と育成
・ そのための仕組みの構築と、それをサポートする日本人人材の育成

同氏の言う 「マネジメントの現地化」とは、経営にかかわる重要な意思決定をローカルの経営者と社員に任せ、投資回収の責任を委ねること。すなわち、様々なリスクに対して迅速かつ的確な判断を行いながら、事業を創造することができるのはローカル人材だと認識し、そうした人材の確保・育成に取り組むことであると説明されています。

従来の日本企業の課題は、海外で活躍できる日本人を確保・育成することだと言われていましたが、このように中国そしてアジアの現地人材をグローバル人材として育成することも必要で、そのための日本人人材の育成も課題になってきそうです。この状況について田下氏は、「ビジネスを本当に成功させることができるのは、ローカリズムとローカル人材をグローバル化することに成功したときではないか」という言葉で表現しています。



■最後に

冒頭で企業のグローバル化を3段階で見た時に、少しずつですが、「(2)製造拠点のグローバル化」から「(3)グローバル企業化」に変わってきていることを感じます。世界の情報がこれだけ瞬時に伝わる状況の中、今後は日本人だけで現地法人を運営することがリスクになってきそうです。

そうなると、販売やマーケティングにおいても日本国内の考え方だけではなく、現地の事情や国民性に合わせた展開を考える必要があるのかもしれません。



※参考情報

【論風】インテージ社長・田下憲雄 グローバル化とマネジメントの現地化
http://www.sankeibiz.jp/business/news/100312/bsg1003120501001-n1.htm


夏野流 脱ガラパゴスの思考法
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投稿日 2010/06/26

政府の役割と成長戦略とは



「断絶の時代」という著書において、ドラッカーは政府の役割を次のように言及しています。
The purpose of government is to make fundamental decisions, and to make them effectively. The purpose of government is to focus the political energies of society. It is to dramatize issues. It is to present fundamental choices. 
政府の仕事は、意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うことである。社会における政治的なエネルギーを結集させることである。問題を浮かび上がらせることである。選択を提示することである。  
「断絶の時代」p.252から引用

日経新聞の10年6月24日付の朝刊の「経済教室」は、「新成長戦略 ~方向性を問う~」という企画で、早稲田大学・谷内満教授の投稿でした。タイトルは「『供給サイド』こそ重視を」。サブタイトルは「カギ握る規制緩和 法人減税は財源が必要」でした。

記事内容はとてもわかりやすく、かつ簡潔にまとまっていたように思いました。記事内容を参考にしつつ、状況整理をしてみます。

■日本の課題 (低成長・低生産性国)

1990年代の日本経済について、「失われた10年」と評してきましたが、最近では00年代も合わせて「失われた20年」という表現を目にします。

このように過去20年の間、日本は長期的な低成長国に陥っています。一方で、「経済教室」記事では、日本は欧米諸国と比べ、低生産性国である指摘しています(図1)。


従って、谷内教授は「高齢化が急速に進む日本では、生産性を高めて経済成長を引き上げることが、極めて重要な課題」であると述べています。

■政府の役割

○民主党の「成長戦略」

では、日本が経済成長を図るうえで、政府の役割はどのようなものなのでしょうか。6月18日に閣議決定された「新成長戦略」が公表されました。その中で、「強みを活かす成長分野」として以下の7分野を挙げています。
  1. グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略
  2. ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
  3. アジア経済戦略
  4. 観光立国・地域活性化戦略
  5. 科学・技術・情報通信立国戦略
  6. 雇用・人材戦略
  7. 金融戦略

○政府には成長産業は選べない

上記の各分野の専門家ではないので、中身の詳細の是非は省略しますが、そもそもの論点として「政府が今後の成長産業を選定できるのか」という議論があります。

正直なところ、個人的にはこれは難しいと思っています。というのも、成長産業はわざわざ政府が選ばなくても、市場原理に任せておけば自然と投資資金が回ってくるはずで、それを政府がやるということは税金が使われることにもなり、リスクをとって失敗した場合も結局は国民が負担することになります。

ちなみに、「経済教室」で谷内教授も以下のように主張をしています。
  • 政府が将来の成長産業を選び出す政策(ピック・ザ・ウィナー政策)には限界がある
  • すべての産業、すべての企業・個人事業者が、経済全体の成長を支える可能性を持っているという視点が重要

○政府の役割

そこで、政府の役割です。記事では、「政府がとるべき政策は、そうした民間の創意工夫と競争を促進することである」と書かれていましたが、その通りだと思います。

その理由は記事に書かれている以下の通りだと思うからです。
  • 経済活動の中核を担っているのは民間企業
  • 民間企業の創意工夫と競争が、生産性向上と、活発な投資による資本の量・質の向上を通じて、成長を高める
  • 成長政策は経済の供給サイドに働きかけるべき

■成長促進政策

記事では、現在の日本に求められる成長促進政策として、規制緩和、法人税引き下げ、労働政策が取り上げられています。以下、簡単ですが、書いておきます。

規制緩和
  • 成長促進政策として、規制緩和は重要
  • あらゆる分野で不要な規制を撤廃・縮小することが重要だが、中でも農業、医療、介護といった分野は規制が特に厳しい
  • 規制緩和によって民間の活力を引き出す余地が大きい

法人税
  • 法人税率を引き下げるべきだと主張
  • ただし、法人税減税で財政がさらに悪化することになれば、成長促進とはならない。なぜなら、すでに先進国で最悪の日本の財政をさらに悪化させれば、いずれ長期金利の上昇につながり、民間の投資が抑制されて、低成長に追い込まれるから
  • 従って、法人税率引き下げは、消費税率引き上げと、歳出削減とのセットでの抜本的な見直しが必要になる

労働政策
  • 派遣労働者などに対するセーフティーネットの拡充は必要
  • だが、正社員が正しい働き方で、非正規は望ましくないから規制するという考え方は問題
  • 多様な働き方と、企業や産業の浮き沈みに対応できる弾力的な労働移動が、今の日本に求められている
  • 解雇時の金銭補償のルール化などにより正社員の解雇規制を緩和して、正規と非正規の不当な格差を縮めることが求められる

★  ★  ★

冒頭で記載したドラッカーが言うように、政府の仕事は、「意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うこと」だとすると、実行は競争環境に身を置いている民間企業だと思います。

政府の役割は民間企業が正しく競争できる環境を用意することまでで、成長分野までを政府が選ぶことは不要ではないでしょうか。

今回の日経「経済教室」は、そんなことをあらためて考えさせてくれるものでした。


※参考資料

「新成長戦略」についてPDF (6/18閣議決定内容)
http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/04/06/20100618_shinseityousenryaku_honbun.pdf



断絶の時代―いま起こっていることの本質
P.F. ドラッカー
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投稿日 2010/06/05

感情もクラウドに置かれるようになる

■まとめ

今回の記事のまとめです。
・ クラウドについて (文化的考察と自分のクラウド区分)
・ これからのクラウドは、「感情」もネットワーク上に置いておくようになるのではないか
・ 今後はどこが「感情のクラウド」をプラットフォーム化するか



■クラウドの文化的考察

isologe(イソログ)というブログで、「なぜ『クラウド』か?の文化的考察+スキャナの効用第二弾」と題する記事がエントリーされていました。タイトルにもあるクラウドの文化的考察は、以下のような内容が書かれていておもしろかったです。

・ 著者は「クラウド」という表現に違和感を持っていた
・ なぜなら、雲などと「こんなモヤモヤした得体の知れないところに重要なデータを保存するのは、気持ち悪い以外の何物でもない」から
・ 新約聖書に、「富は天に積みなさい。そこでは虫が食うことも、さび付くこともなく、盗まれることもない」という旨の記述がある
・ (キリスト教文化である)欧米人には「クラウド≒天」という図式があり、「クラウドこそ財産を蓄える場所だ」という感覚があるのではないか

日本語には「雲隠れ」という言葉があるように、日本人の雲について「いつか消えてなくなるもの」という意識があるような気がしますが、欧米人のそれとは大きく異なるのかもしれません。

※クラウドコンピューティング
ネットワーク、特にインターネットをベースとしたコンピュータの利用形態である。ユーザーはコンピュータ処理をネットワーク経由で、サービスとして利用する。(Wikipediaより)



■クラウド区分

とは言いつつも、クラウドの各種サービスを使いだすととても便利だと感じます。自宅のPCと会社のPC、そしてiPhoneがクラウド上で同期することで、いろんな情報が1つに集約できます。イメージとしては、iPhoneが自宅と会社のPCのハブの役目を果たしており、この仕組みは非常にありがたいものです。

自分が活用している情報について、クラウドとしてどのような使い方をしているのかをちょっと整理してみました(図1)。クラウドの区分というよりは、自分が利用しているネットワークの区分というイメージです。切り口は以下の2軸で切っています。
・ 公共情報(仕事含む) or プライベート情報
・ ソーシャル(共有)ユース or パーソナルユース





右下の象限に仕事の情報とありますが、これは現在使用していません。理由は、社外秘情報もあるため社内に保管するにとどめていることと、クラウドに置いておく必要性がそこまで高くないためです。



■クラウド化できたらいいもの

現状、自分のクラウド区分は上図のイメージですが、身の回りを考えてみるとクラウド化できたらいいのにと思うもの・情報が多数あることに気づきます。主な例として次のようなものがありました。
・ 本、雑誌、新聞記事
・ 各種説明書、契約書、保証書
・ 思い出映像(出演したストリートダンスのショーとか)、CD

あえて上記のものをまとめて表現すると、
(1) 普段は使わないが、イザという時に必要になるもの
(2) 現状は必要になっても見つかるまで時間かかる
の2点で換言できそうです。

特に(2)については、Googleなどの便利な検索技術がある一方で、自分の身の回りの「検索」方法が手当たり次第に探すだけというのは、時に悲しいくらいのアナログな方法です。

なお、契約書等をクラウド上に保管するのはリスクもあるかもしれませんが、自宅での保管にも一定程度にリスクはあるわけで、トータルで考えて個人的にはクラウド上で一括管理ができたらいいなと思っています。



■今後のクラウド

ミック経済研究所の調査によると、2009年度のクラウドコンピューティング市場規模は1941億円(対前年度比138.4%)、今後は年平均29.4%で成長し、2014年度には6570億円の市場規模になる見通しだそうです。

では、今後のクラウドはどのように発展するのでしょうか?1つの方向性として、個人の「感情」がネットワーク上に置かれるようになるのではないかと思っています。

最近、mixiが「mixiフォト」を開始したようです。詳細は確認していないのですが、写真単位で「イイネ!」がつけられるとのことです。この「イイネ!」はmixiのボイスにもある機能です。Facebookには"Like"ボタンがあります。mixiの「イイネ!」はあくまでmixi内でのクローズドですが、FacebookのLikeボタンはあらゆるページで付けることができます。似たものに「はてなブックマーク」があります。

これらの機能は、「おっ」と思った時にポチっと押して、この「おっ」をそのサイトに付けておくものです。すなわち、自分の感情をネットワーク上に置いておくということではないでしょうか。今までは自分の感情を置いておくには例えばブログならコメント欄に記入しましたが、自分の気持ちを文章化してコメントをつけるというのは結構面倒なこともあり、その点"Like"ボタンは気軽にクリックするだけです。

さらに"Like"ボタンはFacebook上で公開されるので、どの人がどのページで付けたのかがわかります。つまり感情をネットワーク上で共有できるのです。

この方向性は結構おもしろいと思っています。例えば、今は「イイネ!」だったり"Like"だったりと感情の種類は1つしかありませんが、これが喜怒哀楽の4つになったら、そのサイトや動画などへのまわりの反応がもっとわかるのではないでしょうか。

そうなると、今後は感情のクラウドをどこがプラットフォーム化するかに興味があります。mixiはmixiという閉じた世界ではプラットフォーム化ができていますが、あらゆるサイトとなると現時点ではFacebookが一歩抜きんでた存在のような気がします。

感情をクラウド上に置くことで「雲隠れ」してしまうのか、あるいは「さび付かない天」に置けるのか。今後の動きに注目しています。



※参考情報
isologe(イソログ):「なぜ『クラウド』か?の文化的考察+スキャナの効用第二弾」
http://www.tez.com/blog/archives/001637.html

クラウドコンピューティング(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/

クラウドコンピューティング市場規模
http://journal.mycom.co.jp/news/2010/03/09/033/index.html


投稿日 2010/05/23

インターネットが死語になる日

■まとめ

今回の記事内容は以下の3点です。

・ これからはあらゆるものがネットと接続する
・ ネット接続が当たり前になると、単に「コンテンツを利用している」という感覚しか持たなくなる
・ そうなると、私たちはネットにつながっている状態を全く意識しなくなるのではないか



■メディア接触時間

1年くらい前に発表されたデータですが、博報堂DYメディアパートナーズが生活者のメディア接触の現状を分析する「メディア定点調査2009」を発表しました(09年6月)。その中に、東京地区でのマス4媒体からインターネットまでを合わせた、1日のメディア接触総時間(1週間平均)の調査結果があります。(図1)





09年の1日のメディア接触時間トータルは323.9分と約5時間半。うちテレビは163.5分とその半分を占めています。PCや携帯は増加しておりますが、まだまだテレビには及びません。(ただし、年代別に見ると20代男性ではPCがテレビよりも多くなっている)

なお、この調査は郵送にて実施されています。対象者は東京都・大阪府・高知県の1919人。うち東京都のサンプルサイズはどれだけかは明記されていませんでしたが、おそらく1000人未満くらいからの調査結果であると思います。



■情報通信は家電で増える

5月13日の夜、ソフトバンクの孫社長とジャーナリストの佐々木俊尚氏が、5時間にわたり「光の道」対談を行ないました。その様子はユーストリームやニコニコ動画から配信され、ネット上では大きな反響を呼びました。この対談では、孫社長が「光の道実現に向けて」という主題でプレゼンをするところから始まりました。

このプレゼン資料の中で、これからの情報通信量は情報家電において増えていくという話がありました。(図2) これは、孫さんが主張する「全世帯に光通信を通す」という「光の道」構想の前提となっているものです。



冒頭でのマス4媒体+PC+携帯における接触時間を取り上げましたが、調査ではこのうちネットに接続しているのはPCと携帯としています。ただ、マス4媒体についてもネットへの接続が実現されつつあります。

・ テレビ: Google TV
・ ラジオ: radiko.jp
・ 新聞: 日経電子版
・ 雑誌: iPad



■インターネットが死語になる日

今後はもっとたくさんのものがネットにつながるはずです。グーグルはアンドロイドOSを無償公開していますが、OSとブラウザを家電などに組み込むことは技術的にはそれほど難しくないのではないかというのが個人的な印象です。例えば、冷蔵庫やキッチン、お風呂やトイレなど、家の中のあらゆるものがネットにつながるようになるのではないでしょうか。

ここまで考えていて、ふと思ったのは、いろんなものがネットに接続されるようになると、もはや私たちはネットにつながっている状態をほとんど意識することなく利用するのでないかということです。

これまではネットを使う場合は、パソコンを起動しネットブラウザを立ち上げるというステップがいりました。しかし、最近iPhoneを使うようになって感じるのは、ネットへの接続が簡単になればなるほど、ネットを使うというよりも、ただ記事を読んだり動画を見たりという「コンテンツ」を利用しているという感覚しか持たなくなるということです。将来、この状態が他のあらゆる家電でも起こるようになると、ますますネットを使うという感覚が薄れるのではないでしょうか。

自分にとって、インターネットはなくてはならないものです。ただ、ネットにつながるという状況が当たり前になればなるほど、その存在自体を意識しなくなります。もしかしたら、「インターネット」という言葉が死語になってしまう日はそう遠くないのかもしれません。


※参考情報

博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2009」
http://www.hakuhodody-media.co.jp/newsrelease/2009/HDYnews090623.pdf

ソフトバンク「光の道実現に向けて」
http://www.softbank.co.jp/ja/irinfo/shared/data/announce/20100513_02.pdf

光の道 テキスト中継ログ
http://www.tarosite.net/blogging/-hikari-road.html

radiko.jp
http://radiko.jp/


投稿日 2010/05/15

あまり知られていない日経電子版Wプランの問題点

■まとめ

今回の内容を先にまとめておきます。

(1) 朝刊と夕刊のセット部数は減少傾向にある (1999年比で20%減)
(2) 日経Wプラン(宅配+有料電子版)は、夕刊も契約となる (セット版地域のみ)
(3) 強制的に朝刊+夕刊のセット購読となるWプランの仕組みは疑問


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(紙の)新聞には朝刊と夕刊の二種類があります。日本での発行部数はそれぞれどれくらいなのでしょうか?最近は新聞を取っていない人もめずらしくなく、また日本の総世帯数が約5200万ほどということを考えると、5000万部前後程度というところでしょうか。


■新聞発行部数

社団法人「日本新聞協会」によると、2009年の新聞発行部数は次の通りです。
・ 朝刊+夕刊 : 1473万部 (以下、セット部数)
・ 朝刊のみ : 3440万部
・ 夕刊のみ : 123万部

合計すると、5035万部です。(2009年の途中での新規契約や契約解除をどの程度含めるかはわかりませんが)

次に、ここ10年でのトレンドを見てみると、以下のグラフのようになります。



朝刊のみ部数は横ばい、セット部数は減少傾向が見られます。これを1999年を期初として指数化すると、よりはっきりとその傾向を確認することができます。セット部数は1999年に比べて2009年では20%減なのです。




同期間の日本の総世帯数はやや増加しています。



先ほど、朝刊の部数は横ばい傾向にあると書きましたが、世帯数当たりの部数で見ると実は減少傾向にあるのです。これは、自分のまわりの印象からも実感できる数字かと思います。



■日経新聞電子版の購読プラン

日経新聞が2010年3月23日より、「日経電子版」というWeb媒体の有料新聞をスタートさせました。プランは有料や無料パターンなど複数用意されています。




電子版のみだと月額4000円ですが、紙の新聞を購読すれば+1000円で電子版の有料会員となれます。これが日経Wプラン(宅配+電子版)です。



■Wプランの問題点

さて、上記の表のWプランをよく見ると、2種類の価格があることがわかります。セット版地域での月額5383円と全日版地域の月額4563円。この違いは何かというと、夕刊の有無にあります。
・ セット版地域 : 朝刊+夕刊+電子版=5383円 (東京や大阪はこちら)
・ 全日版地域 : 朝刊のみ+電子版=4568円

つまり、東京や大阪などのセット版地域に住んでいる場合は、朝刊と夕刊の2つをセットで宅配されることになり、「朝刊のみ+電子版」という選択肢は存在しないのです。

個人的な話になりますが、平日は帰宅から就寝までに家で夕刊を読む時間はなく、そもそも夕刊それ自体に魅力があるとは思っていません。従って、紙の新聞は朝刊のみで十分だと考えています。しかし、私のケースで電子版を有料情報を見たい場合には、「+1000円」ではなく「+夕刊代&1000円」となるのです。

上記の日本新聞協会の数字を見ても、朝刊と夕刊のセット発行部数は明らかに減少傾向にあります。それなのに、なぜセット版地域では夕刊もセットで購読するプランしかないのでしょうか。もちろんこのデータは日経だけではなく、朝日や読売などの新聞も含む数字であり、日経の夕刊は同じ状況とは言い切れません。しかし、全体の傾向とそれほど大きな乖離がないのではないかというのが個人的な印象です。

百歩譲って日経夕刊のニーズがあるとしても、電子版の有料登録をするためには、強制的に朝刊と夕刊のセット購読となる仕組みには疑問を呈せざるを得ません。



■まとめ

以上の内容を整理すると次のようになります。

(1) 朝刊と夕刊のセット部数は減少傾向にある (1999年比で20%減)
(2) 日経Wプラン(宅配+有料電子版)は、夕刊も契約となる (セット版地域のみ)
(3) 強制的に朝刊+夕刊のセット購読となるWプランの仕組みは疑問

有料電子版登録で夕刊もセットする狙いはあえて書きませんが、少なくとも読み手である消費者の立場は考慮されていないのではないでしょうか。



※参考情報

日本新聞協会
http://www.pressnet.or.jp/

新聞発行部数 (日本新聞協会)
http://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.html

日経電子版購読料金一覧
http://www.nikkei.com/help/subscribe/price/

日経全日版地域
http://www.nikkei.com/help/subscribe/price/plan.html#area


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。